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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第四章:鬼蜻蜓の武将
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32話

ジャージを着替えて裏口から外へ出る俺、そこにはスーツの上着だけを脱ぎ捨てて真っ白なシャツ姿となっている。ネクタイも外して窮屈な首を解放していた。


「フン、貧相な格好だな」


「うっせ、俺のじゃねぇよ」


そんな悪態をいきなり吐き捨てられてしまう俺、寧ろこの場ではその高級スーツの方が不相応だろうに。でもまぁこのジャージがボロボロになっているのは否定できない、しかしそれは師匠との修行も苛烈を極めている証拠でもあった。

それにしても、まさか黒金が本当に勝家と戦っていたとは。そしてその際師匠に助けられたという。取り敢えずあの人の安否を確認できて安心した。


「でも珍しいな、お前が俺に頼るなんて」


「別にお前を当てにしているわけじゃない。打ち込むなら馬鹿でも動くサンドバックの方が良いと思っただけだ」


こいつはその際に奴との実力差を実感させられ、それを埋めるべく俺にトレーニングを頼み込んできたのだ。こいつは確かにムカつく野郎だが慢心はしない、今のままでは勝てないということをちゃんと理解して帰ってきたのだ。

確かにいくら黒金でもあの武将に単独で勝つのは難しいだろう、そこで俺の出番という訳だ。俺にできることがあれば何でもする!


「で?トレーニングって何すんだよ」


「勿論――奴に勝つためのものだ」


そう言って黒金は打倒勝家という目標を掲げその内容を説明してくる。正直そういった考えるのは全部黒金に任せた方が早いだろうし、たった1回の差だけど勝家との戦闘経験はこいつの方がある。

こうして復讐心から冷静さを取り戻したということは、何か策を思いついたに違いない。


「お前でも分かると思うが一応再確認しておく。あの勝家という武将は兎に角速さ、ほぼ目で捉えきれないスピードで動き続けこちらを翻弄してくる」


「ああ、滅茶苦茶速かったよな」


一番印象に残っているのはあの速さ、トンボの翅で一気に加速し即座にこちらの視界から外れるあのスピードはまさに神速と呼ぶに相応しいだろう。そして聞けばなんと師匠の水蛇滅多切りの斬撃を全て躱したという、全くもって恐ろしい限りだ。

俺も黒金も一方的にやられ、あの矛で刺されてしまった。一度消えられてしまったらもうどこにいるのか分からない。虫の知らせによる第六感が必須であった。


「そしてあの矛……どうやら瓶割矛というらしいが、あの鋭さも侮れん」


「名前あるのか、まぁ分かるよ。俺なんか腹刺されたし」


鎧蟲も自分の武器に名前なんか付けるのか、益々人間臭い。これなら共存も上手く行くのでは?というのは今考えることじゃない。

確かにあの矛も凄まじかった。硬さを誇るグラントシロカブトの鎧にはいともたやすく穴を開けられ、黒金に至った肩の傷が貫通した。甲虫武者に再生機能が無かったら死んでいたかもしれない。それ程までに強烈な武器だった。


「この2つをどうにかしないと俺たちは勝てない。と言っても正直あの速さについていくのは俺や鴻大さんでも難しいだろう」


「じゃあどうすんだよ?」


結局勝家のことについてまとめても、その強さを再確認させられただけに終わる。でもあのスピードと同じように飛ぶというのは流石に想像がつかない。そもそも甲虫武者の翅で早く飛べるようになるにはどうすればいいんだ?


「目で追えないなら()()()()に頼ればいい。とどのつまり更に虫の知らせを鍛えるんだ」


「虫の知らせを……?でもそれでも駄目だったじゃん」


そして黒金が提案したのは新たな技の開発や飛ぶ練習でもなく、虫の知らせを鍛えるトレーニングであった。確かに虫の知らせは優れた直観だ、けどいくらなんでもあのスピードの対策になるとは思えない。


「甲虫武者にとっての虫の知らせはある意味目や耳、()()()()()()()()()()()()。目で無理なら自分の中の虫に頼ればいい、お前が思っているよりかは優秀な機能さ」


「それってつまり……虫の知らせであいつの動きを予測するってことか?そんなことできんのかよ」


今までだって俺は何度も自分の虫に助けられた。鎧蟲の出現、死角からの不意打ち、この能力が無ければ死んでいた場面だって沢山存在していた。

しかしそれは攻撃が()()()()()()()()()()場合の話、飛んでくる矢を避けた時もその殺気の方向を察知しただけで矢自体の軌道を把握しているわけじゃない。


()()()()()()()()()に、虫の知らせに優れた奴がいる。そいつは他人の挙動や言動、敵の動きまで全てを把握しているかのような動きをしていた。実力自体はそこまで強いわけじゃなかったが……それでも虫の知らせを駆使し俺と肩を並べていた」


