ちょっと怖いはなしーずっといっちょ
駅前のロータリーで鈴は絵里たちを待ちながら、過去の思い出を振り返っていた。
絵里たちとは、高校時代からの友人で絵里たちのことを考えると高校時代の楽しい思い出がよみがえってくる。
楽しい思い出とは鈴が美化した記憶であり、実際は少し違っていた。
出かけるたびにいろいろ言われてお金をせびられたり荷物持ちをさせられたりしていた
周りからは、絵里たちの子分のように扱われているとみられていた。
絵里たちがどう思っているかはわからない
友達の少ない鈴にとっては大切な存在でもあった。
高校を卒業してからもしばらくは高校時代と同じように呼び出されては荷物持ちなどをしていたのだが最近は連絡が途絶えていた。
絵里たちのSNSを確認すると楽しそうに遊んでいる写真が何枚もアップされていた。
絵里たちから解放されて安堵した気持ちとともに彼女たちとの楽しいひとときが恋しくもあった。
それだけに絵里から連絡があったときは素直にうれしかった。
彼女は今度は普通の友人として付き合えるのではないか、そんな機体を持っていた。
特に理由はないが絵里の声からはそんなきがしたのだ
そんな機体を抱きながら待っていたが待ち合わせ時間をすぎても絵里たちは現れなかった。
仲間の一人が免許を取ったということで車で迎えに来ると言っていたが、ロータリーにはその車らしいものは姿を現さなかった。
彼女は不安を感じて、電話をかけてみた。
電話の向こうから絵里の声がして少し安心したが返答は以外なものだった。
「来ないから、先に行っちゃたよ
9時に来ていた?」
10時手聞いていたのだけど、間違いだろうか
早めにつきすぎで、駅前のコーヒーショップでアイスラテを飲みながら待っていたが、絵里たちの姿は見ていない。
電話の向こうから、絵里たちの笑い声が聞こえた。
鈴はその笑い声を聞いて、何が起こったのかを理解した。
最初から一緒に遊ぶ器などなかったのだ。
絵里たちはからかっていただけだった。
鈴は悔しさと失望の涙をこぼした。
自分が信じて待っていたことが許せなかった。
そして、何もかもどうでもよくなる感情が鈴の心に広がった。
駅前のロータリーを出て、鈴は国道の方へと歩き出した。
国道に出て、行き交う車をしばらく眺めながら、彼女は思いつめた様子で前に歩き出した。
鈴の歩みには、深い悲しみに包まれていた。
テーマパークでひとしきり遊んだ絵里たちがお土産を抱えて出てきた
「荷物持ちに鈴連れてきた方がよかったかな?」と絵里が冗談めかして言った。
もう一人の友人も微笑みながら言った。「鈴、信じて待っていたのかな。」
絵里たちは楽しそうに会話をしながら、駐車場へと向かって行った。
車に近づいたとき、車のそばに誰かが立っているのに気が付いた。
さらに近づいてみると、その人影が鈴であることに気づき、絵里たちは顔を見合わせた。
鈴は絵里たちがいることに気付くと、明るく手を振って近づいてきた。
「今日は、ごめんね。時間を間違えちゃったみたいで、追っかけてきちゃったのだ。一緒に帰ろうか?」
絵里は困惑した表情を浮かべたが、すぐに何か思いついたように言った。
「この近くに幽霊ホテルという怪奇スポットがあるのだって。せっかく鈴が来たんだから、行ってみようか?」
友人たちは絵里が悪ふざけのような笑顔をしているのを見て、何か考えがあるのだろうと幽霊ホテルに行くことを同意した。
幽霊ホテルへとたどり着いた絵里たちは荒れ果てたその建物の前で立ち尽くした。
この場所はかつてリゾートホテルとして開業していたが、幽霊が出るとのうわさが絶えず、客足が減少し、ついに廃業して放置されたままのものであった。
駐車場にはあれたアスファルトが所々剥がれ、草が生い茂っていた。
彼女たちは車を止め、その静寂に包まれた場所へと足を踏み入れた。
ホテルの入り口にはかつて自動ドアがあったであろう跡があり、今では壊れて空いたままになっていた。
酷使された感じの建物は、中がむき出しになっていた。
壁にはおとずれた者たちの落書きがされており、そこだけが興ざめした感じが漂っていた。
フロント横に階段があり、地下への入口も見えた。
絵里は階段をゆっくりと降りて行った。
その他の者も続いて階段を下り、地下のボイラー室にたどり着いた。
この場所は、かつてはホテルの従業員が自殺したという噂で知られ、その後、彼らの幽霊が出ると言われていた。
ボイラー室の中を覗いてみると、壁の上に小さな窓があり、そこから中の様子がうっすらと見えた。
錆びた機械と電線が張り巡らされ、その中には古びたタオルがかかっていた。
タオルは不気味に揺れており、風がどこからか入ってきているのか、たまには人影のように見えた。
中に入って写真を何枚かとったが、埃っぽいだけで特に何も起こらなかった。
「上に上がるか」と絵里が呟き、階段を上り始めた。
しかし、途中で絵里が突然言った。
