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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第三章:黒武者の開戦
25/230

24話

「何だぁ……こいつは……!?」


鎧に亀裂が走るほどの大ダメージを受けた黒金であったがすぐに起き上がり俺と共にその鎧蟲と対面する。

目の前に君臨したのは蟻でも蜂でもない、ダンゴムシの鎧蟲――さっきの球体はこいつが丸まった姿だったのだ。あまりの大きさに結構なスペースがある2階通路でギュウギュウ詰めになっていた。


「何だこの鎧蟲は……ダンゴムシか!?」


「え、お前も見たことが無いのか!?」


「ああ……()()()鎧蟲か……!」


そしてどうやら甲虫武者として経験豊富である黒金もこいつは見たことが無いらしい。新種の鎧蟲――つまりこいつと対峙している甲虫武者は俺たちが初めてということだ。


それにしてもダンゴムシが人間のように二足歩行で歩き2本の腕を持っていること自体異様だが、一番規格外なのはそのサイズだ。共食いして巨大化した蟻に引けを取らない体格は、俺と黒金を圧倒するのに十分であった。


「こんなのもうダンゴムシじゃねぇよアレだアレ!()()()()()()()!」


「オオグソクムシだ馬鹿!ふざけたこと言ってる場合じゃ――!」


そんなことをしているうちにダンゴムシは床を思い切り蹴りこちらに飛びかかってくる。そして振り下ろしてきたのは槍なんかじゃない、甲殻で守られている巨大な()であった。

急いでそれを後ろに避けるとそのパンチは下にヒット、そのまま広い亀裂を走らせ通路に穴を開けてきた。


「なんてパワーだ!当たったら一溜りも無いぞ!」


俺たちがその怪力に焦っている中、ダンゴムシは再び体を丸めて完全な球体へと変化。そして何とそのまま転がって俺たちを追ってきた。


「ああもう!オオグソクムシだったりアルマジロだったり、いい加減にしろ!」


「兎に角逃げろ!一旦下に降りて迎え撃つぞ!」


俺たちはそのまま転がってくるダンゴムシから逃げ出し、2階通路をまるでバラエティー番組のように駆け巡った。その転がりはその巨体に似合わず凄い速度を出し執拗に追ってくる。


そしてゴールともいえる下の階へとつなぐエスカレーターを辿り着き、そのまま手すりに足を置いて滑り落ち下へと無事降りることができた。

一方ダンゴムシはいくら早いといえど狭いエスカレーターの間を潜り抜けることはできず、そのままつっかえてあらぬ方向と飛び俺たちの頭上を通過した。


壁を酷く陥没したところでようやく停止し、再び元の状態に戻って俺たちと対面する。最早オオグソクムシやアルマジロなんかじゃない、ゴリラと言った方が的確だ。


「正体不明の敵だ、俺が一気に決める――!」


「ちょ黒金!?」


そう言うと黒金は1人だけでダンゴムシへと先行する。些か無謀に思えるが確かにあいつの情報は少なすぎる、ならば黒金の豪快な切れ味で早めに倒した方が良い。


黒金が接近するとダンゴムシの鎧蟲は右腕を大きく払い迎え撃つ。しかしその殴打も跳んで避けられ目前まで接近を許してしまった。


「オオクワガタ――金剛砕きッ!!!」


そして繰り出される黒金の必殺技「金剛砕き」、力強い踏み込みもできその一撃必殺は綺麗にダンゴムシへ決まった……かに思われた。


「なッ――()()()()()だとッ!?」


2つの黒い斬撃は何も切り裂くことなく停止する。確かに黒金の金剛砕きは命中したはずだ。けど共食い蟻も綺麗に粉砕できたはずなのに、ダンゴムシは左腕の甲殻だけでそれを防いでいた。


当の黒金もそうだが俺も驚いていた。あいつ自身は認めてなかったがその技は素晴らしいと感じていたが、どんな物を切り裂くことができると思っていた金剛砕きがこうも簡単に受け止められるなんて……


「――ギッ!!」


「うがッ!?」


「黒金ッ――ガハッ!?」


そして驚いている黒金をダンゴムシは横に殴り飛ばし、それに駆け寄ろうとした俺も薙ぎ払ってきた。防御だけじゃない、その怪力もその身で味わうことになった。


黒金はそのまま壁に激突したが俺は刀を刺して何とか堪える。黒金のオオクワでも傷つけられなかった甲殻、そんなのと俺がどうやって太刀打ちできるのか……そんな心配をしていると、右足に()()()()()()()。いや正確には鎧に凹みを与えただけで肉までは到達しなかった。


「蜂か――このッ!」


さっき仕留めきれなかった蜂の群れが上空から狙撃しているのだ。大量の矢が雨のように降りかかり急いで刀をそれで弾いていく。鎧でも受け止められるがいつまでも撃たれていればいつか穴が開く、ただでさえダンゴムシのパワーは凄いのだ、こんな奴ら相手に消耗している暇は無い!


