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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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修復


 案内されたのは町のはずれの小さな家だった。


「ここに全員で?」

「まあ、旅用の装備で寝泊りも煮炊きもできるから」


 アルクがそっけなく言う。


「先生もここにお泊りだったんだぞう!」


 恐らくそこであの真っ白い街の話を聞いたのだろう。だから忠告したのだろう。


 ただ、それについて俺から言えるのは、あの何も分からない上に町中に魔術が張り巡らされた状況で一番確実だったのは俺の脚をくれてやるのが一番早かったのだけは確かなのだ。


 その状況を説明してもたいしたことが無いと思われるだろうし、仮にそうだったとして魔術のゆがんだ箇所から出てくればいいという話しにしかならないのも経験上よく知っている。


 話しても無駄な事に時間をかけても仕方が無い様に思えた。


「じゃあ、先生始めましょうか?」


 それからユナ、と彼女の方を向く。


「契約を切らないでくれてありがとう」


 俺が言うとユナはそれを鼻で笑った。


「契約の主導権はあくまでもアタシよ。いい暇つぶしになりそうだからもうちょっと付き合ってあげるってだけよ」


 ユナに言われ頷くと彼女はそっぽを向いてしまった。


「じゃあ、悪いんだけどこの家全体に隠匿魔法をかけていてくれるか?」


 俺が聞くと「まあ、仕方が無いわね。アンタ達の話だと、どうせ禄でもない魔術を使うみたいだから」とユナは言う。


「はじめましょうか」と先生に言う直前、アルクが「俺に何か手伝える事は?」と聞いてきた。


 ナタリアは火起こしにしろなんにしろ「手伝います」と良く言ってきていた。それは彼女の境遇から考えるとどうしようも無い物だったけれど、アルクは基本的に最低限だった筈だ。


 勿論少しだけ聞いた彼の話からしてもそれはいた仕方が無い様に思えたが、今ここで声をかけられたことに正直驚いてしまったのは事実だ。


 こういうとき、無理をしてでも何かを頼んだ方がいいのか、それとも安心させるために何も頼まない方が良いのかは分からない。

 自分がどうされたいかといわれても、大体において誰かを手伝うという状況にならないからどうにもならない。


「足の形成が終わったら、一戦してくれるか?

性能の確認をしたいし」


 俺が答えると、先生も驚いた顔をしていた。

 こういうのは知っている。大体において、俺がまともな返事をしたときにする反応だった。


 驚かれる位、まともな事を言ってなかったということだろうけど、どうにもならないので受け流す。


「遺跡のときみたいに肺を焼かれるのは勘弁だな」

「別にアルクが本気を出せばそんな事にならないだろ?」


 何度かしか戦う姿を見たことは無いけれど、戦いなれているし対魔術師用の戦闘の心得もある様に思えた。


「なんだ、勇者様は火炎呪文食らったことあるのか」


 あれ、息が出来なくなるんだよなと先生が笑う。


「気持ちはありがたいけど、ここからは魔術師の領域だ」


 俺が答えるとアルクは黙って立ち上がる。

 

