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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第三章:黒武者の開戦
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26話

ようやく戦いに決着がついた。今回現れた俺も黒金も見たことがない新種の鎧蟲「ダンゴムシ」、その甲殻は黒金の金剛砕きでも破れず尚且つ凄まじいパワーの持ち主と言う攻守において強敵であった。


――正直言って、今回のバトルに黒金(こいつ)がいて良かった。俺1人じゃあの硬い甲殻を前にどうすることもできないだろうし、そもそも黒金のおかげで俺は自分の強さを知ることができた。


グラントシロカブトの特性は()()()()――どんな攻撃も受け止めることができるし簡単に壊れない。黒金のオオクワガタとは対照的であった。

最初は守りが強いと言われてもピンと来なかった、でも今は違う。この鎧の凄さを実感できている。


「蜂の方はお前が食え、このダンゴムシは俺が食う」


「いやお前の方が傷が酷いから量がある方食えよ。俺は大丈夫だ」


「別にお前の事なんか気遣ってない、もっと強くなりたいなら譲るな」


「うっ……分かったよ」


そう言って謎の譲り合いをしたところで俺は蜂の死骸の山、黒金はダンゴムシの死骸の前で自分の痣を翳す。そしてその骸を欠片一つ残さず吸収した。するとこいつらに付けられた傷が治っていき、完治どころか今まで以上に体が強化されたような気がする。


甲虫武者になってから俺も随分鎧蟲を倒し、その死骸を食べてきた。その分俺の体は強くなっていきグラントシロカブトの鎧も強化されているという。確かにもっと上を目指すなら遠慮しない方が良い。


やがて全て片付いた後で俺も黒金も自分の鎧を解く。あいつも綺麗なスーツ姿に戻りポケットに手を入れたと思うと、そこから何かを取り出しこちらへ投げ渡してきた。


「チョコバー……俺は今ので十分回復で来たぞ」


「だから譲るなと言うのに……それは()だ。認めたくはないが……お前がいなければ勝てなかっただろう」


「……ッ!」


それはつまり、俺が黒金のことを認めたようにあいつも俺の事を甲虫武者として認めてくれたということだ。今までは素人と蔑まれ甘い奴だと指摘されたが、一応は俺を仲間と認定してくれたわけだ。


俺も同じくさっきまでこいつのことは正直言って嫌いだったが、この戦いを通じて黒金も同じく命を懸けて戦う甲虫武者の仲間として信じることができた。嫌な奴だが、人間としてクズというわけでもない。

