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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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美しき獣4

 結界は思ったより簡単に中に入り込むことが出来た。

 目がそれほど良くない自分のために、鎖の妖精が見える状態にしてくれたのが大きい。


 俺の目が悪いことを見抜ける位の妖精だ。そして、ユナはその妖精が少なくとも一目置く存在なのだ。


 結界を入った先は一本道の廊下になっていて、進むごとに灯りがぼんやりとついていく。


 それは、塔に障壁を築いた人間と同じなのだろう。

 灯りから見える術式の形がよくできている。


 思わず近づいて、まじまじと眺めていると、その精巧さは美しいほどだった。

 けれど、障壁を見た時の印象と違う既視感を感じて、その正体を思い出そうとする。


 それは、最近見ていたものだったのですぐに思い出す。


 魔族の物であろう魔術人形。その動力の一部がこれとよく似た作りになっていた。


 これは魔族の技術を転用しているのだろうか。

 その疑問はすぐに自分自身で否定する。


 逆だ。


 おそらく、逆だということに思い至る。


 あの技術は元々の魔族側の技術や力に人間側のそれが積み重なったものだろう。


「おい」


 没頭しすぎていて後ろから声をかけられた瞬間、思わず返事の声が上ずってしまった。


「何をそんなに張り付いてみてるのですか?」


 鎖の妖精がそこにはいた。


「ユナさんと話があるんじゃ……」


 そう言っていたので一人だと思っていたのだ。

 隠匿系の魔術を使おうが何をしようが周囲監視用の妖精を出しておこうと決めた瞬間だった。


「あっちにはスペアを出してある。

案内だのなんだので少し時間がかかるからな」


 で、何をしていたんだ? ともう一度鎖の妖精にきかれる。


「灯り関係の魔術を見ていただけですが?」


 本当にこれを作った術者はすごい。そう続けると何故かため息を付かれる。


「ちなみに、この鎖生成したのも同じ術者だ」


 思わず妖精の許可を取らずに鎖をつかむ。

 練り込まれた術式は上手く隠れているが、ああいわれてみればという部分はあった。


「お前にこれを引きちぎることはできるか?」


 そう言われてようやく話し方が先ほどまでと違うことに気が付く。


「周りへの影響を無視すれば。

後は、残されているという資料によりますかね」


 単に破壊するのであれば可能だとは思う。

 けれど、解除を試すために妖精を巻き込むということはしたくない。


「自由になりたいってやつですか?」


 そこまで聞いた時点で、一瞬身の危険を感じる。

 多分、この妖精は俺とユナの契約関係を認めてはいない。


 振り上げた妖精の手の先に爪の様なものが見える。

 召喚は間に合わないだろう。


 防御壁を張りながら、魔力をたぐり寄せる。

 目に見えない糸を引くイメージが近い。


 俺と鎖の妖精の間に割って入ったのは、図書館で資料を見るために呼んでおいた妖精ちゃんだった。


 妖精を一気に呼び寄せた反動が体を襲う。

 妖精ちゃんに押し付けることも可能らしいが、したことは無い。


「ユナさんを自由にしてあげたいのなら、本人に言ってください」


 別に向こうから破棄できるよう術は整えてある。

 わざわざ術者の死亡に期待を寄せなければならない様な関係では無いのだ。


「そういう事ではない」


 じゃあ、どういう事なのだろう。

 メンツ的にという話であれば、俺には理解できない分野なのでどうしようも無い。


「この鎖はこの国に私をとどめてはくれるが、力の一部は発揮出来ないようになっている」


 せめて、魔王の軍団が攻め入ってきたときに刺し違えたいのだ。鎖の妖精は言う。


「自爆呪文が使えればそれでいいってことか?」


 通常魔術師は命と引き換えの様な時は呪文を使う。

 術を行使するための杖を触れず、印を指でなぞることもできず、昏倒しかけて目も見えない時には呪文が一番いい。

 喉が使えない時のことを考えて自分の心臓と術式を繋げている術者もいると聞くが、この世界からその瞬間消えてしまう妖精に使えるものかは分からない。

