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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
最終章:黄金武者の超越
228/230

227話

 ギラファオウゴンオニクワガタの力を得た金涙に与えた攻撃は、斬撃が約百二十、銃撃が約五十回である。その内本来なら命を奪えていただろう攻撃は約七十程度。つまり金涙は七十回は死んでいることになる。

しかし金涙はその度に身体を再生させた。斬られようとも撃たれようとも、その皮膚が傷口を見せることは無かった。


だからこそ金涙は英たちの攻撃を避けず反撃に徹していた。回避の必要が無いからだ。

そのツケがたった今回ってきた。度重なる損傷によりエネルギーの余裕がなくなり、再生が遅くなっていた。


英たちの絶対に諦めない心が、金涙を追い詰めたのだ。

しかし勝負が決まったわけではない、例え再生力が弱まっていても金涙が強敵であることには変わりない。



「――うおおおおおおおおお!!!」



最後の力を振り絞り、英たちは斬りかかる。狙うは首か胸、首を刎ねるか鋼臓もしくは心臓を断てば即死させられる。たった一太刀でこの長い戦いを終わらせられるのだ。



(ようやく来た最後のチャンス、絶対に逃がさねぇ!)


(必ずここで倒す!)


(そして伊音さんの平和を取り戻す!)



何度でも再生する金涙に英たちは辟易としていた。その鬱憤と大事な者を奪われたことに対する怒りを、全力でぶつける。



「……ッ!」



再び金涙の表情が崩れる。しかし苛立ちではなく、動揺と焦りで。そして迫る三人の武者に、顔を強張らせた。

最初に斬りかかったのは忍、持ち前のスピードで一気に距離を詰める。そして間髪入れずに首目掛けてオオクワガタの刃を払う。


対する金涙は"虫の知らせ"でそれを予測、事前に回避行動を取り躱していく。

そして触手を一斉に伸ばし忍に集中させるも、躱されると同時に斬り落とされてしまう。


再生力は肉の触手にも働いていたが、金涙の腕と同様に治りが遅くなっている。触手の先端がボトボトと落ちた。



("水銀の滴り"!! そして銀灰砲術――"熱吹雪"!!)



すると後ろから英が迫り、突き技とガトリング砲の連射を同時に繰り出す。金涙は刺突を躱し、その後に来る弾幕を長刀で弾く。しかしその際生じた爆発によって吹き飛ばされてしまう。前方にいた忍を飛び越え、宙に身を投げ出された。


刃を振るった腕に火傷を負ったが、それを再生しつつ着地する。確かに再生スピードは落ちたが、それでも速いことには変わりなかった。


英と忍から距離を取り、周囲を見渡す金涙。

一人いない――それに気付くと同時に、背後から襲い掛かる気配を察知した。



「――"猛牙撃"ィ!!」


「くッ――!」



豪牙の雄叫びが轟き、エレファスゾウカブトの大槌が振り払われる。

金涙は刀身を盾にして防御し直撃を免れる。しかしその衝撃で再び吹っ飛ばされてしまう。


地面をバウンドするも、その拍子で起き上がる。

すると背中から伸びていた触手が、一斉に体内へと戻った。



(触手をしまった!? いや当然か! 今出していても無駄にエネルギーを食うだけだ!)



一番厄介だと思っていた触手を向こうから無くしたことに驚く。しかしすぐに当然のことだと理解した。

再生が遅くなっている今、触手を伸ばしても英たちの攻撃の的になるだけ。そうすればその再生によって余計に力を消耗する。そもそもあの量の触手を操ることにも相当な力を使っていた。


エネルギーを少しでも温存すべく、金涙は攻撃の手を緩めることを選んだのだ。



(金涙も慎重になってきている! そもそもこいつにはあの"虫の知らせ"がある、攻撃を当てるのは容易じゃない!)



そう、いくら再生が遅くなっても金涙が脅威であることには変わりない。

金涙には他の武者より秀でた"虫の知らせ"がある。以前はそれで殆どの攻撃を避けていた。"姫"の胎を手に入れて回避の必要が無くなり、それを使わなかっただけだった。


再生力によって生まれた慢心はもう無い。金涙は全ての方向に意識を向けて、あらゆる攻撃を警戒している。付け入る隙など無いに等しかった。


しかし次の瞬間、"虫の知らせ"の警戒網は突破されてしまう。

目にも止まらぬ、圧倒的なスピードによって――



(――"宝珠の瞬き"!!)


