12. 成長には痛みが伴う。
三週が過ぎた。
それだけ言うと簡単に済む話であるが、俺にとっては今までで一番濃密な時間ではないかと思う。
朝にはピエルに傷の様子を見てもらって薬を貰い。
昼には三下らしくゴロツキ共に扱き使われながら、演技し続け。
夕方にはシグマとの稽古で殴られながら、体を鍛える。
そして夜になると、アリシアとシルフィの魔法の訓練を見守りながらプレイヤーとしての知識を生かし、アドバイスする。
もちろん、その間にも逃走の為に改めて金と食糧を集める事を忘れず。
新たに逃走様のルートも用意した。
子供の体でよくここまでやったと、自分の事ながら感心してしまう。
懸念があるとしたら、俺が逃げる前に何かの事件が起きるのではないかという事だったが。
只の杞憂だったらしく、事件は起きず、シグマからも目立つ動きがなかった。
あの頭おかしい一族とも出会していない。
結局、至って平穏に、それながら忙しく時間が過ぎて。
アリシアと交わした契約の最後日を迎えたのであった。
「お疲れ様でした。どうぞ、水です。」
「あ、ああ……」
時間はお昼時間。
要塞の裏にある小さな庭で倒れていると、アリシアが水が入った水筒を渡してくる。
「妙に顔が赤いな。井戸に行った時、何かあったのか?」
「いつもの事です。途中で傭兵さん達と出会ってしまって……」
「ああ、またカイルのあれだの、夜は楽しんだかとセクハラされたと。いい加減、慣れたらどうなんだ?ずっと聞いてる事だろう?」
「……そう簡単に言わないでください。いつまでも慣れそうにありません。恥ずかしくて死にそうです。」
「ふうん……。まあ、それならよかったな。今日は契約の最終日だから?お前はもうそんな事を聞く必要もなくなるし、ここに足を運ぶ理由もない訳だ。」
「そう、ですね……。」
水を飲みながら適当に言うと、歯切れが悪い返事が聞こえる。
チラッと見てみると、何故か悲しそうなアリシアが見える。
ようやく俺から解放されるという喜びよりも、どこか残念がっている風味が強い。
……流石にわかってしまう。
この三週間、ずっと顔を合わせていたのだから、どうしても気付いてしまうのだ。
コイツはどうやら俺を非道なる悪党と思っていないようだ。
俺が話しかけるといつも元気良く返事をするし。
むしろ、自分から進んでこの要塞に来ては積極的に俺を探したりするし。
憚る事なくよく笑ったり、軽い冗談や悪戯もするようになったし、とにかく愛想よく振る舞うのだ。
どう考えても怖い人を相手にして見せる反応とは思えない。
「……本当に今日で終りなのですね。」
だからだろう。
そう呟くアリシアはとても寂しそうで、見ているこっちが辛くなる。
まるで捨てられた子犬を見ているようだ。
……ハッキリ言って、これは非常にマズイ。
いくらなんでも、今の状態は俺に懐きすぎだ。
余りの親しさで最近傭兵のゴロツキ共からは、アリシアは完全に俺の彼女扱いになっている。
よく女を自分のものにしたと、そんな最悪な冗談を抜かして茶化すのを聞く度に危機感を覚えてしまう。
今では、コイツの前で無理やり悪人の演技もしなくなっている。
'全部わかっています!'と言わんばかりの視線を耐えなくなってしまったのだ。
……恐らくだが、決定打になったのはシルフィと出会ってしまった事だと思う。
あれがどうしても駄目だった。
二人を強化する為とは言えど、あの二人が一緒にいる時間が増えると自ずとシルフィから俺の事を聞いてしまう。
そして、残念な事にシルフィは非常に俺に懐いているので、必然的に俺に関して良い話ししか聞けなくなるのだ。
(……そのせいか、今では最初に出会った時とは接するのが全然違うし。マズイな、これ。味方になるルートは本当に勘弁したいんだが。)
「あの……、カイルさん?元気出してください。大丈夫です!毎度言っていますが、カイルさんもちゃんと魔力を持っていらっしゃるので!」
俺が悩んでいると、どうやら勝手に勘違いしたらしく、隣でアリシアが変に励ましてくる。
……まあ、それはそうだろう。
今日はコイツとの契約が終わる最終日なのだが。
一応、'俺の魔力運用'を鍛えるのに協力してくれという名目で呼んだのだ。
「魔力を持っていても扱えないと意味ないだろう。」
「そ、それはそうですが……。でもでも!きっと理由があるはずなのです!魔力はあるのにそれが何故か、内で固定されているのですから!それさえ解決すれば、カイルさんもきっと魔力を使えるようになるかと!」
隣でアリシアが慌てながらフォローしてくるが、励みにはならない。
俺の中で魔力が何故か固定されて動けないと言っても、原因がわからないと解決の見込みもないのだから。
「……それに魔力を使えるようになっても、俺に出来るのは精々が身体強化ぐらいだしな。」
「あう……。」
アリシアが面目ないというように顔を曇らせる。
この三週間で魔法が使えるようになった自分と俺の違いを思い出し、申し訳ないと思っているのだろう。
……本当、お人好しな奴だ。
これは別にアリシアが悪い訳でもないのに、どうして今の言葉で責任を感じるんだか。
「そう落ち込むなよ、単純に才能の差があっただけだから。」
「でも、カイルさんもそんなに頑張ったのに、ここまで成果がないと酷いです……。」
どうやら、本人である俺以上に、アリシアはこの結果に心を痛めているようだ。
確にこの三週間、身体強化をできるようになりたいと、魔力運用をシルフィと一緒にアリシアから学んだが、結果は皆無だったからな。
……当のアリシアからは、'魔力が内から動けなくなっている'と訳わかんない事を聞いたし。
「まあ、俺の事はどうでもいいや。お前達が魔法を使うようになったのなら、まずはそれで充分だからな。」
「カイルさん……。」
……あれ?何か不味くないか?
