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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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ルールを守るということ2


 王宮の端にある、客の為であろう棟に案内される。


 建物の前が広場の様になっていて気持ちの良い場所に見える。

 中に入って端の部屋の前で鎖の妖精は足を止めた。


 周りには誰もいない。

 もう大分暗くなっている。


「あの男は殺されたんですよ」


 最初何を言っているのかは分からなかった。けれど、すぐにあの男というのがスペルを開発した人間の事だと思い至る。


「は?」


 出た声は驚きとそれから落胆が混ざっていた。


 それにまるで普通の事を言うように俺に伝える目の前の妖精にも違和感を感じる。

 ユナにしろ他の妖精ちゃんにしろ人間とは違う理で生きていることは知っている。

 でも、あれだけの時を一緒に過ごして来た者の死をそんなに簡単に割り切れるものなのだろうか。


「どういうことだよ」


 この国がどこかと戦争をしていたという話は聞かない。魔族の強襲をうけたのだろうか。それとも――


 それは残念ですね、というのが正しいのだったか、別の言葉がただしいのだろうか。

 近しい人が死んだことは無い。


 そもそも近しい人もいない。


「この国の人間に断罪されたんですよ」


 まるで日常会話の様に妖精が答えた。


「この国のエネルギーを盗んだ罪ということになっています」


 だから、処刑されました。ただ、あの壁だけは国の役に立ちますし、国のエネルギーを国のために使うのは当たり前という事らしいですよ。


 妖精は笑った。


「この鎖、切ることはできますか?」


 そして、あの部屋に行く前に言われたことをもう一度聞かれた。


「切れるけど?」


 多分切ることはできる。この国のスペルの研究はかなりのところまで進んでいた。

 現在の魔術の知識と合わせて、術さえ行使できれば恐らく鎖は切れる。


「そうですか」


 満足げに鎖の妖精は笑った。

 今すぐ切ってくれともなんとも妖精は言わない。


 俺も、ここで切ってしまうのがいい事なのか、いけない事なのかが判断できない。


 それに、実証したい術が兎に角あるので部屋で一人になりたい。

 食事も食べられるものならそれでいいので早く胃に詰め込んで実際にあれこれやってみたかった。


「……皆さん、綺麗に着飾ってそれはそれは華やかでしたよ」


 妖精がわざとらしく話を変える。

 もう俺がそんなものにまるで興味が無い事なんかお見通しだろうに。


 運ばれていた食事は普段食べているものより豪華なものだ。


 ちらりとそれを見ると、妖精は「ナタリアさん、肌を出すのを恥ずかしがって、それはそれは可愛らしくて」という。


 ナタリアの普段の恰好はあまり肌は出ていない。

 この国の正装がどのような物かは知らないが、準備されたものがそういう衣装だっただけだ。


 別に気になっている訳じゃない。


 ふふふ、と面白そうに鎖の精霊は笑う。


「あの少女の事を随分気にしている様で」


 おそらくユナに聞いたのだろう。面白そうに言われて居心地が悪い。


「さっきの魔術師の話、ナタリアには話さないでくれるか?」


 脈絡が無い言葉だとは思う。けれど、パーティを不本意に抜けさせられた経験のあるナタリアに国に裏切られた人間の話はしたくはなかった。

 何か、俺に理解できない複雑な話があるのかもしれないが、同じことの様に思えた。


 鎖の妖精は、目を細めた様に見えた。


「では、この王宮内でみだりに召喚術を行わない事と引き換えであれば」


 召喚した妖精ちゃんは丁寧に隠匿術をかけていた訳ではない。

 だから発見されてもおかしくはない。けれど、このタイミングで触れられるのかと思う。


「必要だから、はみだりにに含まれるのか?」


 その問いに妖精はこたえなかった。その代わり「あの方は勿論こちらに現界したままで大丈夫ですよ」とだけ言った。


 元々誰かと話すことはそれほど得意ではない。けれど、この鎖の妖精と話すのは殊更疲れる。


 妖精ちゃん達は見ているだけで楽しい気分になれるのに、こういうことは珍しい。

 それほどに、この妖精は人間臭さがあるのかもしれない。


 彼が、何故そうなのかを魔術師の手記と研究から知っているだけに、何か言う気にもなれず、妖精を戻した。


「部屋はご自由にお使いいただいてかまいませんから」


 今までの話が無かったかのように、普通に客人に対する様に鎖の妖精は言った。


