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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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仕切り直し1

 遺跡から一番近いのは小さな村で必要な装備他の入手が困難だった。

 だから近隣にある一番近い街まで戻った。


 大きい街で過ごすとか買い物とかまともに人と話す事すらおぼつかない俺にはストレスがたまるが仕方が無い。

 アルクもできればきちんとした療術師に見せておきたい。


 宿屋を取って、ユナにどうするか聞くと買い物なら付いていきたいと言う。


「女っていうのは妖精でも買い物好きなんだな」


 アルクが言うが、そういうもんなんだろうか。


「ギイさんはどうする予定ですか?」


 ナタリアに聞かれる。


「遺跡攻略に使う道具一式とそれから薬草は多めに買っておこうと思ってる。

あと……」


 チラリとアルクの方を見る。療術師にかかるついでにこの街にもあるであろう魔術協会に寄りたい。その時どうせ交渉になるんだ俺一人よりもアルクと一緒に行きたい。


「アルク、あのさ後でちょっと付き合ってくれないか?」

「わざわざ何の用事だ」

「いや、できれば緊急時用に転移魔法陣でこの街と遺跡を繋ぎたいんだけどその場所を作りにちょっと魔術協会まで……」


 相変わらずアルクは無表情で俺の事を見ている。


「そんなの一人で行けばいいだろう」

「俺、多分嫌われてるっていうか、俺の事を知らなくてもほぼ間違いなく揉めるっていうか……」


 アルクは溜息を付く。

 勇者パワーでふわわーと交渉まとめて欲しいっていうのは本音としてあるが、先程アルクに以前なにがあったのか聞いたばかりでそれを頼めるほど厚かましくはなれない。


 かといって知識の無い人間が触れる可能性のあるその辺に転移魔法陣を書きたくもない。

 魔術師であれば大体そこを利用するであろう協会に行っても無駄っていうのは言っているこっちが申し訳なくはなるが事実だからしょうがない。


「それに、俺がさっき治療したところも見てもらった方が」

「それは不要だ」

「いや、俺そっち方面プロでも何でもないからな」

「不要だ」


 話を切り上げる様にアルクは言う。


「魔術協会は同行してやるから俺の体を誰かに見せる話は忘れろ」


 アルクは有無を言わせない口調でそれだけ言うと再び黙ってしまった。


 アルクの体調には不安が無いと言ったら嘘になるが、大人に対してそこまで言ってしまうのもはばかられた。


「ねえ、まずは買い物しましょうよ」


 いや、今そんな話してなかったじゃないか。

 ユナは俺とアルクのやり取りを完全に無視して言う。


「アルクどうする?」

「……俺も行く」


 まずは道中で得た竜のうろこだの、自分の予備の魔石だのを売り払ってしまおう。

 いくつか必要なものを残しておけば魔石は必ず無ければならない物では無い。


 それなら旅に必要な物と遺跡の調査に必要なものを買ったほうがいい。

 それに、ナタリアに魔術の教本を買ってやりたい。


 換金できそうなものを道具屋で金に換えてしまう。


「もっと、魔石作っておけば良かったのに」

「ちょっ、ユナさん。いくらなんでもそれは」


 ユナが魔石一個当たりの値段を確認してそんな事を言う。

 以前ナタリアと行った街で貨幣価値は理解しているのだろう。


 ナタリアがたしなめるが「えー。だってナタリアだって新しい服とか美しい武器とか、妖精と契約した時用のアクセサリーとか必要でしょ?」と力説している。


「っていうか、そうよ。

アンタ、私との契約の証何も渡してないでしょ。

普通こっちの世界への楔として渡すもんじゃないの?」


 何にしようかしら。とユナは考えている様だった。

