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転生した俺は乙女ゲーの隠しボスだった女の子を預かる。  作者: イオナ
一章. 10才、セピア島編
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20. 同盟は終り、俺は問われる。

光が突き刺さる。

鋭い風の矢が神殿の壁を貫き、荒らき炎の柱と氷の槍が地面を砕く。


数々行なえるのは自然の法則に逆らう奇跡。

凡人には決して理解できず、抗う事すら許されない偉業。


炎の柱が頑丈なる壁を粉々に壊す。

風の矢が神殿を支える柱に直撃する。

一般の人には許されない魔法が次々と繰り返され、周りを蹂躙する。


しかし。


「何故だ……!?」


その攻撃が一度も目標に当らず、全てが躱されるとしたら。

その奇跡を物ともせず避け、少しも通用しないとしたら。


魔法と奇跡すら乗り越えている相手を一体、どうやって相手すればいいのか。


「何故、全然当らないのだあああぁぁぁぁぁぁ……!?」


顔が真っ白になって叫ぶ老人の絶叫に答える声はなく。

代わりに魔力が込められた拳が返ってくる。


「く、あっ……!!」


既に何回目かもわからない一撃が腹に炸裂し、長老の丸い体がゴムまりのように地面を転ぶ。


先からずっと繰り返されている光景。

魔法使いである長老が幾度も魔法を使っても、それが相手に当る事はなく。


次々と反撃され血を吐き、無様にやられるだけの結果だけが出る。


「どうした、俺に敬い方を教えるんじゃなかったか?これで終りだったら正直に言って、それなりに緊張していた自分が情けないぐらいだが。」


ガタガタと震えながら何とか立ち上がろうとする老人に向けて、冷たい声が話しかける。


傷だらけで息が荒らくなっている長老を、黒髪の少年が少し離れた場所で見つめていた。


落ち着いていて冷静な、あくまでも自分の勝ちを確信している堂々な視線。


「……おのれ!!」


少年の方へと手が伸ばすのと同時に、長老の手から炎の槍が突き放たれる。


何の準備動作も、詠唱すらなく発射される魔法はとても洗練されており。

長老が口先だけの者ではなくそれなりの実力者だとわからせるが。


そんな奇襲的な魔法に微動ともせず、少年は体を横へと少しずらす事で簡単に槍を躱す。


「ぷくっ!?」


直後、固い何かが砕ける殺伐な音と共に、長老の体が上へと浮いた。


空中に折れた歯たちが撒き散らされるのを見て、その戦いを最初からずっと見守っていた人々は察する。

あれで全て終わったのだと。


「ちょ、長老殿……!」


「勝負あったな、ありゃ。」


瞬時に距離を縮み、強化された足で容赦無く長老の顎を下から蹴り上げた少年。

完全に顎が壊され、血を噴水のように出しながら倒れる長老。

誰が見ても勝負は明らかだろう。


地面に倒れていたバジルがそれを見て何とか長老を助けようと手を伸ばすが、それが叶うのよりも先に。

伸ばされた手をシグマの足が容赦無く踏み躙った。


「くあっ!」


「やめときな。テメエらの敗けだ。どこからどう見ても、な。」


その宣言にぐうの音も出せず、バジルは唇を噛み締める。

少年と老人の戦いが始まった途端、バジルは一瞬でシグマに制圧されたのだ。


身体強化も、呪石による呪術を使う隙もなく。

ただ殴られたと思ったら、既に両足の筋を切られており、そのまま倒れて立ち上がる事も儘ならない。


「馬鹿な、馬鹿な……!ワシらが、こんなに呆気なく終わるじゃと……!あの積み重ねが、長く築き上げた年月がこんな、こんな形で……!」


放心し、乾いた笑いすら出し始めているバジルを冷たく見下ろしながらシグマは沈黙する。


呆気ない、と。

そういうバジルの感想は間違いではないのだ。


バジルはまさしく赤ん坊のように扱えられ、抵抗すら出来ず。

一族の長である長老もまた顎が割れて、血を流しながら気絶している。


相手に少しの傷を与える事はできず、ただの一度も反逆のチャンスを掴めぬままに。


ー 勝てるのかって? ー


思い浮かべるのは二時間前の出来事。

この隠されたアジトに侵入した時に交わした会話だった。


少年は言っていた。

奴らが儀式を準備すると必ず、たった一度だけ侵入する隙が生じると。

その隙を突いて巫女を取り戻し、その長老とやらを自分の手でぶん殴ってやると。


ー おめえの計画は納得できる。少ない人数の方がばれにくいし、ジャンや他の奴等を使って王国を足止めするとこっちの目的が邪魔される事もねぇだろうよ。だが…… ー


少年の計画は極めてシンプルだった。

兵力の殆んどを使い、外からの干渉を止め、その隙に少数の奇襲部隊で頭を叩く。


だが、その計画には問題がある。

それは奇襲部隊の面々と相手の力量。


相手は曲がりなりにも一つの一族を率いる長老だ。

しかも、こちらの情報によると魔法すら使える本物の魔法使いという。


そこに少年はたった二人で挑むつもりだと言うのだ。

シグマ自身と、他でもない少年自らが。


ー 魔力を使えず、身体強化すらできねえ。そんなお前が、あいつらに勝てると? ー


きっと何か策があるとは思うが、この少年の頭と粘り強さを高く評価している自身すらも信じられない思いだった。

その疑念はこの基地に侵入した後も変わらず。


霧が急に晴れるタイミングを狙って、絶壁にある秘密通路を使い、侵入するのに成功した後。

何故か神殿ではなく倉庫に真っ直ぐ向かい何かに没頭し始める少年を見ながら、そんな疑問を吐いていた。


魔法使いを相手に勝てるのかと。

勝機があるのかと。


そして。


ー ああ。ー


扉に背を寄せている自分には目もくれず、天秤と妙な石だけを見ながら少年は答えていた。


断固に。

一抹の不安や迷いもなく。

揺ぎない確信だけを持って。


ー 俺は勝つ。相手が'魔法使い'だからこそ、勝てる。俺が余計なミスさえしなければ、確実に。ー


「……ふむ。」


あの時の言葉がどういうワケから来た確信なのかは知らないが、こうなっては認めざるを得ない。


実際、少年の言う通りだった。

魔法使いである長老は無様にも敗北し、少年は勝利した。

傷一つなく魔法を使える人間を制圧し、完全なる勝利を手にいれたのだ。


まさしく、圧倒的な戦果と言える。


「カイル……。」


「ごめん、ちょっと遅くなった。乗り込むのに準備が色々有ってさ。それにしても、シルフィ。お前、その変な格好はなん……うわっ!?」


シグマが見守る中、祭壇へと向かった少年が白き少女と向き合う。


恐らく、あれが巫女なのだろう。

礼服を着ている白き少女が祭壇から飛び降りてそのまま少年へ抱きつく。


そのせいで尻餅をついた少年が顔を赤くして怒鳴りだすが、それでもお構い無く少女は笑ったまま少年の懐から離れない。


(……何だ?)