俺はあくまで、本来の目的はちゃんと叶えたから充分だという意味で言ったのだが。
何故か、隣で座っているアリシアから熱い視線を感じる。
……おかしくない?
何で一人で勝手に感動しているの、コイツ。
「ああ……えっと、あ、そうだ。アリシア、お前、魔法の事に関してピエルに説明は聞いたか?」
「あ、はい!準備が整えるまでは魔法が使える事を誰にも明かすなと言われました。……何の準備かは聞かされてませんが。」
「そうか。」
アリシアにはまだ話していないようだが、俺はピエルの奴から自然に聞いて知っている。
どうも、アイツは首都に大きな商会とコネがあるらしく、まずはアリシアをそちらで受け入れるつもりらしい。
魔法の才能があるのが見つかると厄介になるのだが、だからといってその才能を腐るのも勿体ない。
なので、魔法学院に入学する16才までに、アリシアを預かりつつ、その経歴を没落した貴族の子孫という事で偽装するとか、何とか。
'そうすれば上の連中に悪用される心配は、まずしなくて済むだろう'とかはアイツの言葉だ。
……本当、ピエルの奴は何者だよっという事になってしまうな。
アイツ、もしかして隠されたサポートキャラとか何かなのだろうか。
「首都に行くのはいつだ?」
「再来週です。元々、その時に首都に行く事になっていたので、それを聞いたピエルさんが、なら尚都合がいいと、向こうの人達に連絡を入れてみると言っていました。」
「ふうん~。元々行く予定だったとは?観光にでも行くつもりだったのか?」
「いいえ、留学です。お婆様が若い内に多くを学ぶべきだと、以前から用意してくださいました。」
……留学?
始めて聞く情報だが。
「長いのか、その留学とやらの期間は?」
「ええっと……そうですね。向こうで学校を通う手筈でしたから、何年はそこにいる事になるかと。」
それを聞いて自ずと納得した。
国内留学で首都に行く、しかも何年も。
それならやっと理解できる。
なるほど、原作時点でアリシアが首都にいたのはそれが理由だった訳だ。
国内留学の為、首都で暮していたアリシアはそのまま16才に魔法の才能が判別されると。
原作ではそういう事だったのだろう。
今回はピエルの存在が介入して、完全に原作通りとは行かないだろうけど。
最終的にアリシアが16才に魔法学院に入学するのは変わらない。
原作のように姫、もとい生け贄として選ばれるかどうかは未知数になったが、学院に入学するのは変らないから、攻略対象達との出会いもちゃんと果たせる。
そもそも姫という立場は、学院に入学する為の装置みたいな感じだったし、このままだと大きな問題はないと言えるだろう。
「……そうか、まあ、気長に頑張りな。」
「はい!勿論です!カイルさんとピエルさんのおかげで私は自分が何が出来て、何をやれるかをハッキリわかりました!このご恩を忘れずお返しするためにも、あちらに行ったら、もっと頑張る所存です!」
('俺'のおかげ……ね。)
隣でキラキラするように笑うアリシアは本当に美少女と言わざるを得ない程に、満面の笑顔をしている。
……それがどうしても心を重くするし、引っ掛かる。
この三週間、俺は計画を立て直した。
島の港町を利用せずとも逃げられるように、小さな船を用意して近状の岬に隠してあるのだ。
以前なら夢にも思わなかった事だが、シルフィの力を借りれば何とか王国本土の港に行くのが可能だと知ったのだ。
精霊さんに頼んでその加護を受けると、二日ぐらいは何とか座礁する事なく船を動けるらしい。
それ以上は船乗りとしての技術がどうしても必要になり、俺としては力不足なのだが、この島と本土の距離は意外と近い。
普通は一日、遅くても二日だと辿り着ける距離だ。
