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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第一章:白武者の誕生
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4話

 俺が纏った白の鎧は、純白のように綺麗であったが所々黒い斑点があった。しかし決して汚れではなくその僅かな黒と全体的な白がマッチしている。その姿はどこか見覚えのある色つきであった。

 ()()()――今の俺はまさしくその姿であった。白く輝く刀を翳し、目の前の蟻に立ち向かって見せる。


こんな鎧を着てもあいつらに敵うかどうか分からない、だからって俺が逃げる理由にはならなかった。良く分からないがこの姿ならこいつらと戦えるような気がする。戦えるなら、人を助けるためにその力を使って見せる!


「うおおおおおおおおッ――って速ッ!!」


その勢いよく蟻たちに突撃しようとするが、想像以上に自分の足が速くなっていたため思わずブレーキを掛ける。足が前より速くなったのは知っていたが、昨日より格段に上がっていた。

……もしかして、身体能力が上がっているのはこの鎧の力が元なのか?痣ができた日とも合っているし、そうで間違いないだろう。

そうして自分の強さに驚き立ち止まっていると、その間に蟻の方から仕掛けてきた。


「キキッー!!」


「おっと危ね!このッ!」


槍の突きを屈んで避けた後、カウンターとしてその腹を斬ってみる。刀を握るどころか剣道すらやったことがない俺が刀なんか上手く扱えるかどうか不安であったが、意外にも切れ味抜群で蟻の脇腹を裂くことができた。

その傷跡から緑色の血が地面にも落ち、苦しそうな鳴く蟻。想像以上に深く刃が入ったようだ。


「何だこれ、鎧着てるのに羽みたいに体が軽いぞ!」


戦国時代の鎧はとんでもなく重いと本で読んだことがある。なのでこの鎧も同じであまり簡単には動けないと思っていたが、その逆で寧ろ普通の時より素早く動けていた。

もう軽いのなんの、数回跳べば数メートル陸地から離れトランポリンに乗っているように高く跳ねている。鎧を着ているどころかまるで邪魔な服が無いような裸の気分であった。()()()()()()のようだ。


「これなら……何とかなるかもしれねぇ!」


自分の進化に確信を持った俺は雄叫びを上げながら1匹の蟻へと突撃していき、両手で刀を握って振りかざす。それに対し蟻は槍の刃でそれを受け止め、払った後でカウンターの突きと入れてきたのでそれを回避。

そこから刀と槍の斬り合いが続いていると他の2匹がこちらに飛びかかってきた。急いで地面を蹴って後退するが思いのほか飛んで危うく転びそうになった。


「とっと……うーん身体能力が上がりすぎて逆に動きづらくなったような気が……」


しかし何も良いことだけではなく、このように動き回るのは初めての経験で思うように動けなくなるという仇があった。思えばこの姿になったのは本当についさっき、慣れていないのも無理はない。

すかさず、蟻たちが一斉にこちらへ襲い掛かってくる。あっという間に囲まれてしまい三方向から槍で攻撃されていく。そのタイミングで直観で躱していき周りながら刀を振るい、3匹を一斉に蹴散らした。


「本当にすげぇなこれ!背中にあるこれなんだ?」


俺はそのまま背中の部分の武装に目を付ける。そこだけ展開できそうな形状をしており、その気になれば開けそうでもあった。

物は試し、そう思うと予想通りその甲冑部分が左右に展開し、中の薄い膜のような物が露になる。それが翅であることに気づくのに時間はかからなかった。カブトムシの兜に鎧、そして翅ということは……まさか!


「マジか!俺今()()()()!」


試しにその翅を羽ばたきを起こしてみると予想通り俺の足は地面から離れそのまま滞空した。よく聞く虫の飛ぶ音が背中から鳴り、本当に自分が飛んでいることを自覚する。


「何でもありかよ!うっひょーー!」


俺の興奮は更に高まり、調子に乗ってもっと高く空を飛んでみた。夜の空を縦横無尽に飛び回り飛行機にでもなったように風を全身で感じた。

と、いけない。つい蟻の事を忘れてしまった。子供みたいにはしゃいでいる暇はない、早いところぶっ倒さないと。


「よぉし!行くぞぉお!!」


そのまま俺は一気に急降下し下にいる蟻へと一直線に落ちていく。そして真上から蟻を切り裂いた後低空飛行を開始し他の蟻たちも次々となぎ倒していった。

スピードでは俺の方が圧倒的であり、蟻たちにカウンターを入れす隙も与えない。ずっと地上スレスレを飛び回って攻め続けた。しかしそこで翅から「ガガッ!」という音と共に上手く操作ができなくり、そのまま地面に顔から落ちた。


「うげぼッ!……いつつ、調子に乗りすぎた」


当然だが空を飛ぶなんて経験は初めてだったのでそれも慣れずに墜落してしまった。蹲りながら赤くなった顔を摩っていると、後ろから蟻が突き刺してくるのを察知し紙一重でそれを避けた。


「うおッやっべ!!」


慌てて立ち上がって刀でを槍の先を弾いていく。すると3匹が連携して同時に槍で突いてきた。いくら優れた直観があるとはいえ覚束ない刀では対応にも限界があり、やがて1匹の刃先が俺の肩に命中した。


