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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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遺跡再び4

 俺が言ったのを合図に、既にほころび始めている部分に蛇が突っ込んでいく。

 あちらが妖精ちゃんの本体であることは知っている。


「なに、あんな小物とも契約してるの?」


 ユナに話しかけられ、別に小物じゃないだろと答えると「多分あれ、アンタからの魔力供給と今回みたいな件だけで生きてるわよ」と言われる。


「んー、じゃあ、もっと魔力なりなんなり供給しといたほうがいいってことかなあ」


 のんびりと答えるとユナは目を細めた。


「まあ、その辺はアタシは関係の無い事だから。それよりその解除術失敗しないでよ」

「当たり前だろ」


 分断も各所の術の発動も上手くいっている。この調子なら直ぐに遺跡は本来の姿を見せる筈だった。


 ピシリ、ピシリと何かが裂ける様な音がする。


「ちょっ!?これトラップじゃないの!?」


 器用に自分だけ防御をしながらユナが言う。


「分かってる!根本的に解除に失敗してるんじゃないからどうにかするから少し待て」


 こちらが食いつくそうとしているのに一部が最後の抵抗で逆に魔力を食おうとしているだけだからそこを潰せば終わる。

 しかし、一瞬魔力の均衡が崩れて天井の一部が崩れ落ちる。


 その部分は物理的に破壊してしまうしかない。


 左手を振り上げたところで


「不要だ」


というアルクの声がする。

 正に一刀両断だった。いや、その言い方は正しくは無いのかもしれない。一太刀で落ちて来たガレキは粉砕されてしまったのだ。

 真っ二つでは無いから正しくない。そんな事をつい考えてしまった。


「こっちは気にするな。とっとと終わらせろ」


 相変わらず表情からからは感情というものをくみ取ることはできないし、淡々と言われるがそれほど気にならなかった。


「分かった。とっととこの遺跡の本当の姿を見てしまおう」


 右手にさらに魔力を込める。再び蝶と光の粒が放たれる。


――ぱしゃん


 魔力がつきて術が崩壊する瞬間はシャボン玉が割れる瞬間に似ている。


 一気に崩れ落ち始める遺跡を見て妖精ちゃんに「食らい尽くせ」と命じた。


 視界が一気に明るくなって思わず目を細めた。


* * *


 視界に見えたのは一人の少女の像だった。

 先ほどまでとは雰囲気ががらりと変わって明るく光が差している神殿の奥にその像はあった。


「剣に変化はあるか?」

「いや……」


 アルクが鞘から抜くが変化はない。

 相変わらず刻まれた文字もそのままだ。


「変わる訳ないじゃないの、術の反応の無いものなのに」


 ユナがふわりと浮かびあがりながら言う。

 天井が高い。美しいレリーフが柱を彩っているが描かれている花は今の植生とさほど変わらない様に見えた。


 ユナが浮かび上がったまま少女の石像を見下ろす。

 像はここから見る分にはごく普通の髪の長い少女に見えた。


 当時の王族なのか、それとも選ばれた神子様なのかまでは分からないが単なる飾りにしか見えない。


「これは、ハズレか?」


 適当に時間を稼ぐためのそれなりの成果が欲しかったのだが空振りかもしれない。


「あの……」


 ナタリアがおずおずと口を開く。


「この小さな溝、いつも貴方が使う魔法陣の形に似ているんですけど、これはっ。あの、ごく普通の何かだったらごめんなさい」


 それだけ言うと俯いてしまった。下を見るとナタリアの言う通り溝が線になっている。魔術的な仕掛けが全く無い単なる溝であるし小指の爪程しかない深さで気が付かなかった。


 意味がある術でもない術でもできれば今までに発見されていない物であれば報告書は書ける。

 できれば、それなりに遺跡探索に意味があるものだったと思えるものであればそれに越したことは無いのだが、その辺はもはや運だ。


 水系の魔術を発動して色水を作って流し込むと半径6ヤード程の魔法陣が浮かび上がる。


「これ、いつもユナさんが使ってる魔法の系列だな」


 俺が言うとユナは「そうね」と答えた。妖精が使う魔法はこちらのものと少し系列が違う。

 発動できない訳ではないが人間が使うには効率が悪いものが多かった。


「なあ、これは呪いの類か?」


 先程まで魔力を処理していた妖精ちゃんに聞く。


「いや。知らない術だが呪いではなさそうだ」

「そうか。ありがとう」

「じゃあ、俺はこの辺でいいか?あまりにも眩しくてここは過ごしづらくて」

「ああ」


 帰還用の術を発動すると頭を下げて妖精ちゃんは元の世界に返っていく。


「呪いじゃないっていうし、さっきのユナの話からこれも封印術式じゃない。

とりあえず発動させてみるか」


 というか発動させたくてたまらない。

 見たことの無い魔法陣を調査できるなんて最高じゃないか!


「アンタ魔法との相性最悪でしょ?アタシがやる?」


 ユナに言われて少し悩む。自分で発動してみたい気も、発動の様子を外側から詳しく観察したい気持ちも正直あった。


「うーん、そうだな。ユナさん頼めるか?」


 この場所に対する特化型の陣であれば外から状況を見た方がいいし、そうでなければ後でいくらでも術を発火する体験位できるだろう。


 ユナはふわりと微笑んで魔法陣に向かって手をかざした。


 彼女が自分に向かって微笑んだ訳では無い事は知っている。だから笑い返したりはしない。


 魔法が発動する。


 浮かび上がったのは少女の姿だった。

 像とよく似た少女が魔法陣の中央に浮かび上がる。


 半分透けていることでその少女がここにいないことが分かる。

 髪の毛は淡いグリーンなものの、妖精らしい特徴も無いのでおそらくあれは人間だろう。

 神に仕える人間が普通の人間と違う容姿をしていることは今でもよくある。



「なによこれ」


 ユナが訝し気に言う。こちらとしても拍子抜けしているのだ。何か発見出来て時間稼ぎができると思ったら出てきたのはどこかの少女で頭を抱えたくなる。


 大方王族か何かが記録用に残したものなのだろう。

 勿論、文化なりなんなりを調べたい人間にとっては大変貴重な物なのだろうけれど、新しい発見があったところで魔王討伐の任を免除されるなんてあり得なかった。


 少女の口がせわしなく動いている。歌を唄っているというより何かを話しているようだが音は聞こえてこない。


「これはハズレだな」


 アルクが言う。


「とりあえず遺跡の呪いを解きましたと国に報告ってところだな」


 ぼんやりと少女を眺めながら言う。

 すると少女に違和感がある。先程から数秒で同じ動きをする様に変わってしまっているのだ。


「魔法陣自体が壊れていたか?」


 俺が言うとユナは「それならそもそも発動すらしないわよ。魔力の流れはきちんとしているわよ。」


 それであればこれは意図したものか。

 少女が何を言おうとしているのか目を凝らす。


 単語だったので読唇術なんて大仰なものが使えなくてもすぐに分かった。


「私を切って欲しい」


 少女はそう言っていた。いや、可笑しいのだ。遺跡に残された魔法や魔術の痕跡はかなり古い。そんな今普通に聞ける言葉で当時の人間が話している筈がないのだ。

 けれど少女は確かにそう言っていた。

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