第34話 夏だ!海だ!宇宙人だ! (その肆)
ちゅうじんの強烈サーブから始まった第二セット。試合開始から二時間が経過した現在、十八対二十で夜宵チームがマッチポイントになっている。このままでは第三セットまでもつれ込むことになるので、気が抜けない多田たち。サーブ権は多田チームに移り、多田が打つ番になった。
多田はボールを課長から受け取ると、フローターサーブを打つ。ボールはそのまま真っ直ぐ飛んでいき、ネットを通過した。ジュリアやちゅうじんみたく、威力と速度を兼ね備えたサーブではないので、まだ比較的取りやすいボールだ。
「お願いします!」
「王子受けとれ」
「了解!」
下条が飛んできたボールをレシーブで上げると、夜宵がトスをあげて、王子が相手側のコートに打つ。しかし、ちゅうじんのブロックで弾き返されてしまう。落ちそうなボールを下条がスライディングしながら足で拾うと、夜宵がネット際に現れた。こっちにスパイクが来るだろうと見越したちゅうじんが再び、ブロックしようとジャンプをする。
「……って、冷たっ!」
「そう簡単には取らせませんよ!」
だが、ちゅうじんは下条が投げてきた水風船を顔面に喰らってしまう。その隙にガラ空きのネット際にスパイクを打ち込む王子。ジュリアが飛んできたボールを拾おうと手を伸ばすが、ギリギリ届かず落ちてしまう。
すると、ホイッスルの音がコート内に響く。ビーチバレーは二十一点先取なので、第二セットはこれにて終了だ。かれこれ一時間ぶっ通しでプレイしていたため、敵味方共に疲労が溜まり始めていた。十分間の休憩を挟んだら、即三セット目に入らなければならない。あまり時間がない中、ジュリアが水鉄砲の補充をしに行く。相手チームである下条も同じことを考えていたようで、一緒に汲みに行くことに。
「白熱した試合でしたね〜」
「水鉄砲と水風船で妨害しながらやるの楽しい!」
「普通のバレーと違って面白いですもんね!」
そうさっきの試合を振り返る二人。水鉄砲に水を補充し終わると、コートに戻って各チームのコート内に配置する。試合中、すぐに手に取れるようにバラバラに配置していくと、十分経ったようで課長から声がかかった。
「第三セット始めるから並べ〜」
「はーい」
こうして始まった第三セット。どちらが勝つかわからない状況で、順調に試合を進めていく一同。勝利した暁には有給一週間分が貰えるので、全員真剣な眼差しで点を取りにいっている。
第三セットは十五点マッチ。現在、試合は終盤に差し掛かっており、十四対十四という接戦の試合が繰り広げられていた。あと一点で、どちらかの勝利。
ラストサーブはジュリアが打つようで、ボールを手のひらで回転させている。審判からのホイッスルが鳴ると、フリースペースから一気に助走し、ジャンプサーブを打つ。すると、ボールは真っ直ぐ反対側のコートへと飛んでいく。
「ナイス、ジュリア!」
「油断してると、取られるから慎重になー。特にちゅうじん」
「あ、はい」
サーブが無事に決まったことに喜ぶちゅうじん。そんなちゅうじんに対して、気を抜くなと注意する。ジュリアのサーブにも慣れてきたのか、後方で構えていた下条が安定したレシーブでボールを高く上げた。そのまま夜宵がスパイクを打つが、コート前方にいたジュリアに拾われてしまう。
「もう少し威力出しときゃ良かったか」
「先輩、悔やんでる暇ないですよ!」
「分かってる」
すぐに次の攻撃が来るだろうと思い、構えの姿勢をとる夜宵。
一方、ジュリアが上げたボールを多田がセットしている隙に、近くにあった水鉄砲を持つジュリア。第三セット用の水風船は使い切ってしまい、水鉄砲も残量が少なくなっている。これが多田チームにとってのラスト妨害。慎重にタイミングを合わせないと、このセットを取られてジュリアたちは負けてしまう。
ちゅうじんが、スパイクを打とうとジャンプすると同時に、ブロックするつもりの夜宵に向かって水鉄砲を発射するジュリア。瞬時に水が飛んでくると判断した夜宵はそばにあった水風船をジュリアに向かって投げる。
ブロッカーが居ない今、最高の攻め時となったちゅうじんは思いっきりスパイクを打った。
「うーたん、いけええ!」
「おりゃあああ!」
王子が拾おうとするも、ちゅうじんの馬鹿力で打ったボールが地面にめり込んだ。課長は多田チームの得点を十五に変更すると、試合終了のホイッスルを鳴らす。ちゅうじんはスパイクが決まって嬉しいのかガッツポーズをしている。多田とジュリアは疲れたのかぐったりしていた。
「あんな馬鹿力の打ったボール取れるわけないでしょ……」
「まあ、普段仕事サボってるお前にしちゃあ、よくやった方だよ」
「いつも多田に仕事押し付けてる先輩にだけは言われたくない……」
ちゅうじんのスパイクを拾いきれなかった王子がそう話すと、夜宵が励ましの言葉をかけた。だが、その言葉が気に食わなかったのか王子は夜宵に聞こえない声で愚痴を漏らす。
そう話していると、一足先に片付け作業をしていた下条が手伝うように二人に声をかけてきた。二人は下条が怒ったら怖いことを知っているので、素直に落ちている水風船の残骸を拾い始めるのだった。
◇◆◇◆
試合終了から三十分が経過し、片付け作業も終わると課長の周囲に全員が集まる。一週間分の有給休暇の申請が入った封筒を課長が多田とジュリアに渡していく。多田とジュリアはお礼を言うと、封筒をキラキラした目で見つめながら喜んでいた。
「おお……これが噂に聞く有給休暇申請書……」
「本当にあったんだな……」
そう二人が感動している様子を眺めていたちゅうじんはこう思った。
お前らどんだけ休んでないんだよ……。
ちゅうじんが遠い目をして多田たちを見ていると、隣にいた下条が補足を入れ始めた。
「まあ、うちの会社ってほぼ年中無休ですからね。なかなか有給が取れない……というか上司が取らしてくれないんですよ」
「あー、なるほどな」
多田たちがそんなに喜んでいる理由が分かったちゅうじんは、ブラック企業さまさまだな〜と感じた。有給休暇申請書も渡し終わったところで、旅館に戻ろうと、課長が言う。気づけばもう太陽が半分ほど沈んでいる。課長が言うには、旅館のご飯は普通のところよりも美味しいらしい。
たくさん動いたからか、ちゅうじんのお腹の虫が鳴っている。ビーチバレーをし終えた一行は、ホテルへと向かうのだった。