「づぅう……!?」


それで白い鎧に穴が開いたわけではないが、その分の衝撃が肩に走り思わず態勢を崩してしまう。やはり鎧でもその衝撃は消せないらしい。そこに息をつく暇も無く他の2匹が同時に俺の腹部を攻撃する。それによって初めて鎧に穴が開き、俺の肉にまで到達した。


「あがッ!?」


鋭い痛みが電撃のように走り、そこから大量に血が溢れていく。あまりの痛みに突かれた部分を抑えながら後ろへとジリジリ後退した。

そんな苦痛に悶える暇も与えてくれず、俺の肩を突いた方の蟻が再び襲い掛かってきたので咄嗟に右に転がって回避する。動くたびに傷が応え痛みと出血が酷くなっていく。は、腹を刺されるというのはここまで痛いものなのか……


(そうか……これは()()()()なんだ、ゲームでも遊びでもない、負けたら死ぬリアルのバトル……!!)


初めての鎧に興奮していたせいもあって、今行われているのが生死を賭けた命のやり取りだということを忘れていた。それに気づかせてくれたのはこの痛みであり、生きたいという生存本能が頭を活性化させる。


もう子供みたいに馬鹿やってる場合じゃない――俺は、こいつらに勝って生きる!


その決意と共に刀を握る力をより強くし、引き締まった心で敵を捉える。もうこの姿の動かし方も大分分かってきた。翅を使うのはなるべく止めよう、確かに空中戦なら俺の方が有利だが何分まだ使いこなせていないのでさっきみたいに落ちるのが目に見えている。それに、馬鹿は高い所が好きだとも言う。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」


叫びながら走り出し、一番前に出ていた蟻と対峙する。まずは槍と刀の刃同士をぶつけ合ったところで俺が蟻を蹴り飛ばす。するともう1匹の方が蹴飛ばされた奴を踏み台にして跳び、真上から槍を振り落としてきた。

咄嗟に刀を横にしてそれを防御、急いで刀を持ち直して次の一手を対処していく。本来ならこんな攻防などついてくるのも無理だろうが、今の俺なら直観と身体能力で蟻と同格に戦えていた。


「はぁああ!!!」


そして下から掬い上げるように刀を走らせ白の軌道を描く。それで蟻の体を斜めに切り裂き、姿勢を崩れた後で今度はその首元目掛けて刀を振った。

斬撃音と共に蟻の頭部は零れ落ち、そこから緑色の血が上がる。当然斬った張本人である俺に返り血は付着し、いつしか白の鎧は緑に染められた。しかしそんなことも気にしていられない、残りは後2匹だ。


「キキッ!!キッーー!!!」


すると仲間を殺されたことに怒りを覚えたのか、より狂暴そうな目つきになり2匹同時にこちらへ迫ってきた。1匹の突きを刀で弾き、もう1匹の払いを跳んで躱す。その猛攻に後ろへ押されていたが正確に対処していった。

そこで槍が俺の頬を掠り、先ほど突かれた場所をもう一度攻撃される。そこにも刃の先端が食い込み傷を付けられた。


「づぅう!!うおりゃああああああ!!!!」


しかしその激痛にも決して負けることなく俺は前へ踏み出す。そして今度は俺が蟻の腹を貫き、そのままバラバラに細切れにした。更に返り血が体に付着しもう少しで目に入るところだった。


「ハァ……ハァ……だりゃああ!!!」


「キキッ!?」


残りは1匹、体の限界が早くも訪れていたがここまで来れば無理に突き通せば勝てるはず。サシの勝負が始まった。

疲労と苦痛に襲われている俺と脇を斬られた蟻、お互いに手負いのこの勝負はほぼ互角で激しい金属音が鳴り響く。それは刃同士がぶつかり合う音、何度も何度もその音が響き俺たちの体を震わせていた。

すると蟻は俺の刀の軌道を払い、ガラ空きとなった懐目掛けて槍を突き刺す。先ほど刺された箇所にまた刃が食い込んだ。


「アッ……ガァ……!!!」


一度ぐちゃぐちゃになったところを更に刺され、かつて感じたことのない痛みが腹を襲った。尋常じゃない程の苦しみで思わず気絶しそうになったが、それでも意識を保ち、そのまま蟻の()()()()


「キッ――!?」


「せいやぁああああッ!!!!!」


そうして動きを封じた上で片手で握る刀に全神経を集中させて、それを力強く振り下ろす。白い斬撃が蟻の頭から入りそのまま股まで通過し、最後の蟻の体を左右に裂いた。

それでようやく全ての蟻を倒し、その死骸を見渡す。槍を抜いた後で一息吐くと俺の体を纏っていた白い鎧がドロドロに溶けていき、いつしか元の姿に戻った。


「ははッ……何とか勝て……た」


俺は勝利の喜びで破顔するも、痛みに耐えきれなくなりそのまま崩れるように倒れ込む。そのまま眠るように意識が薄れていく中、最後に俺が見たのは()()()()()()であった。

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