シグマは思索する。

少年を見続けながら深く、遠い論理の旅に出る。


思うのは自分が目撃した結果。

疑念に思うのは自分が見てきた二ヶ月の言動。


違うと、ずっと思っていた。

自分が知っているカイルとは違うと、直感にも等しい本能が察知していた。

今までずっと感じていながら、それでも尚、それを解明できる説明を思い当たらず、先延ばししていた疑問。


「いいから離れろ!俺がお前を捨てるはずないだろう!?もう長く放置しないから一旦、離れろ!」


長老の動きは洗練されていた。

魔法を詠唱なしで使い、それでもあれほどの火力だったのだ。

術の速度、威力、どれも中堅の魔法使いと言っても過言ではない。


無論、それでも大した事はないとシグマは判断する。

あれほどの実力者など、外では腐るほど見てきた。

事実、シグマ自身が相手してやったらあの少年よりもっと早く、それこそ一瞬で制圧できただろう。


だが、それはあくまで'シグマ'という人間だから出来る結果だと、男はよく理解している。


魔法は強い。

まさしく、理解の範疇を超える奇跡、力と言えるだろう。

そして奇跡とは持たざる者にとっては暴力と変わらない。


普通の人間ならまず魔法を目撃する機会が少ない。

それ故に、始めて魔法使いと戦う事になると、魔法に反応できずただ蹂躙されるのみである。


どれほど優れた身体能力を持っていても、始めて目睹する現象、奇跡を目にして傷一つなく勝利するのは不可能なのだ。

それこそ、始めて魔法使いと戦った時のシグマ自身がそうだったように。


「……あれは違う。」


しかし、この結果はどうだ。

この圧倒的なる戦果は何だ。


少年は勝利している。

それはもう傷一つなく、完膚なきまで完璧に。


長老の素早い魔術を完全に見抜き、全て躱し続け、的確に隙を突いて重い打撃を与え続けた。

最初は慎重に避けるようだったが、中間からは違う。

あれはもはや、長老を徹底的に辱めるための動きだった。


'お前では俺に勝てない'と。

'お前の術では何一つ出来ない'と、巫女を奪ったあの者共を侮辱し、恥辱を与えるが為の動きと言える。


そして、最後の最後。

到底敵わぬと悟り、鬱憤を込めて飛ばした魔法すらも簡単に避けて少年は止めを刺した。


(先ほどのスピードは恐らく、こいつらが使っていた'呪石'とやらによるもの。)


姿を透明にして潜伏したのも、部下達を一瞬で麻痺したのも、シグマ(自分)に匹敵する身体強化も。

その全ては外による物。

あの少年が持つ本来の力ではない。


無論、これもおかしい話ではある。

長老やこのバジルって奴はあれを知らなかったように見えたのだ。

ならば何故、それをあいつは知っていたのかという疑問が浮かぶ。


だが、それよりももっと大きな問題がある。

それは'外'ではなく、'内'のもの。

呪石という借り物の力ではなく、あの少年の本来の力。


即ち、()()()である。


ー 俺は勝つ。相手が'魔法使い'だからこそ、勝てる。ー


脳裏に浮かぶのは先ほどに倉庫で語った少年の言葉。


そう。

あれはまさしくそれに当てはまる戦いだった。


シグマ(自分)であればもっと早く、完璧に勝てただろう。

それは'魔法使い'という奴等を多く見て、戦った経験があるが故だ。


先ほどの戦いも同じく。


あの少年は全て知り尽していた。

長老が使う魔法の威力と範囲、弱点すらも全て。

そうだと判断せざるを得ない動きだったのだ。


最初は動きに少しぎこちなさがあった。

それは多分、呪石による急変な速度上昇、及び、強化した体に慣れず、追い付かなかったのだろう。

実際、少し過度に動いたり、余計に力が入ったりなど、初盤には無駄な動きが多く見えたのだ。


しかし、それだけではなかった。

あの動きは間違いなく'探索戦'の動き。

長老がどんな魔法を使うのか、それを確認するまで慎重に動いたように思える。


(実際、あのデブが使う魔法の種類を確認した途端、動きが変わっていたな、あの野郎。)


スピードにも慣れ、長老が使う魔法の種類を全て把握したのが、戦闘開始から二分が経った頃。


そこから明らかに少年の動きが変化した。

探索から、殲滅へ。

守りから、徹底的に攻めの形態へ。


そして、結果は見ての通り。

少年は傷一つ負うことなく、まるで赤ん坊を扱うように魔法使いを籠絡し、叩きのめした。


つまり、あれは知っていたのだ。

あの老人が使う全ての魔法を。

その力と範囲、弱点に至るまで、その全てを。


故に、使う寸前にその範囲の外へと体を躱せた。

故に、使った後に出てくる微々なる隙を突き、致命打を何度も打ち込めた。


そのスピードと強化は間違いなく、呪石()に依るもの。

だが、あの戦い方は少年自ら()のものだ。


だからこそ、シグマは疑う。

疑念に思うしかない。


何故なら、自分が知っている限り、'カイル'という人間は魔法使いと会った事などなく、それを見たことすらないのだ。

ましでや、自分並みの経験がないと取れない対応など。


「……あれは、何だ?」


持ち主である一族すら知らない呪石を使い。

本来、見たこともないはずの魔法を知り尽くし。

それらを全て戦いに生かして、冷静に事を運ぶ。


以前、ジャンや周りはあれを見て成長と言っていたが、もはやそんな言葉など通じない。

あんな急激なる変化と変貌が成長という言葉で説明できるはずがない。


ならば、あれは……。


「!!! いかん!カイル、油断するんじゃねえ!」


「!?」


閃光が走る。

雷鳴が唸りを上げる。


それは怒りに満ちた咆哮の如く。

または、殺意に溢れた獣の如く。

雲一つもなかった夜空から、槍のように雷が突き刺さる。


それは勝利の喜びを満喫していた少年少女に向かい。


「……チッッ……!!」


直撃する寸前に、前へと飛んで来たシグマの剣捌きによって防がれた。


避雷針のように剣で雷の魔法を受け止め、魔力で全力抵抗。

そのまま魔法の雷撃を横へと少しずらし、流す。


「シグマ!?お前、腕が……!」


「俺を心配をする余裕があったら、あのデブの方を警戒しろ、小僧!!」


相当な威力で完全に魔法を流す事が出来ず、焼かれてしまった右腕を抱えながらシグマが叫ぶ。

その声にハッとした少年はすぐに顔を切り替え、倒した筈の長老を見る。


「おおお!!長老殿、お気付きになられましたか!!」


バジルが感激に溢れ叫ぶ通り、倒れていた長老がまたも立っていた。


しかし、様子がおかしい。

フラフラと、まるで見えない糸によって無理やり起こされたカラクリ人形のような、生気が全く感じられないのだ。


乾いた夜空から雷鳴が鳴りはじめ、雷が神殿の至るどころに降り注ぐ中。

白眼になっている長老の唇が動く。


唾を流し、意識などまったくないにも関わらず、唇を動くその様はまるでイカれた狂人、または人形のようで。

形容できない不気味さがあった。


「ニガサナイ……ズット……サガシタ……千年ヲズット……」


溢れ出す雷が一カ所に集中する。

無数な矢のように突き刺さる雷達は全て長老の方へと向かい、その衝撃に感電しながら白目をしている長老が急に絶叫する。


「くわあああああああーーーーー!?ま、待っておくれ……!!()()よ、私はまだ戦います……!私は、まだああああアアアアアぁぁぁぁぁぁ!?!」


「ちょ、長老殿ぉ!?」


雲一つもなかったはずの夜空に雷雲が集い始める。

渦巻く竜巻のように激しい爆風が大空洞を揺さぶる。


そして、空間を裂く砲声が唸るのと同時に。

今までで一番大きく、激しい雷が長老に直撃した。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁーー!!」


