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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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遺跡再び1

 遺跡から少し離れたところに野営用のテントを張る。

 ナタリアが自分の村でやっていたという、木の棒に布を何枚かかけたやつだ。


 目の前にまだ小さく見える遺跡に目を凝らす。

 結界は見えないし、ここの場所で既に遺跡の魔術の勢力範囲かは調査してあるからあり得ないだろう。


 完全にあの遺跡に対して何らかの術がかけられているという事だろう。

 地面に転移魔法陣を書いて念のため偽装しておく。


「今回は私も行こうかしら」


 ユナが笑顔を浮かべて言う。


「何か気になることでも?」

「さあ」


 アンタたち二人じゃ心もとないし。どうせまた怪我するのがオチでしょ。ユナはふわりと浮かびあがって遺跡を見下ろしている。


「あ、あの。私もっ……」


 ナタリアが声を上げる。

 ユナは止めても付いてくるだろう。それであればナタリアを一人にするのは良くない。


「そうだな、一緒にくるか?」

「はい!」


 そう答えたナタリアに、小さな袋を手渡す。

 渡されたナタリアは不思議そうな顔をして袋を開けた。


「種……、ですか?」

「ああ。葛ってつる植物の種だ」


 雑貨屋には置いて無くて薬屋で購入した。根では無く種を買い求める人間は珍しいと薬屋は言っていたのでこの辺ではあまり育てていないのだろう。

 繁殖してしまうとそれはそれで面倒だが、魔力で育てた植物は魔力で枯らせる事も可能だ。


「良く育つし切られてもそれでも繁殖できる。

ナタリアが魔法を使う時核にするといい。」


 防御のための壁なり、俺なりアルクなりがおかしくなった時に足に絡めて動きを遅くするなり使い道は多いだろう。

 ユナに関してはどうしようも無いがそこは俺の意識がしっかりしていれば一旦返す事も出来るので数には入れない。まあ、一旦返してしまって再び呼べるのかは正直分からないのだが。


「何よこれ。女の子にあげるなら魔術師のロッドとかもうちょっと可愛いものもあるでしょうに」


 呆れた口調でユナに言われるが、ナタリアの魔法と杖は相性がいい様には思えない。

 一瞬髪飾りの事が頭をよぎったがすぐに打ち消した。


「いえ、とても嬉しいです。」


 ナタリアがニコリと笑顔を浮かべた。その表情を見て、髪飾りを渡せばよかったと思った。

 今更これもなんて言えそうにないのだから、思ったところで無駄ではあるのだけれど。


「歌いながら魔力を込めるんだけど……。やってみた方が早いな。

手触っていいか?」

「はい」


 ナタリアの手を取るとその上に先程の種を一粒乗せる。

 俺ができるのは魔術だけだから似たような効果のある術を発動させた。


「ここまではナタリアの場合、歌でここまでは持っていけるから、ここからだ。」


 自分の魔力を腕を通して指先に送る。

 魔法が使える様になったナタリアもある程度は感知出来ている筈だ。けれど、いきなり同じ様にやるというのは難しい。

 そのままナタリアの手に魔力を流し込む。


 それから彼女の元ある魔力を少し引っ張ってやる。

 ナタリアの手のひらで魔力を渦を巻く様に混ぜる。


「放出と停滞のバランスなんだけど、分かるか?」


 ナタリアに聞くと、自分の手のひらと俺の顔をみてそれから頷いた。

 種が芽をだしそのまま蔓伸ばす。


「蔓に指向性を持たせるにはこんな感じだ」


 魔力の流れを少しいじって外側に向ける。するとそちらの方向に蔓が伸びる。

 要は栄養のある方に伸びていくという事だ。


「手を離すから後は自分で調整して」

「はい……」


 ナタリアは手のひらに集中している様でもうこちらは見ない。

 蔓は先ほどまでと比べ、暴れる様にうねっている。


 魔力の制御は魔法にしろ魔術にしろ基礎の基礎だ。ナタリアには絶対的に経験が足りないのだからどうしようも無い部分もあるが、とりあえず今できることをやってもらうしかない。