だが完全にあいつを認める前に、どうしても聞かなければならないことがあった。


「なぁ黒金、お前は何で――そんなに鎧蟲を憎んでいるんだ?」


「……!」


そのまま去ろうとしていた黒金だが、俺の問いに歩みを止める。この間の店のようにいきなり激怒したり無視するわけでもなくただ黙り込んだ。


ずっと気になっていた。黒金は子供の命より鎧蟲退治を優先する男。この際それについてはもう何も言わない、だけどそうまでして鎧蟲と戦いたい理由が知りたかった。


『……俺は、そんな偽善活動に興味は無い。ただ鎧蟲を殺したいだけだ!』


『あるさ――怒りでどうにかなりそうな程な……!』


その行動は、全て鎧蟲への憎しみを糧にされていた。俺に悟られないようにしてたが隠しきれない程の憎悪、冷静沈着を装っているが時折感情的になることもある。

間違いない、黒金には何かある。そしてそれを知りたい、なのでこうして真正面から聞いたのだ。


「……俺の両親は、物心つく前の俺を捨ててどこかに消えたらしい。そしてそんな俺を引き取ってくれたのが黒金家……俺の会社の前社長の家庭だった」


「――ッ!」


そうして背中を向けたままの黒金が話してくれたのは、想像以上に暗い過去。つまり黒金には、血の繋がった家族がいないということだ。

地雷を踏んだと思った、だけど黒金はこうして自分の過去を話そうとしてくれている。だったら引き下がるわけにはいかない。


「2人はとても良い人だった……そして()()できた。俺がその家庭に馴染んでから5年、元々子供が欲しくて俺を引き取ったんだが、ようやく実子が生まれた」


その壮大な過去に俺は思わず息を呑んでしまう。親に捨てられ、家族を失った黒金に勝手ながらも同情と――そして()()を抱いた。


「例え実子が生まれようとも2人は俺を対等に愛してくれた。妹も中学生で一度反抗期になったが真っ直ぐな女だった……その頃だ、俺がオオクワガタの鎧に選ばれたのは」


「……まさか」


そこで俺はその後の展開に気づく、いや()()()()()()()()。やけに存在を前に出す家族の話、そしてそれと同列に語られる自身の甲虫武者の覚醒。できれば勘違いであって欲しかった、だけどそれは無情にも黒金本人が説明していた。


「馬鹿でも察しが良いか。お前の考えてる通りだよ……俺の家族になってくれた人たちは、()()()()()()()んだ!」


すると火が付いたように大声を出した黒金は、更に荒くなり俺の下まで駆け寄ってきた。そしていつかと同じようにその首元を掴み顔を近づけて先を語った。


鎧蟲に殺された、ああなって当然だ。家族――しかも捨てられた自分の心の在りどころになってくれた者たちが殺されては黙っていられない。恨むというのが無理な話だ。


「あの日のことは忘れない!待ち合わせの場所に行ってみればそこには倒れている複数の人間、その中に紛れ込んでいる家族!俺が話しかけた瞬間その肌は気持ち悪い色に染まって粉々に崩れ去った!

そして見た、泣き崩れ去る俺を見下す()()姿()を――!」


「蜂……!?」


「今さっき俺が蹴散らしたような雑魚じゃない、他の鎧蟲とは何かが違った……そして気づいたさ、こいつが俺の家族を殺したんだってな!」


聞けば聞き程心が締め付けられる過去だ、まるで自分のように思えて苦しくてしょうがない。すると黒金は俺から手を放し、息を整えて落ち着こうとしていた。

俺は申し訳ない気持ちになった、こんな辛い話をさせてしまったのだ。自分の愚かさに怒りが湧いてくる。


「ハァ……ハァ……もう一度俺に言えるか雄白、子供の命を優先しろと!正直言うと鎧蟲共さえ殺せるならどうでもいい!これが俺の復讐だ、あの蜂は勿論、全ての鎧蟲を殺すまで俺は戦い続ける!」


「……ッ」


無理だ、こんな話を聞かされたら何も考えずにこいつへ当たり散らしていた自分が恥ずかしくなってきた。俺とは覚悟も重さも違う、こいつは復讐のために戦っているのだ。

そんな強い意志の持ち主に、俺が何か言えるのだろうか?


「……確かに、俺はもうお前に何も言えない。だけどその心を少しだけなら分かり合えることはできる」


「は?お前何言って――」


()()()()()()()()。俺が赤ん坊の時に事故で死んだらしい」


「ッ!」


そうだ、俺も黒金のように血の繋がった親を亡くしている。その後引き取ってくれる親戚もおらず施設に預けられ、そこで沢山の人と会った。同じように親がいない、親に捨てられた人と――


「だからこそ、俺は沢山の人達に支えられてここまで生きられた。もしかしたら、そのお世話になった人が鎧蟲に襲われるかもしれない。だから俺は戦うんだ!」


「……偽善だ、やはりお前の考えは……」


「偽善でも構わない!そんな恩を仇で返すようなことはしたくないんだ、この力で守れる存在、返せる恩があるなら俺は戦い続ける!」


これが俺の戦う理由。周りに偽善と言われても気にしない、黒金の復讐も否定するつもりはない。もっとも周りなんて関係ない――俺は俺以外の人間が苦しんでいるなら……命を懸けてでも助け出す!

それが()()()だ、自分で誇れる純白の心だ――!