「長老殿ぉぉぉぉーーー!!」


体が肥大化し始める。

急速に皮膚が膨らみ、元々太っていた体は爆発する寸前の風船になる。


だが、それが爆発して死ぬ事はなく。

徐々に体が白く染まり、雷と雷雲が太っている体を纏い、膨れ上がった長老の皮膚にべたべたとくっつきはじめる。


まるで幼い子供が粘土で出来損ないの人形を作るかのような、あまりにも異様な光景。


「何だ、あれは……。モンスターになっている……のか?」


流石のシグマもその光景は始めてみるものだった。

驚愕し、この事態に対抗する術を考える事すら忘れてしまい、その光景に目を奪われる。


『オオオオ……オオオオ……!オオオオオオオオアアアアア……!!』


「っ!?」


「これは……!?」


もはや人ではなくなった()()が叫ぶ。

呪いが込められた絶叫に、大空洞全体の地面と壁から電気が走る。

膨大に膨張している体から凄まじい魔力と雷鳴が溢れ出ては、その余波だけで神殿の壁が崩れる。


大きさが5メータは越え、暗雲と黄金の雷によって体が構成されているそれは、既に人とは呼べず。

言わば、魔人。

魔力に導かれ、それに飲み込まれてしまった人ならざる者、(いかずち)の怪物がそこに立っていた。


『コロス……、コロシテヤル……!我をブジョクした、キサマだけは……!!!ケッシテイカシテはおけん……ドンムレむらのセリック!!!!』


「ちょ、長老殿!!一体、これは……くああああっ!?」


『キサマも我のエジキとなれ、無能…………!』


倒れていたバジルに向かって暗雲で構成された手が伸ばされる。

直後、雷の矢が十本、バジルの体に刺さっては一瞬で灰にする。

そして、その塵はそのまま怪物となった長老へと流れ込み、吸収されるのだった。


たった五秒も満たない時間で、部下である男が宣言通り餌食になった光景。

一目でも理性を失っているとわかる巨大な(いかずち)の魔人がケラケラと笑い始める。


笑い声に伴い激しく降り注ぐ雷を見て傭兵王と呼ばれていた男も、

白き巫女も戦慄し言葉を失っている最中。


たった一人。

黒髪の少年だけはその姿を見ては顔を歪め、静かに呟くのだった。


「……《精霊雲ーベッドラック》……だと?」



***



《精霊雲ーベッドラック》。

レベルは70前後であり、あらゆる魔法を得意とするが、その中でも雷のような電気系の光属性魔法を得意としていたボスである。


原作ではストーリが後半になると出現する四つのダンジョンの内、かなり高い山にあるダンジョンのボスだったはずだ。


確か設定としては、才能ある魔法使いが精霊より莫大な呪詛を受け暴走し、狂って生まれる怪物だったと覚えている。

クエストを受ける時、そういった背景設定が語られるのを読んだ覚えがあるのだ。


メインストーリのイチャイチャはともかく、全てのダンジョンとボスに関して熱意を持っていた俺だからこそ確信を持って言える。


「……しかし何でよりにもよって、今あれが出現するんだよ……」


急変なる変化、事態に理解が追い付けない。


5メータを越えるほどの大きな図体、そして暗雲によって構成されたモヤッとしている体。

それでいて止む間なく奴の周りから唸り続ける雷まで。


そう、あれこそ《精霊雲ーベッドラック》。

全身が雲のようになり、肥大化させ、もはや人とは呼べない化け物。

精霊から怒りと呪いを受けて狂わされてしまった、魔法使いだった人間の成れの果てである。


『オオオオオォォォーー!オオオオオオオオオオオアアアアアアーーーーー!!』


雷雲の怪物が咆哮する。

それに共鳴するかのように、またも大空洞の削る大きな雷が沛雨のように降ってくる。


『ユルサン……!ケッシテユルサヌ……!!我らの悲願をフミニジルモノも……!我の生きざまをムシスルモノも……!!我ガ敗北するというケツマツも……!!!ワレ……、ワタシ、は!!』


「……ふむ。どうも、ありゃ。頭がブッ飛んでいるな。まともな考えが出来ていねぇと見える。」


先ほどの雷撃で焼かれた腕を抱えながらシグマが苦笑いをする。

その呟きに共感しながらも、俺はつい固唾を飲んでしまう。


どういう理屈でああなったのかは知らないが、今、俺達の目の前にいるのは紛れもなく原作で出てくるボスモンスターなのだ。

よりにもよって攻略する為には特殊な条件がある、一番面倒くさいタイプの。


「クソ……!どうりで上手くいくと思った……!楽に勝てたと思ったら急にこれかよ!?」


以前、ここに来た時の経験を生かし、早めに侵入してからは数時間を全て戦闘用アイテムを合成するのに費やした。

その甲斐あって、長老との戦いは自分でも上出来だと言えるほどあっさり勝てたと思う。


原作の知識、特に戦闘に関する内容はほぼ全部覚えているのだ。

当然ながら、戦闘用魔法の種類や威力なども全て把握している。


その知識と戦闘用アイテムが有ってこそ、傷一つなく叩きのめして鬱憤を晴らしたのだが……


「なんで、倒したはずの長老がボスモンスターへと化けやがるんだ!?しかも、レベル70の高レベルの……!こんなのどう考えてもおかしいだろう!?」


神とやらはそんなにも、俺が生き残るのを望んでいないのか。

考えれば考えるほど理不尽すぎてムカつきが収まらない。


折角、思い通りに事が動いてやっと勝ったと思ったら……!


「カイル……。」


俺のすぐ後ろから小さな声と共に、ピッタリと俺の背にくっつく感触が伝わる。

つい後ろを見ると、シルフィが怯えながら暗雲の化け物を見上げていた。


「どうした?」


違和感を気付き、尋ねる。

シルフィの視線は確かに目前の怪物に向けてはいるが、ちょっとずれているのだ。


《精霊雲》になった長老ではない。

それのもっと上、まるで他の何かを睨んでいるように見える。


「いるの。すごくオオキイ精霊さんではない、何か他の精霊さんが。'あれ'と繋がれてムリヤリ暴走させている。」


「……精霊、か。」


成る程、道理と言ったら道理だ。

《精霊雲》は精霊によって暴走させられ怪物に転落した魔法使いの成れの果て。


ならば、長老をあんな姿にさせた精霊がいるのもまた必然と言える。


(……つまり、アイツに味方していた仲間と見て良いのか?)


