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適性2

「ちょっと、あれ街が襲われてるってこと!?」


 ユナが叫んだ。

 慌てるのも無理は無かった。ワイバーンの群れは10や20等では無く、一帯を覆い尽くさんばかりだった。


「助けに行かなきゃ!」


 ナタリアが走り出そうとするのを腕をつかんで引き留めたのはアルクだった。


「お前が行って何になる」


 淡々と言うアルクに激昂したようにナタリアが言い返した。


「じゃあ、このまま皆が襲われてるのを黙って見てろっていうんですか!」


 少なくともナタリアは行ったところでむしろ危険にさらされて、周りに迷惑をかけるだけだろう。

 けれど、そう言ったところで、ナタリアは引き下がりそうに無かった。


 アルクはこちらをチラリと見てそれから俺の名前を呼んだ。


「ギイ、頼む」


 アルクに何を頼まれたかは分かった。しかし、そもそも適正を確認したとしてナタリアが魔法を使えるかは分からないし、使えたとしてもぶっつけ本番で何とかなるかは分からない。


 それでも、このままいかせるよりはマシとアルクは判断した様だった。


 ナタリアが、俺のローブをギュッと握った。

 俺は大きく息を吐きだして、アルクに伝えた。


「力が暴走したと判断したら、後ろから俺を刺してくれ」


 何を、とアルクが言い始めたところでそれを遮るようにナタリアの方へ向かい、それから魔法陣を発動させる。

 地面に浮かび上がったのは初歩的な適正を確認するための魔法陣だ。


 ここまでは別に問題は無い。どの魔法陣にしろ魔力を陣に流し込むところまでは大して変わらない。


 そこからが問題なのだ。

 相手の魔力増幅器官に共鳴させてその揺れを見て魔法適正を確認する。

 共鳴させることが俺にはとても難しかった。


 というよりも、勝手に自分自身の魔力が増幅されて暴走してしまうのだ。

 俺の適正検査の時は同調魔法を使った魔術師は自分の身だけを守って無事だった。


 けれど、今回は魔法を全く使ったことの無いナタリアが相手だ。自分の身を守るすべはないだろう。

 だから、細心の注意をしなくてはいけないし、ひとたび問題が起きれば取り返しのつかないことになる。

 そのとき、一番手っ取り早い方法が、俺が魔法を使えない状態にすることだ。


 何かを考えていて上手くいくような状況では無かった。ごちゃごちゃ考えるのを止め目の前のナタリアに集中する。

 大きく深呼吸をした後、術を発動した。


 地面で輝く魔力の光がナタリアの胸の奥にあるであろう、魔力の生成器官と同調する。


  適正が無ければナタリアには何もおきないし、逆に適正があればその能力に合わせた発露がある。


 最初に聞こえたのは、水が流れる音だった。

 俺自身は所謂オールラウンダータイプだが、偏りがある場合も多い。

 ナタリアは水の魔法と相性がいいのかもしれない。


 とにかく俺は、彼女を傷つけない様に自分自身の魔力を制御し続けるだけだった。

 彼女の力が揺らぐ感覚がした。


 それから、彼女の足元からパキリという音がする。

 足元に発生した水が凍っていく。


 音はどんどん大きくなり、パキン、パキンと弾ける音に変わった。

 弾けた氷はまるで雪の結晶の様にあたりに光り輝きながら舞う。


 とても美しい光景に、ナタリア自身が息を飲む。


 共鳴した感じでは魔力量も戦いに使えそうな程度は有していそうだ。

 何故、今まで適正検査をしなかったのかが不思議なくらいだった。


 これでナタリアのことは、大体分かった。

 後は、俺の問題だ。


 振れ幅が広がり始めてしまった、自分の魔法を何とか収束させなければならない。

 とにかく集中して、増大しつつある、流れ出る魔力を何とかしなければならない。

 それ以上に大切なのは、暴走した時にユナとアルク、それからナタリアを守らなければならないということだ。


 渦巻き始めた魔力は、もはや魔術師でなくとも目で見えそうだ。


 苦手とかそんな次元では無い。決定的に向いていないのだ。

 できないのだ。そう。できない。できなかった。

 だから俺は魔術師にしかなれない。


 悪態をつきたくなるが、今がその時でないこと位さすがの俺でも分かる。


 暴走してしまったのならそれで仕方がない。とにかく周りの人間を巻き込まなければいいのだ。

 腕を横に上げて、渦巻いている魔力を腕に流す。

 残念ながら、一部は残ってしまったが概ね上手くいった。

 だが、腕はすでに悲鳴を上げている。


 とにかく誰もいない方向に魔力を流す。


 正に暴発という言葉が正しい。

 俺の手を離れた瞬間、何の魔術にもなり切れなかった魔力がただ、爆発した。

 爆発は土をえぐる。舞い上がった粉塵は先程の美しい氷の結晶とは違い、ただただ不快だ。

 だが、その爆風で俺と、それからナタリアの周りに充満していた魔力が一気に吹き飛んだ。

 物理法則を基本的に受けない筈だが、魔力の暴発だったからだろう。結果的に助かった。


 呆然とこちらを見る三人にのうち、一番早く立ち直ったのはユナだった。


「何なのよこれ。同調魔法ってこういうんじゃないわよね!?」

「だから、俺には無理だって言っただろう」


 正直もう一生使いたくは無かった。


「まあ、とにかくだ。

ナタリアの魔力は戦闘に使えそうだった。

属性は顕著に出るタイプで水、氷結呪文あたりが得意になるだろうな」


 早口で一気にいうと、ユナが哀れなものを見る目でこちらを見た。

 空気は読めないが、こういうのだけは分かるんだからな。

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