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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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番外編:xxx 1

 僕はただ、王様が認めてくれたことが嬉しかっただけなのだ。



 僕は所謂、落ちこぼれ魔法使いというやつだった。


 召喚した彼岸の者と契約を持続できないし、作り上げた魔法陣が破裂するみたいに砕け散ってしまうこともあった。


 何度も、何度も、何度も、繰り返し訓練をしてもさしてマシになることは無かった。


 先生は魔法の織り込みを見る目が悪いのではないかと疑っていたけれど、そんなことは無い。

 ちゃんと見えてると思う。


 たゆたう魔力の流れも、契約の証である光も、見えているのに術は砕け散ってしまう。


 そんな時だった。通っている学校に国王陛下が来たのは。


 とは言え、模範生として実技を見せる生徒に自分が選ばれるなんてことは無いので遠巻きに見ているだけだ。


 けれど、遠くから見ても陛下はきらびやかで、すらりとした長身と穏やかな笑みはカリスマ性が見て取れる。

 そばに寄りそうお妃様もキラキラときらめく宝石をちりばめたドレスが美しい。


 どうせ、僕は落ちこぼれだ。

 こんなに近くで陛下たちを見れるのもこれが最初で最後だろう。


 だから一生の思い出にしようと、目に焼き付けていたその時だった。


 同級生の一人の放った火球の術式が歪になる。

 そのまま、ぐにゃりと来賓席の方に術が放たれる。


 先生たちが慌てて術を展開しているのが見える。


 こういう時は時間がゆっくりに進むって本当なのかと思った。


 間に合わない。分かっているのだ。先生たちの術は発動はするだろうけど一部は間に合わない。


 キラキラと輝く陛下たちを見れたという、一生大切にしようと思っていた今日が、あんなに美しいお二人がこのままでは惨事に巻き込まれてしまう。


 そんなのは絶対に嫌だ。


 一瞬のうちに浮かんだのは恐らく強い拒絶だった。


 目の裏側なんて実際は見えない筈なのに、文字が浮かび上がる。


 そんな言葉は知らない。文字だって多分見たことが無いのに、それが読める。


 これは拒絶のための術式だ。いつもの様に、術が破裂したらどうしようとは思わなかった。


 術は火球が陛下たちに降り注ぐ前に完成した。


 それが、俺とこの国でスペルと呼ばれる独特な術式との出会いだった。


 王様とお妃様は助かった。

 無我夢中だった。


 けれど、今まで使ってきたどの魔術よりその障壁の術は使いやすかった。

 僕の体は、この術のために作られているのだと思った。



 この国以外でスペルと呼ばれる魔術は、帯状に展開された術式に魔術特有の文字が並んでいるものをそう呼ぶ。

 その術式を知ったのは僕が、王宮で魔術を学ぶ様になってからだ。


 普通の国は城の事を王宮なんて呼ばないし、不思議な文字の組み合わせの魔術をスペルとも呼ばない。

 僕が発動させた魔術は陛下から話を聞いた王宮の魔術師様が一緒に研究をしないかと推薦状を書いてくれたのだ。


 それで王宮で魔術を学びながら自分の発動させた術の研究を始めた。


 分かったことはいくつかある。

 この術は魔術でありながら魔法に近いものなんじゃないかって事。魔法の素養がほとんどない僕が使えるので魔法じゃないと思うけれど、この術は今までの魔術と少しばかりルールが違うらしい。

 事実、この国の人間のいくらかが僕の発動させた術の素養があった。


 血、なのかも知れないと魔術師様は言った。


 けれど、僕以外は他の魔術も使えるし、それに残念ながらスペルを実用可能な精度で使えるものは他には誰もいなかった。


「精霊と契約すべきだ」


 魔術師様はそう言った。

 僕と契約できる精霊であればきっと同じ術が使えるはずだと魔術師様は言う。


 僕はまともに意思疎通の出来るものと契約を結べたことは無い。

 だから、あまり期待はしていなかった。


 スペルで組んだ召喚陣は思いのほか順調に発動した。


 けれどよばれたのは、僕の術とはあまりにもかけ離れた力の強い精霊だった。


 人型のものを召喚できたのは生れて初めてだった。


 普通の魔術を使っても多分一生人の形をしたものは召喚できないだろう。だから、これがスペルによってもたらされたものなのは、きちんと分かっている。

 けれど、目の前に立つ精霊が幸運の証なのか、不幸の象徴なのかはわからない。


 きっと、僕の事なんか一瞬で倒せる筈の精霊は周りを見渡すことさえせずに、僕に向って微笑みかけてくれた。


 それから、「我があるじ殿は、不思議な術を使いなさる」と言って、スペルで書かれた魔法陣の残骸を眺める。


 だた単に、珍しい術だから召喚に応じたのだろうか。

 彼の知的好奇心が満たされれば契約を破棄されてしまうだろうか。


 僕は落ちこぼれだった。

 少し珍しいだけかもしれない魔術を使える僕を王宮は、そこに使える魔術師様達は受け入れてくれた。


 優しい王様とお妃様、それから僕を受け入れてくれた魔術師の皆さん。その人達に報いたかった。



 彼の様な精霊がこの国のために働いてくれたらどんなに幸せだろう。


 僕にできる数少ない仕事がそれでは無いかと思った。


「……これが、我が主殿の御意思ということだろうか?」


 精霊は彼自身の腕を持ち上げて聞く。


 そこには先ほどまで無かった筈の鎖が、ガチャリと嫌な音を上げた。


 自分自身がそれを作ってしまったという自覚は無かった。

 けれど、鎖は紛れもなくスペルで、多分きっと僕が作りだしてしまったものなのだろう。


「あっ、ち、違う……」


 ガタガタと震えがくる。

 そんなつもりじゃなかったのだ。


 こんなに美しい精霊をこんな形でつなぎ留めるつもりは無かった。


 精霊がため息を付くのと、一緒にいた魔術師の長が口を開くのはほぼ同時だった。


「これは、これは大変なことになってしまいました」


 大仰な言い方なのにも関わらず、どこか高揚している。

 それで再度、自分のしでかしてしまった事の大きさに慄く。


 多分僕は、この精霊に酷く迷惑をかけてしまう。


「……ああ、そうか。主殿の魔術は完成しておらなんだか」


 面白そうに精霊は笑う。


「こちら側から見たら随分綺麗に見えたのに、それは残念」


 そう言うと精霊は、仕方が無い少しの間力を貸してやろうと言った。


 周りからは安堵のため息がいくつも聞こえる。


 精霊が握手のために伸ばした腕から垂れ下がる鎖がガチャンと嫌な音をたてた。

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