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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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美しき獣3

 いつもより体が軽い気がする。

 爆発しそうな体内の感覚も無い。


 今までよりずっと調子が良かった。


 だから、これは言祝ぎだ。

 歌うことは苦手だ、けれど祝いの言葉位つけられそうだ。


 もう一つの世界へでもなく、この世界のことわりへでもなく、自分の中のルールに対する言葉だ。


 自分の周りを魔法陣が一周ずつ増えていく。


 金色に光る魔法陣はいつも以上に制御できていて、魔力の無駄遣いも少ない。


 あの時もっと。そんなことは何度も考えている。

 それこそ今だって、白の塔で他の方法を選べなかったのかと思っている。


 あの時の塔と、今目の前にある細い塔がダブって見える。


 小国とはいえ、一応国が作っている防衛機構なのだろう。

 言葉通り本気でいってもいいだろう。


 耳元でユナが笑ったような声が聞こえる。



 この後魔法を披露するユナよりも強力な術を発動させたいと思った。


 魔法陣に書かれている文字が揺らぐ。

 ああ、そうだ。


 あの白い世界に書かれていた方程式は、これとは少し違っていた。


 指先に力を込めて魔力の流れを少しだけ変える。


 ああ、やっぱり先生に『本当に選択肢は無かったのか』と聞かれてしまいそうだ。


 魔法陣は輝きを増して、金色に光っている様に見える。


「本気でって言ったのに、その子のために水の魔術を発動してどうするのよ」


 ユナの言葉は辛辣だ。


 そういう訳でこの術を選んだわけでは無かった。


 発動を見れていないので詳しいところまでは確認できていないが、対魔防壁というものは基本的に面で起動する。

 言葉の通り壁なのだ。その壁を穿つイメージが氷の刃だっただけだ。


「その程度で、アタシに勝てると思ってるなら傲りもいいとこだわ」


 鼻で笑われたと思った。

 正直言い方にとげがありすぎると思う。


 別に空気は読めやしないが、こういうことはちゃんと分かるのだ。


 逆に頭が冴える。

 多分自分は苛立っている時の方が、頭の働きがマシだ。


 ある程度、防壁にダメージをと思ったがやめた。

 比較するのはユナなのだ。


 極端な話、塔も防壁どうでもいい。


 息を大きく吐き出す。

 一瞬魔法陣が揺らいでしまうが、その程度の事どうでもよかった。


 精度は必要ない。

 ただ、破壊力の大きさを比べようと言われたのだ。


 鎖の精霊が何か言った気がする。

 けれどそれもどうでもいい。


 やはり、足のおかげか術用の魔力の巡りがいい。


 手を前に出す。雷鳴の様な音が聞こえる。


 それよりも、魔力が術に流れ込む耳鳴りの様な高い音が心地よかった。


 放出される術は風と氷の混合物だ。風の威力が強い。


 そのまま障壁にぶつかった。というか初めてきちんと壁が見える。

 やはり自分は目がそれほど良くはない。


 その壁に浮かび上がるのは古代文字だ。完全に解読されているその文字には、しゅが込められている。

 青白く光る文字を追っていく。この障壁は最初一人で作ったのだろう。

 この場所を守るための言葉がびっしりと刻まれて術になっている。


 魔法に近いがこの土地との契約で発動しているものなので、少し違う。

 何故先生がここに行くように言ったのかが、少しだけ理解できる。


 これは俺がたどり着けるかもしれない境地の一つだ。

 これを作った人が別の何かを残しているのだろう。それを見てみたい。


 俺の魔術のほとんどはこの障壁にはじかれているが、一部にひびが入っていく。


「ッチ」


 思わず舌打ちが出る。威力が明らかに障壁に対して不足していた。


「もう一発やればいけるか?」


 ユナを呼びだしたときの様な魔力を根こそぎ引っぺがされるような感覚は無い。

 次の術式を発動させようとしたところで、大きな咆哮に一瞬動きが止まってしまう。


 それは獣や龍に近い声だった。

 けれど、それだけであれば動きを止めることは無い。というか、止めてしまって相手のペースにするなんてミスをすることはあり得ない。


 思わず振り返った先にはプレッシャーの主である鎖の妖精がいる。

 これはもはや殺気だ。

 そこで、一人一発ずつだということにようやく思い至る。


 「あっ、すみません。……次、ユナさんの番ですよね」


 自分のしでかしに気が付いて謝ると、鎖の妖精は「そういう事じゃない」と答える。


 どういう事でしょうか? と尋ねる間もなく、ふくらはぎ近くまでのローブを被った集団が建物の中から出てくる。

