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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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世界との楔4

 ナタリアを起こす。手短に事情(といってもほぼ何もわかっていない訳だけれど)を説明して、装備を整えさせる。


 戦闘になった時の事を考えて、また魔力供給ための術を書いておこうかと思ったが止める。

 調べられた時に面倒なことになりかねない。


 それであれば、ナタリアは巻き込まれた一般人を装っていたほうがまだマシという状況は起こりうるのだろうか。


 考えすぎなのだろうか。なんかよくわかんないけど、良くないことがありそうだってだけでそんな事まで考えるべきなんだろうか。


「……戦いになるかもしれないってことですか?」


 ナタリアが聞く。


「分からない」


 ナタリアは黙って弓を俺に差し出す。


「それであれば準備はしていきたいです」


 意思の強い瞳が俺を見上げる。

 その表情には悔しさと申し訳なさが滲んでいて、むしろこちらの方が申し訳ない様な気持ちになる。


 ああ、こんな訳の分からない事に巻き込まれるんじゃなくて海を見せてあげたかった。


 そんな事を考えた所為か、以前魔力を込めたものの事を思い出した。


 懐から取り出したそれは青い光を纏った髪飾りだ。

 綺麗な青色をした髪飾り確認して、その青色を諦める。


 込められるだけの魔力とそれから隠匿の術、後は持ち主を守護するためのしゅをありったけかける。


「あの、何を?」

「この前のアレの代わりに別の方法で魔力を供給するから」


 術をかけ終わった髪飾りはまるで夜を塗りつぶした様な色に変わってしまっていた。

 


「急いだ方がいい」


 アルクに抑揚の無い声で言われて、慌ててナタリアに髪飾りを渡す。


「身につけてさえいれば大丈夫だから」


 細かい説明をしている時間は無い。

 降りられそうな広場には真っ白な服を纏った人間が大勢出てきてこちらを見上げていた。


「……とても綺麗」


 この状況には不釣り合いな気はしたけれど、ナタリアのその言葉に少しだけ気持ちが軽くなったことは事実だった。


 ナタリアは、その髪飾りをそっと耳の上につけていた。



 ああ、やっぱり青い方が似合う。

 本当はそんな事を考えているべきでは無いのにどうしても思ってしまう。


 先程までの嵐が嘘だったみたいに街の中心部の広場は穏やかだ。

 白い神殿は太陽の穏やかな光に反射してぼんやりと光っている様にさえ見える。


 ちらりとアルクを見ると頷かれる。


 溜息をついてから妖精ちゃんと共にその広場に降りた。


 広場にはまずアルク、それからアルクに助けられてナタリアが降りる。最後に俺が籠を乗り越えたところで妖精ちゃんを元居た世界に還した。


「これはこれは勇者様。遠路はるばるお越しくださって我々一同感謝いております」


 恰幅のいい男性が歩み出てアルクに向かって頭を垂れる。


 全員同じ真っ白な服を着ていて、どこか貼り付けた様な笑みを浮かべ俺達を取り囲んでいる。

 この街はどこもかしこも白い。


「済みません。ここは何ていう街ですか?」


 俺が聞くと何人かがこちらに顔を向ける。けれどまるで俺なんか見えないと言ったように直ぐに顔をアルクの方にそらす。


 魔術を学んでいた時にしろ、その後にしろ、無視されること位何度もあったが、ここまで露骨なのは初めてで思わず乾いた笑いが出る。


「それでは勇者様。神官がお待ちですのでこちらへ」


 男がアルクを案内しようとする。

 そろいの服の住人に地図の無い街。十中八九何かの術か国から独立している宗教都市かだ。


 神官が権力を持っているらしい状況から言って後者なのだろうか。俺とナタリアが付いて行こうとすると長い棒を持っている住人に立ちふさがれてしまう。


「アルク。ちょっと待てよ」


 アルクが振り向く。状況を確認したアルクが歩みを止めるが恰幅の良い男は「ささ、勇者様こちらですよ。」と俺達には全く興味はなさそうだ。


「……お前たちはこっちだ」


 棒を持った男がそれだけ言うと、棒を俺の首元に持ってくる。


 ここで攻撃したら面倒なことになるだろう。

 アルクは人を殺したことがあるのだろうか。


 少なくともナタリアには無いだろう。魔王を倒すということで、竜なりなんなりを殺す事に躊躇は無くてもやはり人相手だと勝手が違う。

 ここの街がなんだかわからない状態で戦闘に入ることのリスクを考えるとどうしても躊躇してしまった。


「あの二人は、俺の仲間だ。丁重に扱っていただけませんか?」


 微笑み、といっても口角が少し動いただけに俺には見えるが、を浮かべたアルクが男に言うと「勿論です勇者様。あの二人には先に宿屋で休んでもらうだけですよ」と答えていた。


 宿屋に案内する態度では無いので、ほぼ間違いなく嘘ではあるがアルクが剣に手さえ置かない状況でこちらが攻撃を開始してしまう訳にはいかないだろう。


「とりあえず別行動だな。俺とナタリアは待ってるから」


 声をかけたのは正確にはアルクでは無い。今は姿を見せていないもう一人に向けて言った言葉だ。

 多分ユナは俺の言葉の意味を正確に理解してくれるだろう。


 事実、俺と繋がっているためわかるユナの位置はアルクと共にあるのだ。


 広場から神殿と思われる建物は直ぐだ。恐らくあそこに神官だかはいるのだろう。


「おい、こっちだ」


 半ば強引に連れてこられたのは、街の外れのさびれた建物だった。


「さすがの俺にも、これが宿屋じゃない事位分かるな」


 ナタリアは何も言わない。

 ただ、のろのろと俺の後をついてきているだけだ。


「アンタらには、儀式が終わるまでここにいてもらう」


 俺達を連れてきた男はそれだけ言うと、俺が何を聞いても何も答えはしなかった。

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