そこまでわかると、危険を犯してわざわざ港町まで行く必要もない。
近い港町へ取り立てに行った時、シグマの命令だと騙し、漁師が使う小さな船を一つ拝借しておいた。
金も、食糧もまた集めてある。
後はタイミングを伺って逃げればいい。
そう、準備は完璧だ。
たった一つだけ。
これからやるべき一つだけを残すと。
「それで、カイルさん。今日で約束の期間は終りますけど、これからも時々……」
「いや、その必要はないだろう。お前との関係はこれで終りだからな。」
「え。」
アリシアの声を無視して立ち上がる。
今からやらなければならない事がある。
この三週間、全てが計画通りに行なった中、唯一残っている懸念がある。
そう。
たった一つだけ。
どうしても気になる事があるとしたら、それは余りにも懐いてしまったこの子、主人公様の存在だ。
俺はもうすぐ、この島から出る。
シルフィと一緒にこの島から逃げるのだ。
「カイルさん……?」
「お疲れさん。もう明日からは来なくていいぞ。先輩方やお頭にはお前で弄ぶのは飽きたと言っておくからな。」
この三週間、ずっと考えて得た結論が一つある。
それはアリシアとシグマがいる限り、ここは安全という事。
主人公と【黒きサソリ】が全部いる間、この島は何事もないという事だ。
だって、そうだろう。
原作の時点でこの島は地図になく、アリシアとシグマは普通に登場する。
なら、この島に何かが起こるのは間違いないにしても、少なくともこの子とシグマがここにいる間は事件が起きる事はないという話しだ。
そして、アリシアが留学として首都に行くのは再来週。
その前にこの島から逃げれば何もかも上手く行く。
……たった一つ。
必要以上に懐いているコイツとの関係を壊して、リセットすれば全ての準備が終わるのだ。
「じゃあな。あっちに行っても上手くやれるようには祈ってやるよ。」
「あ……ちょ、ちょっと待ってください!カイルさん!」
俺がこの場を去ろうとすると、案の定、俺を追うようにアリシアが急いで立ち上がる。
とても慌てている少女は、不安そうな顔でまるで追い詰めているかのように冷や汗をかいている。
「確に、もう契約は終わりましたが……!でも、まだ……」
「まだ、何だ。」
ビクッとしながら少女は口を閉ざす。
俺の顔を見ては、何か話そうとしていたことも忘れたらしく。
そのまま固まり、どうする事も出来ず微かに震えている。
……やはり、そうだ。
コイツは俺のことをもう悪人だと思っていない。
表では悪い風に見えても、その裏には実は良き人ではないかと、そう思っている。
頭が花畑な考え方だ。
俺にとってこれほど困る話もない。
俺の最終目的は生き残る事だ。
ストーリを変えたり、掻き乱すつもりは毛頭なく、登場人物と馴れ合う気もない。
むしろ、ストーリ通りに進んでくれないと困るのだ。
この三週間、俺は俺自信が望んだようにアリシアをある程度強くさせる事に成功した。
六年早く魔法を覚醒させたのだ、後はコイツが徐々に勝手に強くなっていくだろう。
そう。
ここからはアリシアの物語であり、彼女の奮闘であって。
そこに俺が、'カイル'という雑魚でモブなキャラが割り込む余地も、必要もない。
「どうやら、一つ勘違いしてるようだな、お前。」
「え……。」
「なあ、アリシア。お前はどうも違うように思っているようだが、俺とお前は特に何の関係もないんだぞ。」
アリシアが衝撃を受けたように、ボッとして俺を見つめる。
まるで魂が抜けたような顔。
本当に主人に捨てられた子犬みたいでつい目を逸したくなる。
どうして、この子はここまで俺に心を許しているのか。
……友達が少なかったからか?