 その一団が魔術師であること容貌からも明白だ。


「修復箇所は見えているな。これが魔族の軍勢だったら大事になっていたぞ!!」


 先ほどまでのしゃべり方とまるで違う言葉遣いで、鎖の妖精は怒号を発する。

 何故突然こんなことになってしまったのか理解が出来なかった。


「残念だけど、アタシが試すとお城壊れちゃいそうね」


 ユナが俺の背後に立ってそういう。


「ようやく、力の使い方が分かってきたのかしら、坊やは」


 嫌味な言い方を態としていることは分かっていた。

 けれど、それよりもあの美しい障壁の術の練り込み方で頭がいっぱいだった。


「あの……」


 鎖の妖精に話しかける。修復と言っても、そこまでまだ理解の足りない俺に手伝えることは無いし、そもそも、この程度で術の全体が崩壊するような作りにはなっていない。


「あの術を組んだのは貴方なのでしょうか?」


 精一杯の笑顔を浮かべたつもりだったが、いつの間にか鎖の妖精の側に回り込んだユナが「顔気持ち悪いわよ」と言った。


「あれを作ったのは初代の守手もりてと一人の人間だと聞いてます」


 先ほどの咆哮が嘘の様な丁寧な口調で鎖の妖精が言う。


「何か資料は……」


 残っていないのでしょうか? 言葉を紡ぐ前に王が口を開く。


「ありますとも。あなたの様な方があれらを見るべきだ」


 そして、と次の言葉を言おうとして鎖の妖精に静止される。


「……分かっていることでしょうが、あなたは世界から拒絶されている」


 我が君は気づいておられないから寛大なのだ。と伝えられる。


 そんなことは言われなくても分かっている。


「けれど、わが国の魔術に関する書物のすべてに対する閲覧権限を与えましょう」


 続いて言われた言葉は予想外で、正直驚いてしまう。

 けれど、あの障壁に関する手がかりが追えるのかと思うと気分が上昇する。


「アンタ、勝負はどうするのよ」

「そんなことはどうでもいい!!」


 それよりも解析の方が先だ。


「勇者様と、おや珍しい、魔法使い様。歓迎の宴を開きますので、是非ごゆっくりと滞在ください」


 俺のとは違う優し気な口調で鎖の妖精が言う。

 アルクは大きくため息を付いて、ナタリアは相変わらずオロオロとしている。


「アタシもこれと話をしたいことがあるから」


 丁度いいわ。とユナが言う。


 資料が確認できればなんでもいい。それが術者の走り書きでもなんでもきっと価値があるに違い無いと思えた。


「さて……」


 案内された途中、鎖の妖精が突然足を止める。


「ああ、やはり気が付きませんか」


 加護が無い分、目が悪いのですね。そう言われてそこに何かがあることを知る。

 何かがあるかもしれないところでは基本的に探索用の妖精を呼び出している。


 けれど、そんなものを今出せば敵意がありますと言っている様なものだ。

 だから、俺は今ここに何があるのかを知らない。


 ただ、この妖精は加護が無いと言っていた。それが引っかかる。


 妖精が手を上げて、指を鳴らした瞬間扉が現れた。


「え!?」


 ナタリアが小さく声を上げる。


「魔法使いなら、見えてないといけなかったんですが……」


 目を細め、それから手を広げる妖精の足元で鎖がじゃらりと鳴る。

 これも守護対象なのだろう。こうやって術式を扱っていると目の前に立つ男が人でない事が際立つ。

 これは妖精というよりも獣の様に見える。


「ここに歪みがある」


 目を凝らせば分かります。そう言ってナタリアがじいっと扉の丁度境をみつめる、それからひっと息を飲む。


 ナタリアが何を見たのかは俺には分からない。

 けれどそれはきっと少し意地の悪い魔法の授業だったのだろう。


 魔法の何たるかを本質的な部分で教えられない自分には口をはさめそうにない、話だ。


「残念ながら、ここに入れるのはあなただけの様です」


 鎖の妖精が笑う。


「ユナさんは?」

「アタシはいらないわ。これと話をしたいこともあるし」


 他の二人は入れないという事なのだろう。魔術的な結界が見える。


 ナタリアと初めて出会った日、俺やもう一人の魔術師がかけたものと規模が違う。


 鎖の妖精はこの術を解くつもりは無いらしい。


 この結界術式をすり抜けられたものだけが見ることが出来る資料という事なのだろう。


 ふう、と肺にたまっていた空気を吐き出す。


「それじゃあ、少しみてくるから」


 今までの自分であれば、わざわざ声をかけてからなんて事は考えなかっただろう。

 けれど当たり前の様にアルクとナタリアにかけた言葉に、自分自身少々驚く。


「気のすむまでやればいい」


 アルクが面倒そうに言った。


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