「……ありがとうございます」


 どっと疲れを感じる。無くなった方の足がずっしりと重く冷たい気がする。


 けれど、ドアが締められた後まずしたのは、あの廊下と同じ灯りをスペルと呼ばれる魔術で作り上げる事だった。


 試さないといけない事は、他にもある。

 多分俺の足にこの魔術はあまりよくない。


 大きな術式を一度試しておきたい。

 そうすればリミットとして何発魔術を放てるかが計算できる。


 危ないからやらないという選択肢がない自分に呆れないわけではないが、これが俺なのだからしょうがない。



 彼の鎖を切ってやるにしてもどの程度の負荷があるのかは知っておきたい。



「おい……」


 だから、こんなにも早くアルクが部屋に戻ってきたのは想定外だった。



 アルクは元々パーティみたいなものは好きではないのだろう。

 それは俺も同じだから分かる。


 行かなくて済んだことをラッキーだと感じてしまう位には、よく訳も分からない人間がごちゃごちゃといる場所は嫌いだ。


 けれど、ナタリアやユナもいる手前もう少し会食を楽しんでいるものと思っていた。


 はあ、とつまらないそうにアルクがため息をついてそれからドアの外に「入っていいぞ」と声をかけた。


 入ってきたナタリアは大きな籠を二つ持っていた。


「あ、あのっ!みんなで一緒に食べる方が楽しいと思って」


 ナタリアが言う。

 それはどう切り出していいのか分からないけれど、精一杯伝えてくれようとしている風に見える。


 美味しかったものみんな包んでもらいました。というナタリアにレストランで食事が出来なくて宿の部屋で食べた時と同じじゃないかと思う。



 きちんと招かれて、いくらでも楽しめるのに態々こんなところに引っ込んできてしまう。

 利口なやり方じゃないっていうのは分かっているのに、思わず笑顔を浮かべてしまう。


 それに、彼女が着ているドレスがあまりにも可愛らしかったのを見れたのもある。

 鎖の妖精が態々口に出すのも分かる気がした。


「精霊は人間に恋なんてしないわよ」


 そもそも価値観が違うの。まるで俺の思考を読んだみたいにユナが言う。

 

 態々俺の近くまで来て「あの娘がかわいいなんて思ってるのは、アンタだけよ」と耳打ちした。

 そんなものなのだろうか。俺にはそういうのはよく分からなかった。


 部屋に面してテラスの様なものがあったので、食事はそこでとることにした。


 部屋にあったテーブルを外に出してしまう。

 別に年代物ではなさそうだったので問題は無いだろう。


 ナタリアが包んでもらった食事を並べる。


 テラスは薄暗いので先ほど試したスペルの灯りを沢山浮かべる。


 わあ、とナタリアが歓声をあげた。


 宙にいくつもいくつも浮いているのは幻想的な感じがして、美しい。

 我ながらいいアイデアだと思う。


 ユナも浮かびながら興味深そうに術式を見ている。


「ユナさんも、これ使える様に教えようか?」


 俺が言うとユナは「うーん。多分だけどこれ人以外は使えないわよ」と答える。

 ユナさんはこちらの魔術に近いものを使うこともある。それなのに駄目なのか。

 まあ、鎖の妖精と同郷の様だし根本は同じなのかもしれない。


 妖精ちゃんは好きだ。

 どこか違う世界からやってくるファンシーな生き物たちは皆好きだ。


 勿論研究も欠かさないし、召喚術というものが何だかは知っているつもりだ。

 自分の魔力がどう妖精ちゃん達に循環しているかだって、ちゃんと分かってる。


 けれど、根本的な俺達と彼女たちの違いが分かっていないのかもしれない。


「また、どうせ気持ちわるーい事でも考え込んでるんでしょうけど、いきなり黙るのやめてよ」


 ユナに言われて気が付く。


「ごめん。……さて食べようか」


 上手く雰囲気を戻すこともできずそれだけ伝える。


 ナタリアが「これ、私に教えてくれますか?」と聞いてきた。


 魔法を使える血を持っているナタリアがスペルを発動したらどうなるのだろうか。

 適正がある術だということは確かだが、これまでの研究の積み重ねを俺は知っている。


 多分、託してくれたのだろうと思う。


 だから、過去適正が無いであろうとされた人間が術を発動できない訳じゃない事も知っている。

 それに、俺が補助をすればいいだけの話だ。


 魔法の適正が碌にない俺がナタリアに合わせて彼女の魔法を再現できたように、彼女もスペルを再現だろう。


 それは少し楽しそうだと思った。


「いいね。一緒にやろう」


 干し葡萄の入ったパンを手に取りながら言うとナタリアは微笑んだ。


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