「ギッーー!!!」


「ぬおッ!?」


すると今度はダンゴムシが突撃してきてその拳を刀で受け止めた。その怪力の全てが俺の両腕にかかりまるで相撲のように後ろへ押していき、そのまま黒金のように俺も壁際まで追い詰められた。


そこから繰り出される連続殴打を次々躱していくと、後ろの壁がどんどん穴だらけとなっていきその怪力の凄さが伺える。けどそんなことを言ってる場合じゃない、壁と奴の巨体に挟まれ抜け出せない状態にあった。


「このッ……とりゃッ!!」


「ギッ――!?」


こうなったら無理やり脱出するしかない、俺はパンチによって壁が無くなる前に急いでそこを蹴り上げそのままダンゴムシの頭を踏み越える。そうすることによって奴の背中を取ることができた。


「顔を踏んづけてやったぜざまぁ見ろ!――せいやぁあ!!」


そしてそのまま調子づいて背中から斬りかかるも、黒金の金剛砕きが防がれる時点で俺の刃が通用するはずも無く金属音を虚しく散らすだけに終わった。

すると上にいた蜂たちが再びダンゴムシごと俺を狙ってくる。虫の知らせでそれを避けつつ後ろに下がるとダンゴムシの()()()()()()()()()()()()のが見えた。


「仲間ごとかよ……!」


いや、寧ろあの程度じゃ傷にもならないことを蜂を知ってるからこそあいつごとを俺を射抜こうとしてきたのか、一応あいつらにも仲間同士の信頼感というやつはあるらしい。


けどその矢が刺さっているダンゴムシの姿に何故か()()()()()()俺、その正体はハッキリしないが何故か不思議に見えてしまう。


「そんなことはどうでもいいか!早くこいつを何とかしないと!」


ダンゴムシは考える暇も与えず俺に襲い掛かってくる。動きはそこまで速いわけではないので虫の知らせだけでも十分対処できるが、奴の拳を躱すたびにどんどん地面が穴だらけとなっていく。


すると奴は再び体を丸めるとそのまま飛び跳ねて壁に激突、そしてそのまま跳ね返って別の柱にバウンド、まるで周辺をピンボールのように飛び交い始める。見たところ翅は無いので空を飛べないと思われるダンゴムシだが、今だけは凄まじい速度で俺を取り囲んでいた。


「危なッ!野郎……スーパーボールみたいに跳ねやがって!」


俺はその勢いをスーパーボールと可愛く良い例えたが、実際は大きな落石が独りでに動いているに等しい状況である。あんなものにぶつかったら黒金のように傷を負うのは明白、さっさと虫の知らせでこの場から脱出しようとしたその時……


「蜂の矢!?しまっ――うぎゃ!?」


それをダンゴムシの動きに使うより先に上にいた蜂が放った矢に反応、咄嗟に後ろに身を引いて避けると地面に矢が刺さった。

けど今ので俺の虫の知らせには僅かだが穴が開いてしまい、横から迫っていた球体のダンゴムシに気づかず直撃してきた。


巨大な鈍器で殴られたような衝撃が全身を震撼させ脳もぐちゃぐちゃにする勢いで揺らしてくる。一瞬頭が真っ白になって何もできずにそのまま店の中に突っ込んでいった。

ガラスを突き破って入ったそこは服屋、吹っ飛んできた影響で俺は女性服を着たマネキンを押し倒す形になっている。


「おっとごめんよ……たくまだ頭がクラクラする……!」


マネキンを退かして立ち上がり外に出た。奴の球体をモロに受けてしまったためグラントシロカブトの鎧にヒビが入ったはずだ、どれくらいのダメージを負ったかを確認しようとすると……


「……あれ?結構大丈夫そうだぞ……」


自分の鎧の様子を見て思わず間抜けな言葉を漏らしてしまう。確かに亀裂は残っているが思ったほど酷いわけでもない、さっきの黒金と比べて明らかに傷が小さかった。


吐血ぐらいは覚悟していたが何故この程度で済んでいるのか?ダンゴムシのパワーは弱くなっていない、寧ろ壁同士をバウンドしたおかげで通常時より威力は上がっているはずだ。勿論影響が無いというわけでもない。


「何だお前……自分の()()()()にまだ気づいていなかったのか」


「黒金!グラントシロカブトの特性……?」


すると先ほど飛ばされた黒金が俺の下までやってきた。その黒い鎧は確かにヒビが隅々まで広がっているがものともせずに動けている。その隙間から血が漏れ噛み締めている歯の間からも出ているところをみて、あのダンゴムシの一撃は本当に強烈である事が分かる。