「なに寝惚けた顔をしてるんだ。そうだろうが。お前はシグマに反発し、その報いをうけるべきだった。その代わり、俺は俺の都合によって利用する事で許すことにした。だから、お前はこの三週間、俺の言い付けに従い、契約は終了した。」
「ち、違います!確に最初はそうだったけど、私は……!」
「いや。何も違わない。お前がどう感じたかは重要じゃないんだよ。これが事実なだけだから。いいか?俺はお前と友人でもなく、恋人でもなく、だからといって他の特別な関係でもない。そうだろう?」
いい加減、ここでハッキリさせるべきだ。
'カイル'という人物は本来、アリシアという主人公と深く関わらない人物で、俺はその関係を無理やり変えたり、歪みたくない。
それでは問題が拗らせるだけだ。
カイルはあくまで迷惑をかける三流の悪党。
それだけで認識していれば充分なのだ。
「わかったら、もうここには来るな。お前との契約は終わって、それで全てだ。お前ももうあのゴロツキ共にあんなセクハラを聞けずに済むから、充分に嬉しいだー」
「違います!私はずっと感謝していたのです!!」
つい口を黙ってしまう。
それほどまでの迫力が今の彼女にはあった。
俺と対面しているアリシアは胸のあたりに手を集めて必死に、切実に俺を見ている。
「……何でだ?」
……理解出来ない。
この子はどうしてここまで俺に懐いているのだろうか。
シルフィはわかる。
何だかんだとあの子の命は一応俺が助けたものだ。
元から良い子なんだし、あの子が俺によく懐くのは頷ける。
でも、この子は違うではないか。
確にこの三週間、俺からこいつに手を出したりする事はしなかったけど。
それでも、この子から見れば俺はあくまで真っ赤の他人で、恐るべき人物として出会ったではないか。
「お前に感謝される筋合いなどないはずだが?」
俺がどうしても理解出来ずにいると、アリシアがどこか躊躇うように目を泳がせ。
やがて、覚悟を決めたらしく真剣な顔で話す。
まだ幼い子供だというのに、大人びっている表情。
「お願いします、私の話を聞いてください。」
「悪いけど、与太話はあんまり好きじゃないぞ。」
「大丈夫です。短い話ですから。ただ、私がこの島で嫌われ者という話なだけです。」
「……は?」
予想しきれなかった話題につい間抜けな声を出してしまう。
だが、そんな俺の対応など気にしないように。
いや、気にする余裕すらないらしく、アリシアは渋々と語り出す。
……どうやら、アリシアはこの島から邪険にされて来たらしい。
最初はお婆様、つまりアリシアの家族であるあの老婆のせいだった。
性格が悪く、誰にもぶっきらぼうで嫌みを言う老婆を、人々はあんまり良く思わなかったという。
「まあ、妥当だな。」
「……お婆様は悪くないです。ちょっと繊細な方なだけですから。」
つい本音をこぼす俺をちょっと睨んだ後、アリシアは続いて語る。
老婆を村人達から認めさせる為に、アリシアは色々と頑張ってきたらしい。
お婆様がどんなに嫌われ者でも、自分が良い子として皆の役に立つと、きっと認めてくれるに違いないとそう信じて。
どんな厄介事でも請け負って、困っている人がいると助けようとして、そうやって身が粉々になるほど奔走してきた。
だが、それも長くは行かなかった。
邪険にされる対象が徐々に変わっていたのだ。
よりにもよって、その時アリシアは魔法の才能を少しずつ覚醒し始めたのだ。
誰もが聞けないものを聞いてしまう。
誰もが感じないものを感じてしまう。
最初、アリシアはこのおかしさに気付かなかったという。
それはそうだろう。
まだ幼い子供で、自分が他人とどう違うのかを認識しろうとするのは不可能に近い。
自分が他人と違うと気付くにはどうしても時間が掛かる。
「そしてその事実を気付いた時は、既に村人から精神がおかしい奴として扱われていたと。」
「……はい。少しずつお婆様を受け入れていたけれど、私は頭がおかしい子だと言われ始めて、見えない差別はむしろ以前より酷くなりました。」
「そのわりには、お前を心配する人々もいた気がするが。」
以前、アリシアが危険に晒された時、アリシアの身を心配する女たちがいた筈だ。
ではその人達はなんだったのか。
そう思っていると、アリシアが悲しそうに笑う。
心底疲れたような、脆く、柔く、泡沫のような笑み。
「……一応、少数ながらそういう人々もいましたからやっと耐えてきました。もしあの方達すらなかったら、私はきっと、とっくに壊れていたのでしょうね。」
「……。」
十歳のガキが言う言葉とはとても思えない話に、つい面食らってしまう。
この子が歳のわりに大人っぽいのと、人助けに夢中だったのはそれが原因だったのだろうか。
「……お婆様は素直じゃないから言わないけど、私を首都へ留学させる事も、もうここには私の居場所がないのだとわかっていたからだと思います。」
……成る程。
思いの外、重い話を聞いてしまった。
あの老婆は元からあんなひねくれた性格だし、仕方かないとは思うが。
アリシアは魔法の才能があったから精霊の声を聞いたり、感じたりしたのだろうに。