「ほほお。どうやら、この嬢ちゃんが巫女なのは間違いねぇみたいだな。今の'大きい精霊さん'ってのは、もしかして精霊神獣もここにいるって事かねえ?」


今の話を聞いたシグマがに呑気に笑いながら質問する。

こんな状況でも自分の目的に素直な奴だと罵ろうとする時、俺は気付いた。


シグマの目が笑っていない。

緊張しているとわかる冷や汗と共に、珍しく焦っているシグマが真剣にシルフィを見ている。


「シグマ。お前、まさか……」


「ああ。お前もわかってるだろう?ハッキリ言ってあれは危ないぜ。先ほどの雷撃を受けたからわかる。威力も威力だが、あの雲や煙のような図体をみろ。打撃が通じるかどうかも怪しい。真っ正面でやると、ほぼ勝ち目はねぇだろうよ。」


……それは確かにその通りだ。

原作で登場する《精霊雲》も物理ダメージはほぼ効かず、魔法か、魔法の力を付与した属性武器でしかダメージを与えないのだ。


故に雲。

精霊の力により暴走し、莫大な魔力をその煙に蓄えた怪物である。


シグマは確かに強いが、その戦い方は身体強化と数々の体術による物理戦闘が主だ。

《精霊雲》とは致命的に相性が悪い。


……一目見ただけで、すぐその事実に気付くとは、流石と言うべきか、目敏い奴というべきか。

だが、言いたいことはわかった。


「シルフィ、神獣さんに協力を頼めるか?一瞬でもいい、逃げる隙を作られるとか。」


俺とシグマが見る中、シルフィが申し訳なさそうに首を横に振るう。


「むりっぽい。神獣さん、あの精霊さんを気付いてすごくオコッテいるけど、ミチが断たれて干渉……?それが大変だと言っているの。」


「……だ、そうだぞ。神獣が直接倒してくれる展開は諦めるんだな。」


「そうかい。そりゃ、残念。じゃあ、どうするかねぇ~。これは正直に言って、かなりのピンチだと思うが。」


「どうするって……。」


改めて目の前に出現した圧倒的な存在感の化け物をみる。

雷を含んでいる暗雲によって作られている魔物、または巨人と言うべきの怪物を。


夜空には雷が電車のレールのように光出し。

大空洞はその余波と衝撃によって、一層激しく揺いでいる。


先ほど俺が爆破した地雷、もとい大爆弾の衝撃もある。

このまま放置したら、この大空洞の崩壊が予定よりもっと早く進むのだろう。

そうなれば、逃走の計画にも狂いが生じる。


……なら、やるべき事は。


「おい、シグマ。構えろ。」


「ほう。って事は?逃げるのはなしってか?」


「ああ、どの道、あの様子では簡単に見逃してはくれないだろうし。空洞の崩壊に巻込まれて終りだからな。」


ここは出来るかどうかを考える盤面ではない。


やるしかない。

ならば、やる方法を編み出す盤面なのだ。


今更、理不尽な事が起きるとか、ボスモンスターが出ようとか関係ない。

俺は生き延びるために、そして結末を変えるためにここまで来た。


神獣による島の崩壊を防ぎ、本来救えなかったはずのシルフィは今、温もりを感じられるほどの距離にある。

既に決まっていた結末は少しずつ変わりつつあるのだ。


……ああ、そうだ。

後、少し。

ほんの少しだけで、このふざけた破滅から逃れるというのに。


「こんな理性すら無くなった奴に邪魔されて終りとか、納得できるかよ。俺は死んでも死にきれないぞ。」


「それに関しては同感だな。あんなゴミ虫に俺の計画が邪魔されては、確かに腹が立ってならねぇ。で、何か策は?」


「ある。だが、説明する時間はない。あれ、そろそろ動くぞ。」


どうやら完全に体の変化、もとい同期化が終わりつつあるのだろう。

不安定に大きくなったり小さくなったりしていた黒い雲の体が段々と落ち着き、体の内から明るい光が眩き始める。


まるで、黒いビニルの中で明るい光が発光しているような感じ。


即ち、俺が原作でアリシアをプレイし倒したモンスター、そのままの姿である。


『オオオオ……オオオオオオ……捧ゲヨウ、その、命……!捧ゲヨウ、その、巫女……ヲ。我ガ女神……ノ、為二……!』


暗雲が明るく変貌する。

暗闇から霹靂(へきれき)による光明へと。


大空洞と夜空を照らす黄金の光を撒き散らしながら、もはや人でなくなった怪物が咆哮する。


『運命ハ此処ニテ極二達した……!!約束の子、来ルベキ運命二備エラレタ少女ヨ……!!その身命、我が女神が為に、捧ゲヨウ!!!』


もはや長老としての面影はなく。

声は多くの人々が合唱するように響き、凶暴なる赤い瞳が的確にシルフィの方を睨む。


その視線に怖じけたか。

俺の袖を掴み震える子供の手を少し握ってやった。


『ドンムレ村の……セリック……。約束ノ子ノ定めを邪魔スル者……!』


相手は原作でレベル70を越える強力なボスモンスター。


雲のような体であらゆる物理攻撃は通じず。

倒すためには両腕と、両膝にある四つの'コアー'をそれぞれに合わせた属性で砕ける必要がある。


本来なら、全ての属性魔法を使えるアリシアを筆頭にして、各々のコアーを破壊するためにその属性に合うイケ面達を総動員して挑む難敵だが……。


今の状態ではそんな贅沢は言えない。

ここにアリシア(主人公)はなく、それを守り、共に戦う選ばれたイケ面達もいない。


いるのは俺という雑魚キャラと、隠しボスのシルフィ、そして中間ボスであるシグマのみ。

本来ならやられ役である人達。

敗けが決定し、未来では苦しみと破滅しか待っていない人々。


我の邪魔はサセヌ(邪魔をするな、人の子)!!||今度コソ(その少女は)女神ノ力ニテ(私が預かる)粉々にシテヤル(べきなのだ)!』


「……ゴチャゴチャ、言葉が多いな。」


だが、それが何だと言う。

やられ役だからと言って黙っていないといけないという決まりなどない。


誰もが幸せになり、自分の幸福を掴もうとする。

そんな権利はたとえ、敗けが決定した者にでもあるはずだ。


そう。

そう信じているから、今、俺はここにいる。

その結末を変えるために、俺はここまでやってきたのだ。

全ては後ろにいるこの子と無事に生き延びるために。


それを……!


「……てめえみたいな理不尽な化け物に邪魔されてたまるかよ!!さっさと来い、でかぶつ!!

