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橋を訪う人・2

新書「橋を訪う人」2


回収されたボディは、再利用出来なかった。損傷はあまりないのだが、調査部門が、管理凍結していたからだ。

「でも、貴方は、運がいいわ。」

と博士は言った。

「プロトタイプだけど、同じ型番のが、あるから。」

に、一人一タイプ、と聞いていたが、と疑問を挟んだ。

「もちろん、合うのは貴方だけど、実用にするまで、研究ベースとして、いくつか作ってたのよ。正規のスペアは、厳重管理されているから、使えないけどね。

でも、プロトとは言っても、性能差はほとんどないわ。帰って高い面もあるくらい。」

続く説明や注意事項によると、

性能的には、元々のホプラスの能力に近い、つまりは、新型で強化された能力は使えないということだった。水の最強魔法の事になるが、今までも使う機会がなかった。

また、強制回収が出来ないように、追跡や連絡用の機能を外す。外傷に対する再生能力(説明があったかどうかすら、覚えていない。大怪我しなかったから気づかなかったか。)も押さえられている。非常用の守護者能力は使える(これは新型では押さえられていた)が、ボディは負荷に耐えきれないので、吹き飛ぶだろう。

後は「死亡時」の違いだ。新型は回収または帰還を想定しているため、ボディだけ残されるということはない。このため、死後に体だけ残された場合、腐敗しないし、遺体らしい変化もない、特殊な死体が出来上がる。プロトタイプは、ほぼ自然に近いそうだ。しかし、遺体は残さない方針のため、致命傷を負うか、耐用年数を越えると、最後は霧か砂のようになって消える、という。

「耐用年数は、ワールドタイムで、せいぜい十年よ。今の状況から見て、そこまで最終決戦が長引くとは思えないけど、戦死にしても自然死にしても、大勢の前で、霧になるような状況は、避けて。

なるべく長生きしてくれないと、こっちのごたごたが片付くまではね。閉鎖されたら、死んでも回収に行けないから、そのまま消滅するわ。」

それを聞いたときは、一瞬、ためらったが、一瞬だけだった。ここまでやって、戻るからには、その覚悟がいる。だから、俺達は「守護者」だ。


ゲートに入る。博士の顔が霞み、一瞬暗転、それから、いきなり、爆音が響いた。


音だけではない、体の芯を揺るがす。熱、光、暗い空一面に、目一杯、広がる閃光。

戦闘の最中に出てしまったかと思った。俺がいなくなってから、何ヵ月か、季節は夏だ。おそらく本拠地のあるキャビク島で、戦いになっていたとしてもおかしくはない。

しかし、閃光と共に、上がった人々の声は、歓声であって、悲鳴ではない。

再び空が煌めく。


花火だ。


そう、季節は夏、花火大会だった。最初はナンバスかバイア湖か、と思ったが、違った。ここは、ラズーパーリだ。復興支援で移住してきた人々の中に、優秀な花火職人がいた。彼が得意とした海中花火が、ラズーパーリの新しい名物になっていた。

すぐにラズーパーリとわかったのは、俺が出くわしたのは、特長ある海中花火のプロローグで、ほどなく市長のスピーチが始まったからだ。音は拡声装置で割れぎみだったが、市長の後を受けて、来賓として、グラナドの声が聞こえた。

《復活を心から嬉しく思う。》

久しぶりに聞く彼の声。スピーチは、クーデターで中止していたものが、今年から復活することに関しての物だったが。

この花火大会には、昔、何度か来ていた。 隣にいたのはルーミだったが、今は、グラナドを探す。

花火は海上で、専用の船から打ち上げられ、貴賓席も船だ。後者は、埠頭に固定されている。俺は闇に紛れて、一般見物客の塊の、外れに出ていたが、ちょうど、貴賓席の真向かいの埠頭に近かった。貴賓席はよく見えるが、花火はやや斜めからになるため、他に比べて、それほど混まないし、座っての鑑賞は禁止されているエリアだ。花火を一部だけ見て、途中で抜けたり、早めに帰宅する者が集まりやすいため、流動的だ。だから、比較的、前に行きやすい。実際、最前前に行ってしまうと、一部見にくくなるので、時間はかかったが、流れに任せて、前に出ることが出来た。

グラナドは貴賓席の真ん中に座っていた。少しだけ微笑んで、隣の市長らしき男性と、何か話していた。話終わり、顔が正面に向き直る瞬間、俺は彼の名を叫んだ。

「グラナド!」

聞こえるかどうかなんて、考えなかった。ただ、一心に呼んだ。グラナドは、一瞬、正面を見たが、そのまま自然に顔を動かし、もう片側にいる、ミルファを向いて、何か話しかけた。

俺が叫んだと同時に、フィナーレの連続花火が始まり、声はかき消されていた。

終了の案内が始まる。人が、急速に去っていく。グラナドも、ミルファを伴って、船室に入ってしまった。

俺は埠頭から離れ、反対側にたどり着き、停泊してある貴賓席の船に近づいた。船は空で、だから近づけたのだが、所有者なのか、ホテルのロゴが入っている。ディニィの護衛で来た時も、ルーミと二人で来た時も、泊まった事はない。だが、今は、一番のホテルらしい。港のすぐ近くに、同名の看板があり、花火より華やかな看板が輝いていた。

