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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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遺跡再び2

* * *


 遺跡の内部は前と同じ様に見える。

 これでずかずか入ってしまうと今度は誰が術にかかるか分からない。


「魔術の痕跡が見えるか?」


 ユナに聞くと「すごい糸の数ね」と言って笑った。

 糸と言うのは残されているトラップの魔術の流れの事だろう。


 人間に比べ妖精は魔術的なものを見る力が強い。

 そのユナが言っているのだから信用していいだろう。


 可視化して取り払うか、たどるか。


「太いやつはあるか?」

「そうねえ」


 ユナはきょろきょろと内部を見渡した後、左奥の壁を指差した。


「多分これが本命よ」


 ユナに言われるが今の状況だとそこまでこちらでは分からない。


「視界の共有は」

「お断りに決まってるでしょ!」


 契約をしている妖精の視界を間借りする方法は色々ある。

 偵察を妖精に行わせて、その視界を術者が覗き見て状況を確認するのは常套手段だ。


 だから、と持ち掛けた提案は一瞬でユナに却下される。


「それじゃあ、正攻法で魔術で可視化させよう」


 ここにいる全員が見えれば術に引っかかる人間もいないであろう。


 自分の魔力を細かな粒子にして放つ。同じ魔力に反応してユナ曰くの糸の周りに膜の様にして停滞させる。

 それを発光させればどこを術が通っているのか一目瞭然だった。


「おい、これが全部誰かが作った術の痕跡ってことか」


 もはや川の様に遺跡の床や壁を這う線を見て溜息を付くアルクは、これどこ歩けばいいんだよとぼやいた。


「さてと」


 ここは魔術師の仕事だろう。

 線を切ってしまう事によって発動する術もあるはずなので一気に破壊する訳にはいかない。


 術の全容を掴んで一つ一つ潰していくしかない。


「どうするつもりだ?」

「術を一つ一つ解析するつもりだけど」

「この量をか?」

「ああ。すごい量だよな、最高に楽しみだ」

「はあっ……、いやお前はそういうやつだった。存分にやれよ」


 アルクに言われる。言われなくてもそうするつもりだ。


「これ、一旦私達は戻った方がいいですか?」


 ナタリアが言うが、そこまで時間はかからない筈だ。


「いや、直ぐに終わる筈だから」


 右手を自分の胸の前に差し出して術を生成する。

 妖精ちゃん達を調査に投入して危険を冒すより術自体で探索してしまったほうがいいだろう。


 人差し指から光がポツリ、ポツリと浮かび上がって形を変えていく。


「蝶……」


 ナタリアが溜息に似た声を上げた。

 魔術は俺の手から蝶の形で飛び立っていく。


 金属の縁取りに硝子の羽。見た目にはそれが近いだろう。

 形こそ蝶に似ているが別物ではある。色とりどりの蝶が遺跡の中を俺がマークした魔力をたよりに飛んでいく。


「全部の蝶の動きを補足してるの、アンタ」


 ユナに言われそちらを向く。その間にも手から蝶はひらりひらりと舞い上がる。


「まあある程度は」


 駄目でもこちらへの影響を最小に抑える用糸を覆う様にして朽ち果てる様に制御されている。

 蝶は俺と繋がっていてそこら中へ張り巡らされた術の情報を送ってくる。


 ある程度集まれば遺跡にかけられた術を解除するなり、破壊してしまうなり出来る様になるだろう。


「アンタ、本当に気持ち悪いわね」


 初めて会ったときと似たことをユナが口にする。


「ある程度、魔術器具に代用させたり、妖精に管理させたりはできそうな技術だとは思うけど、実用化出来たって話は聞かないしなあ」

「……そうじゃないわよ」


 ユナがこめかみを押さえたのが見えた。その話でなければ相変わらず俺自身が気持ち悪いという事だろう。特に返事のしようが無かった。


右手の周りをクロスするように光帯が浮かんでいる。

 そこから蝶が飛び立っていく。


 妖精は好きだが、術の副産物としてまるで生き物の様に存在する無機物も好きだ。

 ふわりふわりと飛んでいく蝶を見送る。


 どのくらい飛び立っただろうか辺りを見回しても蝶だらけだ。


 ナタリアが周りを見渡している。

 その髪の毛に一匹の蝶が止まる。


 真っ青な色をした蝶は羽を休める様にとまっている。生き物ではないのだ。休憩はいらない。

 ただ役目をはたして朽ちていくだけの存在の筈の蝶が制御を外れている。


 自分の能力不足について考えなくてはいけない状況なのに、やっぱり青が似合うなんて関係無い事を考えてしまう。


「これ、触れてもだいじょうぶですか?」


 ナタリアがおずおずという感じで聞く。

 人に害がある様には作っていない。


 それに探索の列から外れてしまった蝶だ。もう一度制御下におくのは新たに作り出すより面倒だ。


「別に構わないけど、特に何があるって訳じゃないよ」


 見た目が蝶だが生きてもおらず触って役に立つ訳では無い。

 ナタリアは俺の言葉を聞くと困った様に笑って首を振った。


「ただ綺麗だから触れたいと思ったんですが、済みません」


 何故か謝られてしまって、どうしたらいいのか分からなくなる。

 綺麗なものに触れたいという気持ちになったことは無い。


 興味のあるものを調べつくしたいという気持ちになることはあっても、美しいものは遠くから眺めていれば充分だった。


 それにむしろ、美しいのは……。そこまで考えてそれ以上考えるのを止めた。


 術に集中したほうが色々な意味で有益になりそうだった。



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