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第10話 交流会(後編)

  

 そうこうしているうちに日が沈んでしまったようで、もはやこの公園内には花見を楽しむ人しか残っていない。わいわいとあちこちから騒いている声が聞こえてくる。大家の長話に付き合わされて、疲れた多田は自販機の冷えたジュースを飲み干す。


「あの大家め……。普段から厄介なのに酒が入るともっと悪化するのやめてくんねえかな……」


 そう呟きながら、空き缶をゴミ箱に捨てると多田は花見会場に向かって歩き出した。ジュースを飲んだおかげで少し酔いが覚めたのか、視界がクリアになってくる。そのまま舗装された道を歩いて花見会場に戻ると、目の前を空き瓶やお皿がふわふわと宙に浮いているのが見えた。


「はっ? え、どゆこと?」


 浮いているものをぼーっと赤い顔をして見つめる大家は何だあれ? と呟いている。イマイチ状況は掴めないが、とにかくこれはまずいと察した多田は周囲を見回す。すると、そこには全身真っ赤になったちゅうじんがいた。

 すぐにちゅうじんの元へと駆け寄ると、どうやら彼はお酒に酔っているようで、ベロンベロンになって意識が朦朧としている。そのせいなのだろうか、ちゅうじんの能力の一つである念力が意図せず発動しているようだった。

 多田は、すぐさま酔いを醒まそうと近くにあったペットボトルの水を持ってきて、ちゅうじんに飲ませる。


「んー? どうしたんだオータ」


 すると、一時的に意識が戻ったのか呂律の回らない口調で話しかけてきた。


「どうしたもこうしたもねえよ! お前のせいでとんでもないことになってるだろうが!」

「へ?」

「へ? じゃねえよ。ほら、見てみろ……ってあれ?」


 多田が後ろを振り向くと、さっきまで浮いていた酒瓶やお皿が元の位置に戻っている。ということはちゅうじんが念力のコントロールを取り戻したらしい。ホッと一息ついていると、またしても酒瓶やお皿、それに加えて公園に設置してあったベンチまで宙に浮いている光景を目にする。


「おお〜、すごいことが起きてるな」

「いいぞー! もっとやれ〜」


 そう大家が再び言うと、酔っ払いたちもそれと同じく歓声を上げる。酔っていない甘野は食べ物に夢中なのかそれに気づいていない。幸いちゅうじんの仕業と言うことはまだバレてはいないらしいが、早く何とかしないと騒ぎになってしまう。

 多田がちゅうじんに目を向けると、またしても意識を失いかけていた。多田はさらにペットボトルの水を飲ませてみるが効果がない。


「おい! 起きろよちゅうじん」

「んー……あと十分」

「ったく……こうなったら」


 多田は一旦その場を離れると、バケツいっぱいに入った水を持ってきて、ちゅうじんの頭から思いっきり水をかけてやった。まだ春にもかかわらず頭から冷水を浴びたちゅうじんは一気に覚醒したのか、ガバッと起き上がる。すると、浮いていたベンチや酒瓶が元の位置に戻った。


「何すんだよ多田!」

「そりゃこっちの台詞だろーが!」


 ちゅうじんは水を頭からかけられたことに対して怒っているようで、多田に掴み掛かる。多田はそれはちゅうじんのせいだろうと言い返すが、ちゅうじんはそれでもあれはないだろうと反論してきた。


「ん? 何、喧嘩してるのよ?」

「ほーら、喧嘩はだめだよ。二人とも」

「いや、誰のせいだと思ってるんですか」


 多田とちゅうじんが言い争っているのを見た酔っ払いの恵美と大家が仲裁をしてくる。多田はその二人がちゅうじんにお酒を飲ませたのをはっきりと目にしているので、思わず二人に対してそう突っ込んでしまう。まだ少し酔いが残っているのか、多田のツッコミに対してそうだそうだ、とちゅうじんが言ってきた。


「そこの四人ちょっと黙っててもらえません?」

「あ、はい。すいません」


 多田たちの話し声がうるさかったのか、口の中のものを飲み込んだ甘野がそう言ってきた。食事に集中できないことに対して怒ったのだろうか、いつもの優しそうな声よりも数段低い声だったので、思わずビビる多田たち。

 彼らに向かって一言そう言うと甘野は、食べる手を再開させる。



 それからは残った料理を全て甘野が平らげたり、うちの犬が可愛いとみやびから自慢話をされたりと賑わう中、お花見という名の交流会は幕を閉じた。

 そしてその帰り道、多田はもう二度とちゅうじんに酒を飲ませてはいけないと心に誓ったのだった。


  

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