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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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美しき獣2

 考えを巡らせていた思考はそこでストップした。

 威圧感の正体が目の前に現れたからだ。


 見た目について、それほど言及できる様なセンスを持ち合わせていない俺にですら異様だということが分かる。


 真っ白な髪も、腕に刻まれている刺青の様な文様も人間離れしている。

 金色の瞳も、美しいのであろう。


 それだけで人の男性とは違うことは分かっているのに、異様なのはそこではない。

 おびただしい量の鎖が彼から伸びているのだ。


 本来彼を構成する要素に鎖は無い。これは後で人間が付けたものなのだろう。

 魔術的な力を帯びた鎖が何本も巻き付いている。


 それは、力を発揮させるための物ではなく、押さえつけるための物だと一目見て分かった。


 一般的に、人の贈ったものは目を凝らせば分かる。

 俺がユナに渡した宝飾品もそうだ。訓練を受けた魔術師が見れば分かる。


 けれど、目の前の男はそういう類の物を身に着けているのではなかった。


「久しぶりね」


 最初に言葉を発したのはユナだった。


「まさか、こちらに来ていらっしゃるとは」


 一言ご連絡を下さればと鎖をつけた妖精が言った。


「もしかして、自分の方が強いからアタシの事を召喚できたとでも思っているの」


 鎖の妖精に返事をする前にこちらを見て、ユナは笑った。


 あの召喚が色々なものが重なった幸運だったことは、自分自身よく分かっている。

 けれど、運だけではない事もよく知っている。


「試してみるか?」


 思ったよりも、平坦な声が出た。

 独り言を言い続けていた時の名残の様な声だった。


「試しましょうか?」


 答えたのはユナでは無かった。

 鎖につながれている手を、やあとばかりに上げて妖精は言った。


「なに、簡単なことですよ。

貴方の本気を見せてくださればいい訳ですから」


 初めましての挨拶も何もなく、話に割って入ってくる男に正直驚く。

 妖精ちゃん達の間ではこれが普通なのだろうか。


「そうですね。

例えば――」


 こちらの塔を狙うというのはどうでしょうか?

 対魔力障壁がありますから、おそらく丁度いいかと。そこまで言うと、鎖の妖精が笑みを浮かべる。


 それは、試しているものなのか、それとも嘲っているのか分からない笑みだった。


 けれど、不思議な色をたたえる瞳が細められるのは存外美しいものだ。


「あんた、妖精の女の子が好きなんじゃないの?」


 ユナに言われたが、何のことかは分からない。


「妖精ちゃんのことはみんな好きだけど?」


 それよりもだ。これはきっと試されている状態なのだろう。


「本当に狙っていいんですか?」

「はい、勿論です」


 この妖精の言うことを信じていいのだろうか?

 何か裏があるのではないか。


「ああ、国王もすぐきますので、彼の口からも許可を出させましょう」


 まるで国王よりも自分の方が偉いと言わんばかりの口調に驚く。

 一体この妖精はなんだのだろうか。


「守護精霊ってやつか……」


 アルクが言う。

 その言葉は良く知っている。


 有名なのは水の都と言われている都市にいる精霊だ。

 その都は水に困ったことは無く、まるで神の様に精霊があがめられている。


 けれど、この国にその守護精霊がいるという話は初耳だ。

 妖精ちゃんのための雑誌にもそんなことは書いてあったことは無い。


 けれど目の前にいる男は、否定することも無くニッコリと微笑みを浮かべただけだった。


 この国を守護しているのか王族を守護しているのか、王個人を守護しているという線は先ほどの言葉で可能性から消している。


「ああ、この方達が君のお客様かい?」


 物腰こそ穏やかだが額の上の飾りは王冠の一種だろう。

 白銀に輝くそれは、特権階級しか持ちえないものだ。


 だから、この人はきっと正真正銘の王だろう。

 実際衛兵も周りの人間もすべて頭を垂れている。


 唯一その中で先ほどと様子が変わらないのがこの鎖の妖精だ。


「ああ、やっと来ましたか」

「君がいきなり飛び出していくから……」


 困り笑いを浮かべている様に見えて、さほど困っていない様に見える。


「これから、この魔術師の力を測る。

なあに、わが国の対魔力障壁の力をちょいとばかり誇示するだけだ」


 そう言って、塔の方に視線を移すだけで何を言っているのか分かるらしい。


 王様は、二度三度頷くと「それはいい余興だね。オキキアの王として許可しよう」と大きな声で言った。


 それで、念のための嘘を見ぬくための魔術の発動を諦めた。


 王を騙ることは世界の理とやらに反する。だから社会に溶け込んで生きていくものは絶対にしない。


 であれば、やることは一つだけだ。

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