美しき獣1
「さてどうしようか?」
地図を投影しながら、言葉にする。
俺の足について話し合っても、俺の魔術について話し合っても意味は無い。そこでじゃあ、俺が許せないとなっても別行動はできないのだ。
だから、話をすること自体無駄だ。
多分、ありえないと思われているのだろう。微妙な雰囲気になることには別に慣れている。
一人の方が楽だ。
けれど、選べないのはナタリアの方なのだ。たから、何事も無かった様にふるまう。
「足はもういいのか?」
「別に戦闘もできるし。
迷惑をかけて悪かった。
……ありがとう」
お礼は余計だったのかもしれない。けれど、アルクは「そうか」と言っただけだった。
「ねえ、その国……」
先生の言っているであろう小国を開かせていると、ユナに声をかけられる。
「どうした?」
ユナの唇が面白そうに弧を描く。
「オキキアって書いてあるわね」
ユナがこちらの字を理解していることは分かっていた。けれど、それで書かれた言葉に興味があるとは思っていなかった。
「古い知り合いが、そこにいるわ」
大馬鹿ものだけど、一度あっておきたいし、そこにしましょう?
有無を言わせない感じだ。
俺も調べ物はしたい。けれど、海を見に行こうと言ったのだという気持ちもある。
「オキキアに行きましょう」
貴方の先生が言うのであれば、魔法関係の何かでしょう?とナタリアが言う。
「私もきちんと知りたい」
意思のこもった声だった。
◆
ナタリアをなるべく早く、彼女を保護してくれる場所に預けるべきだと思った。
できれば先生のところと思ったが、駄目なのであれば条件をそろえるなり別の場所を探すなりしなければならない。
「また、アンタの“ヨウセイチャン”でいくのかしら?」
荷物をまとめているとユナに聞かれる。
「いや、そのつもりはない。
一部旅行者用の転送陣を使いつつ陸路の予定だが?」
ユナはそんなに空を飛んでいきたいのだろうか?
思わず荷物から顔を上げてユナを見る。
ユナは、こいつ馬鹿じゃないの? という顔でこちらを見ていた。
意味が分からない。
「アンタ、所謂契約妖精の事本当に好きなの?」
それは、自分の事を好きか? と聞いているのだろうか。
それとも、一般論を話せばいいのだろうか。
「他の魔術師の様に、道具としては扱えないよ」
そう答える。
けれどユナは大きくため息をついた。
「アンタほどドラスティックに精霊を使う魔導士の話は聞いたこと無いわよ」
「ユナさん、召喚されるの初めてだろ?」
比較しようが無い筈だ。
それとも、別の魔術師と契約していたことがあったのだろうか。
「なに? アタシに興味が出たの?」
ユナの唇が面白そうに弧を描いた。
興味があると答えた方がいいのか、興味はないと答えた方がいいのか、何を聞きたかったのか理解できない。
こんなやり取りばかりだ。
ユナの胸に輝く宝石は、この前強請られたものだ。
「さすがに、この前みたいなことはごめんだ」
それが遺跡での出来事を指していること位分かるだろう。
「あれが、ユナさんにはどう見えた?」
自分でもようやくなのかと思わないでもない。
あそこにいたものの中でユナが恐らく一番眼がいい。召喚した術者として見えるもの以外にも彼女が何か知っているかもしれない。
「何も知らないアンタにこれ以上伝える事なんか無いわ」
ユナはにっこりと笑顔を浮かべながら言う。
カチンときた。という気持ちが正しいのだろう。
魔術は好きだ。妖精ちゃんも好きだ。
召喚陣について、何も知らないなんて筈が無い。
少なくともあれが召喚陣のテクニックが使われていたことは事実なのだ。
冷静になれ。知らない筈無いだろと怒鳴ってしまいたい気持ちを押さえる。
「……俺が必要なことを知れば教えられることはあるんだな?」
とだけ、返した。
「まあ、その時まだアタシがアンタと契約してれば、の話だけれどね」
ユナは、少しめんどくさそうに言った。
◆
弱気になっているのかと自分でも思わないでもない。
けれど、この前の二の舞はごめんだった。
いくつか妖精を召喚して辺りを警戒させる。
この子たちが傷つかない様に何かを発見し次第彼らの世界に帰れるように術を組んだ。
彼ら、彼女たちが召喚に応じる魔力やこちらの世界を知ること以外の利点については、結論が出ていない。
ユナには何か目的があるのだろう。それは、アルクの顔がいいとかそんな理由じゃない。
アルクを好んでいそうなのは、多分ただのおまけだ。
まあ、俺を気持ち悪いと言っているのは事実なのだろうが。
借りられそうな転送陣を借りつつ、先生の言っていた国を目指す。
途中必要なこと以外、ナタリアとはほとんど会話をしなかった。
けれど、ナタリアは今まで以上に魔術の勉強に熱心な様に見えた。
結局、道中何かトラブルの様な事は無かった。
到着した王都の城だろうか、を見上げてながらその異様さに驚く。
その建物は円形を変形させたような不思議な屋根の建物とその横に立つ高い塔でできている。
高い塔というのがそもそもおかしいのだ。
それに――
威圧感に近いプレッシャーがこちらに近づいてくるのを感じる。
「気が付いたみたいね」
嬉しそうに、ユナが笑った。
何かが近づいてくるのが分かった。
「意地で図書館に居座ればよかった」
俺がそういうと、アルクは鼻で笑った。
先ほど閉架への立ち入りで、揉めたことは分かっている。
協会にも王立なんちゃらにも属さない魔術師が見れる書物は限られている。
だから事実上の門前払いだった。
とはいえ、そこまで行ければ、その件は充分だったのは確かだ。
きちんと必要なものは残して来た。
禁止されている行為だということは知っている。
術除けもさすがにされているだろう。
それはそれだ。残して来た妖精ちゃんには、きちんとそれらを通り抜けられるようにした。
けれど、こちらに近づくなにかを使役できる魔術師に対してだとしたら、碌でもない考えが脳裏をよぎる。
見上げた塔は高く、人の居住区はなさそうだが、この塔をそのまま維持できると誇示されている様に見えた。