 ナタリアは大きく一回深呼吸すると、「見ているだけで良いです。立ち合わせてください」と言った。


 魔術師として口外すら出来ない上に、彼女が今覚えているものとの系統も違う。それに万が一事故が起きてしまったときのリスクが高すぎた。


「よーし、先生が後で術の様子を映像で見せてあげよう」


 二人とも泉まで行ってこれを洗ってきて欲しい。

 先生は金属製の道具を取り出して言った。


 それが魔術で使う道具だと知っているし、足が出来上がったら使う筈のものでもある。

 けれど、それを泉で洗う事に意味が無い事はよく知っていた。



 先生が人払いをしたかった事だけは良く分かった。


「じゃあ、人ならざる者のための魔法を発動させようか」


 妙に大仰に先生が言った。別に俺と先生で発動させるのだ、人もそれ以外も別に関係は無い。


 小屋の床に腰を下ろすと切断されてしまったほうの足をようやくきちんと見る。


 ここまでは飛行魔法で飛んできてしまったので、あまり足がなくなってしまったという自覚は無い。


「まあ、お前にも人らしい部分があったんだなあとは思うよ」


 床に魔力をこめて術式を書き込みながら先生は言った。

 何のことを言っているのかあまりにも分からなくて思わずぽかんとしてしまう。


「は?ナタリアちゃんの事だよ」


 先生は視線を床に向けたまま言う。

 アルクにしろ先生にしろそういう話題が好きすぎではないだろうか。


「それにしても、お前がそういう趣味だったとは思わなかった。」


 俺が否定をする前に先生は話を続けた。


「ぶふっ……。そういう趣味ってどういう趣味ですかっ!?」


 思わず噴出すとようやく先生はこちらをみてそれから「どういうってロリコン的な?」とにやりと笑った。

 それは馬鹿にする様な笑みじゃないって俺でも分かるものだった。けれど、それでも言い返せずにはいられなかった。


「いやいやいや。それは無いですよ。」


 俺が返事をすると今度は先生がぽかんとこちらを見ていた。


「は?……だって、は?」


 元々教師らしい話し方をする男ではなかった。

 けれど、ここまででは無かった。


「だって、どう見たってお前。

この年になって無自覚とかそういうの、はやんないぞ」


 アルクにも聞かれたことはきちんと覚えているし別にそういうのとは違う。

 あれもこれも、先生の言っているそういうのとは違うのだ。


「そもそも、今更でしょう。

俺のこれにしたって、これからやる事にしたって誰にも賛同されないし、まして祝福なんてされる訳が無い」


 けれど、そう返すので精一杯だった。

 別に賛同されたいのかといえばそういう訳ではないし、祝福されたいのかといえばそういう訳でもない。


 でもそれは、俺がそうだというだけだ。そもそも、ただ拾っただけの俺とどうこうという時点で可笑しいのだ。

 また、見目麗しい勇者であるアルクとのほうが話しとして理解できる。


「なぁに、大人は時間が過ぎるのは早い、数年も待てば」

「それこそ、この不毛な旅から開放された女性が俺と一緒にいる意味は無いでしょう」


 それに、この後先生がナタリアに魔法を教える。そうしたら俺がこの世界にとってどういう存在なのかがきちんと分かるようになるだろう。

 出会っただけの魔術師達には隠しきれたが、多分魔法をこれからも教え続けるのなら隠し通せない。


 アルクにしろ、先生にしろありえない事を心配し過ぎなのだ。


「本気で言ってるのか?

