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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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世界との楔6

 何かを召喚するのに近い魔法陣に見えるが、明らかに違う。

 そんなものが張り巡らされている建物にアルクは居た。


 ユナもすぐ近くに居る。まるで息をひそめる様にユナはじっとしていた。


「勇者様、ようこそおいで下さいました」


 他の人間よりも豪華に見える服を着た男がアルクに話しかける。


「我々を救ってくださる勇者様の来訪を心よりお喜び申し上げます」


 まるで何かのセリフを読んでいるみたいにアルクに話しかけるがアルクは全く反応していない。

 その様子はアルクと初めて会ったときの様だ。


 多分アルクは自分の事を勇者として扱う人間全てを無かったことにしているのだろう。


 いっそのこと世捨て人の様にしていた方がアルクにとって楽なんじゃないかと思ってしまう。


「……俺は何をすれば?」


 それでもアルクは仕方なくといった感じでそれだけ質問をする。


「はい。勇者様には是非世界との楔になっていただきたく」


 相変わらず何かを読み上げている様に言われても意味が分からない。

 アルクも困惑気味だ。



「我々は勇者様の本来の使い方をしたいと思っております」


 ニヤリ。男は笑った。


 その笑みは読みあげている台本の様なセリフと不釣り合いすぎる下卑た物に見えた。


「本来の?」


 アルクは訊ねる。

 多分大多数には神々しいとまで言われる勇者の笑顔を浮かべているんだろうなということがなんとなく分かる様にはなった。

 自分には全くそうは思えないし、相変わらず目が死んでるとしか言いようのない状況ではあるんだけれど。


 しかし、それに呆けた様にならない人間を自分以外では初めて見た。

 けれど興奮気味な話方で男が口を開く。


「はい。尊いお方にあちらに行っていただくことでこちらとあちらの橋渡しになっていただくのです。

そしてかねてより悲願の白の国の再興をはかるのです!」


 まるで演説だった。

 ただし、今までよりは大分マシだ。


 分かったことは二つ。

 やはり、建物全体に張り巡らされているのは召喚術式の一種だ。

 ただし、こちらに何かを呼び出すものとは少し違う。


 男は送るという趣旨で言っていたが、多分違う。少なくとも魔法陣はそうはなっていない。

 何かを呼び出してそれに引きずり込んでもらう。そういった類のものだろう。

 召喚術式の一種だろうということまでは見ればすぐに分かったが、詳細までは分からなかった。

 けれどあちらに行くというヒントさえもらえれば分かる。


 もう一つは、ナタリアの話したお伽噺の源流がここだったという事だ。


 どちらにせよ碌でも無いし、待っていたらアルクは生贄だろう。


 俺は勢いよく立ち上がると、椅子がガタンと転がる。


「どうしました。顔色が悪いですよ?」


 ナタリアに声をかけられる。


 話している時間も無ければ、誰かに聞かれるリスクを取って話せる余裕も無い。


「悪い。何も話せないんだけど協力してくれるか?」


 ナタリアに聞く。

 これは、甘えだろうか。自分より幼い子に言っていい事だとは思えない。

 理由も分からず人間相手にこれから戦うのだ。出会ったばかりで信頼関係も糞も無い。それで戦えと言われて戦えるのは国なりなんなりに対して信頼関係ができているものだけなのに、こんなことを聞いてしまっている。


「人を殺しますか?」

「もし、その必要があれば俺が自分でやる」


 そこまで少女にやらせられる訳が無い。必要があれば自分でやるし、自衛としてアルクも行うだろう。


「それであれば、何も聞きません」


 ナタリアははっきりと言った。


「後で埋め合わせはする。」


 まずはその後で埋め合わせの出来る状況に持って行くことが先決だった。


 ここはどこかは分からないがお伽噺の「白の国」で、そこに迷い込んだのか引き寄せられたのかは知らないが、勇者であるアルクは生贄にされようとしている。


 端的にいうとそういう事だ。


 ユナさんは少なくとも俺に召喚されたことがあるのだ。この術式に察しが付いていて当然なのに動く気配すら見せないのが妙に思える。


 けれど今それを気にしている余裕はない。

 生贄にありがちな禊があるのかさえ分からないのだ。


 ドアを開けると先程とは違う見張り役がいる。そのまま魔力をぶつけて魔力酔いの状態にする。

 ズルりと違らが抜けた様に倒れ込む男をチラリと横目で見た後、外に出る。


 勿論隠匿術は忘れてはいないが、あれだけの魔法陣を起動できる人間がいるのだ。時間の問題だろう。

 誇大妄想で、それなりの魔法使いしか準備できておらず術の維持に失敗するかどうかは分からないけれど、ある程度起動できる人間がいると見るべきなのだろう。

 術に失敗すれば生贄であるアルクもただでは済まない。


 むしろ魔法陣の契約が成立してしまったときより碌でもない結果になるというのが一般的なのだ。


 ナタリアを見る。俺の後をしっかりとついてきては来ては居る。


 この際担いでしまったほうが、どこにいるか確認する手間は省けるかもしれない。

 肉弾戦等というものは魔術師である自分にはどだい不可能なのだ。


「悪い。後で殴ってもらっていいから。」


 耳元で言うとナタリアを担ぐ。


「きゃあっ!」


 叫び声はナタリア自身の手で口をふさぐことで殆ど音にはならなかった。

 この子の、弱いくせにこういったところに気が回るところが少し嫌だった。


 せめて罵倒してくれた方がマシという気持ちはあるが、単純に戦闘という話だけであれば、ナタリアのそれが正しいので何も言えないし、正直言う余裕もない。


 そのまま浮遊術で浮かぶと一気に神殿と思われる建物まで飛ぶ。


 それでもやはり、あの術を発動しようとしている魔術師なり魔法使いなりの気配はしなかった。

 術者自体が居ないということであれば最高なのだけれど、それは多分楽天的すぎるのかもしれない。

 まずはアルクと合流する事を最優先で他の事はそれからだ。

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