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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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遺跡再び3

 薄暗い空間で蝶がぼんやりと光りながらひらひらと舞う。

 障害は無かったわけではないが物量で押し切った。


 蝶達から送られてくる状況と蝶が落とされた位置を確認していく。頭の中でだけ思い描くのは無理なので蝶を生み出した光帯を展開して、簡易見取り図としてマークを入れていく。


 現れたのは環状の流れだった。


「魔法陣かこれは……」


 思わず声に出して言う。何かを出現させるための物なのか、それとも何かを封印している物なのか。

 特に後者だった場合、破壊すれば中から魔物がどーんなんて事になると面倒だ。


 しかし、もし封印の為だったとしたら前回のアルクの状態にする理由は何だ。

 封印に近づけない。若しくは、封印を強固にするためなら分かる。


 それだったのだろうか。


「これ、封印術式だと思うか?」


 答えてくれるだろうか。ユナに向かって簡易見取り図を見せる。


「アンタは何だと思ってるのよ」


 ユナは興味深げに俺の顔を見る。


「一般的には、召喚陣か封印術式か、魔力の効率の為の増幅装置ってところだろうな」


 召喚陣を壊したら後で使えばよかったと後悔する日が来るかもしれないが、データを取ってあるのだ。似たものは作れるからどうでもいい。

 理屈さえ分かっていれば別で準備できる。


 増幅装置であれば、壊すべきだろう。アルクを巻き込んでやりたいことが術の維持のだったのかは分からないがまあ、筋は通るだろう。


 面倒なのが今も頭を悩ませた封印術式だった場合だ。


 自分が知ってるどの魔法陣の系統とも違う古いもので検討が付かない。

 だが、環状なのだ。環状である意味を持つ術式でこれだけの規模の物はこの辺りの可能性が高い。


 それ以外だと……。


「まやかしを見せるため物かしら」


 ユナの答えは今まさに俺が考えたもので、環状という事を無視すれば本命だろう指摘だった。


「この魔法陣を知っているのか?」

「私が使う魔法とは系統が違うから分かんないわよ」


 知っていての指摘では無い。それであれば、確認してからでなければ危なくてしょうがない。


「ちなみにどこをみて幻術だと判断した?」

「うーん。まずこの壁が偽物って事かしら」


 ユナの返事に頭を抱えたくなった。


「これは単なる魔法物質で作られているってだけで、偽物じゃないだろ」

「魔法物質が何かよく分かんないけど、魔法副産物で作られて術として構成されている建物とは別物の何かでしょ?」


 ユナは何を言ってるの?と言わんばかりだ。

 こちらこそ何を言ってるんだ?だけれど、口にはしない。ほぼ間違いなくここまで生きて来た文化が違うのだからどうしようもない。


「妖精の世界はこんな感じじゃないのか?」

「はあ!?……まあ、下級の妖精たちはそういう暮らししてるのもいるかもしれないけど、少なくとも私達精霊はそんな大量生産品に囲まれてないわよ」


 大量生産品という言葉にユナたちの住む世界に元々ある魔力量を知る。

 少なくともこの遺跡に使われているこれら今の人間に簡単に作り出せるものじゃない。


「じゃあ、まやかしっていうのは」

「ここ、元々別のものがあった筈よ」


 ユナはニコリと笑って言う。


「それを多分隠してるの」

「それは、この魔法陣からの推察か?それともあの剣からか?」

「両方って言いたいところだけど、魔法陣よ」


 この部分と魔法陣をかたどった上の部分を指差す。


「これは、闇に紛れる月の紋章だから、私が使っている魔法の幻術の物に系統が近いの」

「少なくとも封印術式では無いってことだな」


 俺が聞くと「さすがに、何かが封印されててそれと闘おうって程ばかじゃないわよ」と鼻で笑われた。