何の精霊に取り憑かれたかは知らないが、ソイツと一緒に仲よくぶっ倒して、今度こそ完全におさらばしてやるよ!!」


マントを翻しながら、ポケットに隠していたスピードアップ、全ステータスアップのアイテムを三つ、同時に使う。


既にここ、大空洞の状態も限界に近い。

こいつが暴れるのが長くなればなるほど、逃げる事も困難になる。


ならば、勝負は長く引かせない。

短時間で決める必要がある。


「いくぞ、シグマ!黙って俺の動きに合わせろ!三分以内に終わらせる!!」


今、俺が持っているのはゲームでの知識と、数多くの戦闘用アイテムのみ。

身体強化した俺とシグマの技を合わせて、奴を翻弄しつつ、各属性の呪石で四つのコアーを叩く。

打開法はこれしかない。


レベルとかはもう考えない。

今はやらなければやられる時。


ただ前へと突っ走る時なのだ。


「……人使いが荒らいこった。いいぜ、一緒にやってやるよ。何しろ、同盟相手の提案だ、乗ってやるじゃないの。」


『生意気ナ……!』


《精霊雲》と化した化け物がこっちに向けて明るく光る雲の腕を伸ばす。


直後、数本の雷がこちらへと飛ばされ、それを俺とシグマは同時に両方へと散って避けた。


「カイル!」


後ろの方からシルフィの声が聞こえたと思う矢先、急に体が軽くなる。

三つのアイテムによるドーピングに加え、更に早さが加速する。


先ほどの長老との戦いでやっと慣れたというのに。

急変なる加速につい頭が追い付かず転んでしまいそうだ。


「これは……!」


雷を避けながら離れた場にあるシルフィを見ると、あの子が真剣な顔で祈っているのが見えた。


手を合わせているシルフィの周りから虹色の光が浮かべている。

天井の夜空から降り注がれているその虹色はまるでシルフィを守るかのようで、それだけでなく光は俺とシグマの身も囲み、力を与えているのだ。


(ステータスアップの支援スキルか!)


あいつ、何時の間にこんなスキルを使えたんだ?!

それに魔力に鈍感な俺すらわかる程、この圧倒的な強化量と鼓動は……。


「カイル!何をぼさっとしている!!さっさと攻めに入らねぇのか!?」


叫び声にハッとし、頭を切り替える。

向こう側では俺と同じく虹色の光を纏っているシグマが凄まじい速度で雷の連撃を避けている。

俺がついシルフィを見ている間、《精霊雲》の気を引いてくれていたようだ。


「ナイスアシストだ、シグマ!そのまま堪えろ!一気に潰すぞ!」


隠しボスらしいシルフィからの途轍もないバフ量。

それにより遥かに加速して、強化されているシグマの的確なアシスト。

事前にコイツらの倉庫から合成しておいた、数々の属性に合わせたアイテムまで。


素材は揃った。

この場にアリシアはなく、アイツらみたいな勝ち組みはなくとも。

それでも、俺は生き延びて見せる。


悪役でも、クソ雑魚でも、誰であっても生き延びようとするのは出来るのだ。

レベル70のボスだとか、破滅が決まっている未来とかはもうどうでもいい。


あの子と一緒に生き延びるのに邪魔立てようとだと言うのなら……!


「何がなんでもぶっ倒して、前へと進むだけだ、このくそったれが!!」



***



(何だ)


地面が悲鳴を上げながら切り裂かれる。

空洞の壁がもはや堪えないと涙を流すかのように岩石の滴を垂らす。


空は且つでないほど広闊であり、自分の領域だと実感できて。

大地は魔力という糸を通して掌握し、その全てを制御し操れる。


且つで人であった頃には感じた事がない全能感があった。

全てを見て、全てを手中に収め、全てを弄ぶことができるという圧倒的なる優越感。


そう、紛れもなく自分()は強くなっている。

盟約というくだらない制約に拘り、敗北者である一族の長という位置に満足していた頃とはまるで違うのだ。


手を振るえば周りの全てが雷鳴と共に弾かれる。

怒りを込めて叫べば、力なき軟弱な生き物だと本能的にひれ伏せ、怖じけよう。

その気になれば、この一面の場所を雷の雨で更地にできる。


これこそが人を越えた証し。

'幸運の女神'が与えてくれた力、選ばれし者だけが使える権能に他ならない。


なのに……


(何故……!?)


どうして、終わらない。


雷を降り続けても。

魔力による波動の波を爆撃のように撃ち続けても。


何故、彼奴(あやつ)はまだ動いている。

何故、彼奴(あやつ)はこちらの力を削ぎ続けている。


ここまで力をつけているのに、幸運の女神殿に権能を与えられてなお、何故……!