 少なくとも俺は自分の契約している妖精で試す気も無い。


 それであれば、鎖の有無にかかわらず、自爆呪文が手っ取り早い。


 そう思った提案だったのだが、鎖の妖精は変な顔でこちらを見ている。


 先ほどからこの妖精は形容しがたい顔で俺の事を見る。

 何がいけないのかはよく知らないけれど、それでもこうやって資料室へと案内してくれたりと親切なところが、より一層意味不明だった。


「方法は問わない」

「人間の国と運命を共にしたいという妖精は珍しいんじゃないか?」


 こちらで怪我をしたり、回復不能になった妖精達はおおむね再召喚の際には回復している。

 けれど、再召喚できない場合もあるのだ。


 まして、鎖の妖精は刺し違えたいと言った。

 この鎖が呪縛となってこの世界で死を迎えるかもしれない事は、この妖精自身よく分かっているのだろう。


「私はこの国に長く居すぎてしまったのだ……」


 妖精はそう言うだけだった。

 こういう時は励ますべきなのだろうか? 人間の間での暗黙の了解さえよく分からない上に、妖精達には彼らなりの常識がある。


 分からなくなって黙り込むと「資料を保管してあるのはこの奥だ」と妖精は言って消えた。


 灯りだけでも素晴らしいのでもう少し確認したい気もしたが、とりあえず奥の資料保管庫を目指すことにした。


 奥にあった部屋は漆喰で塗り固められている様だった。

 城の外観は美しい空色のドームが印象的だったが、ここはそういった装飾は見当たらない。


 積み重ねられているのは束ねられている本で、先生の言っていた巻物とは少し違う。

 先生の勘違いなのか、それとも全くこれは別物なのか。


 そもそもこれは羊皮紙だ。魔術的な書物ではなく、現にここに存在していて誰にでも見れる形の本だ。


 開くと、ところどころ焼けて縮んでいる。


「これは、写本コデックスか」


 それだって、普通は魔術的に織り上げる。

 そちらの方が安全だし、魔術師の間であれば伝わりやすいとされている。


 何かがあって、羊皮紙に書き写さなければならなかったのだろう。


 けれどそれを書き写さない理由は何だろうか。

 それとも、書き写せない理由という事なのだろうか。


――今の魔術だと複製不可能なのか?


 思い浮かんだアイデアを試してみたくなる。

 自分の指先に膜として張った本を傷めないための魔術に反応する別の術は感じ取れない。


 俺の目が悪い所為ではなく、これは本当に写本自体には何も魔術的なものはかけられていないためだろう。


 それであれば、本を持つのと反対の手の指で円を描く。

 魔法陣が出現した次の瞬間、俺の肩に2羽の鳥がとまる。


 ナタリアと共に旅を始めた時、それの連絡に使った妖精ちゃん達だ。

 相変わらずのかわいらしさに思わず表情が緩みそうになるが、今は目的がある。


 この鳥は魔術で編まれた書物を扱うことに長けている。


 今から魔術を使った文書を作り上げようとしている俺には丁度いい妖精ちゃんだ。


 それに……。

 そのまま、俺の目の補助に使える。


 写本の内容をそのまま、魔術として保存していく。

 その時描かれた文字がぶれた気がした。


 思わず漏れてしまった笑みは、この術式を作った人間への賛辞だ。

 術式が崩壊しかける。二羽の小鳥が崩れ落ちる術式の周りを円を描くように飛ぶ。

 崩壊した魔術がこちらに逆流するのを防いでくれていた。


 相変わらずの仕事のはやさに嬉しくなる。


 それに術はもはや崩壊するだろうが、この写本を作った人間が何を求めているか、少しだけ理解できた。


 だからこそ、片っ端から資料に目を通したい。

 そしてできれば同じものを自分で使ってみたい。


 それから――。


 外でみた美しい障壁を思い出す。

 あれを超える術。それから、妖精を国に結び付けている術式の解除。


 自分が、ユナが言うところの気持ち悪い笑みを浮かべている自覚はあった。

 けれど止められそうにない。


 崩れ落ちる術式を見送って、妖精ちゃん達の様子を確認した。


 問題はなさそうだった。

 そのまま、周りの警戒をお願いする。


 それから、まるでそこに誰かが座っていたかのように放置された椅子に座って、誰かが書いた研究書を読み始めた。


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