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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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延鏡のごしの世界1

 二人の元に戻ってきたときナタリアが同調魔法から戻ってこないと先生に聞いて、慌てて声をかける。


 魔力の残渣はまだ彼女の体から出ていることが分かる。


「おい!ナタリア!」


 声をかけると瞼が動く。ぼんやりとした表情のままナタリアが目を開く。


 彼女と視線が合った。





 ああ、やはり。


 ナタリアがこちらを見て、それから驚いていることに気が付く。


 碌に人の表情を読めない俺にすら分かる位表情が変わる


 まあ仕方がないことだ。分かっていて先生にナタリアを任せた。

 最初からこうなる可能性は理解していて委ねたのだ。


 ナタリアの目が俺の状況を見ることができない可能性もあった。

 この前出会った魔術師もそうだった。見えない魔術師の方が多いのだ。


 ナタリアはそうではなかった。というだけだ。



 魔法を綺麗に発動させていた時点で分かっていた。



 ナタリアは視線をあちらこちらにさ迷わせて、それから口を開いて何かを話そうとしては止めてを繰り返していた。

 何を話そうとしてやめていたかは知らない。



 けれど最初に言った言葉は「勇者様と、それからあの精霊さんを呼んでくださいませんか? 話さなければいけないことがあります」と言った。


 まあ、もう、俺に話したい事は無いだろうと結論づけて外にいるユナに声をかける。


 すぐに目の前にあらわれたユナはナタリアと見ると「ね、気持ち悪いでしょ?」と声をかけた。


 それは彼女を召喚してすぐにかけられた言葉に近かった。


「あれは、俺の顔が気持ち悪いって意味じゃなかったのか?」


 俺が聞くとユナはニコリと笑顔を浮かべた。


「大丈夫。アンタの顔は普通に気持ちわるいわよ」


 ユナが当たり前のことを言う様に言った。

 すでに皆部屋に戻ってきていて、アルクが頭痛がするとでも言わんばかりに手のひらで額を押さえている。


「だけど――」


 半分あたりよ。と口角をあげる。

 それが大抵の人間であれば見惚れてしまうであろう笑顔なんだろうなということ位さすがに分かる。


「別に、それが気持ち悪かろうがなんだろうがどうでもいいだろ。」


 アルクが面倒そうに言う。先生はそれを聞いて噴き出している。


「そんなことよりも、ナタリア、何か話があるんだろ?」


 なんで、俺が、こんな調整役みたいなことを言っているのだろうか。

 そんなことをしたことは無いしむしろ今までの人生すべて誰かと何かをみたいなそんなの無かったのだ。

 大体どうしてもの場合は気まずい雰囲気で引き気味に話しかけられていたばかりだ。


 多分先生とだって師匠と弟子という関係でなければ普通に遠巻きにされていただろうということも知っている。


 だから、そんなうまく話を持っていってやることはできない。


 ナタリアは「遺跡での話です」と話し始めた。



 あの真っ白な場所で、俺のした事が世間でどういう扱いを受けるかという話だろうか。


 その話しに俺は必要ではない気がした。言い訳をするという意味では必要なのかもしれないが、それも含め何もかもが不要に思えた。


 思わずため息をついてしまう。それがことさらに響いて自分でも驚く。

 一人で過ごしていた時自分の音がこんなに大きく聞こえてしまった事は無かった。



「悪い。俺、外に出てた方がいいな……」


 ナタリアは「何故?」と聞いた後、すぐに「ち、違います!その遺跡じゃなくて、その前に行った、というかあの真っ白な場所はやっぱり古い場所だったんですか?」ナタリアは慌てて叫ぶように言った。


 ナタリアが昔話の様だと言った場所はではないと聞いて、安心してしまう。


 どうせ、すぐに気が付くことなのに、そんなことで安心するなんて馬鹿だ。


「遺跡? ああ、確か祭壇だか神殿だかを見つけたんだっけ」


 魔王討伐の任で何やってるの君たち、と先生がカラカラと笑った。


「あの時の、あの娘にあいました!」


 興奮気味にナタリアが言う。


「俺には、よく分からないんですけど、魔法使いの契約は心象風景的なそういうのじゃ――」

「あれは、そんなものじゃない」


 今までの軽口も何もなく先生は言う。


「お前だって、一瞬はあの風景を見たはずだろ?」

「先生!」


 これ以上ここで自分の昔話をするつもりは無かった。


「本当にいました」


 ナタリアがこちらを一直線に見ながら言う。


「それで、その女の子は?」

「大きな木のところにいて、それで古の契約のためにいるって。」


 言われたときは契約が何か分かっていなかったけれど、今ならわかります。

 ナタリアは一息にそういう。


「でも、でも……」


 ナタリアがもう一度俺の事を見る。彼女の言う契約が何なのかは知っている。

 俺ができる契約とは違うそれは、魔法使いの根源的なものだ。


 最初の暴走の時に見ている筈のそれを俺は覚えていない。


 いびつな形で今も残渣の様に残る契約の形は、普段は魔術で隠している。

 だから、同じ魔術師であってもすれ違った程度では気が付かれない。



 けれど、隠す気は無かったし、足を修復した直後で魔力の調整がおぼつかないので何も隠せていないというのも事実だ。


 だから、ナタリアが何を言おうとしているのかも分かっている。


「俺は魔法使いじゃないから分からないけど、ナタリアが見たっていうなら事実だろう」


 ナタリアの息を飲む音と、先生のため息をつく音が聞こえたのはほぼ同時だった。


 アルクが不思議そうに「なら、普段使ってるそれはなんなんだ?」と聞いた。


「魔術だけど?」


 俺が答える。


「力の流れ的にはな……」


 先生が割って入る。


「違いなんて無いでしょう。極端な話、魔石に術式埋め込めば適正ゼロでも発動できるんですから」


 俺が答えると先生は大きくため息をついた。


「世の中には魔法と魔術の二つがあるんだよ」


 アルクに説明をする。


「俺は魔法の適正はからっきしだけど、魔術なら使える」


 今度は先生は口出しをしなかった。

 けれど、ナタリアが言い出しにくそうに言葉を紡ぐ。


「でも、私の魔法のお手本を見せてくれたじゃないですか」


 魔法は血と契約の産物だ。その両方が無い俺が使えるのは、あくまでも魔術をベースに変換をかけたものだ。


「えっと、魔術を変換して魔法にみせかけてるというか――」

「……お前が説明しても、魔術に対するとらえ方が違いすぎて混乱するだけだ」


 とらえ方が違う、合わせられない。昔から何度も言われた言葉だ。

 誰かの魔術に合わせるくらいなら、一人でできる術を新たに作ってしまった方が早い。

 だから、今更その言葉に傷ついたりはしない。


 けれど、自分にだけ他の人とは違う世界しか見えていないという事実を、自分の口から客観的に説明することは酷く難しいことに感じられた。

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