「お前がどれだけ復讐心に駆られようが結構、だけどそれで犠牲になる人がいたり……()()()()が苦しんだりするなら、絶対にそれを止めてやる!」


「……勝手にしろ。もう一度言ってやる、いつかその偽善な心が仇となる日が来るぞ」


そう言い残して黒金はその場から立ち去っていく。スーツによって着飾ったその肩幅の広い肩を見る目はもう変わっていた。俺とは何かも対照的なその背を、チョコバーを頬張りながら見る。

――多分、しばらく会うことはないな。ここまで意見が対立しているんだ、いつか敵としてぶつかり合うだろう……





「……そう思って見送ったから非常に気まずいのだが」


「知るか」


そんな事を、カウンターに肘を乗せながら訴える。

視線の先には腕を組んでカッコつけている黒金の姿、俺が白い目で見るのに対し黒金は無視していた。

今キッチンには伊音ちゃんがおり師匠はいつも通り不在、他に客もいないので猶更気まずかった。


「だからお前は馬鹿なんだ、俺がここの常連ということを忘れていただろ」


「いやそうだけどさぁ……何もその3日後に来なくてもよくない?」


「俺がいつ来ようが俺の勝手だ」


確かにその通りだがまさかこんなすぐに来るとは思ってもいなかった。

あれから3日、あの騒動は強盗の仕業として片付けられ終わったがそれでも鎧蟲の存在は都市伝説程度の噂として広まったらしい。師匠曰くすぐに収まるから大丈夫だという。


そして黒金は何の前触れも無く今日この店に訪れ今に至る。まぁお客様は神様、来てくれるなら歓迎するしお金も落としてくれるなら猶更だ。

あれからずっと黒金のことを考えてみたが、やっぱり黒金の行動を全て許すことはできなかった。もしあいつがこれからも人の命を蔑ろにするならば俺はそれを止める。


「黒金さん!こちらどうぞ!」


「これは……頼んでいないが?」


「うちの新作メニューの『イチゴたっぷりハニートースト』です。英さんの奢りらしいです!」


すると伊音ちゃんが黒金に渡したのは、イチゴソースがメニュー名のように満遍なくかけられたハニートーストであった。俺がパンを焼いて作った新メニュー、チョコの他にも味を追加して見たわけだ。


俺の奢り、という言葉を聞くと黒金はようやくこっちを向いてきた。今まで無視された仕返しだ、無視してやる。

そのハニートーストは()()()()()、一応常連さんのために作ったメニューだからありがたく食うといい。そんなメッセージを言葉ではなく雰囲気で伝える。


「……フン、あいつの作ったやつか……正直気が進まないが食ってやる」


そう言って文句を零しながらも俺のハニートーストを食べていく黒金、口ではそう言っているがその顔が僅かに緩んだのを俺は見逃さなかった。どうやら製菓会社の社長さんにご満足いただける程美味くできたらしい、これなら安心してメニューに出せるだろう。


これで少しはあいつとの仲も改善されるだろう、敵になるとは思うがその時までは同じ甲虫武者の仲間。今は共に協力していかなければならない。

ただし、こいつに腕を千切れられかけたことは忘れていない、一応その分報復は()()で済ましてやる。


「え、英さんそれって……」


「いいからいいから、お客様ー?()()()()がお好きと聞きましたのでこちらもサービスしますー」


「ほう、一応客への礼儀を学んだか。では……ふぐッ!?」


黒金は俺が入れたコーヒーを何の躊躇いも無しに口に含む。するとその黒い液体が舌に触れた瞬間、白目を剥いて危うく吹きそうになりゲホゲホと咳き込んだ。


「何だこりゃ!お前が入れたのか!泥水じゃないんだぞ!」


「うっせぇ!寧ろ腕を吹っ飛ばそうとした報いをそれだけで済ませてやるんだ、ありがたく思え!」


「お前は意図的に不味くしたコーヒーを客に出すのか!」


「いや、一応美味くなるよう努力はした。だが駄目だった」


「クビになれお前!!」


そうしてギャーギャーと始まる俺と黒金の喧嘩、そんな光景を伊音ちゃんはあきれた様子で傍観するのであった。

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