『何故、キサマは倒レナイノダァァァァァアアアアアアーーーーー!?』


鬱憤が込められた絶叫が再び大空洞を激しく襲う。


降り注がれるのは生き物の内臓を壊し、その存在ごと砕ける雷鳴の槍。

魔人に化した怪物の叫びには呪いが込められ、その波動に犯された神殿は為すすべなく壊れていく。


常人であらばまずこの落雷は避けられない。

いや、そもそも、絶叫に込められた呪詛によって四肢が固まり、そのまま麻痺され、雷の餌食になるのが普通だろう。


しかし。


「シグマ!!」


「おうよ!」


この者達は止まらない。

少年の呼び掛けに答え、男が瞬時に少年の盾になる。


一秒すら満たない羅刹に雷が空から射ち放たれるのなら。

その一秒よりも早く男が反応し、強化された剣と技でその衝撃を受け流す。


「カイル!!」


「ああ!」


焼かれた右手で剣を振るい、幾度も落雷の魔法を防げながら男は叫ぶ。

それに応えるように少年は目を疑うほどの速度で疾走する。


魔人の呪いが込められた絶叫にも少年は止まらない。

そんな呪詛など自分には効かないと言うかのように真っ直ぐ、それでいてなお加速している。


虹色。

少年とあの傭兵王を囲んでいる虹色の光が《精霊雲》と化した怪物の呪いを全て防ぎ、無効にしているのだ。


『クッッオオオオオオオオアアアアアア……!?』


そして、またも懐から何らかの石を出した少年がそれを壊し、赤く燃えるように染まった短剣を振るう。


次に訪れるのは自分の存在そのものが削られるかのような、苦痛。


女神から授かった祝福(コアー)の内、既に両足にある二つは壊されている。

そして、此度で三度。


左腕にある祝福(コアー)すら粉砕された魔人は苦しみ、なお踠く。


『フザケルナ、フザケルナ、フザケルナ、フザケルナ、フザケルナ、フザケルナアアアアア……!!!』


「っ、しぶとい……!」


またも哮る魔人に呼応するように雷撃の車軸が流される。

そこに込められた呪詛は大型のモンスターすら意識を失い倒れる程に濃厚だが、少年と男には効かない。


前にある男は慎重に動きながら雷を躱し。

後ろに回っている少年は最後のコアーを睨みながら接近してくる。


そして。

一番遠い場所にいる白き巫女は両手を合わせ、夜空に向けて祈りを捧げている。


そう。

あの白き巫女の祈りによって、虹色の祝福が二人の敵対者を助けているのだ。


『我々は数百年の年月ヲ捧ゲタ……!恥辱ヲ堪エテ、ブジョクを堪エテ、悲願の成就ノミヲ考エテ……!ソレヲ、キサマらはジャマするとイウノカアアアアア!!!』


もう一度、雷撃が放たれる。

傭兵王と呼ばれる男にも、灰色のマントを纏った少年にもなく、二人の為に祈りを捧げている少女に向けて。


雷鳴と共に走る一本の矢は瞬時に白き巫女へと飛び。


そして、次の瞬間。

見えない'何か'によって防がれ、塵のように散ってしまった。


『?!?』


圧迫感を感じる。

途轍もない怒り、または殺意にも等しい敵意。

人間を越え、並みの魔獣すら上回っている魔人になってもなお、怪物(精霊雲)は震える。


一瞬だけ、()()を感じたのだ。

この世の者とは思えない、ここにいる誰でもない何かが空を、空間を越えて。

自分に向けて牙を見せたかのような感覚。


幸運の女神から受けた祝福すらも惨めなものに感じ、到底、太刀打ちできるとは思えないこの超越した存在感と力は……


『アアアアアア、アアアアアアアアア!?!』


魔人が狂乱する。

虹色に囲まれた巫女から逃げるかのように、その災厄から身を隠したいように。

脳から慌てて'落ち着け'と命令する女神(精霊)の声すら届かないほどに、魔人は混乱し、怯える。


「カイル!」


「わかってる!」


その隙を逃すまいと、二人が同時に動く。


魔人が本能の赴くままに急いで雷を撃ち続けるが、それが届くことはなく。

男は手に持っている剣で全ての雷を弾けながら進み、少年はその攻撃の軌道をわかっているように躱し続ける。


呪詛は効かない。

あらゆる状態異常もこの人々には通じない。


虹色の祝福が、偉大なる()()から直接守られているこの者共には、そんな小細工は効かないのだと。

且つで自分が信奉し、崇めていた神が敵になっていると気付いた怪物は、涙目になりながら訴える。


『何なのだ、貴様らは……!我らの神すら味方に付けている貴様らは……一体……!』


神獣による威嚇によって一時的に正気に戻ったのか、その声は怪物のそれではなく、本来の長老の物になっていた。


だが、そんなのはお構いなしに二人は走り続ける。

各々の剣を握ったまま、ただ目の前の怪物を倒すがために。


『認めん、認めるものか……!貴様らに我らの悲願を止める資格があるのか!?我らが費やした数百年を無視する権利があるのか!?』


全身から放電し、魔力による広範囲の波長攻撃が二人を襲う。


だが、それすらも男が剣で受け止めて堪え。

その隙に男の隣へ移動した少年が呪石によってバリアーを張り自分とシグマを守る。


そして、再び魔人は二人の小さき人間に傷一つも負うことは出来ず。

攻撃が止む瞬間、二人は同時に弾丸のように突っ走る。


その連携に怪物はただ翻弄されざるを得なかった。

言語によって作戦を語るのならそれを聞いて対応できる。

何らかの合図によって意見を交わしているのなら、それを盗み取り対策を取れる。


だが。

そのどちらでもなく、ただ目と目が合い、お互いの名前を呼ぶだけでお互いが望む最大の連携をやっているのなら、もはや何もできない。


少年は片方の男を隅々まで理解して使い。

男はそんな少年の動きと行動に何の疑いもなく直ぐに合わせる。


まるで遠く昔からずっと共に戦ってきた仲のように。


『あり得ん……!王国の者とならず者がここまで協力しあうなど、断じてあり得ぬ……!ハルパス王族はそこまで堕落しておったと言うのか……!?』


「随分な言われようだな、そりゃあ。それに文句一つは言いたいが、いい加減終わらせようぜ。なあ、化け物になったデブさんよ。」


『!?』


傭兵王がもう一段階、ギアを上げる。

今までの早さすら最速ではなかったのか、小さな竜巻すら巻き起こしながら男は疾走する。


「さすがに何度もカイルの狙いをみりゃわかるぜ。あんたの右腕、そこにある丸い宝石が最後の弱点だろう?」


『なめ、るな……!』


地面が引き裂かれる。

そのひびから黄色い火炎が噴水のように噴き上がりながら、城壁のようにコアーと男の間を阻む。


だが、男は止まらない。

その炎の噴水を前にしてなお、速度を減らさず突進。


地面を蹴り、空中へと飛んだ男は炎の障壁に囲まれたコアーを全力で殴る。


『効かぬわ、愚か者め!!』


「くっ!?」


雷に焼かれていたシグマの右手が更なる炎に巻込まれ、皮膚が文字通り焼かれる。

そこまでしながら振るった拳はコアーを砕く事は出来ず。

決死の突貫が無駄に終え、墜落し始める。


それを見た魔人が安心し、口元を上げる時だった。


「カイル!!!」


燃えている右腕を抱えながら男が叫ぶ。


それは先からずっと聞いていた名前。

長老にしてはまだよく理解していない、しかし、間違いなくあの'忌々しい敵対者'を指さす呼称。


「ああ、よくやった!」


魔人と化した長老は見る。

下にいた少年が入れ替わるかのように跳躍し、墜落していくシグマを足場にして、更なる高みへと飛び上がる様を。


強化に強化を重ね、さらに神獣からの祝福すら受けた脚力はもはや砲弾のようであり。

落ちながらも力を入れて投げてくれたシグマの力まで合わせ、少年の小さい体は遥かなる高みに上る。


大空洞の真っ上。

天井なき夜空までに。


『何を……!?』


満月浮かぶ夜空を背景にして、少年の手に握られた短剣が光る。

それは最初にこの神殿で戦った時も見た潮風のような青色。


それが最後の祝福(コアー)を壊すための牙だと認識した魔の巨人は、手を伸ばし結界を張ろうとするが。


『なにっ……!』


その時になってようやく、気付いた。

体の内に流れている魔力の流れが一時的に断たれ、止まっているのを。


動かない。

魔力の循環が滅茶苦茶にされて、まるで動かないのだ。


雷を操る事も、属性に合わせたバリアーを張ることも出来ず、無力な状態になっている。


『……まさか、これは!?』


慌てる怪物(長老)が急いで足下に倒れている男を見る。


先ほど、炎の障壁に囲まれたコアーをそのまま殴った男は、黒く焼かれた右腕を抱えながら笑っていた。

気付くのが遅いと、魔人を嘲笑うかのように。


『体まで……動かぬ……じゃと……!?』


【発勁 ー 禁】。

シグマが原作のゲームで使っていた数多くの技の内、一番頻繁に、そしてもっとも得意としていた技。


拳で殴る際に、自身の魔力を相手の体内に直接打ち込むことで一定時間、'魔封状態'と共に稀に麻痺状態まで掛ける技である。


当然、そんな技の存在を知っているはずもなく、長老は安易に打撃を許容してしまったが。

二人は違っていた。


傭兵王と呼ばれる男はこの共闘を通じて、あの少年ならこの技を知っている可能性が高いと推察し。


実際にシグマの動きを観察しながら、機会を伺っていた少年はシグマが技を使うのを目撃した瞬間、止めを刺すために走り出したのである。


『馬鹿な……!?こんなことで、我らの悲願が終わるだと……!?』


体は動かず、得意とする魔法すら一時的に封じられ、三つのコアーすら砕かれた怪物は夜空を見て叫ぶ。


夜空に浮かび青く光る短剣を握っている少年を、小さき死神を見上げながら、余りの理不尽さに怒鳴りだす。


『ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁぁーーー!こんな不条理があってたまるものか!!我らの悲願を蔑ろにするなど、一体、貴様らに何の権利が有って……!?』


