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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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酒も煙草もやらないって何が楽しみなのかと言われましても2

「じゃあ、何が目的なんだ」

「自分の歩けなかった幸せな道を、同じような境遇の人間が歩いているところを見てみたいだけなのかもしれないな。

正直自分でもよく分からないからなあ」


 勇者として生きるしかないらしいアルクを巻き込んでしまったことは素直に申し訳ないが、理由と言われても自分自身よく分からないのだ。


「で、勇者サマであるアルクは何で俺に付き合ってくれているんだ?」


 人々に対して恩義がある訳でも国に忠誠を誓ったわけでもなくただ厄介払いをされたアルクがわざわざ俺に付き合ってる理由こそ俺には分からない。

 適当に理由をつけて一人で行動すれば良かったのだ。言い訳など後からいくらでもできる。


 実際、各国所領からどれだけのパーティが魔王討伐に出発しているのか、その中で魔王なりその直属の部下なりを倒したものの話は全く聞かない。

 誰も碌な成果を上げないままここまできてしまっているのだ。


 であれば、うちも大した成果を上げなくてもそれっぽいポーズをしているだけで充分だろう。

 厄介者として追い払われた人間が自分の身を粉にして献身すると思ったら大間違いだ。


「そもそも、何かをする事自体もう面倒だからかもな」

「へえ」


 アルクはようやく食事に口を付け始める。


「例えば、勇者でい続ける方法なり、逆に勇者を後腐れなく辞める方法を見つけるつもりは無いのか?」

「もし、そんな方法があるなら、そうだな」


 ぼんやりと街灯りを眺めながらアルクが言う。


「勇者なんて馬鹿みたいな区分けの無い世界があったらって時々思うよ」


 それっきりアルクはもう何も言わず、ただひたすら口に食事を運ぶだけだった。


「じゃあ、それが目標かなあ」


 口に出してから、そんな具体策もなにも無い話を持ちかけるなんて馬鹿だという事に気が付く。

 せめて、アルクが勇者のままでい続ける方法の方がマシだったのかもしれない。そもそも、アルクが勇者でありつづけたいと思っているかもよく分からないのだけど。

 現状であれば、また勇者の力を失う事は避けた方が良い。そんな事は分かり切っている。


 でも、勇者であることがアルクにとって誇れることになっていない様に思えた。


「魔王退治もしないで、勇者を円滑に辞める方法探しか?」


 ふっと息を吐く様にアルクは笑った。

 それは、俺が初めて見たアルクのまともな笑い顔だった。


「まあ、魔王暗殺よりは大概の事はマシだろうよ」


 倒せなくても地獄、万が一倒してしまってもその後の国との付き合い方、世界の中のパワーバランスを考えると地獄だろう。


「アンタのその改造された?体を治す方法を探すとかの方がまだ現実的だろう」

「んー。まあ、魔力器官の暴走の可能性はあるからそこは怖いけど、別にそれ以外不便していないしなあ」


 直す必要性を感じていない。これが自分の体じゃないからと言って別に困ってもいないし、魔術は普通に使える。

 ただ、魔法とは相性が悪くなっている自覚はあるが、あの辺は血で発動するものが多すぎる。直ったところで使えるかはかなり怪しい。


「ついで程度の話だろ」

「治ればナタリアの事だって……」

「なんで、直ぐにナタリアの話になるんだよ」


 アルクはなんでもかんでもナタリアと結び付けて考えている気がする。

 魔力器官の破壊が直ったとしても俺が事故物件だという事には変わらないのに。


 アルクは目を細める。しかしそれはワイバーンを見た時の攻撃的なものとは違い少し微笑んでいる様にも見える。

 けれど、その表情がどういう感情を表しているのか分かるほど人付き合いを今までしてこなかった。

 意味が分からず首をひねると、アルクは「飯冷めるぞ」とだけ言った。


 既に生ぬるくなってしまった夕食を腹に詰め込んで、空を見上げる。

 星がすでに無数に輝いていて今日見た宝石よりもよっぽど美しく見える。


 そんな事を言うときっとユナは怒るのかもしれない。



「恋愛って結局一人でも完結できちまうもんだと思うんだよな」


 唐突だっただろうか。上を見ていた顔をアルクの方に向けると訝し気にこちらを見ている。


「……いや、さっきの話なんだけどな」

「そこじゃなくて、普通相手がいる話だろ」


 アルクが呆れた様に言う。


「んー、そりゃあ結婚してみたいな場合はそうかもしれないけど、別に結婚だって好き合ってするもんだけじゃないし、共同生活をするってことと人を好きになるってことは全く別の階層の話だろ」