イマイチ虫の知らせを重要と思っていない俺に対し、黒金は例を挙げてそれについて教えてくれた。その際出てきたのは黒金の仲間らしい甲虫武者の存在、よっぽどの信頼関係なのか、珍しく他人を評価しているようにも見える。

そして黒金の話を要約するとこうだ。虫の知らせは例え本人が弱くともそれを補えるほどの能力ということ、思えば俺も初めて虫の知らせを使ったからこそ1人で戦えるようになっていた。


それにしても、甲虫武者の知り合いか。もしかしたらそいつにも顔を合わせることになるかもしれない、黒金みたいに嫌な性格じゃなければいいが。


「俺とお前、2人掛かりで虫の知らせを展開し勝家の動きに対応する。いくら奴が速くとも甲虫武者の索敵能力ならできるはずだ」


「虫の知らせを2人ですんのか……確かにそれなら何とかなるかも!」


そしてその能力を俺と黒金、同時に行うことで互いの死角を埋め合うといった作戦だ。確かに俺たちが協力し合えば予測不可能な奴の動きに何とかついてこれるかもしれない、動きさえ分かればこっちのものだ。


「それで……だ、こういう特訓の仕方をする」


すると黒金は懐から見慣れたものを取り出す。鉢巻のように長い布、それは虫の知らせを鍛えるため視界を封じるための目隠しであった。俺も師匠との修行で何度もお世話になっている。

虫の知らせは第六感、目でそれを捉えようとすると鈍くなるのでこうして目を覆って己の虫に全てを託すのだ。


「それなら師匠とも何度かやってる、慣れてるぜ」


「いや……今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()


そう言って俺に目隠しを渡してきた。まずは俺が視界を封じて黒金が俺にボールを投げてくる、それを俺が虫の知らせだけを使って弾いていくのだ。地味に見える内容だがこういうコツコツと地道に鍛えるのが大事だということを、師匠とこの修行から学んだ。

しかし黒金は、もう1枚の目隠しを取り出した。ボールを投擲する者も目を隠せば特訓にならない、何を考えているのか?


「それは()()()だ。今から互いに目隠しした状態で勝負を始める」


「れ、連携力……!?それが何か関係あんのか?」


何と黒金も目を封じそのままの状態で試合を始めるという、予想だにしていない内容であった。そして連携力という一見虫の知らせと何の関係もなさそうなことを提案し、それも鍛え上げるつもりらしい。


「いくら俺たちの虫の知らせがどんなに優れていようが……コンビネーションができていないのなら無駄だ。こうして目を隠し、虫の知らせだけで打ち合うことで相手の動きを100%完璧に理解する」


黒金は下に落ちていた2本の棒を拾い上げ、オオクワガタの二刀流を再現してきた。俺も1本拾って目を隠し自分の視界を闇で覆った。

確かに連携力が無ければ例え虫の知らせを2人で使っても意味ないだろう、お互いの動きを完全に頭へ叩きこんで隙の無いコンビネーションをしなければならなかった。

しかし、1つ問題があった。


「連携……お前とか」


「文句を言いたいの子はこっちだ。自分で言ってなんだが、お前と連携できる気がしない」


それは、つまり俺と黒金が()()()しないといけないということだ。正直言って確かに甲虫武者としてのこいつは認めているがその性格に対してはまだ否定的な自分がそこにいる。そう簡単に連携ができるとは思えない。

そしてそれは黒金も同じ、性格の不一致という理由も当然あるが一番の原因は……


「鎧蟲と共存ができるなんていう世迷言を言う男なんか特にな……」


「ッ……それは」


どうやら黒金はまだそれについて不満を持っていたらしい、俺が武将――つまり仇の仲間と和解を持ちかけたことに呆れそして怒っていた。俺と黒金の間にある溝が深い理由はこの価値観の違いが殆どだろう。

さっきまでの俺ならここで謝って何とか説得していたかもしれない、だけど伊音ちゃんのあの言葉が俺の背中を押してくれた。


「……俺はまだ諦めてないからな、言葉が同じなら理解もできるはずだ」


「言っていろ……ただし、戦闘中にそれを持ち越すな」


闇の中で聞く黒金の言葉は、虫の知らせのせいかその中に秘めている感情がよく分かる。怒りも呆れもまだ残っていたが最初の時と比べてやや小さくなっていた。俺に何を言っても無駄だということを察したのだろう。

正直これでまたいがみ合いが始まるならばコンビネーションも連携力もあったもんじゃない、今だけは思想の違いを噛み締めて耐えよう。


こうして俺と黒金の修行が始まった。虫の知らせで相手の位置と動きを必死に理解しようとし、己の感情を棒に込めて殴り合う。これは勝家に勝つための修行だが、これは互いのことを理解し合ういい機会かもしれない。

敵と和解するならまずは味方と意見を合わせなければならない、様々な思考が真っ黒な視界の中で蠢いていく。

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