それが異常だと罵られる理由になってしまった。
それでも村人達から認められたくて必死に人助けをしてきたと。
「……馬鹿馬鹿しい。っんなの、普通に無視すればいいだろうに。」
「ふふ……、お婆様と同じ事を言うのですね。ずっと思っていたのですが、もしかしたらカイルさんとお婆様は似ているのではないでしょうか。素直でないところとか。」
「っんな訳あるか。冗談でもありえねえぞ。俺ほど真っ直ぐな奴はいねえよう。で、何でそれが俺への感謝になるんだ。」
「それは……。」
アリシアが言葉を選ぶように慎重な顔付きになる。
口をすぼめて、小さく深呼吸をし、やがで真っ直ぐ俺を見る。
そして、少女が語り出そうとする時。
その刹那に脳裏にすれ違って行く記憶がある。
『私はずっと悩んでいました。■■様、貴方と出会う前まで、ずっと。』
「私はずっと悩んでいたのです。カイルさん、貴方と出会う前まで、ずっと。」
「…………。」
脳裏に浮かぶのは一瞬の事だった。
何の兆しもなく、唐突なる出来事。
王城の上、空中庭園というべきロマンチックな場所がある。
その場所で、何かの事件を解決し、二人きりなイケ面と、お姫様になった主人公がいて……。
『貴方が私に才能があると、間違ってはいないと教えてくれたおかげでーー』
「カイルさん。貴方が私に才能があると、間違ってはいないと教えてくれたおかげで……」
……それは誰に言っていた言葉だったか。
それを言うのは間違いなく、アリシアだった。
でも、詳しくどころまでは思い出せない。
誰のルートだったのかも、誰を相手にして話すのかも知らない。
ただ、こんな会話があった事だけは思い出した。
『私はやっと、少しだけ、自身が好きになったのです。』
それは、元気で健気な見た目とは反してずっと隠していたアリシアの弱い所。
心の内では自信がなく、いつも悩んでいた主人公が吐く告白。
本格的な恋愛をする前、お互いが感じていた壁をなくし、相手のイケ面を強く意識するようになるイベントの……
「私はやっと、少しだけーー」
「違う!それは俺のおかげなんかじゃない!」
「……え?」
咄嗟に口を挟み、アリシアの言葉を止める。
アリシアは目を丸くして、どうしたかと言うかのように俺を見つめてくる。
しかし、それはこっちが言いたい事だ。
……コイツは今何を口走ろうとしていた?
何故、そのセリフを今、俺に向けて言おうとする?
ここには、相手の攻略対象はいないはずなのに、どうして?
冷や汗をかく。
なぜか、すごく喉が乾いた。
今でも心臓が逃げ出そうかのように激しく動いている。
「……いいか?俺はあくまで俺の都合の為に動いたにすぎないんだ。それを成し遂げたのはお前で、その才能も本来、お前が持っていた事なんだよ。小さい切っ掛けに一々感銘を受けてどうする?」
「で、ですが、私は本当に感謝しているのです!私が役に立つ事があるのなら、せめての恩返しをー」
「いや、結構だ。っていうか、俺が何を困っていて、お前に頼まないといけないんだよう。」
アリシアから目を逸し、この場から去ろうとする。
一刻も早くこの場から離れたい。
そして少し落ちついきたいという気持ちで頭がいっぱいになる。
だが、そんな俺の歩みを、後ろから聞こえるアリシアの声が無理やり止めてくる。
「私、知っています!カイルさんにはきっと、何か事情があるのでしょう?!シルフィちゃんに貴方に対して聞くとそう思えざるを得ません!教えてください!私が助けになる事があったら……」
「……助けだと?」
反射的に後ろへと振り向く。
どうしても、聞き捨てられない事を聞いた気がする。
「……仮の話だ。お前が言ってるように俺に何か事情があるとして、俺がお前に助けを求めたりしたか?何の事情かも知らない、相手が置かれた現状も知らない。自分の力量も知らない。なのに、相手が困っていそうだから、助けると?」
「それは……」
少女はまともに答えず迷っている。
そのウジウジしているところが、その沈黙がどうしても引っ掛かる。
……思えば、それは以前、あの乙女ゲームをする時にずっと見てきた姿だった。
お姫様になって、生け贄として選ばれて、家族も家も全部離ればなれになったのに。
それに挫けず、むしろ健気に他人を助けようとする。
【黒きサソリ】を嫌って、憎悪しても、いざ実際にシグマを倒すと彼の傷を心配したり。
ダンジョンやボスを倒す事も大体、誰かが困っている姿を見過ごせなかったのが理由だったり。
……そういう生き方をするようになったのはこの島で経験した辛い思いと。
認められたいという子供っぽい欲求だったのだろう。
始まりはそんな粗末なものだったとしても。
コイツはその生き方を最後まで貫いて、それであのイケ面達をも救い、愛されて。
やがては世界すら救ってみせる。
「ああ。それは、確に美徳に見えるだろうよう。」
そう、それは確に美徳だ。
綺麗で、誰もが肯定するに違いない。
間違いではないと、それは正しい事だと。
だから、俺もそれだけで済ませようとした。
それ以上は考えず、これで何とか関係を切れば全部終りだと。
……本当にそうなのか?
