第30話 初めての飛行機 (後編)
「おお〜、これが飛行機の中か! 凄いな〜」
初めて飛行機に乗ったちゅうじんは、興奮が収まらない。すると、機内が若干揺れた。その瞬間、地震が来たのかと、機内全体がざわめく。
ちゅうじんが一瞬だけ念力を発動したのが見えたので、思わず前にいるちゅうじんを見る多田。
「おい、何やってんだよ」
「あ、またやっちゃった」
そう話すちゅうじんに対して、もう少し反省しろという意味を込めて、ちゅうじんの頭に拳骨を落とす。周囲を見てみると、ちゅうじんが原因で起きたことに気づいていないようで、多田はホッと安心する。
「感動するのは良いけど、早く進めー。後がつかえるから」
「はーい」
多田が注意すると、ちゅうじんは通路を歩きながら、キョロキョロと周囲を見回した。ちゅうじんは機内を興味津々な表情をしながら進んでいく。すると、自分たちが座る席を発見する。
多田たち企画課の席は操縦席と翼の中間付近なので、景色も見やすくなっていた。座席はちゅうじんは一番窓側、真ん中に多田、その隣に下条という順番だ。他の企画課のメンバーは多田たちよりも前の席に座っている。
三人ともが席につくと、まもなくシートベルトの着用アナウンスが機内全体に流れた。シートベルトを着用し終わると、ちゅうじんは窓の外から景色を眺める。
「空港の滑走路っていっぱいあるんだな」
「そりゃあ、滑走路が一つだけだったら、飛行機が空で渋滞起こすだろ」
「確かにな」
そんな会話をしながら飛行機が出発するのを待っていると、機長からのアナウンスが流れ出した。機長は軽く挨拶をしてから、フライト中の注意事項を順番に述べていく。それが終わってしばらくすると、飛行機のエンジンがかかる。座席に設置されているモニターに滑走路の映像が映し出されると、徐々に速度を上げて滑走路を駆けていく様子が見えた。
「おお〜! 飛行機が走ってる姿が見られるなんて、このモニター凄いな!」
「フライト中は音楽を聞いたり、映画を見れたりできますから本当に便利ですよね」
「今自分たちがどこを飛んでいるのか、見ることができる機能もあったりするしな」
多田たちの説明を聞いて、このモニターにはそんな機能もついているのかと、目を光らせるちゅうじん。そんな会話をしていると、全身にGがかかり始めた。もうそろそろで離陸する頃だろうか。多田がそう思っていると、謎の浮遊感と同時に離陸の影響からか、更に重力が全身を襲う。やはり何回飛行機に乗っても慣れないものだ。一方、ちゅうじんは頻繁にUFOに乗っていたからか、慣れているようで、外の景色を眺めている。
離陸してから数分後、飛行が安定してきたようで、先ほどのような負荷も無くなったようだ。チラリとちゅうじんの方を見ると、キラキラした目で外の景色を眺めている。
「やっぱり地球の空って綺麗だな!」
そう嬉しそうにこちらを見て話してきた。余程、地球の空が気に入ったらしい。多田は適当に相槌を打ちながら、目の前のモニターを操作した。まだ沖縄に着くには時間がある。その間、映画でも観ようと作品一覧を漁りながら、機内に入る時にもらったイヤホンをモニターの接続部分に差し込む。
ちゅうじんもしばらくすると、モニターを漁り始めた。すると、感嘆の声を上げた。気になった多田は声をかけてみる。
「映画だけじゃなくて、テレビとかアニメも観れるのか!」
「そうだな。てか、一旦落ち着け。声ももう少し抑えろよ」
「あ、すまん。……どれ観ようか迷うな」
ちゅうじんがモニターをタップしている間に、多田は始まった映画に集中し始める。隣に座っている下条は、連日の仕事で疲れたのか爆睡していた。
それから三十分ぐらい経った頃、後ろの方からキャスターワゴンの音が聞こえてきた。どうやらキャビアテンダント――CAによる機内サービスが始まったらしい。後ろのお客さんから順番に声をかけている。もうそろそろ順番が来るだろうと思い、隣にいるちゅうじんの肩を叩く。
「ん? どうした?」
「もうそろそろドリンク提供の順番が来るから、何飲みたいか決めとけよ」
「へえ〜、飛行機の中ではそんなサービスもあるんだな」
そして数分後、多田たちの座る席にもCAがやってきた。
「お飲み物は何になされますか?」
隣で寝ている下条を起こさないように小声でCAに問われると、多田はカフェオレ、ちゅうじんはコーラを注文した。それを聞いたCAは紙コップに飲み物を注いで、多田とちゅうじんに渡すと、次のお客さんに声をかけていった。さっそく渡されたコーラを飲み始めるちゅうじん。
「飛行機の中でこうやって飲めるの最高だな。いつもよりコーラが美味く感じるぞ」
「良かったな。他にもファーストクラスの場合は、機内食も提供されたりするんだよな。最も、俺らみたいな小市民は到底座れないが」
「そうなのか。ファーストクラスって凄いんだな」
多田の話を聞いて、ちゅうじんは飛行機にはそんなクラス分けもあるのかと驚きの表情を見せる。多田は話し終えると、再びイヤホンを耳に付け直した。
それから一時間半後。隣に座っていたちゅうじんが何やらはしゃいでいる。どうしたのかと、思いイヤホンを外してみると、ちゅうじんが興奮気味に話しかけてきた。
「海! 海が見えるぞ! 後、島も!」
「お、おう。ってことはもうそろそろ着く頃か」
「おお〜、マジか!」
もう離陸してから二時間以上経つから、沖縄まではもうすぐだろう。
そう多田が思っていると、再び機内アナウンスが流れた。後五分ほどで着陸体勢に入るので、準備をしろとのことらしい。多田が隣で眠っている下条の肩を叩くと、下条が目を開けた。
「……おはようございます」
「よく寝てたな。もうすぐ着くから準備しとけよ」
「はい、分かりました」
多田がそう言うと、下条は寝起きの影響かあまり呂律の回らない返事をしながら準備を進める。多田もイヤホンを外して、荷物を纏め始めた。
そして再度、アナウンスが流れる。
『当機は着陸体勢に入ります。席を立たずに、そのままの状態でお待ちください』
アナウンスが流れてから少しすると、離陸の時と同様に全身にGがかかり始めた。耳がキーンとなるが仕方ない。そのままの状態が数十秒続くと、ガタンッ! と軽く衝撃が走った。どうやら無事に着陸したらしい。しばらく滑走路を走っていると飛行機が停止し、降りるようにとアナウンスが流れる。
多田たちはシートベルトを外すと、上に積んであった荷物を下ろして、空港内部へと移動した。課長が全員揃ったのを確認すると、外に向かって歩き出す。
空港の出口に行くと、ちゅうじんが感嘆の声を上げた。
「沖縄についたー!」
「いやあ、長かった……」
「先輩、大丈夫ですか?」
「ああ……なんとか」
ちゅうじんがはしゃぐ一方で、多田は長時間じっと座っていたからか、腰がやられたようで手で摩っている。それを見た下条が心配する中、夜宵と王子が面白そうに嗤っていた。
二時間半のフライトを経て、沖縄の那覇空港に着いた多田たち。ここから一泊二日の沖縄社員旅行が始まる。
皆様、お久しぶりです!コロナで全然投稿できなかったんですが、やっと投稿できました。
本当にお待たせしてしまい申し訳ありません。




