世界との楔7
真っ白な街をナタリアを担いで飛ぶ。
位置関係は分かっているし、やらなければならない事はアルクとの合流ただ一つ。
神殿と思われる建物に後少しというところで、やはりというかようやくというか、魔力反応がした。
天高くに感じるそれは酷く大きい見上げると空に点となってその魔術師らしき人はいた。
ここまでの高度を保てる魔術師を俺は初めて見た。自分も近い高さまで好奇心で昇ったことがあるが、息がきつくなって常に風属性の術を起動していないといけないし、何よりも寒い。
妖精ちゃん達ではその環境でも全く問題のないこがいるのでそのこにお願いした方が良いのでそれ以降あまり試してはいなかった。
先日、飛んだ時だってあそこまでは飛ばなかった。
もはや星の世界だろう。
同じ高ささまで昇る余裕はない。
高低差があるとこちらが不利だと充分に分かってはいるが今の状況ではどうしようもない。
魔力を込めて防御魔術を幾重にも貼る。
あれだけの技の使える魔術師だ。攻撃もえげつない事になるだろう。
どこかにナタリアを待避させたいのにそれも叶わない。
全体の状況が分かっていない為、後手後手に回っている。
上空に高濃度の魔力反応を感じる。
「なんですか、あれ……」
ナタリアの声が震えている。
魔術師の自分でも何度かしか見たことが無い。
「っ、光魔法だ!」
完全に防御が足りていない。全てを照らす光の様に、大抵の魔術は透過してしまう。
「しっかり捕まってろ!」
ナタリアに声をかけると左手を差し出した。
光魔法の全てを防げるかは微妙なところだが、それでも直撃だけは避けたい。
的にならない為無秩序に飛びながら魔術を発動する。
体へのダメージは後で考えればいい。別に死ぬほどの事は今のところは無いだろう。
初めて魔術が発動した瞬間はじけ飛んだ器官に熱がこもる気がする。
実際熱位は出ているのだろう。
そこに魔力を逆流させる。
「黄昏と夜のはざまの神よ―――」
詠唱は嫌いだ。だがそんな事は言っていられない。
闇魔法なんていう、選ばれし人間しか使えない魔法を自分が使える筈がない。
使える妖精ちゃんの召喚も間に合わないだろう。
なら類似のもので防ぐしかない。学生時代研究を重ねていたのはラッキーだった。
逆流させた魔力は半ば暴走状態で増幅していた。
これであればしばらくは魔力不足にはならない。
それであれば、こちらも撃ちまくって相殺するしかない。
一瞬でもインターバルがあれば血でもなんでも使って妖精を召喚出来るのだ。
「紅い魔法陣……」
ナタリアが呟く。
暴走状態に近い魔力は紅く発光していた。
「説明は後!舌をかまない様に喋らない」
飛んでいる方向も速度もある程度自分で制御している俺と、ただ担がれているナタリアはタイミングが分からないから舌を噛みかねない。
説明している余裕はないのだから、仕方がない。
そのまま、向こうの攻撃にこちらの術を当てていく。
相殺しきれない魔力が爆風となってあたりを渦巻く。
明らかにこちらを殺す前提で来ているのだろうか。何故、なのかは知らない。
アルクを生贄にするのを阻止しようとしているからだろうか。
けれど、あの魔法陣を発動させるのが上空の魔術師だとしたら多分発動後命は無いだろう。
たとえ光魔法が使えたとしてもどうしようもない。
ユナを召喚するときに魔力切れで俺がぶっ倒れたのと似たような状況になる。しかもそれの規模は何倍も上だろう。
他に、魔力の反応は無い。だから多分あの魔術師も生贄の一人なのだろう。
ひたすら魔術師の攻撃をよけながらよけきれない物にこちらも攻撃をする。
「なあ、不毛だろ」
気が付いたら魔術師に話しかけてしまっていた。
「どうせお前も生贄なんだろ?俺を排除しようが、あの魔法陣を発動すれば……」
魔術師は両手をあげる。
先程より大きな光球が魔術師の頭上に現れる。
ああ、言葉も通じるし、感情もあるのかと妙に安心した。
けれどそれを伝える時間はない。俺は自分の手を口元に寄せると手の肉を噛みちぎる。
ぼたぼたと血が流れ落ちる。
こういう瞬間は不思議とそれほど痛みを感じない気がした。
「闇夜の眷属よ――」
血を対価にして妖精を呼び出す。
けれど、今回呼び出すのはあちらの世界の住人だが、妖精ちゃんと呼んでしまっていいのか少しだけ悩むところだった。
自分の魔力を吸い込むみたいにして黒いモヤが覆う。
「アマヤ、射貫け」
俺が声をかけるとモヤは人の形に像を結ぶ。
俺のものよりももっと真っ黒な漆黒の色をした髪の持ち主は美しい男性型だ。
「久しぶりだな。もう呼ばれないと思っていた」
歌う様に妖精、いや、アマヤが答える。
「もう喚ぶつもりが無いなら封印なりなんなりするさ」
今は雑談をするつもりはない。
魔術師を指差すと「落せ」とだけ命令をする。
妖精との契約には種類がある。使役するための上下関係もその中のカテゴリーの一つだが、こちらを上にする契約は嫌いであまり結んでいない。
その完全にこちらが上であるという契約を行っているのがアマヤだ。
こちらの世界のものとは思えない直線的な服装をしているアマヤは上空を見ると目を細める。
まるで人間だ。
そう考えてしまった自分に舌打ちをする。
当たり前だ。あんは元人間なのだから当たり前だ。
「光に愛されてる魔術師か。
……腹が立つな」
嫌な寒気が一瞬した気がした。
次の瞬間、闇魔法が発動する。
光の魔術師が一瞬たじろいだのが見えた。当たり前だ。光魔法も適正を持ったものは少ないが闇魔法はそれよりも少ないのだ。
闇魔法をけん制するためだろう。槍の様に光魔法が降り注ぐ。防御呪文を頼むのは無理だろう。こちらを守る為に防御呪文を最大展開する。
チラリとこちらを確認したアマヤと目が合う。
けれど直ぐにこちらに興味を無くしたようにアマヤは光魔術師に向かって真っ黒な闇の塊を撃った。




