第32話 夏だ!海だ!宇宙人だ! (その弐)
「勿論、ただのビーチバレーじゃないぞ。“有給取得を賭けた、何でもありのビーチバレー”だ」
「何でもありのビーチバレー……?」
「ばふ?」
何でもありってどういうことだ? それに有給取得だと⁉︎
課長の言葉にはてなを浮かべる一同。だが、多田はそこではなく有給が貰えるということに驚いた。兎にも角にも詳細を聞いてみないと分からないので、多田は課長に問う。
「通常バレーボールってのは、一チーム六人でやるだろう? だが、今回はそんなに人数がいないからな。三対三で対戦し、勝った方には特別に一週間分の有給をやる。ルールはボールを地面に落とさなければ、何をやってもいい」
「有給一週間分とか最高じゃないですか!」
「本当に何をやっても良いんですよね? 課長」
多田含め、他の面子は有給を取得するためにと燃えている。普段、滅多にやる気を見せない夜宵もノリ気なようだ。そんな中、王子が課長に再度確認をとった。それに対して、課長は勿論だと頷く。
ちゅうじんもビーチバレーという単語を聞いて、何だか楽しそうだと目をキラキラさせている。
そうと決まれば、さっそく出発だ。皆は食べ終わったお皿やトレイを返却口に戻しに行ったり、食事の際に出たゴミを捨てに行く。全員が片付け終わると、ビーチの端の方にあるバレーコートへと向かった。しばらく進んで行くと、砂浜に突き刺さったコートが見える。
「ここですかね?」
「ああ。さて、それじゃあコートのレンタルしてくるから先に荷物置き場に行っといてくれ」
「課長、何から何までありがとうございます!」
多田と下条がお礼を言うと、課長はそのまま受付の方へと向かっていった。その間に多田たちは、貴重品が入ったバックをコインロッカーに入れに行く。ちゅうじんはコインロッカーの使い方を多田に教えてもらう。
「コインを入れるだけで利用できるの良いな」
「まあな。コインロッカーは街中歩いてたら至る所で見かけるし、今のうちに扱いに慣れておけよ」
「おうよ!」
ちゅうじんはコインロッカーにスマホと財布を入れて施錠すると、鍵穴から番号の書かれた鍵を抜いた。多田にそれはなくさないようにと注意を受けたので、カーディガンのポケットの中に入れておく。
全員が鍵を閉め終わった頃、レンタルを終えた課長がこちらにやってきた。課長は手早く貴重品をロッカーに預けると、皆の方に向き直る。
「俺たちが使用するコートは三番になった。チームの組分けはそこでやるから早く向かうぞ」
説明を受けた一同は三番コートへと歩き出した。その道中、ちゅうじんはビーチバレーのルールを知らないことに気づくと、多田の肩を叩く。
「ん? どうした?」
「いや、そういえばビーチバレーのルール知らないなと思って」
「あー、なるほどな」
ちゅうじんが教えてほしそうに多田の方を見てくるが、生憎と多田も詳しいルールは分からない。バレーボールのルールは高校の時にルールテストがあったので、ある程度は覚えているが。
そもそもちゅうじんは、バレーボールがどういったスポーツなのか理解してるのか?
