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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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世界との楔8

 凄まじい轟音と爆風があたりにこだまする。


「アマヤ、任せていいか?」

「殺してしまっていいのだろ?」


 その言葉に一瞬つまる。けれど悩んでいる余裕はない。


「ああ、そうしてくれ」


 術者不在であれば恐らく魔法陣は発動しない。他の人材を人柱として発動させる状況は考えたく無かった。


 そのまま、そこを放置してアルクの元へと向かった。


 神殿の中は俺が見た通り人はまばらだ。場所を移されていなければアルクの居る場所も分かる。

 ナタリアを担いだままそのまま飛ぶ。


 山歩きはしている物のそれほど筋力がある訳では無い。魔力で飛んでしまったほうがどうしても早いのだ。



「あら、遅かったわね」


 ユナさんの開口一番がそれで、どっと疲れが出たような気がする。


「ユナさん、分かっていたんだろ?」


 恐らくユナはこの魔法陣が何なのか分かっているし、ここが何なのかも分かっている。

 人間の文化や歴史の知識がどのくらいあるのかはすり合わせができていないが何を意味するのかは全部理解しているのだろう。


 それが、この余裕ぶった状況で分かってしまった。


 分かっていてこの人はアルクを見捨てるつもりなのだろう。だから一緒に戦いもせず状況を静観している。

 若干の怪我の跡が見えるアルクとユナを交互に見てそう思った。


「やっと、自分の状況が分かったの?」


 ユナは美しい顔をほころばせる。

 こういう瞬間、妖精ちゃんたちと常識というか価値観がまるで違うという事を思い知らされる。


 ユナはアルクの事を気に入っていた。それは事実だ。

 けれど、それが生贄になろうがどうだろうが知った事ではない。もしくは生贄に対する考え方が違うのか。


「魔法陣。俺に喚ばれたときに見たものと似ているか?」


 ここで価値観のすり合わせが不可能な事は知っている。いい合いをしても仕方が無い。


「……アンタ、アタシのこと馬鹿にしているの?

これが見えて召喚に応じたと本気で聞いているのなら今すぐ契約を解除して欲しいわね」


 自分の術がどのようなものか知らないで行使している馬鹿とは違うはずでしょ?ユナは言う。


「強制力の話なのか、この魔法陣のいびつさの話なのかは知らないが、術の系統は同じだろ」


 向こうに引きずりこむかこちら側に呼び出すか。あちらの世界から見えればこれに近い魔法陣で呼び出されて妖精達はこちらの世界に来ているはずなのだ。


「まさか、この魔法陣の妨害を考えているの?

規模を考えなさいよ。偶然一緒に旅をしているだけの勇者を助ける意味なんて無いでしょ」


 尊い犠牲を払いました。犠牲にショックを受けてしばらく休暇をもらいました。

 自分の当初の目的は確かに達せられる。



 だけど、そんなものが得られて何になるのだろう。


 アルクの事が好きかと訊ねられてもまともに答えられるとは思わない。友人かと問われても同じだ。


 偶然同じ貧乏くじを引かされて、一度軽く戦って、それから一度夜空を共に見ただけの関係だ。

 アルクは俺の事なんか何も知らないし、俺もアルクのことを何も知らない。

 これから先アルクのことを本人の口からこれ以上聞くかも分からないし自分のことをこれ以上話すのかも分からない。


 でも、それでも……。


「なんか、腹立つだろ。

一応方法らしきものの片鱗は分かってるから研究者として試してみたいし、それにおかしいだろ、さすが勇者様みたいなやつは」


 そんなもんは勇者にきちんと心酔できているやつらと心酔されていることに誇りとやらを持っているやつらだけでやればいい。


 少なくとも、俺とアルクには関係ない。


「で、代償はどうするの?召喚魔法は効率による違いがあるにしろ、基本的には代償よ。

アタシのときもアンタの魔力が大量に支払われてるの。今回はそのときの比じゃないわ」


 ユナは払えっこないわよと笑う。


「それは考えがある。」

「じゃあ、表で馬鹿みたいに撃ちあってるやつらをまず何とかすべきね」


 それにしてもよくあんなモノと契約してるわね。やっぱりアンタ気持ち悪い男ね。ユナは言う。


「アレは行きがかり上どうしようも無かっただけだ。

ユナさん。せめてあっちの援護は頼めそうか?」

「あら、終わった後の離脱を頼まれるのかと思ったけれど」

「そっちは最低限として頼むつもりだ」


 ふう。ユナはため息をついた。


「お前らの話、意味が分からないんだが?」


 相変わらず抑揚の無い話し方でアルクが口を開いた。

「今外で俺の……、契約妖精がここの魔術師と戦ってる。

そいつを落としたら、アルク、お前がいけにえになるのを阻止したいと思う」

「やっぱり、生贄って事なんだよな……」


 ニヤリとアルクが笑う。以前遺跡で纏っていた雰囲気と同じように思える。


「アルクは生贄にはならないから、まあ、関係ないだろ」


 思わず、と言うのとは違う。先ほどから腹の中を渦巻いている怒り似た感情からの言葉だった。


「ちょっと、アンタ……」


 ユナが何かを言おうとしているのを制す。

 今言う必要は無い。


「まずは、あの魔術師に邪魔をされないようにする」


 ユナは目を細めてそれから演技がかった口調で「わかったわよ、マイマスター」と言った。


「その呼び方だけは止めてくれ」


 平坦な声が出た。だが、ユナにマスターとは呼ばれたくなかった。


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