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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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仕切り直し2

 出来上がったのは、元にしたボタンよりずいぶん大きめの魔石だ。

 赤く輝いているものが2つと緑色に輝いているものが1つ。流し込んだ魔力が複合的要因で色を変える。

 ある程度作成者の思い通りにはできるのだが、人気色なんてものがあるのかさえも知らない。


 魔法陣の光が消え元通りの床が見えるとナタリアが出来上がった石をのぞきに近づく。


「こうやって作るんですね」


 私にもできますか?と聞かないあたり、ナタリアは自分の魔法を何のために伸ばすつもりなのか自分自身できちんと分かっている様に見える。


「もう少し量産しておきたいけど、ナタリアボタンとか……」


 改めて見たナタリアの服は紐は多いもののボタンらしきものは見当たらない。それに俺の服は別にボタンが無くても死にはしないが、普通は恥ずかしい筈だ。


「おい。確か核にするものによって魔石の価値が変わるんだよな」


 アルクに聞かれ恐らくその筈だと返事をした。

 無言のままアルクは自分の腰に付けていた袋を取り外すと、こちらに投げ渡す。


 開けていいという事だろうと中を見ると竜の歯だろうものと何か獣の爪が入っていた。

 クマだろうか?


「使っていいのか?」

「ああ」


 魔力は圧倒的に多い方だ。多すぎる位には多い。

 だから一気に作ってしまおうと思う。


「にいちゃん。これが通信用の魔石の術式なんだが」


 術を発動しようとしたところで店主が店の奥から戻ってきた。

 渡された紙には古めかしい文章で製造方法が書いてある。元々汎用の魔石の作り方は知っているので応用程度のものだった。


「ありがとうございます」


 今作った魔石を店のカウンターに置くと、店主に買い取り価格が高くなるタイプを聞く。

 それから、とっとと店内で魔石の製造をしてしまった。


 カウンターに並べた魔石見て店主は上機嫌だ。


「買い取り価格はざっとこんなもんでどうだい?」


 店主に言われ頷く。ユナの希望もそれから、これからの準備もできそうだ。


「助かったから、これだけ上乗せだ!

ただし、この分はうちの店の商品でってことでどうだい?」


 アルクを見ると、アルクも頷いてから、店にあるロープだの、薬草だのを物色し始める。


「じゃあ、それでお願いします」


 愛想よく笑ったつもりがどうやら上手くできなかったらしい。

 店主がひきつった顔で笑い返している。


「ユナさんとナタリアも欲しいものがあったら会計を」


 ユナは香水のボトルを興味深そうに眺めている。


 ナタリアは店の隅でアクセサリーだろうかこまごまとしたものを見ていた。


「何か欲しいものは見つかった?」

「……いえ」


 すぐにナタリアは見ていた棚から離れてしまった。


 そこに展示されていたのは貝で作られているのだろうか、彫刻の施されたボタンの様な物がくくり付けられた髪飾りだった。


 ぼんやりとそれを眺めた後「ちょっと!」とユナに呼ばれてその場を離れる。


 報告書を書くために必要な筆記具一式と魔術用の道具をいくらか、それから調理器具を少し、会計の為に並べる。

 ユナは香水の瓶の中から夜の空に浮かぶ月の様なデザインの物を選んでいた。

 ナタリアは弓に塗る毒と布を何枚か選んでいた。


 用は終わったとばかりに出ていくアルクとユナを見送る。


「ナタリアも先に行ってて大丈夫だから」


 俺がそう言うとナタリアは頭を下げて二人の後を追った。


 一人きりになって、購入したものを魔術で圧縮して持ち運びやすい様にする。

 店を出る直前になって、ナタリアの見ていたあの髪飾りを思い出した。


「……あの、済みません。これもお願いします」


 渡す事の無いものを買っても意味が無い。

 そんな事は分かり切っているのに、思わず手を伸ばしてしまったものは懐にしまう。


 好みのデザインだから見ていた訳では無いのかもしれない。

 ただ、なんとなくそれを見ていただけなのかもしれない。


 渡さない言い訳を頭の中でいくつか唱えてから店を出た。

 道具屋に教えられて来た宝飾店は明るい店内に清潔感のある店員、何もかもが自分と不釣り合いな空間だった。

 ニコニコと上機嫌な表情を浮かべて並べられたアクセサリーをユナが眺めている。

 ナタリアも興味深そうにアクセサリーを見ていて、先程のあれはやっぱり渡せないよなと思う。


「ちょっと、早くこっちへ来なさいよ!」


 ユナに呼ばれて慌てて隣に行く。


「契約の品なんだからアンタちゃんと選びなさいよ」

「えぇ……」


 無理だ。そんなもんは絶対に無理だ。

 女性がどんなものを好むのかさえ良く分かっていないのに、ユナに相応しいものを選ぶなんて無理に決まってる。


「一応私の契約者はあなたなんだから、少しは頑張りなさいよ」


 ユナに言われ仕方が無く並んでいるアクセサリーを見る。

 値段は予算の上限以外の事は考えない事にした。考えたら負けだ。


 一つ一つ見ていくが正直よく分からない。

 石の大きさや色の違いは認識出来るし、手の込んだ細工は職人の技量がすごいという事も分かる。けれど、どれを選んだらいいのかはさっぱりだ。

 目についたのは真っ赤な石が中央にあるネックレスだ。

 金細工が施されたネックレスは紅に絡みつく金が美しく見える。


 値札についている金額も予算の範囲内だった。


「あら、アンタにしては良い趣味してるじゃない」


 ユナが俺の横に立って言う。


「金色がユナに合う気がしたから」

「へえ」


 ユナの瞳が面白そうに弧を描く(えがく)。


「じゃあ、それでいいわ。

当然、アンタが付けてくれるのよね」


 困りはてて店員を見ると、付け方を教えてくれた。

 壊してしまいそうで震える手で彼女の首元にネックレスを付けた。


「ユナとの友好と契約の証に」

「わが契約の証として確かに受け取りましょう」


 ユナの首元を彩る宝石に妖精の紋章が浮かび上がる。恐らくユナの属している一族なのか勢力なのかの文様なのだろう。彼女のものになった証として浮かび上がっている。


 一応、契約者として認めたのかは怪しいが気に入った様子でネックレスをひと撫でするとユナはふわりと浮かんでアルクの腕に自分の腕を絡ませた。


「勇者様、どうかしら?」

「……別に」

「そう、残念」


 用は終わったと判断したアルクが店を出る。

 慌てて会計を済ませてナタリアと後を追った。

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