「スマフォがない。ボイラー室に落としてきたかも。探してくる。鈴、ついてきて。」
「どこに落としたかわかる?」と鈴が尋ねると、絵里は「その機会の裏を。ちょっと見て。と応えた。」
鈴がボイラー室の奥に入っていくと、絵里は外に急いで出て行き、扉をバタンと閉めた。
その扉にはカギをつける金具がついており、絵里はそれを手でしっかりとかけた。
中から扉をたたく音が聞こえたが、絵里は無視して階段を上っていった。
1階に着くと、他の仲間たちがまっていた。
階下からは扉をたたき続ける音が響いていた。
絵里はそのまま、ホテルの外へと急いで出て行った。
友人たちは襟に続いてホテルを出たが、鈴がボイラー室に取り残されたことに気づき、心配そうに絵里に尋ねた。
「鈴、大丈夫?」
絵里は自信を持って答えた。
「いいんじゃない。あんな扉、すぐに壊せるし、勝手についてきたんだから、勝手に帰れるでしょ。」
扉をたたく音は、ホテルの外まで響き、その音がますます不気味さを増していった。
絵里は車のドアを開けると、驚いた表情を浮かべた。
鈴はすでに車の中に座っていた。
絵里はホテルの方を見てから鈴の方に視線を移した。
スマートフォンを差し出しながら鈴は言った。
「ハイ、スマフォあったよ。」
絵里はそんなはずはないとカバンの中を確認したが、スマートフォンは見当たらなかった。
スマートフォンを受け取り、確かに絵里のものであることを確認した。
しかし、スマートフォンをさわると勝手に画面が開き、ボイラー室で撮った写真が表示された。
写真にはさっきは存在しなかった、オーブが漂っていた。
別の写真を見ると、調理室や客室の写真があり、それぞれにオーブが映り込み人、影のようなものが隅に写っているものもあった。
絵里は戦慄した。「客室なんて行ってないのに、いつの間に撮ったんだろう。」
そー言えば、やけに車内が寒い。
まだ、日差しもあるのに。
絵里はクーラーが効きすぎているのだろうか?と考え、通風孔に手を当てたが、風は出てきていなかった。
とにかくこの場所を離れたかった。
それはたの仲間も同じだったのだろう。車を発射させると、
不気味な出来事から逃れるため、速度を上げてホテルから遠ざかっていった。
混乱した頭の中で、絵里のスマートフォンにラインの着信が鳴った。
彼女はまだ混乱していたが、スマートフォンを確認した。
ラインの送信者は高校時代のクラスメートだった。
「鈴がなくなったって知っている?」というメッセージが表示された。
絵里はすぐには理解できなかった。だって、鈴はそこにいるのだから。
疑念を抱きながら、リンクのアドレスを開いてみた。
そのリンク先にはニュースサイトが表示され、事故の記事が掲載されていた。
記事には「トラックにはねられて大学生が死亡」との見出しがあり、鈴の写真が添付されていた。
それは卒業アルバムで見たことのある鈴の顔だった。
他の仲間たちもスマートフォンを手に取り、同じ記事を見ていた。
お互いに顔を見合わせ、そして鈴の方を見つめた。
鈴は楽し気に窓の外を見つめていた
しかし、突然、彼女の額からすーっと一筋の血が流れ、次第に血があふれ出した。
鈴の顔はみるみるうちに赤く染まっていきた。
絵里たちは驚きの表情を浮かべ、鈴が微笑みながら言う言葉に耳を傾けた。
「今日は誘ってくれてありがとうね。
楽しかった。
友達もいっぱいできたし、」
友達ができた?
絵里たちは不思議に思っていると、突然、車の周りの窓を叩く音が響き、無数の手形が窓についているように見えた。
鈴は血だらけの顔で目を見開きながら続けた。
「この中の仲間が一番の友達。これからもずっと一緒にいようね。」
と、突然、車の速度が増した。
ガードレールが目の前に迫り、絵里は恐怖に心を打たれた。
車は速度を緩めることなく、不気味なスピードでガードレールに向かって突進した。
そのまま速度を緩めずに突っ込んでいき、激しい衝突音が鳴り響いた。
車はガードレールを突き破り、がけを転がり落ちて、闇に包まれた未知の領域へと消えていきた
壊れたガードレールのそばには、警察車両と救急車が駆けつけ、騒然としていた。
崖の下には大破した車の横に絵里たちの遺体が並べられていた。
警察官たちは丁寧に遺体に白い布をかけ、慎重に処理していた。
警察官は遺体を数えながらつぶやいた。
「あと一人いるはずなんだが。
監視カメラで写っていた映像の人数と遺体の数が合わない。
鑑識の話では、後部座席に付いていた大量の血はどの痛いとも一致しないとのことだったが」
警察官は崖の上を見上げた。
そこには鈴たちが並んで立っていた。
鈴は横にいる絵里たちを見つめながら言いった。
「これで、いつまでも一緒にいられるね。みんなのところに帰ろうか。」
鈴はホテルの方に向かって歩き出し、その後を静かに、うつむいたままの絵里たちがついて行った。
彼らの姿はそのまま不気味な静寂に包まれた闇に消えていった。