 別に誰かを好きになる時に、相手も自分の事を好きでいる必要はない。


「だって、普通は愛されたいもんだろう」

「そういうものか?」


 手に入るはずの無いものを考えても意味が無い気がする。

 空が落ちてくるんじゃないかと心配する事位意味が無い。


「アルクも誰かに愛されたかったのか?」


 今回は言いすぎたとは思わなかった。今までの自分であれば失言をしたと思うのに不思議だ。


「昔は、そうだったかもな」


 静かにアルクは返した。


「じゃあ、今は……」

「勇者をまた押し付けられてからは、誰かの事を好きになったことが無いから分からない」


 好き、は恋愛だけじゃない気がした。だけど、勇者を奪われた時じゃなくてまた勇者に戻った後なのが想像するだけできつかった。

 掌を返す人間の醜悪さを見てしまったということなのだろう。


「まあ、ナタリアの件は恋愛じゃないと思うけどなー」


 思わず少し笑ってしまった。それは、今まで誰かと恋愛の話も女性の話もしたことが無かったからで、多分周りがもっと子供だった頃友達と話すみたいな話をしていることが妙におかしかった。


「まあ、好きにすればいい」


何もするつもりがないから好きにするもクソも無いのだが、それでいいだろう。


「そう言えばこんな風に誰かと話すのは初めてだな」

「へえ奇遇だな。アルクは友人多そうだけど……」


 勇者様だから誰かとまともに話せることなんてそんなにないなとアルクは言った。

 勇者というのも難しいのだなと漠然と思った。

 その後は、星空を眺めながらぽつりぽつりとお互いにこれまでの事を話した。

 言えない事、言いたくないことの方が多いから取り留めのない、きっとどうでもいい話がほとんどなのに、少し楽しい。


 アルクがどう思っているかは分からないし、暗闇で顔を見ることはできない。

 魔術を使えば簡単に見ることができるのに、そうしようという気にはならなかった。


「さて、そろそろ戻るか」


 アルクが立ち上がる。

 これからしばらくは遺跡ですごす事になる。まともな宿のベッドで眠れる時にはゆっくりとしておきたい。

 転移陣で毎晩街に戻る案も無かった訳じゃないけれど、ナタリアが集中したほうがいいと反対したのだ。


 自分的にはどちらでも良かったので装備を整えて遺跡で過ごす事になったのだ。


 だから、街へ戻ってユナが苛立っている様子を見てようやく、何故ナタリアが反対したのか分かって自分の馬鹿さ加減に気が付く。


「ホントあり得ない。いくら私がアンタとの契約で物を食べなくても平気だからって門前払いされてもいいって話じゃないのよ!?」


 ユナに掴みかかられて慌てる。


「その恰好だからだろうな」


 アルクはユナとそれからナタリアの服を交互に見てから言った。


「この辺は原理主義者も多い地域だから」


 文化の違いを受け入れがたいという事だろう。冒険者向けの店や交易によって他の地方とのかかわりが強い人間以外は要は排他的だという事だ。

 ユナは元々薄絹を重ねた様な布の服を着ている。そもそも、同じ物質がこちらの世界にあるのかさえも怪しい。

 ナタリアの服装も刺繍が施されたものでこの辺のものとは違う。


 だって、ナタリアの属して居る山の民だって同じ宗教を信じている筈でむしろ厳格なものだろうに。喉元まで出かかった言葉だが口にできるとは思わない。

 言ったってあまりにも意味が無い。


 チラリとアルクを見る。勇者に本当に魅了の効果を発揮する何かがあるのであればアルクと一緒にもう一度と考えたからだ。

 しかしすぐにそれを打ち消す。一度拒否されたところで食事をするのはさすがにキツイよなと思ったからだ。


 頭のおかしな魔術師として入店を拒否されたことのある自分が思ったのだからまあ、間違いはないだろう。


「ナタリアも大丈夫だったか?」

「私は大丈夫ですから……。あの、済みません」


 ナタリアは俯いて自分自身の服をギュッと握っていた。


 それをみて、ああ、やっぱり分かっていていたから街との行き来で遺跡の調査をする事に反対したのだと思った。


「あー、もう。大丈夫だから。

なんか買ってくるから宿で待ってて。

ユナさんもそれでいいですか?」

「まあ、しょうがないわよね」


 ユナも不承不承了解してくれたので一人で買い物へ向かった。

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