第33話 夏だ!海だ!宇宙人だ! (その参)
ホイッスルの音がコート上に鳴り響くと、ジュリアはコートの端のフリーゾーンから助走してジャンプサーブを打つ。ボールは多田たちのコートをあっという間に通り過ぎると、コートギリギリで着弾した。
「……嘘だろ。速すぎて反応できない」
「これが元バレー部の実力ですか……。我々も負けてられませんね!」
「いやあ、これは強敵だぞ」
その速さと威力に圧倒される一同。上から順番に王子、下条、夜宵と口々に初見の感想を呟いていく。下条と王子は気合いを入れ直すためか、カーディガンを脱ぎ出した。その間に夜宵はボールを拾いに行き、審判である課長へと渡しに行く。
「ジュリア凄いぞ!」
「流石は元バレー部だな。味方で良かった……」
「ありがとうございます! でも、かなりブランクがあるのでまだまだですよ」
そう話しながら、ジュリアはボールをつき始める。
普段はアホなのに、得意なこととか、好きなことの話になると人が変わるんだよな。ジュリアって。
多田は会社でのジュリアの言動を思い返す。会議を開けばトンチンカンなことを言うし、時間配分を考えずに書類の作成を作っていたりするので、後で追い込みをかけながらやっていたり。他にもアホな言動はあるのだが、自分の興味のあることには一直線で、観光業や日本の文化の知識量もかなりのものだ。ジュリアは生粋のオタク気質なのだろう。現にジュリアは満面の笑みを浮かべながら試合再開を待っている。
少しして王子と下条が戻ってくると、再びホイッスルがなった。ちゅうじんと多田も試合に集中するために、前を向く。先ほどのサーブで点数をとったので、サーブはジュリアが打つことになる。
ジュリアはボールを高く宙に放り投げると、走り出す。ボールが落ちてくるタイミングを見計らうと、一気に手を振り下ろした。ボールはネットを超えて、コート内に着弾する。先ほどよりも威力が上がっているので、夜宵チームは拾うことができない。
「おお! 威力が上がってるぞ! 後、スピードも!」
「これで二点先取ですね。この調子でいきましょう!」
「そうだな」
その後もジュリアがことごとくサーブを決め続け、多田チームは七点を先取。夜宵チームの点数は未だにゼロ。ちょうど双方の得点が七の倍数になったので、コートチェンジのために移動を始める。すると、下条が王子と夜宵に向かって小声で話し始めた。下条の話を聞いた二人の顔はやる気に満ちている。コートの入れ替えが完了したので、再度試合を開始するホイッスルが鳴り響いた。
またしてもジュリアがジャンプサーブをお見舞いする。ボールはネットを余裕で超えて、相手のコート内に着弾するかのように思えた。が、そこを下条がギリギリで受け止めて、ボールを真上に投げる。
「夜宵先輩!」
「任せな!」
ボールが上がると、真っ先に夜宵が駆け出してトスをあげる。その後、王子がボール目がけて手を振り下ろすと、多田チームのコート内にボールが落ちた。下条が何とかボールを拾ったことによる連携プレイが成功したようだ。課長が得点版の数字を一に変えているのを確認すると、夜宵たちはハイタッチをして大喜び。一方の多田チームは、まさかジュリアのサーブが拾われるとは思っていなかったのか、若干焦った表情を浮かべている。
「気を取り直していきましょう! まだ私のサーブに順応していないようですから、勝機はあります!」
「おうよ! 次はこっちに飛んできても返せるように頑張るぞ」
「そ、そうだな」
ジュリアが励ます中、ちゅうじんがやる気を見せる。
けど、レシーブを一度も成功させたことがないちゅうじんにできるのか?