「いや、それは今更って事だぜ、デブさんよ。」


青く光る短剣と共に少年が墜落、もとい、流星が如く下へと突進し始める。


その光景を見上げながら理不尽だと叫ぶ魔人に、倒れている男は静かに話しかける。


「人とは身勝手な生き物でよう。誰もが自分の得たいと願うことを得る為、他のを蔑ろにする。

誰かを踏み躙って、奪って、略奪するなど、今でもどこかで普通に行なえている日常ってこった。

なあ、デブさんよ。あんたにも覚えがあるだろう?自分は一度もそうしなかったと言うのはさすがにないと思うぜ。」


『貴様……』


遠く離れた空から青き流星が降り注がれる。


コアーを壊すために。

悪役としての結末を変える為に。

本来ではあり得なかった戦いに挑み、同じくあり得なかった勝利を得ようとしている少年を見上げながら、男は呟く。


「そりゃあ、それが別に悪い事とはいわねえ。目標を持ち、他人を踏み躙っても得たいと思ったのなら、そうするべきだろうよう。だが、それなら当然、その剣先が自分に向ける事も考えねえとな。」


『自分に……だと?』


破滅を目の前にしている怪物の問いに。


同じ悪役であり、同じく未来で破滅が待っている男は淡々たる顔で頷き。


「誰かを傷付けても得ようとした付けが回ってきたんだ。自分の番になったからってギャギャ騒ぐんじゃねぇよ。

……自分が目指した目標があり、それを叶えようと全てを捧げ、それで迎えた結末なんだ。なら、少し残念とは言えど、潔く受け入れるしかねぇだろう、な?」


『ふざけるな……!私は何も間違っていない、私はまだ終わっていない……!まだ、終わらないのだ!!こんな理不尽な結末など、決して認めるものかアアアアアアアアアアア!!!!』


閃光が大空洞に満たされ、爆音が壁と地面を響かせる。

上から飛来してきた少年の短剣がコアーにぶつかる。


魂が砕けるかのような激痛に悲鳴を上げながらも、魔人はその赤く染まった瞳でハッキリと睨む。

すぐ目前にある少年を。

自分の腕の上でコアーを短剣で刺さっている黒髪の宿敵を。


『ドンムレ村のセリック……いや、カイルというやらよ!貴様だけは、貴様だけは決して許さぬ……!我々の一族が未来永劫、呪い続けてやる……!神に選ばれた人々を……!盟約で約束された未来を閉ざした罪がどのくらい重いものか、これから苦しみにもがく度に私の言葉を思い出すといい……!!』


最後のコアーにひびが入る。

壊れる寸前になりながら、怪物に転落した老人は憎悪と呪いを持って少年を見る。


虹色の祝福を纏ってはいるものの、あまりにも平凡で矮小な子供を。


「……神、か。そういえば、あんた。先ほど'女神'がどうだの、気になる事を言ったな。あんた達はあれか?神に選ばれたとか何かの設定だと?」


コアーを壊そうと、短剣を握る手に更に力を入れながら少年が語る。


『その通りだ!貴様らは何もわかっていない!今、貴様らがやっている事がどれほど罪な事かを!盟約に反した王族とは違って、それを守り続けた一族を滅ぼそうとするのだ!それを壊している貴様の不徳なる姿は、私の中にある女神も共に目撃していらっしゃる!!』


「そうか。つまり、今のお前にはその'女神'とやらが一緒なんだな。」


コアーから短剣が離れた。

何故か、コアーを破壊するのを止めた少年は、その黒い瞳で真っ直ぐ怪物と化した長老をみる。


「なら、ちょうどいい。ソイツに、お前が言うその女神って奴に言ってやってくれ。お前らがあの子に拘る理由は知らないけどよ。」


この場にいる全ての者の眼が少年に向かれる。


落ち着いた表情のシグマも。

疲弊になってもなお少年を心配して見上げる白き少女も。

そして、つい先まで敵対していた怪物(長老)までも。


「あの子は神とやらを必要としない。アイツは自分の力だけで充分に生きていけるし、誰かに利用される筋合いもないんだ。

使命だか、巫女だが、盟約だが知るかよ、ボケ共が。お前らの都合でアイツを利用しようとするな。アイツは嫌がって、やりたくないって言ってるだろうが。」


『ふ、ふざけるな!貴様に一体なんの資格が有ってそんな大口をーーー』


「資格ならあるとも。」


怪物が言葉を失う。

自分を見つめている少年の顔を見て、一瞬、言葉に詰まってしまった。


矮小で小柄、背も小さく未だに幼さが抜けきっていない子供は、それでもなお、理知的で大人びる顔をしている。

自分が話しているこの相手が本当に子供なのかと疑ってしまう程に。


「ああ、資格ならある。俺はあの子を預かる身だ。言わば、あの子の保護者だな。神だか、女神だか知るか。俺達は俺達でやっていくから放っとけ。いい加減、迷惑だ。それに、そもそもな……」



ー あの子に名前すら付けていなかったお前らに、アイツの事をどうこう言う資格はないんだよ。ー



その最後の言葉が聞こえる事はなく、激しい音によって声が埋まれながら全てが終わる。


大空洞が大きく揺れる中。

少年の青く染まった短剣が最後のコアーを刺し、破壊したのだ。


'ふざけるな'と、長老と呼ばれていた人でなしの怪物が叫ぶ。

いや。

叫ぼうとするが既に口からは声が出なくなっている。


最後のコアーが破壊されるのと同時に、雲で出来ていた体は崩れ落ち、一時の幻のように消えていく。

長老の無念すら塵のように消え、その向こうに在った女神というやらの存在すら強制的に追い払いながら。


黄金の色に光る塵が残骸のように夜空へと散っていく最中、少年が下へと落ちる。

何とか体を立て直そうとしても、先ほど高度から落下しながら攻撃するため相当に無理したらしく、体がまともに動かない。


結果、そのまま頭から地面へと落ちていく少年を、下から飛んできた男が咄嗟に受け止めた。


「おっとと……!ったく、締まらねぇな~。折角、あんな大物の首を取ったのに、最後に頭から落ちて即死とか、笑えねえぜ?」


「……うるさい。勝ったからいいだろうが。結果良ければ全部良しなんだよ。」


「ハッ。そりゃ、違いねえぇ。」


「カイル!!」


軽く笑いながらシグマが地面に着地すると、ずっと離れた場所で神獣の力を借りていた巫女が走ってくる。


よっぽど心配したのだろう。

シグマの懐から降りている少年に近付くと白き少女はそのまま少年をギュウっと抱きしめる。


「いたっ……!痛いぞ!!?腰をちょっと抜かしたから優しくしろ!!」


「あ、うん!」


無事に再会し、全ての障害を倒したのが嬉しいのか、二人の小さい少年少女はお互いをを見ながら活気に話す。

詳しくは巫女だけが笑顔かつ元気で、少年はブツブツと傷付いた人への心使いとやらが無いだの怒っているが。


(……保護者、ねぇ。)