 完璧には魔力がコントロールできていない為、根が手に食いこもうとしている筈なのにナタリアは悲鳴一つ上げない。


 ただひたすら、先程の感覚と同じになる様に。ナタリアの意思とは裏腹に蔓はあちこちに蛇行している。ナタリアが息を詰める。

 それでもナタリアはやめようとしない。


「とりあえずその位にしといた方が良いよ。本番で魔力切れとか洒落にならないし」

「っ……。でもっ!」

「要は使い方だ。指向性が持てなくてもこれだけ蛇行できれば壁が作れる。それは相手の動きを充分制限できるだろう」


 しかも本番は俺の魔術じゃなくて、ナタリアの魔法でだ。場が魔法で満たされるということの意味をナタリアはまだよく理解できていない。


「少しずつ練習していけばいい」

「……はい」


小さな声でナタリアが返事をした。


多分きっと、こういう時に仲間をフォローするような言い方っていうものがあるとは思うのだけれど、今何を言ったら正解なのかは分からなかった。

 これ以上何かを伝えようとしても、多分もっと碌でもない事しか言えないし、俺に何かを言われても逆に困ってしまうだろう。


「ねえ、先に聞いて起きたんだけど、いざって時にこれを破壊しちゃうっていうのはアリなのナシなの?」


 ユナは遺跡を軽く指さして言った。


「まあ、できれば避けたいけど、仕方が無いだろうなあ」


 勿体ない事はあまりしたく無い。魔術なり魔法なりの解析技術が将来上がった時に別の発見があるかもしれないものを破壊してしまうのは気が引ける。けれど、それは余裕があればという話だろう。

 差し迫った危険があれば、致し方ないとしか言いようがない。


「ふうん」


 ユナが面白そうに笑った。


「何か含むところでも?」

「いいえ。後悔するわよみたいなこと言うつもりはないわ」

「じゃあ、なんだよ」

「魔法の痕跡のあるものを下手すると人間より大切にしそうに見えたってだけよ」


 まさか。思わず声が漏れた。さすがにそこまでじゃないし、犠牲にするとしても自分だけだろう。

 他人の人生に責任なんて持てない。


 そう考えたところで、アルクが何故ナタリアなのかと言っていた事を思い出してしまった。


 これを考え始めると碌なことにはならない。


「さて攻略しますか!」


 慌てて、気持ちを切り替える様に声をかけた。


 自分の腰位まで伸びた草をかきわけて遺跡に向かう。とげがある植物が妙に多く、引っかかって先に進みずらい。

 そもそも前回こんな感じだった記憶が無いので既にその時にはある程度術にかかってしまっていたのだろうと気付く。


 飛んでしまったほうが早い気もするが、俺一人じゃないのでそれはそれで面倒だった。


 幸い今回はかなり念入りに確認しつつなので別の幻影を見ている事もないだろう。


 分け入った先にあったのは記憶にある通りの巨大な建造物だ。


「思ったより背が高いですね」


 ナタリアが遺跡を見上げながら言う。


「今こんなもん建ってたら、いい魔術の的だろうな」


 防御壁を魔術師が張っても追いつかず一気に崩されそうなくらいいい的だ。



「でも、昔から魔法も魔術もありますよね?」


 世界が始まった時、神様からもらったものですよね。とナタリアに言われたがそこまで昔に何があったかは分からない。


「魔法戦がそこまで研究されてなかったか、逆に魔法が発達していたから守り手さえいれば問題なかったかってところだろうな」


 昔の事は分かっていないし明らかに今と魔術の体系が違っているため根本的に何かが違ったのだろう。


「効果的に守る方法が見つかれば」

「まあ、それの研究と称してしばらく旅は休憩できるだろうな」


 見つかればの話ではある。

 今の魔術体系に並々ならぬこだわりを見せている各国の宮廷魔術師たちはこんな古い遺跡の調査はしない。だからこそ新たな発見がある可能性は充分にあるのだが、それが魔王討伐から離れられる類のものなのかまでは分からない。


「おい、入るぞ」


 アルクに声をかけられて慌てて返事をする。


「やっぱり、勇者様はすごいですね」


 ナタリアに話しかけられて、微妙な気持ちになる。

 微妙って何だよと言われると答えられないけれど、兎に角微妙な気持ちだ。


 面倒そうに話すアルクのどこがすごいのかはよく分からなかった。

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