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琥珀の灯火・9

新書「琥珀の灯火」9


街に戻ると、俺達を見るや否や、カッシーが、勢い良く駆けつけてきた。銃を背負っている。瓦礫が飛び散り、足場が悪くなっていたため、歩きにくそうだった。シェードが迎えに飛ぶ。転送から出て、着地する時に、少しぐらついたが、ファイスが二人を支えた。

彼女は、何か慌てていた。俺達を軽く労った後、

「向こうは向こうで、大変なことになってるの。」

と言った。俺は、その言葉が無ければ、銃まで使えるのか、さすが多芸だな、と言うところだった。

カッシーに導かれて、病院の建物の中に入った。ミルファが長椅子に寝かされていて、レイーラが付き添っていた。カッシーが、彼女に「貴女も休んでいなきゃ。」と掛ける声は、グラナドが「ミルファ!」と叫んで、駆け寄る声に飲み込まれた。

シェードとハバンロが興奮して、何があった、と叫んだ。伯爵夫人が彼等を落ち着かせ、説明をする。


街の騒ぎは、俺達が戻る前に、一足早く落ち着いた。ミルファ達と伯爵夫人は、丁度、病院の玄関口にいた。そこに、小さい子供を連れたルヴァンが、いきなり現れた。

「ああ、お久しぶりです。」

と、人を食ったような挨拶をして、子供をレイーラの方に差し出し、

「この子、火竜炎症なんです。見てくれませんかね。」

と言った。

この地方の住人は、火竜炎症を見捨てられない。それでも伯爵夫人は怪しんだが、レイーラが早々と子供を受け取った事もあり、病院の中に運んだ。

浄化の魔法をかけた途端、子供の体から、急に薄赤い煙が吹き出し、レイーラを包んだ。それは一瞬の事で、次は急に矛先を変えて、ミルファに移った。ミルファは倒れた。レイーラは、最初は聖魔法、続いてシレーヌの術で、ミルファの体から、煙を追い出した。ルヴァンは、いつのまにか消えていた。

子供は10歳くらいの女の子で、火竜炎症は本当だったようだが、既に息絶えていた。


ミルファは程無く回復した。彼女は、子供の死に衝撃を受けていたが、俺は、意識を失っていた間の様子が気になった。先程、俺に起きた事と合わせると、共通点が気になるからだ。伯爵夫妻が事態の収集に忙しくなる間に、仲間だけになった折り、俺は自分の事を話し、ミルファにも出来るだけ詳しく話してもらうように頼んだ。

だが、ミルファは、ほとんど覚えていなかった。映像の記憶については、俺も似たような物だったが、彼女の場合、絵画(つまり静止画)が、素早く入れ替わり、色も鈍く、はっきり印象に残るものでは無かったからだ。しかし、最後の部分、意識を取り戻す直前に見たものだけは、はっきり覚えていた。その部分は動画になっていて、俺が見たものと同レベルのようだったが、音声は無かったそうだ。しかし、会話内容は「感覚」で、ある程度理解できた、という。

「ラッシルやコーデラの物とは違うけど、あれは宮殿だったと思うわ。私の隣には、男性の剣士と、金髪で、ティアラを着けた男の人がいた。ティアラの人は、ティアラ以外にも、宝石を着けてた。身分の高い人だと思う。剣士の人は、コーデラ系か、ラッシル系か、最北系か、よく解らない。東方系か狩人族と言われても、そう見えたかも。