っつうか、言ってるんだろうな。

お前がそういう冗談を言うようには見えないし、冗談だとしてもつまらなさすぎる」


 先生はため息をついた後立ち上がると、魔術師がよく使っているタイプの杖を取り出す。

 木製のそれは学園の授業で標準的に用いられているものだ。


 この人も道具の見栄えには全くこだわらない。

 杖を日常で使わない俺が言うとまるで説得力がないが、もっと賢者としてふさわしい杖があるだろうにと思う。


「さて始めようか」


 話しを切り上げるために先生が俺に声をかけた。

 先生が杖を振ると俺の下に魔法陣が現れる。


 それは年輪が増えていくようにじわじわと大きさと複雑さを増していく。


 複雑に計算されつくしたそれはいっそ美しい芸術品の様に思えた。

 まあ、そもそも芸術品を素晴らしいと感じる心は俺には碌にないのでそれよりも美しい、というのが正しい。


「調整は自分でやれよ。

間違えると残ってる足まで吹き飛ばしかねない」


 がりがりと髪の毛をかきながら先生は言う。


「当たり前です」


 俺の無くなった足の部分に、真っ黒な影のようなシミのようなものが浮かび上がっている。

 俺の魔術回路が今までめぐっていた部分を覚えていてできた流れの残骸がシミになって浮かび上がっている。


 この形の通りニセモノで形を補ってやって、中に魔力の通り道を作る。

 そうすれば足としてのある程度の動きは似せられる。


 今も漏れ続けている魔力がきちんと体内を循環するようになれば修復完了だ。

 魔術も理論上は元通りに使えるようになるはずだ。


 先ほどの飛行魔術は、魔力流出が増大していてほとんど捨てている状況で発動している。その位のものであれば現在も使える。

 そもそも、循環がされていないのは意識を失っていこうずっとそうなのだ。それが即問題なのであればもうとっくにどうこうなってしまっている。


 ただ、大きな術の行使は今のままでは無理だ。だから体内の循環を形だけでも元に戻してやる必要がある。


 体内の魔力の流れを意識して足の部分に魔術を編んでいく。


 その中を胴体から流れてきた魔力が通ってつま先まで形作ってそれからもう一度体内に戻っていく。



 青く鈍く光る流れが足に見える。

 それとは別に胸の下あたりが鈍く光っている。


「それ、壊れかかってるな。

どういう負荷かけるとそうなるんだよ」


 先生がため息をついた。


「あー、ちょっと無理したかもですね」


 別に自分には、そういう自覚は全く無かった。

 それにいつかは壊れるという覚悟はしていたのだから、崩壊すかけている位であれば想定内だ。


「ついでにこちらも補強したほうがいいですね」


 編み込んだ魔術を亀裂にかぶせる。

 今はこの方法で修復できているのだから、どうってことは無い。


「足の方の義足はこっちで作っていいのか?」


 先生は魔法陣を維持しながら聞く。


「お願いします。

後――」

「分かってる。

そっちの補強も手伝ってやるから」


 俺も魔力の流出による爆発事故に巻き込まれたくは無い。

 そうきっぱりと先生は言った。


 編まれた魔力は足に浮かび上がってまるで文様だ。


 ナタリアの着ている服の文様にも似ているそれは、螺旋階段の様に渦を巻く形で足型を形作っている。


 これを、いわゆる普通の感性の人間がどう見るのかは分からなかった。

 気持ち悪いのだろうか、不遜と見るのだろうか。


 自分の体の一部になるからというバイアスを除いても、繊細に編まれた術は美しく見える。

 ここまで細かく術を編んでそれが崩壊していないのは先生の協力のおかげだ。


 そもそも、この術の原型を考案した昔の魔術師とそれをこの形として完成させた先生のおかげで術が行使できている。


 そもそも俺は、療術系の術が苦手で研究もそれほどしてはいないのだ。



「よし!仕上げだ」


 ここからは人よりも、あちらの生き物の力を借りた方がいい。

 そう先生は言うが、ユナさんとの契約を維持したまま今の状況でほかの妖精ちゃんを呼び出せるかは怪しい。


「このまま、俺がやるんじゃ駄目ですかね」


 俺の問いかけに先生はため息をつく。


「あの火の精霊はお飾りなのか?」

「いえ、そういうわけでは……」


 ないんですがという言葉を飲み込む。

 人の常識とやらとは全く違う価値観で動いているらしい妖精ちゃん達とはいえ得意分野というものはある。

 あの苛烈なユナがハイそうですかとその部分を補助してくれるようには思えない。


 事実、契約の関係で伝わってくるユナの現在の位置は俺がいる場所よりもやや離れている。


「あちらの生き物に肩入れしすぎるのはやめろ」


