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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第六章:羽音響き渡る三つ巴
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48話

 英と黒金、そして面義が去った後現場で対峙する鴻大と勝家。ヘラクレスの鎧が堂々と降臨しその黄褐色の色を曝け出し、勝家率いる大群を圧倒している。別になんてことはない、今我らの目の前にいるのはただの武者――のはずだ。そんな疑問が今にも出てきそうであった。


しかしイナゴたちの本能が目の前の武者に対し警戒を解いてくれない、そして現に今自分たちの仲間が一瞬で葬られた事実もある。足軽たちを後ずらせるには十分な理由であった。

唯一怯えず、寧ろ正面から対面しているのは勝家ぐらいだろう。


「貴殿とは以前会ったことがあるな、あの時は刃を交えなかったが……ある意味この瞬間も我は待ちかねていたのかもしれない」


「そうだったな、あの時は対峙しただけか」


そしてこの2人は戦わなかっただけで顔を合わせたことはあり、それは黒金が先行し無謀にも勝家に単独で挑んだ際のことだ。あの時の鴻大はあくまで黒金の救出が目的で、戦闘は視野に入れてなかった。

あの時、2人は相手の実力を確かに察知していた。目を合わせ互いに冷や汗を掻き、今この場では戦うべきではないと判断した訳だ。


しかし今は違う、「今ここでこいつを倒さないと死ぬ」という嫌な予感を感じ取り殺気をこれでもかと放っていた。

言ってみれば、この戦いは両勢力の強者がぶつかるということだ。一応英たちの弁解はするが、鎧蟲を統べる一角である勝家の相手には鴻大が相応しいだろう。


「貴殿にも問おう、何故戦う?その志を示してみよ」


「戦う理由ってことか?うーん……俺は別に英や黒金みたいな大きな目標は無いが……()()()()()()()()()()()()


「……それは?」


「娘だ、例え命を懸けてでも俺は娘を守る。あいつは虫嫌いなんだ、だからお前らみたいな奴にのさばられると迷惑だ」


「――成る程、少なくともあの盾武者よりかは強い意志を持つか。名は何と申す?」


「我こそは……ヘラクレスオオカブト!はぁあッ!!」


鎧蟲風情に名乗る名など無い――そんな意図はないが、鴻大は敢えて己の名前ではなく鎧の元となったカブトムシの名前を叫ぶ。

そして鞘から長い刀身を一気に引き、姿勢を低く勝家に向かって走り出した。


正面からの真っ向勝負、勝家はそれに対し瓶割矛を斜めに構え来るであろう横からの一太刀を上へと弾き、その懐に刃先を突き刺そうと試みる。

鴻大も両手で柄を強く握りしめ滑り込むように勝家へと接近、そして勝家の思惑にも気づかずそのまま一太刀を放つ……そう思われた。


「――ッ!?」


しかし鴻大は一歩踏み出すと同時に翅を展開しそのまま勝家の頭上を飛び越える。予想に反した動きに勝家は一瞬混乱し、そのまま背後からの斬撃を防げず傷を負う。


刃で深く斬られた勝家は何とか持ちこたえ、振り返ると同時に自分の矛を走らせる。しかしその刃先は太刀によって受け止められてしまい、逆に自分が弾かれ再び一太刀浴びせられてしまった。


「ぬおおッ……ハァッ!!」


血がその傷をなぞるように噴き出し致命傷ともいえる痛みが襲ってくるが、勝家も負けじと鴻大の隙を狙い、その脇へ瓶割矛を突き刺す。貫通することはなかったがその刃は血肉を切り裂いた。


「ぐッ――せいやぁあ!!!」


「フッ――カァッ!!」


お互いに1つの傷を負った状態で再び面を向き合う勝家と鴻大、どちらも斬られたがその目から敵意は抜けておらず寧ろ更に燃え上がっていた。


そうして始まる斬り合い、どちらも一歩も引かずに己の武器を走らせ何度も刃がぶつかり合う。矛が太刀に防がれ、太刀が矛に防がれる――一見単純そうに見える争いだが、実際は敵の一手先を読み予測し行動に移している。


(複眼の矛、二之眼――鬼眼!!)