私達、戦争中みたいで、凄く追い詰められてた。早く脱出して、と、剣士の人が言っていた。自分が残るつもりだったみたいで、私と、ティアラの人が反対した。

そこに、南方系の、大柄な男の人が、乗り込んできた。武器をこっちに向けているけど、私は、その人を見て、安心した。

話しかけようとしたんだけど、いきなり、その人に向かって、転んでしまった。

痛覚がないから直ぐに分からなかったけど、背中から刺されたか、切られたんだと思う。

剣士の人が、必死で私を呼んでた。私も、この人に、言いたいことがあったんだけど、言えないまま、だんだん暗くなっていって…。」

ここまで話すと、ミルファは、急に泣き出した。シェードとハバンロが、驚き、

「どうしたんだ、急に。」

「大丈夫ですか。」

としどろもどろに言った。彼女の両隣には、レイーラとカッシーがいたが、

「切られた、のよね。後から痛みが?」

と異口同音に言った。ミルファは、

「よく解らないけど、何だか、凄く悲しい。」

と答えた。俺はハンカチを貸そうとしたが、グラナドに先を越された。

俺の見たものを、ミルファの話しと合わせると、俺は「剣士の男性」の視界、彼女のは、南方系の、すらりとした女性の視界だろう。

「キャビク史は一通りさらったが、火山が頻繁に噴火していた頃は、移民を募ることが多々あったらしい。」

とグラナドが言った。

それは、俺の知識の中にもない。もっとも、古代史をすべてさらった訳ではないが。

「ただ、南方や東方のような、北の果てから見た、本物の遠隔地から、人が来ていた時期は限られてただろう。

今のキャビク島は、移民と言えば、コーデラ系かラッシル系だからな。移民の扱いについては、王によって差があったようで、重用されて宮殿に仕える時もあれば、人口が増えると追い出しに掛かった例もある。

時代の特定は簡単かもしれないが。

戻ったら人を裂くか。」

グラナドはこう言ったが、昔を特定したとしても、今の野望を止める事に、直結するかは解らない。今、俺が上と切れていなければ、役に立てたか、と思うと、自分がもどかしい。

「それでは、王都に戻る前に、ヘイヤント大学に寄りますか。」

とハバンロが尋ねた。

「ですが、こうなると、ソーガスに取り憑いている者は、古代のキャビクの王族か貴族、と言うことになりますな。自分の国民を復活させようとしているのでしょうか。これまでの事からしたら、納得は行きますが、それでも、ルヴァンのような男が、協力しているのは疑問です。ソーガスと違い、彼は操られているようには見えませんからな。」

ハバンロの言葉に、俺はファイスの発言を思い出した。彼は、「ソーガスの記憶」と言ったが、ソーガスに取り付いたもの(王らしき人物)の記憶ではないのだろうか。

俺の視線に気づくより先に、ファイス本人が、

「俺が見たものは、ソーガス本人の記憶だったようだが。」

と発言した。グラナドは、そう言えばそうだったな、と小声で言った。他のメンバーは、単純に驚いていた。

「ソーガス本人の物と分かったのは、何故だ?ソーガスに取り付いた者に、彼の記憶が入っているのではないか?」

とグラナドが問い掛けた。俺もそう思った。しかし、ファイスは、答えは違った。

「俺が見たのは、クーデターの後で、ソーガスの妻と子供が亡くなる所までだ。それまで、ルヴァンや、あのラッシルの騎士に似た子供や、オネストスの姿が見えたが、皆が見た、古代風の衣装を着た者はいなかった。

それに…。」

ファイスは、少し言葉を切って、言いにくそうに、

「ソーガスの妻になっ女性は、シュクシンでは有名な、非常に優れた舞踊家だった人だ。西シュクシンでは最高、と言っても良いくらいだった。外国人のバレリーナだった、と言っていた騎士がいたが、ラッシル系だったから、職業だけ聞いて、そう思ったんだろう。」

と言い足した。彼女を誉めるファイスの様子に、憧憬と言うには余りあるものを感じた俺は、

「名前は?」

と聞いてみた。

「リューナ・レネーギナ…ああ、芸名はナヒータ・ウォンだ。『巫女舞』と言って、跳躍の華やかな、西シュクシン独特の、舞踊の名手だった。王都で名は知らないが。」

カッシーとミルファが、聞き覚えがある、と言った。グラナドは、確か一度、公演を見ている、と答えたが、王都ではなく、ラズーパーリだった。

「それじゃ、古代人の二人と、ソーガスが甦ろうとしてるのか?でも、ソーガスは、生きてるよな?どうなんだ?」

とシェードが尋ねた。グラナドは、

「そこは分からないな。彼の最後の様子からすると…。」

と言い、あとは、考え込んでしまった。


結局、この時は結論が出なかった。ここに長居も出来ないから、まず王都に戻ろう、と言うことになった。アレガノスで見た石についても、何か分かったか、確認したかったからだ。


思案にくれるグラナドの瞳は、テーブルにあった、ガラスのランプを見つめていた。ランプはお飾りで、葡萄を模したガラスから、淡い紫の光が出る程度の物だった。

それが、グラナドの琥珀の瞳に、暗魔法の影を落としているかのようで、見ていられなくなった俺は、切れてもいない燃料を口実にし、そのランプだけ、消灯した。


翌日、俺達は王都への帰路を取った。伯爵の所から早々に去るのも、少し気が引けたが、伯爵は、

「私も近々、招集されるでしょう?また直ぐにお目にかかります。」

と明るく言っていた。


ヘイヤント経由で、王都に戻る予定だった。懐かしい土地だが、あくまでも経由の予定だったのだが。




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