「カイルさん……?」
頭が晴れる。
この子が攻略対象に言うべきセリフを俺に言おうとした衝撃は暫し忘れる。
今はそれどころではない。
それよりももっと大事な事が一つ残っていると気付いた。
この子との関係は切ってもらう。
それは変わりないけれど、その前に一人のプレイヤーとして、そして俺個人の意見としてどうしても言わないといけない事がある。
その為に、もう一度、俺はこの子と向き合う。
これからを生きるに当ってどうしても伝えないといけない。
これは言わば、プレイヤーとしての意地だ。
強くさせるのならそれは魔法の力だけではない。
ゲームで接していた以前なら兎も角、今はこうして直にアリシアと会っているのだ。
ならば、違う方面でもいち早く成長できるはずだ。
「……ハッキリ言うぞ。俺にお前の助けなど必要ない。」
「で、ですが……!」
「ですがもクソもない。いいか。これは冷静に判断しての事だ。俺の計画にお前の助けなんか入らないんだよ。」
これから俺は酷い事を言うだろう。
この子はあくまで純粋に俺の助けになろうとするのに、それを俺が踏み躙るような事になる。
けれど、きっと必要な事だ。
少なくとも、このまま放置しておくよりは良い筈だと、そう信じている。
「……今のお前に何ができる?魔法を使えるようになって自惚れているのか?力もなく、何かを持ってる事でもない。そのくせ感情だけが先走って、何の計画もなく首を突っ込もうとする。そんな奴に一体何を見込んで頼れと言うのだ。」
「……。」
「何も裏付けるのものがない発言は、ただの迷惑でしかないと自覚しろ。意欲だけでは事をしくじるのみと知れ。そんなじゃ、本来出来る事もできず、全てを台無しにするだけだ。」
「…………私は、迷惑なのですか?」
小さく、まるで囁くような声で少女は呟く。
その顔は放心し、抜け殻のようになっている。
だが、それに構わず続けて言う。
これは'カイル'としてこの子との関係を切るためでもあり。
同時に、'俺'という人間として、この子に最後にできるアドバイスでもあるのだから。
「ああ、今のお前は迷惑でしかない。」
「…………。」
少女が涙目になる。
今にでも泣き出すほどに目を潤っとして、でも俺の前で泣こうともせず、ただ静かに何かを呟く。
'ごめんなさい'と、小さな呟きが風に紛れ溶けていき。
そして、アリシアはようやく俺の前から消えて行った。
後ろへ振り向いてそのまま走っていき、段々と遠くなる。
俺の方にはもう、二度と振り向こうとしない。
……少し、罪悪感を覚えてしまう。
今のはやりすぎではないかという考えもある。
でも、必要な事だった。
あの子はこれからも人助けを止めない。
それは原作でもそうだったからわかるし、それがあの子の強さでもあるから否定するつもりもない。
でも、今のままでは駄目なのだ。
あの子はストーリが進むにつれ多く挫折し、それでも立ち上がって成長していく。
その精神的な成長は凄まじいもので、本当の英雄と呼んでもいいほどだ。
……そして、その成長の切っ掛けこそ、今までの自分の行いが間違いでもあると認識する事だったのだ。
意欲ばかりが先走っては何もできない、けれど人助けをやめたくなければ、確固たる自信と信念を持ち、力と計画を備えて挑むべし。
その事実を認識するようになったアリシアは強い。
力の面でも、精神的な面でも、もう主人公として何処を出しても恥ずかしくないほどに。
だから、きっと。
これは必要な事だった。
これでカイルとして嫌われて、関係もリセットできたし。
俺個人としても、最後にアドバイスをする事もできた。
きっと、満足なる結末なはずなのに。
……何故か、胸糞悪い。
最後にあの子が俺を見て今でも泣きそうだったのを思い出すと吐気がする。
「何も、そんな別れ方をする必要はないだろう。」
心痛な声が聞こえる。
後ろの方を見ると、俺とアリシアが練習してる間、見張りをやっていたピエルが立っている。
どうやら、今の会話を全て聞いたらしい。
「うるさいぞ。別に俺も好きでやった訳じゃない。こうでもしないと、アイツ、絶対に成長しないからな。」
今のアリシアはどっちかというと、原作の初盤あたりのアリシアだ。
よく泣いたりして、どこか追い詰められるような感じがして。
見た目は健気で良い子だけど、その実自分を必要以上に卑下して、自信がないような、そんな感じの。
そんなアリシアが攻略対象との恋愛と、事件を経験し、強い人になっていくのだ。
最後は、堂々と国を救ったり女王になったり、やっぱり主人公だと頷けるほどの英雄ぶりだった。
今はその為の第一歩、そう考えるしかない。