なら猶更分からない、どうして俺はこの程度の傷で済んでいるのか?そして黒金はこれこそが俺の特性、つまり強さだという。今までずっと悩みに悩んでいた俺の強さ、ここまできたら殆ど察しがついていた。


「俺の特性って……まさか」


「俺のオオクワガタの強みが切れ味なら、グラントシロカブトの特性は()()だ。お前を持ち上げるのは嫌だが……甲虫武者でそこまでの強度を持った鎧の持ち主は見たことが無い」


「やっぱりか……今のでそんな気はしてた。でもそんなに凄いのか?」


こうして判明したグラントシロカブトの特性、どうやら俺の鎧は守りに徹したもので、俺に悪態をついてばかりの黒金がここまで褒めるほどであった。

しかしそう言われてもあまりピンと来ない、確かに黒金の鎧と俺の鎧についた傷を比べればその硬さは一目瞭然だ。向こうは全体的に広がっているのに対し俺は僅かな傷しかない。


けど俺の頭の中ではやはり強さ=パワーというイメージが根強くあるため、守りが凄いと言われても頭の中で想像しにくかった。鎧の硬さでどうするのか?ダンゴムシみたいに殴って戦った方が良かったのか?


「……お前と戦った時、金剛砕きを当てただろう。それに対しお前は情けなく痛いと叫ぶだけだった。本来なら腕の1本ぐらい捥げてもおかしくはないのに」


「マジかよ!?ってかそんなもん俺にやったのかお前!!」


「甲虫武者だから例え隻腕になっても再生できるぞ」


「いやそうだけれども!でもお前の技を受け止める防御力か……」


そこで分かりやすい代表例を教えてもらい初めて自分の()()を理解できた。金剛砕きの威力は何度も見てその切れ味を実感させられたことがあるし、この身で味わったこともあった。


そこで自分が他の甲虫武者が傷つくことをそこまで()()()()()()()ことに気づく。師匠は強すぎてあっという間に鎧蟲を倒し、この間の黒金との戦いにおいてもこいつがそこまで強い攻撃を受けたことは無い。


いつの間にか俺はグラントシロカブトを()()()()()()()としか捉えておらず、客観的に己の強さを見ていなかった。自分の鎧がそんなに硬かったなんて夢にも思っておらず、今まで普通に戦っていた。


――ちょっとだけ、自信が込み上げてきた。今までの俺は黒金に負けないよう1人だけの力で鎧蟲を倒そうとしていた。だけどグラントシロカブトの鎧が防御面に特化されたものなら、俺がやるべきことは1つ。


「あのダンゴムシの鎧蟲は……恐らくオオクワガタ(おれ)対策だろうな。俺の金剛砕きを受け止めるほどの甲殻で俺たちを倒しに来たんだ。だけど必ず奴の体には()()がある」


「お前対策!?鎧蟲たちがお前個人のためにダンゴムシを出したのか!?」


「言っただろ……奴らは甲虫武者に対し編成内容を改善していると」


確かにそう言ったがそんな1人だけに戦力を使ってくるとは思ってなかった。けど確かにあの硬い甲殻を持つダンゴムシは黒金対策に適任だ。

だけどその硬さは完璧なものじゃない、必ずどこかに隙はある。


「……だから、その……なんだ」


「お前がその隙を突くから俺があいつを抑えるんだろ?何を躊躇してるんだお前」


そしてその動きを止めるのは同じく硬い鎧を持った俺という、つまり俺がダンゴムシと戦っている間に黒金があいつの弱点を見つける作戦だ。


「お前みたいな奴に協力を申し込む自分が情けなくてな……」


「何を!?まだ俺を素人扱いするか!」


もう虫の知らせも使いこなせるようになってるし猛吹雪という斬撃の技も完成させた。鎧蟲相手に十分戦えるし自分の特性も見つけられた。例え黒金だろうが素人呼ばわりされる筋合いはない。


「誰が素人と言った……お前も甲虫武者なら力を貸せ」


「え……それってつまり……」


照れ隠しにも聞こえるそれは、俺を甲虫武者の1人として認めているということだった。そして仲間として俺の協力を求めているのだ。勿論手を貸さないといわけにはいかない、けれども俺はまだこいつを認めきれていなかった。


「……言っとくが、俺はまだお前を同じ仲間とは思ってないからな」


「ほざいてろ、いいから行け盾」


「誰が盾だ誰が!」


悪態をつき合いながらも合計3本の刃をダンゴムシに突き立てる。決して牽制の意味じゃない、これは来るなら来いという挑発の意味だ。

それをダンゴムシがどう受け止めたかは分からない、だが次の瞬間その灰色の巨体はこちらに向かって走り出してきた。

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