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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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別視点:孤高の魔術師1

※アルク視点 


 勇者であることに不満を持った事はそのときまで無かった。

 やりがいも感じていたし手助けしてくれる人も多くいた。

 友達も多かったし、名前を呼ばれないという少しばかりの寂しさはあったけれど、例えば「お母さん」になって名前を呼ばれなくなったからといって家族との愛があるのか無いのかみたいな話をするのはナンセンスだと思っていた。


 その後、勇者ではなくなって周りから誰もいなくなったどころか仲間に刺されて、それからのことは一々思い出したくもない。

 その時初めて勇者であるという事を呪った。

 ただ、一番思い出したくないのは再び勇者になった後の事だ。


 手のひらを返すようにっていうのはこういうことだとしか思えないように見えたし、勇者であるのならば許さねばならないという常識が嫌だった。


 それで本当に勇者に戻れたならばまだいい。厄介払いの様な魔王討伐の任。まあ、そういうことなのだろう。

 貧乏くじを引いたもう一人の男は俺の名前を聞くと、勇者とは呼ばなかった。


 なんて非常識な男だろうと何度も思った。もう、表情筋がまともに動く事は無かっただろうけど何度も何度も、その男の事を非常識なやつだと思った。



 だから、真っ白に見える街に来て、魔術師曰く魔法陣の只中に放置されて指先に小さな稲妻の様なちらつきが出てきたときにも、あの非常識な魔術師ことだ何もかも捨てて逃げたのだろう結論付けた。


「大丈夫ですか!?」


 ナタリアといっただろうか、魔術師の拾った少女が叫ぶ。

 彼女も捨てられたのだろうか。


 人の心配ができる状況ではないかもしれないのに、子供は他が見えなくなる。それが少しばかり羨ましい。


 体に張り付いた様になっている稲妻は徐々に腕を通って方肩まで広がっている。

 少女の周りには発生していないから、これは勇者にのみ発生しているのだろう。全く忌々しい。


 徐々に全身に広がった時が最期かそれとも頭に回った後で自由が奪われて終わるのか。魔法だの魔術だのに興味が無いため分からない。

 そもそも、魔法と魔術の違いもきちんとわかっていない。だから、今の状況がどういうことかもわかっていない。


 分かっているのは、魔術師から説明を受けた自分自身が生贄にされそうになっているということだけだった。


 逃げる、という選択肢は浮かばなかったような気がする。

 まずくなったときに、逃げたところで追い詰められて余計酷い目にあった経験しかない。だから、思い浮かばなかったのかもしれない。


――パキン。


 金属が響くような音がした気がする。もしかしたら自分の耳の中でだけ聞こえた音だったかもしれない。

 けれどその音の消えた瞬間、体を覆い始めていた稲妻が消えた。


 魔法が次の段階に入ったのか、それとも時々失敗することがあるというのは聞いている失敗したから消えたのかは分からなかった。


 この場に留まった方がいいのか、それとも別の場所に移った方がいいのかも分からなかった。


 もう何もかもが分からなかった。


 ぼんやりと光る読めもしない文字の様なものと線を見る。

 あの魔術師はこれを理解できていたのだろうか。


 死に場所位自分で選ぶべきか等と考えていたときだった、あれが飛び込んできたのは。


 魔術師の召喚精霊だと聞いているが見た目はそれほど人と差異がなかったのであまり実感がなかった。


 初めて会ったときも、浮遊しているのものの魔法陣がなければ変な格好をした魔術師としか思わなかったかもしれない。

 


 だから、まるで火の玉みたいに突っ込んでくるのを見て、驚いたのだ。


「ちょっと!そんなところで座り込んでないで早くアタシについてきなさい!」


 勇者様と呼ばれていた。契約しているはずなのにいつも魔術師にはぞんざいな態度をとっていたはずの精霊が鬼気迫る雰囲気で俺たちに怒鳴りつける。


「……魔術師は逃げなかったのか?」


 我ながら嫌味な言い方になった。


 精霊の舌打ちが聞こえた。そんな部分まで人間に似ているのかと場違いな感動を覚えていると「アンタの代わりにに瀕死の重傷よ」と掃き捨てる様に言われる。


 先に反応したのは俺ではなくナタリアだった。

 明らかに発光していてフォルムが違っている精霊をみても微動だにしなかった少女がその言葉を聞いた瞬間立ち上がった。


「あの人はどこですか!」


 それはまるで悲鳴の様に聞こえた。


 じいっと精霊にみられた気がした。


「とっととついてきなさい」


 それだけ言うと、精霊はまた飛び始める。

 慌てて追いかけるがナタリアが遅れがちになっている。


 あの魔術師なら、と一瞬考えてしまったが俺には関係ないことだと打ち消す。


 精霊に案内された場所、魔法陣の中に魔術師はいた。逃げてはいなかったのだ。


 その顔は初めてあった日に倒れていたときよりも青白く、それからあの日と違って真っ赤に見えているのはおびただしい量の血液だった。


「止血は?」

「仕方がないから焼いたわ」


 精霊に人体の知識があるのかは分からない。けれどこの前遺跡で俺がやられたのと同じように、精霊は魔術師の足を焼いて傷口をふさいだらしい。

 傷口というより完全に引きちぎられた跡の様に見える。


 意識を失っているらしい魔術師は目をつむっている。


「当初の目的は果たされたから、ここからは出られるはずよ」


 きちんと診られる人間に見せないとまずいでしょこれ。

 苛立ったように精霊は言う。


「あと……」


 ぜいぜいとナタリアが肩で息をしながら漸く追いついた。

 精霊はナタリアに視線を移してから「そいつ魔力を完全に使い果たしているから供給してあげて」と言った。


「お前の魔力じゃだめなのか」


 ナタリアが方法を知っているかすら怪しい。


「契約上返品できないようになっているのよ」


 精霊は、ナタリアに「さすがにやり方は習っている?」と聞いた。


「……今の私に出来る事は体液を使う方法だけです」


 決意のこもった瞳に見える。


「じゃあやって頂戴。それが終わったらここを離れるわよ」


 精霊に言われナタリアが頷いたときだった。


 魔術師の影が揺らめいた。

 そのまま、影が形を変えて大きくなったり小さくなったりしている。


「言っている事とやっている事が違いすぎるのよ」


 精霊の呟いた言葉の意味は分からなかった。

 影は一瞬今までよりも濃くなってそれから浮き上がった。


「……黒猫?」


 ナタリアが言った通り目の前には1匹の黒猫が座っていた。


「何ぼんやりとみてるのよ。早く運びなさい」


 黒猫が口を開く。

 ひっ、という声がナタリアの喉の奥から聞こえた。


 しゃべるのは妖精や魔族だけだ。と思ったところで魔術師が鳥の形をした妖精を召喚していたことを思い出した。


 これも魔術師が召喚した妖精なのだろうか。


「アンタが運べば良いでしょ、ご主人様なんだから」


 精霊が苛立った調子で黒猫に言う。


「やるわよ。やるに決まってるでしょ!?」


 黒猫が言い返す。


「アレの正体が何か分かっているのか?」


 精霊に聞くと、まあねと返される。


「まず、魔力の補給をしてしまいます!」


 ナタリアが叫ぶように、言い合う一人と一匹を止めるように言った。

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