「ちょっと待て、今いるここは石造りの神殿じゃないのか?」

「ああ、この前みたいに完全に幻術に飲みこまれちゃいないが、少なくとも石造りじゃない」


 何が出てくるのか。知りたい気持ちの方が大きい。

 何かがあったら俺がナタリア、ユナがアルクを抱えて全力離脱できるだろう。


「ユナ。……信じるからな」


 魔術を発動させこの場所全体に流れる魔力を切断。術の解除を始める。


「おい、大丈夫なのか?」

「少なくとも術の解除自体はどうとでもなる筈だ」


 明らかに説明不足なのにアルクは一度溜息をつくと、「何かあったら、即離脱だ」とだけ言った。


「あの、何かお手伝いできることは」


 ナタリアに話しかけられる。


「分をわきまえるべきだろう。多分お前今何がおきてるのかさえよく分かって無いだろ」


 俺が答える前にアルクがそう言う。ナタリアがヒュッと息を飲む音が聞こえた。


「魔術を学びたいのならちゃんと見ていて。俺の術は現在の主流派とは少し違うけど、それでもきっと役に立つはずだから。それは魔法でも同じことだから」


 他者の術が見れるというのは絶好のチャンスだ。だから、今は何がおきているのか分からなくてもいつかきっと意味がある。


「……はい」


 声は堅かったけれど、ナタリアはそれでもはっきりと返事をした。


 勇者様のお言葉を邪魔してはいけなかったのかもしれない。だけど、さすが勇者様です!という雰囲気では無かった様に思える。

 といっても、その辺の細かい機微は自分にはよく分からないのだけれど。


 術の発動は問題なく進んでいて蝶が一匹一匹崩れ落ちていく。

 崩れ落ちた俺の魔力の残渣が遺跡全体を巡る魔力をカットしていく。


 切れた箇所に魔法陣を発現させてこの遺跡を形作っている術を崩壊させる。


 グラグラと地震の様に建物全体が揺れている様に見える。


 集中を切らすと形作ったままの天井や壁が落ちてきかねない。魔力量調整をして確実に術全てを消滅させる。


 自分から放出されている魔力ではためくローブが邪魔に思えた。


 手を伸ばして、残った数少ない蝶の動きを制御する。

 手の周りの光帯はもはや肘まで覆っている。


「ちなみに、術を破壊して、この場に残ってる魔力はどうするつもり?」


 ユナに聞かれ、左手を持ちあげる。


「妖精ちゃんに食べさせる予定だ」

「ちょっとアタシじゃないでしょうね?」

「まさか……。そういうの嫌いだろう?」


 俺が答えると「アンタの古代魔法に対する適当さよりマシよ。ほとんど力技で抑え込んでるじゃない……」とユナが言った。


 まあ、魔法には好かれていないので効率を重視した対応は取れない。

 だけど現状充分制御出来てるんだからそれでいいだろうに。


 左手に魔力を少しだけ配分して契約している妖精を召喚した。


 目の前に召喚用の青い陣が浮かびあがり、ガリガリに痩せた子供に見える男とそれから彼に絡みつく蛇に似た生き物が呼ばれた。


「やあ、久しぶり」


 俺が声をかけるが返事は無い。ただ、ぺこりと頭を下げた妖精ちゃんにニコリと笑いかける。

 笑いかけたつもりでしかないのだが妖精ちゃんは「今日のご用は、呪いですか? それとも悪食ですか?」とだけ答えた。


 名前も知らないこの妖精ちゃんは以前縁があって契約をした。無理やり名前を聞き出す事もできなくはないのだが、言いたく無いものをわざわざ聞き出すのも面倒だからそのままだ。


「今日は、君に食べて欲しいものがあって」


 崩れかけた遺跡をぐるりと見渡し、妖精ちゃんは「これ全部おれが食べていいんですか?」と聞いた。


「勿論。それが君の仕事だから」


 俺が言うと妖精ちゃんの瞳孔が四角く広がる。


「それはありがとうございます。」


 シュルシュルと蛇が男の周りをうねっている。


「じゃあ、お願いします」

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