ブラック・ハズバンド
「はい、どうも~」
「こんばんは~」
「「よろしくお願いします」」
「いや~、今日も、たくさんお客さん入ってはるわ」
「ホンマ、ありがたい限りやわ。パッと見で、女性の方が多いようやね」
「ね~。べっぴんさん、べっぴんさん、三人飛ばして、べっぴんさん」
「どういう意味やねん」
「まぁ、お約束も済んだところで。あたし、いつになったら結婚できるんやろか?」
「あら? まだ諦めてへんかったん?」
「まだて、失礼やな。あたしは、年中無休で花婿大募集中よ」
「さよか。まっ、希望は捨てんとこ」
「せやけど、誰でも良い訳とちゃうからね」
「贅沢やな」
「いやいや、よぅ考えてみ? 世の中には、就職したらアカン企業があるように、結婚したらアカン男性って居るやろ?」
「ブラック企業ならぬ、ブラック・ハズバンドか?」
「そういうこと。結婚も一種の就職やから、よぅ考えてから選ばんと」
「選り好み出来るとは思えへんけど、一応、聞いてみよか?」
「まず、お金遣いの荒い男性はアカンね」
「あぁ、せやね。ギャンブルとか夜遊びとかする男性は、考えなアカンやろね。他には?」
「お酒やタバコにどっぷりの男性もアカンね」
「嗜む程度やったらエェけど、度を超したのはアカンやろね。それから?」
「浮気性な男性も、遠慮したいわ」
「これ、男性の方は気ぃ付けてくださいよ。バレてへんと思てたら、大間違いやから」
「女性の勘は、ベテラン刑事並みやからね。しばら~く泳がせといて、証拠を掴んだらギュッ!」
「熊が鮭捕まえたみたいなジェスチャーやね」
「ほっといて! で、本題は、こっからやねんけどな。浪費しない、下戸でタバコ嫌いの、一途な男性を一人見つけてん」
「ほぅ! そんなエェ人、どこに居るん?」
「中津の駅から東へ二十分くらい歩いたところに、古臭いアパートがあるんやけどな。そこの錆びかけの外階段を上がった二〇二号室に住んではるんよ」
「ちょい待ち。それ、あたしの旦那やないの」
「相方のためや思て、譲ったって」
「あげられへん」
「ケチやな。このブラック・ワイフ! 厚化粧する余裕があるなら、お小遣いを値上げしたれ!」
「誰が厚化粧や。エェ加減にしなさい」
「「どうもありがとう」」