と、不安になる多田。実は、試合が始まる前にアップとして、練習時間が与えられてた。
やるからには本気でやりたいと全員から申し出があったため、敵味方関係なくジュリアがサーブやトス、ブロックにレシーブのやり方を簡単に教えて回っていたのだ。
しかし、ちゅうじんが何回かレシーブを打っても、ボールが変な方向に飛んで行ったり、ネットを通過したかと思いきやコートの外に着弾してしまったりと散々だった。
さっきの練習の時の様子を頭の中で振り返っていると、試合再開の合図が鳴る。今度は夜宵がサーブを打つ。ボールはそのまま多田チームのコートの前方に落ちていく。そこをちゅうじんがギリギリのところでレシーブを打って返した。
アイツマジで決めやがった。
まさかの有限実行に内心驚く多田。ちゅうじんはボールを返すと、すぐに立ち上がって構えの体勢を作った。
そうしている間にも、ボールが高く上がって夜宵チームのコートにやってくる。すると、コート前方付近にいた夜宵がボールを上げ、それと同時に下条と王子が飛び出してきた。ジュリアがどちらがアタックしてくるのか見計らっていると、後ろにいた多田が前にやってくる。
それと同時にちゅうじんが後ろに下がった。多田は王子に狙いを定める。多田がボールをブロックしようとジャンプした瞬間、顔面にビーチの砂がかかった。
突然のことに多田の思考が停止していると、ボールが多田チームのコートに落ちたようで、ホイッスルが鳴る。どうやら下条がアタックしたようで、夜宵チームに一点のポイントが入った。多田は勿論のこと、ジュリアもちゅうじんもポカーンとした表情をしている。王子たちがうぇ〜い! と喜びの声をあげていると、顔についた砂を拭った多田が反論した。
「いや、今のはないだろ⁉︎」
「そうだぞ!」
多田に続いて、ちゅうじんも抗議の声を上げる。すると、王子がそれに対してこう言った。
「いや、有りでしょ。だってこのビーチバレーは何でもありだから、妨害行為をやっても許される。ですよね? 課長」
「ああ。王子の言う通り、ただただ試合するだけじゃつまらんからな。さっきの行為もありだ」
王子が課長に確認を取ると、首を縦に振る課長。確かに、課長は一番最初に“何でもありのビーチバレー”と言っていた。ということは先ほどの妨害行為もルールとしては問題ない。厄介なルールだと多田が思っていると、課長が試合に戻れと言った。全員がコート内に戻ると、試合が再開される。
取り敢えず、第一セットはジュリアのサーブのおかげもあってか、二十一対十五で多田チームの勝利となった。一同はチームごとに分かれて休息を取ることに。多田は近くにあったベンチに座りながら、ペットボトルの水を飲む。
「いや〜、見事に一杯食わされましたね」
「流石に砂ぶっかけてくるとは思わなかったわ」
「でも、王子のやつえらくノリノリでやってたよな。流石、腹黒王子」
「まあ、アイツならやりかねんからな」
先ほどの妨害行為について話す多田たち。あれも戦略の一つなのだろう。ルールを破らない範囲でこちら側にダメージを与えてくるプレイは、流石と言ったところだ。まあ、チームの大半が性格の悪い人で組まれているというのはあるだろうが。
休憩しながら話していると、課長が何やらかごを持って歩いているのが多田の視界に入ってきた。
「課長、それどうしたんですか?」
「あー、これな。何でもありなビーチバレーだからな。せっかくだし道具あったら面白いかと思って、借りてきたんだ」
「な、なるほど……」
どこまでも自由な人だと思いながら、話を聞く多田。かごの中には、人数分の水鉄砲や水風船などの妨害道具が入っていた。
課長はビーチバレーに何を求めてるんだ……。
多田が引き攣った顔をしながら、かごの中身を覗いていると、第二セットを始めると課長が言った。皆はかごの中に入った道具を持ってコート内へと歩いていく。
第二セットの開始の合図が出されると、夜宵チームはちゅうじんの方に目線をやった。サーブはちゅうじんが打つようだ。ちゅうじんはボールを真上に投げ、手のひらでボールを打った。それは多田の頭上を高速で超えていく。
「えっ⁉︎」
あまりの速さに声を漏らす多田とジュリア。夜宵が拾いに行こうとするが、既に遅くコートの端ギリギリに着弾した。ジュリアを超える速度でボールがやってきたのを見た夜宵たちの表情が強張っている。
そして、この場にいる全員がこう思った。
うーさん怖っ!
課長はワンテンポ遅れてホイッスルを押すと、得点板の点数を一に変える。ちゅうじんの馬鹿力とコントロール力に圧倒されながら、一同は第二セットを迎えるのだった。




