表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の贈り物  作者: 紫李鳥
1/3

 



 女は、とある温泉駅で降りると、温泉街とは逆方向に行った。


 車道から逸れた小道を下りると、死に場所を求めて、その道を彷徨(さまよ)っていた。


 やがて、水の音が聞こえると、道に沿った小道を下りた。


 渓流沿いを(しばら)く行くと、渓谷の岩壁に洞穴を見つけた。


 風避けになる。この中で死に方を考えよう。そう思った女は、薄暗い洞穴に入った。


 壁際の出っ張った岩に腰を下ろすと、ボストンバッグから杏酒のボトルを取り出し、封を切った。






『……残念ですが、末期の(がん)です』


 不意に、医者の声が聞こえた女は顔を曇らせた。


 ……雪が降らないかな。どうせ死ぬなら雪に埋もれて死にたい。女はそう思いながら、ボトルをラッパ飲みした。


 けど、雪の時期まで生きられないらしい。もう死期が分かっているんだ、それまでを生きていて何の意味があろう……。女はそう思いながら、ラッパ飲みを続けた。



 ボトルの半分も飲むと、体の火照(ほて)りを女は感じた。


 これが所謂(いわゆる)、凍死の条件だ。山の夜は冷え込む。このまま眠れば、凍死できる。女はそう思いながら、尚も酒を流し込んだ。



 洞穴の外は宵闇(よいやみ)が迫っていた。


 さて、もう少しの飲んで体をポカポカにしたら、ダウンジャケットを脱ぐか。……凍死準備のために。女がそんなことを考えていると、洞穴の奥から何か物音がした。


 咄嗟(とっさ)に腰を上げると、女は奥に目を凝らした。だが、暗くて何も見えなかった。


ガサガサッ


 また、した。ビニール袋を触るような音だった。


 ……野鼠か?そう思った女はポシェットからケータイを出して開いた。


 その明かりを奥に向けると、何やら白っぽい物が見えた。女は目を凝らした。それは、レジ袋だった。


 渓流釣りに来た客の食べ残しに鼠とかゴキブリが(たか)っているのだろうか?そう思った女が洞穴を出ようと、ボストンバッグを手にした瞬間(とき)だった。






「オギャーオギャー」


 赤ん坊の泣き声がした。


「エッ!」


 女は振り向くと、開いたケータイの明かりを頼りに袋に歩み寄った。





 袋の中にいたのは、白っぽい衣類に包まれた乳飲み子だった。――





「お願いします。私を雇ってください」


 女の背中には、ダウンジャケットから顔を出した乳飲み子がいた。


「うむ……。うちは託児所がないもんでね。申し訳ない」


 旅館の主は、言いづらそうに言葉を濁した。


 ……乳飲み子を抱えてじゃ、どこも雇ってくれないか。女はそう思いながら数軒の旅館を回ったが、(ごとごと)く断られた。


 ……どうすればいい?やはり死ぬしかないか。どこの誰かも分からないこの子を誰かの家の前に置いてから。捨て子のたらい回しをされて、可哀想な赤ちゃん。そんなことを思いながら、女が道を戻っている時だった。


「ネッ!そこのお母さん、ラーメン()ってかない?」


 道端の屋台から女の声がした。振り向くと、ねじり鉢巻をした中年女だった。


「……お金が」


「なーに、出世払いでいいよ」


 中年女は、手を動かしながら無愛想に言った。


「オギャーオギャー」


「ほら、赤ちゃんも腹減ったってさ。いいから、座りな」


 中年女は、半ば強制的だった。


 女は長椅子に腰かけると、


「ヨチヨチ」


 と背中の乳飲み子をあやした。


「はいっ、お待ちっ!」


 中年女は、女の前に丼を置いた。


「……いただきます」


 女は感謝の顔を中年女に向けた。


「ゆっくり食べてな。買い物行ってくるから、留守番頼むよ」


 中年女はそう言ってねじり鉢巻を外した。


 ラーメンを食べながら女は泣いていた。そして、鼻水を(すす)りながら、麺を啜っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