「ッ――のわッ!?」


そこで勝家の渾身の一突きが繰り出され、鴻大はそれを受け止めようとする。しかしそれだけで防ぐことはできず、そのまま後ろへ吹っ飛ばされてしまった。


しかも勝家の攻撃は終わらず、吹っ飛ばされた鴻大が地面に落ちる前に翅で一気に加速してきた。


そして何度も矛で突き絶え間なく攻撃し続け、勝家の早業が空中で魅せられる。そうすることで更に鴻大の吹っ飛びは勢いを増し、遠くに乗り捨てられた車に激突した。


「あがッ……ッ!!!」


「――障子破りッ!!」


鎧で守られているとはいえ車に激突したので結構なダメージを受ける鴻大、全身を襲った衝撃に顔をしかめていると、突如として彼の虫の知らせが反応する。勝家がいつの間にか矛を構えたまま接近していたのだ。


咄嗟に車を手で掴みその上へと避難すると、その瞬間勝家の連続突きがさく裂しさっきまで鴻大がいた場所――つまり車に次々と穴を開けていった。


刃が擦れた際に散った火花が残ったガソリンに引火したのか、結果その車は大爆発を起こし鴻大と勝家の中を爆風の壁で妨げる。凄まじい熱量が勝家に吹いた。


「ヘラクレスオオカブト――水蛇滅多切りィ!!」


「なッ――ッアァ!!」


もうこれ以上の追撃は不可能だ、そう諦めた勝家に大量の斬撃が襲い掛かる。それらは爆発の炎を突き破り、その向こうにいる勝家の体を次々と切り裂いていった。


更に爆風を一刀両断され、その奥から鴻大が飛び込んでくる。今度は自分の番だと言わんばかりに畳みかけてきた。


「――獅子首落としッ!!!」


既にその太刀は一度鞘に納められ、勝家の目前まで接近したところで一気に引き抜かれる。その居合切りは容赦なくその首を斬り落とそうとするも、直前に瓶割矛で防がれてしまった。


「くッ……やはり貴殿が武者の頂点であったか。我の動きに付いてこれ尚且つ大胆不敵さを持つ、例え敵だろうが強さを極めた男を我は称賛する」


英たちの時と比べて若干の余裕を失っている勝家、しかしそれ以上に強敵との対面に喜んでいる節が見られ、例えトンボの顔だろうが喜んでいるのが分かった。


「別にお前らに褒められてもなぁ……だったら大人しくやられてくれないかな?」


「敵が刀を構えるているのに武器を納める戦士がどこにいる?確かに貴殿の強さは素晴らしい、だが大人しくこの首を差し出すつもりはない!」


声を弾ませながらも勝家は地面を蹴り鴻大へと突撃、勢いよく矛で貫こうとするも鴻大は跳んで上へと躱す。しかし勝家はそのまま矛を振り上げた。

それでも鴻大は両足でその刃を踏み更にジャンプ、そしてその真上で素早く刀を構える。


「ヘラクレスオオカブト――金鹿(きんじか)()い!!」


そうして斬り放たれたのは水蛇滅多切りとは全く違う斬撃、しかし斬撃と言ってもまるで光の帯のように薄いものであった。

しかも特殊なのはその形だけではなかった。今まで目にしたことも無い攻撃に勝家は目を丸くする。


(不規則な軌道!これは本当に斬撃か!?)


その動きはまるで生きているかのような機敏な動きで、尚且つ素早く動き回っていた。その動きはまさしく山を駆け下りる鹿の如く、黄金に輝く斬撃が勝家を翻弄した。


「三之眼!視野嵐ッ!!!」


対し勝家は矛を回しそれを迎撃、飛んでくる2つの斬撃を弾き何とか防ぐことはできたがその衝撃で後ろに押され、勝家は踏ん張りを利かし何とか立ち止まった。


着地した鴻大は更に2つの斬撃を放ち遠くから立て続けに攻撃していく。続々と飛ばされる金色の斬撃は瓶割矛によって弾かれていくが、1発1発を受けるたびに勝家は押されていった。