 暗に、リスクを取って妖精ちゃんを召喚しない俺への釘差しだということ位分かる。

 言い返す前に、先生の左手に小さな魔法陣が発動した。


 それは契約済みの妖精ちゃんを召喚するためのもので思わず舌打ちをしてしまう。


「ちょっ!?この状況で召喚して妖精ちゃんに何かあったら!!」

「発生する可能性があるのは、契約の消滅だけだろ。あちらの生き物は必ず、あちらに返る」


 妖精ちゃんにダメージが無いのであればそれでいいという考えの先生に対して、どう答えたらいいのかわからない。

 通常時であればあの位の術式妨害して、今回の召喚のみ無効にすることもわけないのに今の状況では無理だ。


 先生が、妖精ちゃんを傷つけても何も思わない様な人間でないことは知っている。

 けれど、あくまでも道具として大切にしているという風に思えてしまうのだ。


 それの何がいけないのか?と問われると分からない。


「ちゃんと、集中してろよ。調整間違えたら、ドカンだぞ」


 俺が延々と考え込んでいるということに気が付いた先生がそれだけ言う。


 俺に今できることは、それしかないのだ。


 ちくしょう。という言葉が喉元まで出かかって飲み込む。


 多分こんなことでそうなってしまう俺の方がおかしいいんだろうってことは分かり切っている。



 先生の左手の魔法陣から召喚されたのはネズミに似た形の真っ白な妖精ちゃんだった。

 手のひらに乗りそうな大きさのそれは左手を伝って先生の肩まで登っていく。


 先生が二言三言ぼそぼそと話しかけると妖精ちゃんはもう一度先生の腕を駆け下りてそれから俺の胴体めがけてジャンプした。


「うわっ、ふわふわだ。かわいい」


 俺の胸元に着地した妖精ちゃんは間近でみてもふわふわでつぶらな瞳もかわいい。


「今言うべきことか。それ」


 あきれた声で先生は言うけど、かわいいものはかわいいのだ。


 それともこの魔力が対流を起こしている状況での召喚を成功させた先生を褒めたたえればよかったのだろうか。


 妖精ちゃんは俺の胸元でくるくると回る様に歩き回る。

 ほんの少しずれてしまった術式を正しい位置にずらして踏み固める。


 これであればこちらは他の部分に集中できる。


 指先に集中して一連の修復作業の仕上げのための魔術を発動させた。


 靄がかかっていた様に輪郭がぼやけていた足がくっきりと浮かび上がる様に形ができる。


 真っ黒な中を薄く光る管が見える。

 光はだんだん薄くなって見えなくなるはずだが、黒い色はずっとこのままだ。


 幻術の類で人の目をごまかすことはできるだろうが、足そのものの色はこのまま黒だろう。


 持っていかれた足が取り戻せれば違うのだろうが、時間の流れ的に無理な気がした。

 腐り落ちた足を返されても仕方がないのだ。



「どうだ?感覚はあるか?」


 杖を構えたまま先生が聞く。


 足先に力を入れる足首が動いた。

 違和感はあるけれど、痛みは無い。これであれば大した問題は起きないだろう。


「立ってみます」


 妖精ちゃんに目配せすると器用に肩まで登って静かにしている。

 反対の足に力を入れて、黒い方でバランスを取るために膝を伸ばす。

 

 ぐらりと地面に一瞬嫌われた様になり体制を崩すがそれでもなんとか床をける様にして立ち上がる。


 二度、三度地面に向って足を踏み鳴らす。


「魔術をなんでもいいから使ってみろ」


 漏れてたら最悪だぞ。と先生に言われる。


 今だって、漏れてたら碌でもないことになるのに、先生は笑顔だった。


「何がいいですかね。

そうだな……」


 最初に思い浮かんだのは、ナタリアとの同調の時に見た水の情景だった。


 右手を天井に向けて胸の前に差し出す。


 魔法陣はこれまでの様に手の上に描かれていく。

 けれど、その時今までよりも出力の具合が大きめだということに気が付く。


 全身をめぐっている魔力がきれいに右手に集中していくのが分かる。


 水球が右手の上にふわりと浮かび上がる。


「特に魔力の漏れはなさそうです。

むしろ前よりいいくらいですね」


 水をそのまま漂わせながら俺が言うと先生は頷く。


「問題はなさそうだな。」


 ふう、と息を吐きだしながら先生は言った。


「戻れ」


 先生が妖精ちゃんに言う。

 妖精ちゃんはちょこちょこと俺の体を伝って床に降りるとふわりと消えた。


「ありがとうございました」

「いや、こちらもいい研究材料を貰った」


 先生はニヤリと笑った。


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