間違いなく、二人の外見は同い年の子供。

しかし、雰囲気はまるで違うと。

語っている子供たちを無言で見ながらシグマはそう思い、周りを見る。


あの雲の巨人との戦いは激しく、神殿はボロボロになっていた。

地面はまるで大きな地震が起きたかのように、クレータだらけであり、壁と柱の殆んどが壊れ、今でも崩れ落ちようとしている。


いや、この神殿だけではない。

この大空洞全体が、またはこの絶壁自体が完全に崩れるやもしれない。

先ほどの戦いはそれほどまでに激しく、そして危ないものだったのだ。


(……俺の腕一本。そして、あいつは腰を少し抜かしただけ、か。信じられない結果だな。)


シグマは無言になったまま、つい先の戦闘を反芻し顔を歪めた。

あの一族の長老が急にあんな怪物になった理由は未だにわからないが、あの危険度は本物だった。


あれほどの威力の魔法をほぼノータイムで使え、その上でそれを無尽蔵に使える膨大な魔力まで。


あれは間違いなく大型の魔物すら越える、超型の魔物だっただろう。

聞けば、冒険者の中でもトップクラスの奴等がチームを組んで挑むべき相手とか何とか。


シグマ本人も今までそんなモンスターと実際に戦った事などなかった程、稀であり、危険な生き物と言える。


(ましでや、そんな化け物をたった二人……いや、三人で倒す事になるとはな。)


今回の勝利があり得たのは、シグマ本人の力量と、少年の奮闘、神獣の祝福に違いない巫女からの強化があってこそ。


改めて、シグマは神獣の必要性を強く確認する。

まだ召喚すら出来ず、一部の力を借りただけでもあれほどの強化だったのだ。

あれを使役できるようになれば、必ず未来で国を治める時、大きな抑止力になり得る。


やはり、あのガキを諦めるのはできない。

後で自分が目指す理想の王に献ずる為にも。


(……そして。)


シグマは改めて子供たちの方をみる。

巫女ではなく、そのとなりにいる小さく、平凡な顔たちの少年を。


昔から自分の下にいて、関心も持たずにいた。

だがこの二ヶ月、急に変わり観察していた、生意気なガキを。


「カイル、約束はわかっているな。」


男の声に、少年が振り返る。

先まで眼前の白き子と語り、呆れたような笑いを見せた顔が瞬時に強張って険しくなる。


以前なら、ガキのくせによくそんな顔ができるもんだと感心し、少し侮る気持ちもありはあったが。


もはや、この少年に向けてシグマはそんな甘い考えなど持たない。

夕方から先ほどの戦いまでこの少年の姿を見てきた今は、決して。


そう。

もう、自分はこの子をただの子供だとは思っていないのだ。


「お前と俺の同盟条件は一つだけ。そうだろう?」


「……ああ。シルフィを取り返す時まで、だな。」


「おうよ。で、その条件はつい先ほどクリアした。予想よりも、かなりキツイ戦いだったがな。」


震動により神殿が不安げに揺ぐ。

もうここは長くないだろうと、シグマも、少年も理解している。


残された時間はなく、二人の共同関係も終わった。

この後に待っているのは近くにいる白き少女をめぐった争いのみ。


「カイル。このヒトは、悪いヒト?」


「ああ。俺から離れるな。」


「うん。」


先ほどまではシグマに大した興味を示さなかった少女が、少年の答えを聞いた途端、警戒心マックスの顔で睨み始める。


その姿を見た男は不意に、少し笑ってしまう。


「……くく、可愛いもんだな。素直でいい子じゃねえか、おめえとは違ってな?」


「うるさい。シルフィに声をかけるな。子供の教育に悪い。」


「冷たいもんだねぇ~。先ほどまで一緒に戦った仲なのによ。」


頭を掻きながら冗談見たいに話すシグマを見て、少年は少し眉を歪めた。


「一応、言っておくけど。俺はまだ体の強化が残っているぞ。そう簡単にはーーー」


「ああ、知ってる。どうせ、お前の事だ。俺から逃げる為の算段も当然、持っているだろうよ。」


「……知っていて、俺の提案に乗ってきたと?」


「おめえが何を企もうと掴む自信があるからな。わかるだろう?俺は情に絆される玉じゃねぇ。目標は確実に取るのが俺の主義だ。」


少年は沈黙する。

それに釣られて男もまた口を黙り、何も言わない。


二人がお互いを無言で睨み合う中。

ただ一人、白き巫女だけが二人を見てどうすればいいのだろうとオドオドしている。


そして、もう一度、大空洞が激しく揺いだ時。

少年が口を開いた。


「そこまでやる気なら何で襲ってこないんだ?怖じけついたか?」


「いきがるな、小僧。貴様の動きなど、いくら強化させようと俺には敵わん。」


「そうか。」


「そうだ。」


再びの沈黙。

外からも戦闘が続いているのか剣がぶつかり合う音が聞こえる中、シグマが呟くように語る。


「無論、俺の目標は変わらねえがな。その前にどうしても聞かねばならない事が出来たんでよ。」


「……何だ、それは?」


流石に、これは予想できないらしく少年が驚いた顔で首を傾げる。

自分が眼前の目的より優先するものがあると言ったのが、信じられないのか。


まあ、それもそうだろうとシグマも頷く。

もし、数時間前の自分だったら、この少年が思っているとおり、問答無用で襲い掛かったはずだろう。


だが、事情が変わった。

どうしても聞いておかなければならないのが出来たのだ。


「……ああ、何しろ。素姓もわからない野郎を仲間に入れるのはできねえからな。」


「は?」


自分の耳を疑うような顔をしている少年を、男は険しい顔で睨む。

まるでその中にいる何かを見抜くような、そんな鋭い眼で。


最初は小さな違和感だった。

二ヶ月前からずっと感じていた、でも満足に解明できなかった違和感。


そして、それはこの数時間で段々と大きくなり、先ほどの戦いではもはや誤魔化しきれなくなっている。


「なあ、カイルの皮を被っている旦那よう。」


始めて、少年の顔が真っ白になる。

あの怪物と正面で向かい合う時ですら見せなかった、居竦む姿。


その小さき少年の姿をした人に向けて男は尋ねる。


「……あんた。一体、何もんだ?」


少年の皮をかぶり、その内にいるお前は一体、()なのかと。



どう逃げる。

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