 一般的には杖やネックレス、そろいの腕輪等を契約の証として送り場合によってはこちらの世界にとどまりながらその証の中で妖精は休む。


 召喚に魔力がかかりすぎるためというのも大きいが契約を誇示したい魔術師は華やかな宝玉を使ったアクセサリーを贈るのは界隈では有名な話だ。


「さすがに貴金属買うには資金が足りない」

「へえ、ならここで魔石を作って売っぱらえばいいじゃないの」


 ユナは事も無さげに言う。


「兄ちゃん、魔石が作れる魔術師なのかい!?」


 道具屋の店主ががたりと音を立てて立ち上がった。


 店主が座っていた椅子が転げる。

 ナタリアの「ひゃっ」と上げた声が聞こえた。


「魔石って自然の中の魔力がたまりやすい場所に石だかを置いて作るんじゃないのか?」

「まあ、そういう方法もあるし、魔術師の懐に忍ばせて自然に漏れる魔力を貯めてってやつもあるし。

だけどすぐに魔力を結晶化させる方法もある」


 漏れ出る魔力を拾うための核は自分も常に持ち歩いている。

 今日売った石にはそういうものも勿論ある。


 だけど店主が作れると言ったのはそれでは無い。

 術として魔力を凝縮固定化するものがあるのだ。魔術師個人と必要に応じて手伝う妖精の魔力量等に応じてになってしまうがさほど時間はかからない。

 その辺の石ころに魔術を込めることができるのだ。

 俺は妖精と一緒に作ることをした事は無いが、逆に妖精ちゃん達へのお礼に使えたりと重宝している。


「今日の買い取り額を保証してくれのであればもう少し作ってきます。

それから、ついでに通信用の魔石のレシピがあれば欲しいのですが」


 使わないからという理由でもっていなかった、遠くの相手と連絡を取るための魔石。

 正直詳細な作り方さえ良く知らなかった。


 使ったことは学校に通っていた時に数回だけだし、それ以降はそもそも連絡を取りたい相手がいなかった。

 使う必要のないものをもって来もしない連絡を待つほどむなしい事は無い。


 だけど、今回の件で懲りた。少なくとも他のパーティメンバーの安否位は把握しておくべきだ。

 ナタリアの元パーティメンバーに渡したものは一対の連絡用装置で汎用性が著しく乏しいものだった。

 常時接続可能な、もっと一般的な通信装置の作り方を知っておきたかった。

 大体の理論は理解はしているが今回は確実性が欲しかった。それにたしかあれは位置判定もできたはずなのだ



「あ、ああ。通信用は比較的簡単に作れるから術式についてまとめた物がどこかにある筈だ」


 ちょっと待っててくれと店主は言った。


 丁度いいのでここで魔石を作ってしまおう。

 汎用的なものをいくつか作って売ってユナにアクセサリーを買う。


 また今度と言って機嫌を損ねるよりずっといいだろう。


 魔石は核になるものを元に魔力を帯びさせる。

 核に宝石が使われていてなおかつ純度の高いものを自分一人で準備するのは無理だ。

 だからこそユナを召喚できた時の魔石を主原料にした塗料はとてもありがたかった。


 けれど、店主と今話したのはそれでは無い。普段使っていてこの前もアスナに渡したごく汎用的なものだ。


 石は手元にないので服についていたボタンを引きちぎる。

 それから術を発動させた。


 呪文を唱えるのは嫌いだ。

 大体は世界に祝福をという様なものが途中に入るし、そもそも暫く声を出していないと碌に話せなくて重要なところで舌を噛みそうになる。

 であれば、使わないで何とかする方が楽だ。


 ボタンを覆う様に魔力の膜を作るイメージだ。

 

 術の発動に合わせてローブが風でなびく様に揺れる。


 はっきりと見えるか見えないか位の魔法陣は俺を中心に淡く光を放っている。


 手の中にあるボタンの周りに光が集まって、ピシピシと音を立てながら結晶化していく。

 魔力適正のある人間にのみ聞こえるらしい結晶化の音を聞くのは嫌いでは無かった。

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