世界との楔7
「融和主義者なのかも知れないけど、契約の本質は主従よ」
ユナは言い放つ。契約に縛られてるからユナがここにいる事は充分承知している。
「契約の内容が気に入らないなら書き換えるから、今だけ、そのままの契約内容で協力してくれ」
頭を下げるとユナはため息をつく。
「だから、アンタは気持ち悪いのよ」
ポツリとユナは言った。
「……いいわ。手伝ってあげる。
まずはあの力馬鹿魔術師を無力化すればいいのね」
ユナは赤く発光したように見える。
胸に輝く宝石もキラキラと赤く輝いていてとても美しく見えた。
「アルク、ナタリアちょっとあっちを片付けてくる」
俺がそう言うとナタリアは頷く。普通に考えて何か聞きたいのかもしれないけれど、それを表情から判断できるような能力は俺には無い。
「で、あんたらだけ逃げるってわけか?」
アルクが呟くように言う。
嫌味なのだろう。嫌味位言いたい状況だろう。
自分が何のためかもよく分からず生贄にされます、多分。と言われても困る。
「まさか。まさか……だな。そこに試す事ができる最高の実験材料があってわざわざ逃げる事はしないさ」
舌打ちが聞こえた。
それがユナから発せられたものなのか、アルクから発せられたものなのかは、細かく注意していなかったから知らない。
別に知る必要も無い。
「それにこの魔法陣自体を一度起動させるか無効化させなければここからは出られないだろうし、信じようが信じまいが関係ない話だろ。」
ユナさんの方は、どうしても意見が合わずにということであれば契約を解除するしかない。
今すぐは勘弁して欲しいがその後であれば、残念ながら仕方が無い。
その事を分かっているのだろうユナはもう何もいわない。
ただ一言「あれごと焼きはらっていいのよね?」と聞いただけだった。
◆
こういうとき、手早く効率的に他人と分かり合えるスキルがあればと思う。
極端な話、盗聴のリスクが無かったとして念話で話し続けたとしてこっちが片付く前にまともに説明できるとは思わない。
今、という意味だとその部分はまるっとすべて
「イライラしてるのは分かるけど、迷惑よそういうの」
「イライラ?」
「まさか自分で気がついていないの?魔力に混ざってアンタの感情の一部が流れ込んでくるんだけど?」
ばっかじゃないのと言わんばかりにユナがいう。契約者の状態の一部は契約妖精に伝わる。それは常識だ。ただ、その人のオーラの色が分かる程度のものの筈だ。
けれど、ユナがそういうのだから、いつもと状況は違うのだろう。この状況だ。当たり前と言えば当たり前なのだけど、なんとなくバツが悪いような気分になる。
外に戻るとそこではまだ魔術師が光弾を放っていた。
「退避できないようにする。さっきユナさん自身が言ったとおり焼き払ってくれればいい」
「同族殺しは気にしないタイプなの?」
「人間という共通点しかないだろ……。
なら、どうでもいい」
本当はどうでもよくはないのだけれど、どうでもいいということにするしかない。
今はそれでいいし、優先順位で他者の命を脅かすのはそれこそ魔王の軍勢のようだと思った。
「じゃあ、その気持ち悪い薄ら笑い止めなさい」
ユナはそれだけいうと魔法を発動し始めた。
「アンタも早く準備しなさい!それからアレ巻き込んでいいのかしら」
目障りだからあわせて消し炭にするのもいいわねとユナが嗤った。
「妖精は消し炭にしても殺せないのは知ってるだろ」
損傷が激しくなった時点で元いた世界に帰る。ある程度であればそれで怪我はリセットされるらしい。といっても自分自身が妖精達の世界に行ったことがあるわけではないので、あくまでも常識ではという話だ。
だからこそ、鳥の妖精のときに回復をしたのが一般的でないことも、それに憤る魔術師が少数派だということもよく知っている。
「じゃあ、どっちでもいいってことね。魔力の効率を上げるための壁だけ準備なさい」
言われなくとも、と魔術師の周りに壁を作る。魔法陣が浮かび上がる透明な板が光の魔術師の前後左右、それから上に浮かびあがった。
「アンタ、一人がとかいいながらもなんだかんだでオールラウンダーよね。補助系も完璧で腹立つわ」
「妖精ちゃんを守るときに必要だろ」
今の術は要は魔術を透過させない障壁だ。使い方によっては防御でも使える。
「ハイハイ、じゃあいざというときはアタシのこと必ず守りなさい」
ユナがそう言った直後、彼女の魔法が光の魔術師の炸裂した。
その瞬間アマヤがこちらを見た気がした。罪悪感と呼んでいいのだろうか、そんな気分になって慌ててアマヤを彼がいた世界に強制送還した。
そこがアマヤのいるべき世界なのかは分からないがユナの攻撃を受けるよりはマシな選択だと思った。