「……感情だけが先走っていてはどうにもならん。力がないなら、尚更、慎重に、それでいて綿密に事を進むべきなんだ。なのに、今のアイツはそれができない。魔法が使うようになっても自分の身を守るのでせいっぱいだろうよ。今の状態で俺とかかわったら余計に傷付けてしまう。」
「……だったら、尚更そんな言い方をする必要はないだろう。君も、あの子も、本当に困った性格だな。あの子は真っ直ぐすぎるし、君はひねくれすぎる。案外、似た者同士と言えるか。」
「うるせえよ。それよりちゃんとやれ。お前、首都でアイツの面倒を見てくれるんだろ?もし、少しでも辛くさせてみろ。後で知ったら、絶対ぶん殴るぞ。」
何しろ、大事な主人公様なんだ。
首都に留学しに行く以上、後はメインストーリ通りに進むだろう。
先ほど危うく変なフラグが立つ所だったが、ちゃんと折っておいたし。
「……呆れるほど素直じゃないな、君は。そこまで心配になるなら後でちゃんと謝っておけ。誤解されたままでの別れは辛いだろう。」
「いや、これでいい。確に少し酷く言った気もするけど。あの子は俺みたいな三下のクソガキと関わるべきじゃないんだよ。もっとふさわしい相手がいるからな。」
そう。
ドンムレ村のセリック君や王子様、その他の四人のイケ面達のようにね。
俺みたいな奴とは本来関わるべきではないのだ。
俺が納得して頷いていると、どうやら諦めたらしくピエルが話題を変えてくる。
「……で、出発はいつだ?」
「うん?ああ、そうだな。四日後かな?その日は、捜索の範囲が広くて殆んど要塞に人いないし、逃げ出すにはちょうどいいだろう。」
「そうか。では、その前日に少し時間をくれ。話したいこと……いや、提案したい事がある。」
「なんだ、薮から棒に。」
コイツからの提案などかなり珍しいが、ピエルは肩を竦めるのみで答えない。
どうやら、その時にならないと言わないつもりらしい。
俺も俺だが、本当コイツもコイツで食えない奴だ。
知り合ってもう一ヶ月が過ぎるが、相も変わらず何を企んでるかわからない。
……でも、まあ、逃げれば全部終わる問題だし。
それまでずっと頼れる相棒だったのは間違いないし。
とにかく、全ては四日後だ。
それまでは出来る限り目立たないように振る舞いながら、最終調整をするとしよう。
***
「どうだ、進歩は。」
昼が過ぎ、深夜になった時間。
バルティア要塞の地下にある牢獄で、重い打撃音が聞こえる。
本来、捕虜を閉じ込めておく為に用意された牢獄には三人の男がいる。
黒頭巾を被っている一人の男を、頑丈な体をした二人が殴ったり、蹴ったりしながら無慈悲にリンチを加えている。
その様を檻の外から観察していた巨漢が、後に来た男の声を聞き、答える。
「色々聞き出したが。どれも決め手ではない。監視に来ていたという事以外は特に。」
「ずっと隠れていた鼠共がよりにもよって俺達を監視だぁ?」
褐色のマントを肩に羽織っている男は髭を擦りながら檻の扉を開き、牢獄の中に入る。
中に入っていた二人が、入ってきた男の顔を見てはリンチを止める。
「シグマの旦那。こいつ、気絶してますぜ。」
「っぽいな。おい、水。」
外にいた巨漢が直ぐ様、水が入ったつるべを中にいる部下に渡す。
すると、その水を倒れている黒頭巾の人に浴びせる。
それで気を取り戻したか、'かは!'と荒い息とともに激しい咳きをする。
「可哀想に。こりゃあ、相当やったな。同情するぜ、'深い森の一族'さんよ。」
「!?コホッ!コホッ……!!っく!」
黒頭巾が無理やり剥がされる。
そして現われる褐色の髪を掴み、強制に持ち上げながら、シグマは捕虜の顔を見下ろす。
相当に殴られたか、鼻は曲がり、痣だらけの顔。
唇からは今も血が流れている。
まさしく、ボロボロになったと言える顔だ。
「まだ随分と若いな。おめえもまだ死に急ぎだくはねぇだろう?なら、素直に答えてくれねえかな~。実は、残った時間が余りなくてな。今のどころお前さんがやっと手にいれた唯一の情報源なんだな、これが。ぜひとも、協力を願いたいんだが?」
「は……ははっ……お、王国……か……」
「おお、耳ざといね。その辺りの情報は掴んでいるワケかな?いいぜ、話が早い奴は嫌いじゃねえぇ。」
となりの部下達は話を理解できていないらしく、首を傾げる。
この中でたった一人、言葉の意味を正確にわかっているシグマのみが嬉しそうに笑う。
「さて、'深き森の一族'さんよ。俺が聞きたいのは簡単だぜ。何故、こっちを監視するようになったのか。おめえらの本拠地は?そしてこれが一番重要だが、……'儀式'に使う為の触媒はどこに隠した。」