ちゅうじんとの会話でそう思った多田は、恐る恐るちゅうじんに聞いてみる。
「え、ちなみにバレーボールって何か知ってるか?」
「ボールを使って試合するってこと以外は知らないぞ」
「もしかして、バレーボールの話ですか⁉︎」
「お、おう」
ちゅうじんの返答に、やっぱりなと頭を抱える多田。すると、多田たちの会話を後ろで聞いていたジュリアがその話題に食いついてきた。突然のことに、多田は少し引き攣った表情をしながら、返事をする。
「もしかして、なんか知ってるのか?」
「あ、はい。私中学高校ともにバレー部だったんで! バレーの説明ぐらいはできますよ」
「おお! ならさっそく教えてくれ」
「えっとそうですね。まずは――」
ジュリアが説明をしようとするが、その前にコートについてしまったようだ。一旦、話を中断するジュリア。ひとまず、ボールの入ったかごを確保しないと始まらないので、ジュリアと王子で取りに向かう。
その間、怪我をしないように準備運動を始める多田たち。
「こうしてると、学生時代の体育の授業を思い出すな〜」
「そうですね! 僕、体育の成績だけは良かったんですよね。まあ、それ以外はポンコツでしたけど」
「まあ、人には得意不得意があるから別に良いんじゃないか?」
「そうですね」
多田たちが喋りながら準備運動をしていると、ボールを取りに行っていたジュリアと王子が戻ってきた。キャスター付きのかごを転がしてコートの隅まで持ってくると、ジュリアがかごに入っているボールを人数分取り出して地面に転がしていく。
地面に転がったそれを受け取ったちゅうじんは、これがビーチバレーのボールなのかと興味深そうに見つめる。一方、ボールを配布し終わったのかジュリアが多田たちのいる方へ駆け寄ってきた。
「わざわざすまんな」
「いえいえ! ……何だか部活を思い出しますね。まさか社会人になってまたバレーができるなんて思ってなかったので」
「まあ、誰も社員旅行でビーチバレーをするとは思わんよな〜」
多田はジュリアにお礼を言う。ジュリアはさっそくボールを地面に叩きつけながら、そう話した。なんやかんやで、ジュリアが元バレー部員だと初めて知った多田は、ジュリアの様子を見てボールの扱いに慣れてるなと感心する。ちゅうじんもジュリアのボール捌きに感嘆の声を上げていた。
ジュリアはある程度ボールに触ると、ちゅうじんの方を向く。
「あ、そうだ。さっきの話の続きをしましょうか」
「そうだな。バレーのルールを教えてくれ」
「では、まずは――」
ジュリアが話し始めると、その場にいた企画課全員がその話に耳を傾けた。
バレーボールは、一チーム六人制。三セット二十五点で、先に二セット取った方のチームが勝利する。基本、一回のラリーで一チームがボールに触れるのは三回まで(ブロックに当たった場合は三回のうちに数えない)。
と、いった感じで話していくジュリア。ちゅうじんは相槌を打ちながら話を聞いていき、分からないところがあれば質問していく。
「まあ、バレーボールのルールはこんな感じですね」
「なるほどな! とても分かりやすかったぞ」
「改めて聞くと、結構ルールが細かいな」
口々に話の感想を述べていく一同。しかし、ビーチバレーとなるとまた話は別で、一チーム二人制だったり、一セット二十一点先取(三セット目は十五点先取)になったり、コートの長さやボールに触れて良い回数なども変わってくる。
ジュリアは覚えている限りのビーチバレーのルールを話していく。そうして全員が納得したところで、課長が組分けじゃんけんをしようと提案してきた。じゃんけんなら公平に決まるだろうと一同が同意した。さっそく皆で円になってじゃんけんをし始める。課長は審判役のため、参加するのは六人だ。そのため、今回は変則的に一チーム三人になる。ベンジャミンは課長のそばで皆の様子を眺めていた。
「最初はグー、じゃんけん――」
人数が人数なだけにあいこが五回続く。じゃんけんをし始めて七回目でやっと決着がついた。
組分けは以下の通り。元剣道部の多田と人外のちゅうじん、元バレー部のジュリア。そして、ドSの夜宵に腹黒王子、元ヤンの下条。多田の相手チームが些か物騒すぎる気もするが、そこはスルーだ。
さっそくそれぞれのコートに分かれると、じゃんけんで先攻後攻を決める。先にサーブを打つのは夜宵チームだ。審判である課長が、受付から借りてきた電子ホイッスルのボタンを押して、試合開始の合図がなる。
こうして“有給取得をかけた、何でもありのビーチバレー”が始まるのだった。