「くッ……はぁああああ!!!!」


すると勝家は雄叫びを上げながら一気に翅を広げ、勇敢にもその大量の斬撃の中を低空飛行で突き進んでいった。迫りくる鴻大の斬撃を弾いて躱し、あっと言う間に鴻大の目前まで迫ることに成功する。


「四之眼――」


「ヘラクレスオオカブト――」




(まばたき)刻みッ!!」


「――獅子首落としッ!!」


鴻大は接近してきた勝家を居合切りで迎え撃ち、2人の強烈な一太刀が交差した。

鋭い音が一瞬鳴ったと思うと、両者の位置が逆になっており背中を向けたままの状態で落ち着いていた。先ほどまで激烈を極めていた戦いに静けさが訪れ、お互いに武器を振り下ろしたままである。


一体何が起きたのか、この場で第三者の役割を決めるならば勝家の部下であるイナゴたちであろう。彼らの目では何があったか全く見えなかったし、その頭の中では「どちらが勝ったか」という疑問しか浮かび上がらなかった。


そしてその勝敗は、次の瞬間判明する。


「ぐッ……ガハッ……!」


最初に変化があったのは鴻大、鎧を切り裂き彼の血が盛大に噴出されていく。そのまま大量出血と痛みにより膝をついてしまい勝家に付けられた傷を抑えた。

一方勝家の方には何もなく、ピンと背筋を伸ばし立っている。矛先についた鴻大の血を払い、遠目でその顔を確認した。


「……どうやら、勝負はあったようだな」


「ああ、悔しいが……()()()()のようだ」


「――ッガァ!?」


勝利を確認し余裕の言葉をかける勝家に鴻大が見せたのは、緑の鮮血が付着した自分の太刀。それを見た勝家は何があったのかをすぐに察知するも、驚きで体を僅かに体を動かした途端4()()()()()()()()()()()()()


鴻大の言う通り引き分け、あのすれ違いの瞬間何とか勝家の翅を斬り落としたのだ。その傷から出血し、勝家は鴻大と同じように崩れかける。


(馬鹿な……あの一瞬で?我の速さと同じだというのか!?)


「父親……舐めんなよ!」


武将が重傷を負ったことにより周りのイナゴたちが一斉に彼の下へ駆けつける。数匹は心配そうにその傷の具合を見せ、残りは守るように薙刀を構えて立ちはだかった。

これにより、甲虫武者側と鎧蟲側で綺麗に分かれたわけだ。


「まだやるか?なんならお仲間ごと斬り裂いてやる!」


すると鴻大は汗をどっぷりと出しながらも立ち上がり、その青くなりかけている表情を無理やり余裕のあるものに見せ、勝家に向かって刀を差し向ける。

一方勝家も足軽の手を借りながらも何とか起き上がり再び両者が対面した。勝家の方も辛そうに息を上げ、それでもなお瓶割矛を構えている。


「……いや止めておこう、あの盾武者の言葉を借りると貴殿の首はそう安くないらしい。後ろ髪を引かれる思いだが……この場は退かせてもらう。()殿()()()()()()()()だろう?」


勝家がそう言うとその背後に蜘蛛の巣が出現、そしてイナゴの軍勢と共にその中へと去っていきこの場からいなくなった。虫の知らせも途絶え、これで残っている鎧蟲はいないということも分かる。

勝家たちが去ったことにより、自身も鎧を溶かし警戒を解く鴻大。そして秒を数えぬ暇も無く尻から倒れて座り、疲れの声を上げながらその場に寝転んだ。


(……ヤバかったのはこっちもだ、あいつはそれに気付いた上で去った。確かに引き分けとは言ったが、俺の方が助けられたな)


そしてあの一撃を受けた時点でもう限界が近かったが、鴻大は無謀ともいえる挑発をした。結果何とか無事に済んだが、勝家にまだ戦意が残っていれば間違いなく殺されていただろう。

数も向こうが上、あのまま居座っていたらと思うと背筋がゾクリとする鴻大であった。


「……いおーーん、お父さん頑張ったぞー」


いないはずの娘に対しそんな一言を添える鴻大、それはある意味自分への労いの言葉でもあった。

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