「……どこ……まで……知って……。」
「質問するのはこっちだぜ?そっちから質問で返してくるのは礼儀ではねえな。」
「……っっ!言わん!!ボク達の悲願と誇りを汚すものか……!」
牢獄が響き渡る程の大声と共に、血と痰が混ざった唾がシグマの顔に吐き出される。
隣の部下達は勿論、檻の外にいる巨漢もすぐ反応するが。
今でも突っ掛かるようなそれらの動きを、シグマが手を持ち上げて止める。
「まあまあ、そう焦るな。軽い悪戯みたいなもんだからよ。……おや?」
静かに笑っていたシグマが珍しいものを見たような表情で捕虜を見る。
何事かと誰もが理解していない中、シグマは顔を歪ませて舌打をする。
「お前さん。ちゃんと歯の管理はしていねぇのか?ほれ、この辺りが揺らいでるじゃねえか。それに何か状態が悪そうだな。いかんぞ?歯の管理は大事だ。何よりも飯を食えなくなる。」
「……は……?」
「ううん~?気付いていないのかな?なら、俺がちょっと見てやろう。ほれ、この辺りがよう。」
捕虜が動く隙もなく、シグマの力強い手が捕虜の前歯を掴む。
次の瞬間。
耳を裂くような悲鳴が牢獄に響き渡たった。
「アア嗚呼アアアあああ……!!?!」
「おっと!わりい、わりい!よく考えたら、この歯じゃなかったな。隣のこれだったかな?」
ゴミを捨てるかのように根こそぎ引き抜いた前歯を投げて、シグマはまたももう一つの前歯を掴む。
捕虜の顔が激痛と恐怖で歪み始める。
涙を流しながら震えて、自身を見下ろしている男を見る。
悪魔がいた。
目の前の自分を人間だと思っていない。
何の感情も感じていない、氷のような顔をした悪魔が。
「た、たすけ……。」
「ああ、心配するな。助けてやるとも。じっくりと。おめえが普段、状態が悪いと思う体の部分を、俺が直々に治してやるよ。」
「あ、ああああああアアアアアぁぁぁ……!!」
またも悲鳴。
そして、ずうずうしいほどに明るい男の声。
助けてくれという哀願の音。
そして、またも悲鳴が響き、その断末魔は要塞の地下全体にすら届く。
結局、血まみれになった牢獄からシグマが出るのは一時間が経ったからだった。
部下達に後始末を任せて、シグマはジャンと共に地下から抜け出す。
「ご苦労だったな。収穫はあったか。」
「ああ。まさか、連中が隠していた触媒が、'巫女'と呼ばれる人間とはね。流石に知らなかったぜ。まあ、本拠地は本当に知らなかったっぽいが。」
「複数あるようだったからな。末端には全部を教えていないのか。」
手についている血をジャンが渡したタオルで適当に抜きながらシグマは考える。
この二ヶ月の間、ずっと追っていた'深い森の一族'。
奴等が隠している'触媒'を奪い取るつもりでいたが、具体的な情報はなく、奴等は隠れる一方で追う事もままならなかった。
だが、何故か、ずっと隠れていた奴等が姿を現し、こちらを監視するような素振りを見せた。
お陰で捕まった奴等の手先から聞き出したとある情報。
(触媒は'巫女'。即ち、'女'の人間と。)
頭に浮かぶのは、三週前に監視につけていた部下から聞いた、とある報告だった。
ずっと気にかかっていたけれど、余りにも意味がわからず、意図もわからずじまいで、結局、保留していた案件。
……ようやく、全てが繋がれた気がする。
やはり、自分の勘は正しかったと、改めて実感する。
「どうやら、ようやく流れがきたようだな。ったく、来るのが遅すぎるぜ。」
「……思い当る事があるのか?」
「ああ。結構ギリギリだが、目的を果たして本土に帰れそうだ。で、連絡は?」
「既に来ている。明日、最終チェックの為に港に行ってみるつもりだ。ちなみに、向こうからもう一つの指示が届いているが。」
「ああ、それは言わずともわかるぜ。やれやれ。これだから、腐った権力者とは。見ていて目がくらむ。俺らをみる連中は平然と人を殺すクソ共だと言うが、はてさて、貴族様共のあれを見たらどっちか人でなしかわかったもんじゃねぇな、こりゃ。」
心底、気にくわないようにシグマは地面に唾を吐く。
そうする間に要塞の地下から抜けだし、涼しい夜風が顔に当る。
その感触を満喫しながらシグマは夜空を見る。
雲一つもなく、視界がからっと開けている空はまさしく今の自分の状態を代弁しているようだ。
灯台もと暗しとは、本当に誰が言ったのやら、よく言ったものだ。
「……さてと、ちょっと長くなったが、待望の取り立ての時間と行こうかね。」
男は笑う。
その笑みはどこまでも愉快で、不敵。
それでいて獲物を見逃さない狼の笑顔であった。
夜にもう一つ更新するかと。