広い庭があり、解放されていたらしく、片付けに追われる人々がいた。入口近くに、騎士の姿が見える。俺の知った顔ではないが、向こうは、俺をグラナドの護衛の一人として認識しているはずだ。近寄って、声をかけようとした時、中の一人が、

「ソーガスが。」

と言ったので、足が止まった。

「いまだに信じられないな。ご夫人とは、この花火大会で出会ったんだ。余興をやたら沢山呼んだ年があって、雨で一時中断して、余興は予定の半分しかこなせなかった。出る予定だった彼女は、運営に捩じ込みに来て、何故か俺達が仲裁した。懐かしいよ。」

発言した騎士は、ここの出身らしかった。ソーガスの妻は、地元のキャビク島の女性だと思っていたのだが、違ったようだ。

「ピウファウムの件といい、あり得ない事件が続く。この辺りじゃ無いだろうが、王都では、『陰謀説』まで出てきている。早く落ち着いて欲しいよ。」

騎士達は、一連の噂を話し、どうやらカオストは王都で軟禁、危篤だったベクトアルが回復して証言。花火への参加が妥当とは思えない、緊張した事態のようだ。

声をかけようとしたが、ワンタイミング早く、侍女らしき少女に呼ばれ、三人は慌てて中に引っ込んだ。

騎士がする雑談にしては、開放的というか、無用心な気はした。それも手伝い、早くグラナドに会いたかった。騎士を追いかけようとしたが、さっきの侍女に声をかけられた。

「ラズーリさん?!」

侍女ではなく、フィールだった。黒地に白レースの刺繍のあるドレスに、白リボンで、巻き毛をまとめていた。狩人族の服ではないため、解らなかった。

俺も驚いたが、声を上げる前に、廊下の隅に連れていかれた。

「隠密任務、終わったんですか?」

と聞かれた。そういう話になっていたらしい。説明しにくかったので、助かった。俺は、取り合えず肯定して、グラナドに会いたい、と率直に言った。

「『作戦会議』、今、終わったから、騎士はクロイテスさんのところに、みんな、集まってるわ。でも、殿下に直接、のほうがいいわね。」

フィールがここにいる理由、作戦会議とは何か、イベント参加に、団長のクロイテスが来ているのか、と、聞きたいことは山ほどあった。しかし隠密任務の件があるし、グラナドに尋ねたほうがいいだろう。

フィールは、廊下を軽い足取りで進み、紅い絨毯の白い階段のところに来た。登ろうとすると、横のエレベーターに手招きされた。

このホテルは、昔は、平屋で、敷地が広く、庭が美しい事で有名だった。三階建てにして、エレベーターを付けたのはいつか知らないが、エレベーターは手動ではなく、きちんとした最新式の、魔法動力の物がついていた。

「珍しいよね、これ。私、始めて見たわ。」

と、フィールが楽しそうに言っていた。三階なら階段でも、俺たちなら早いが、彼女はこれに乗りたがったようだ。

彼女が、ゾーイ(族長である、彼女の父のジーリに仕えている青年。)と共に、狩人族を率いて来ていることを話した。グラナドに会う前に、これが、イベントメインではなく、キャビク島への進軍のカモフラージュだと解ってしまった。一触即発の事態なのだろうか。

三階につき、直ぐのところに、宝石のようにキラキラした扉がある。ちょうど、シェードとレイーラ、ハバンロとファランダが、出てきた所だった。

三人は、俺を見て、目を丸くした。フィールは、狩人族の会議があるから、と、またエレベーターで戻る。それは数秒の事だったが、三人は、彼女が去るまで、呆然としていた。

最初に反応したのはレイーラだった。泣き出し、

「まあ、ラズーリ。」

と一言。ハバンロは、

「よくご無事で。」

とだけ言って、立ち尽くしていた。シェードは、

「ラズーリ。」

と、言ったきり。呆然としている。

ファランダが一番正気に戻り、背後の扉を素早くノックし、

「殿下、ラズーリさんがお戻りです。」

と言った。

部屋の中から、ミルファ、カッシーが出てきた。カッシーは目を見張り、

「ラズーリ。」

と、俺の名前を呼んだあと、

「帰ってきたのね。」

と満面の笑み。ミルファは、泣きながら、俺に飛び付いて来た。

近い仲間は、俺が消えた時の状況を知っているようだ。

「生きてたか。良かった。」

ファイスの声がする。ミルファの髪を撫でながら、彼を見ると、ちょうど、ドアの所に立ち、静かな驚きと共に、俺を見ていた。

「留守の間、ありがとう。」

俺はファイスに言った。彼が答える前に、背後から、アリンョンシャが表れ、

「大袈裟だよ、『偵察』くらいで。」

と言った。口調からして、彼も解っていた口だろう。

ミルファが、

「あ、ごめんなさい。」

と、俺から離れた。道が開けるなか、オネストスが出てきた。

「ご無事だったんですね…。」

と感慨深げに言った。

グラナドは、彼の背後にいた。大きく見開いた琥珀の瞳には、一見、何の表情も浮かんでいない。沈黙のあと、そのままの顔で。一言。

「お帰り。待っていた。」

それは、俺に、真っ直ぐ、矢のように、突き刺さった。その声の表情を体感しながら、俺は、

「ただいま。」

と答えた。


俺は、戻って来た。今の俺の、「唯一のもの」である、「勇者」の元に。



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