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短編大作選

無鉄砲

掲載日:2021/07/01

突然、いなくなってしまったキミ。


何の取っ掛かりもなく、消えていた。


キミらしいと言えば、キミらしい。


思い付いたことは、すぐに行動に移す人だったから。


マグカップを傾けながら、キミのことを思い返す。


海外からキミが取り寄せた、珍しいコーヒー豆で淹れたコーヒーが、身体に染み入る。


キミがいなくなったのは、半年前。


その時は、いつものことだと、それほど気にしていなかった。


一週間、連絡が取れなくなることは、ざらだったから。


でも、二週間目あたりから、ザワツキが生まれてきた。


コーヒーを体内に流し込んでも、何か喉辺りに、へばり付くものがあった。




昨日、キミに逢ったものはいない。


おととい、キミに逢ったものもいない。


その前も、そのずっと前も、キミに逢ったものは、誰もいなかった。


今までは、キミの友達に連絡を取れば、わりと簡単に繋がった。


でも、今はそれがない。


世界各国の、民芸品、お人形さん、骨董品、家具などで、部屋は埋め尽くされている。


もちろん、キミが世界中から買ってきたものだ。


それを見るたびに、無鉄砲なキミを思い出す。




キミはスリルを好んでいた。


ジェットコースターが好きで、何度も一緒に乗った記憶がある。


メリーゴーランドに乗りたいと言っても、いつも却下されていた。


観覧車なんか、見向きもしなかった。


テーブルに置いてあった、リモコンに目が行き、何気なくテレビをつける。


そこには、バンジージャンプを跳ぼうとしている、アイドルの姿があった。


何度も、目の前で跳んでいた、キミのことを思い出す。


スリルが好きで、私生活でも、無茶を躊躇なくしていた。


泳げないのに、川で溺れている子供を助けに行ったこともあった。


その時はしっかりと、まるで泳げる人みたいに、簡単に助けた。


ヒーローみたいな、キミの姿は、カッコよすぎて、あれから、さらに憧れが強くなった。


相談してくれればいいのに、一度もされたことがなかった。


メールのやり取りは、ほとんどが、こっち発信で。


一度も、クエスチョンマークで、返ってきたことは無かった。


相談しているところも、一度も見たことがない。


それが、キミらしさだけど。


それが、キミの特色であり、惹かれるポイントではあるけれど、寂しさがある。


不安がものすごくある。


こっちが、もう少し踏み込んでいたら、変わっていたのだろうか。


でも、キミはそういう人だから、何をしても変わらなかったのかな。


たぶん、変わらなかったね。




テレビのチャンネルを変えると、何度も二人で行った、滝のことが紹介されていた。


ここから、あまり遠くない。


だから、勝手にカラダが動いていた。


可能性があるのなら、やらない手はない。


何も決めないで、デメリットなど考えないで、突っ走るキミが、ずっとずっと好きだったから。


もう、身体は動いていた。


キミには、劣るかもしれないけど、意思や決断力は強い。


鞄に、財布やキミがくれた自由の女神のキーホルダーを忍ばせて、出掛けた。


たとえ、そこにキミの姿がなかったとしても。


どこに行っても、会えなかったとしても。


会いに行くことを、金輪際やめない。


そう、決めている。


キミの一部が、心臓に残り、動力源として生き続けているから。


いつかまた逢える、そう信じていれば、また逢えるはずだ。


絶対に。絶対に。




キミの情報が、どこかに無いか。


誰かが、ネットにあげていないか。


それを、今日も確認していた。


スマホを両手でキチッと固め、ガブリとかじり付くように見ていた。


でも、明日もあさっても、キミに逢えそうな気配すらない。


いくら探しても、逢えないのだから、他の人もずっと、逢うことは出来ないだろう。




キミに逢う前に、こんなに何かを探すことがあっただろうか。


キミに逢う前に、こんな風に待受画面を誰かの顔にすることはあっただろうか。


きっと、なかった。


絶対になかった。


だって、臆病だったから。


一人で何かをすることに、躊躇っていたから。


以前なら、どうせ見つかるはずないと、諦めていたはずだ。


でも、深く考えずに行動して突っ走ることも、キミに出逢って出来るようになった。


誰にも相談せず、これから、キミを探す旅をすることを決意した。




決意した次の日、小さなリュックを背負って、駅にいた。


キミに逢いたくて、仕方がないから。


空は、キミがいなくなったときと同じ、どしゃ降りだった。


突然連絡が取れなくなって、何度も何度も電話を掛けた。


その時にも、こんな激しい雨音が、鳴っていた。


あの日のことを、五感がしっかりと覚えている。


皮膚の冷たさとか、縦縞の透明なカーテンみたいな景色とか。


キミと一緒に過ごしていたときの、胸の高揚感も、まだ残る。


それなのに、キミが少しずつ遠ざかっていっているように感じた。


キミは雨で、全ての事柄を洗い流そうとしているのかもしれない。


駅の中に入り、傘をパッと振り、クルッと畳んだ。


そして、一度息を強く吐き、駅の奥の方へと進んでいった。




現実だけではない。


夢にもキミは、出てこなくなった。


キミは、どんどん現実から消えてゆく。


どんどん、離れていってしまう。


でも、繋がりはさらに深くなっていると、どこかで確信があった。


今日も、見知らぬ場所を、ずっとずっと探し続けている。

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