「ッ!」



いつの間にか後ろへ回っていた忍が、加速して金涙に斬りかかる。コクワガタ・大金剛ノ姿のスピードは金涙の反応速度を超えていた。

しかし金涙の"虫の知らせ"も伊達ではない。忍の刃が到達する直前で反応し、長刀で弾いてその軌道を逸らす。


忍が狙ったのは首、しかし今ので狙いが外れてしまい代わりに肩を斬り裂いた。もし金涙が反応しきれていなければ、今頃頭がすっ飛んでいただろう。


斬り裂かれた傷から血の噴水が打ち上がるも、数秒と経たないうちに塞がっていく。すぐに治ってしまったが、決して無駄だったわけではない。



「英さん! 僕に構わず弾幕を!」


「応ッ!!」



忍が叫ぶとほぼ同時に、英が大量の銃を形成する。白く燃える銃身がズラリと並び、一斉に金涙の方へ向く。



(銀灰砲術――"銀鼠ノ(ムレ)"!!)


(大金剛――"光沢ノ鳥篭"!!)



まだ近くに忍がいるというのに、英は容赦なく熱弾を発射。忍なら躱せると信じ切った上の行動である。


英の弾幕の中を、忍が縦横無尽に駆ける。

勿論英も忍に当たらないように注意している。しかしそれ以上に回避と同時に攻撃もできる忍の速さが卓越していた。


一方金涙は、英の熱弾と忍の怒涛の剣撃を同時に捌かなければならない。

いくら"虫の知らせ"が凄くとも、物理的に避けられない攻撃だってある。首と胸は死守しているが、それ以外の部分の防御が疎かになっていた。



(エレファスゾウカブト――"震怒獣王"!!)



そこへ更に豪牙が入る。といっても、直接金涙を殴るわけではない。エレファスゾウカブトの機動力であの弾幕の中を駆け抜けるのは不可能だ。


なのでできる限り接近して、大槌を地面に向けて力強く振り下ろす。強い揺れを起こし、金涙の態勢を崩した。

それにより防御行動が間に合わなくなった金涙は、全身に銃撃と剣撃を浴びることとなる。



「ッ――ハァア!!」



装甲と傷をすぐに治すも、その様子からは明らかに焦りが感じられる。しかし長刀を振り回し、忍を寄せ付けないその剣捌きには無駄など一切無かった。


金涙もただ黙って攻撃を受けるだけではない。一番近くにいた忍に向けて、二刀流の剣撃を繰り出す。



(オウゴンギラファ――"聳孤舞喰"!!)



忍がそれを躱すより先に、金涙が"虫の知らせ"で予測する。

長刀による目まぐるしい滅多切りが炸裂し、忍の身体を無残に斬り裂いた。



「あが――ッ!」


「小峰!!」



掻っ捌かれたように胴全体から大量の血が噴き出す。普通の甲虫武者の再生力では、金涙のようにすぐには治らない。失血に伴い忍は身体に力が入らなくなってしまう。


ここから傷を治し再び動けるまで数秒かかるとして、金涙はその間に軽く十回は殺せるだろう。その一回目として、崩れる忍に黄金の刃を奔らせる。



「――させるかァ!!」



しかし豪牙が割り込み、大槌で刀身を上から殴って忍を助けた。ギラファオウゴンオニクワガタの刃が折れることはなかったが、地面に叩きつけることはできた。


金涙はすぐにもう片方の刃で刺突を繰り出す。伸びるような突きが豪牙の左肩を貫いた。



「グッ……ガァア!!」


(ッ――抜けない!?)



そこから第二撃を浴びせようとするも、刺突した長刀が豪牙の肩から抜けない。肩の筋肉と左手の握力によってガッシリと掴まれていた。

ならばもう片方の刃を斬り上げようとするも、それも大槌と彼の豪脚によって完全に押さえつけられている。



(なんて怪力! 一度捨てて新しいの形成するか? いや……!)


(したくねぇよな! 武器の再形成なんてエネルギー食うことは!)



刃が抜けないのなら、それを放棄して新しい長刀を形成する手もある。しかし金涙はそれをしない。

甲虫武者が武器を作るのには多くのエネルギーを使っている。だからこそ鎧以上の強度と強烈な威力が備わる。


それを再度一から作るとなると、かなりの消耗をしてしまう。

今の金涙にとってそれは避けたい。豪牙はそれを踏んで、自分を顧みずに長刀の動きを封じたのだ。



「――今だ英!」


(銀灰砲術――"白穿星(はくせんぼし)"!!)



豪牙の合図と共に英が形成したのは銃身が細い狙撃銃。銃口から細い熱線を放ち、金涙の頭を狙い撃つ。

勿論金涙も"虫の知らせ"でそれを察知する。しかし防ごうにも長刀は今動かせない。かといって長刀を手放せば新しいのを形成する羽目になる。


すると金涙は先ほどしまった触手を一本だけ伸ばし、それで英の狙撃を受け止める。触手は跡形も無く燃えつけたが、金涙本体にダメージは無い。"白穿星"は狙撃の為、他の銃撃より威力が低かった。



(触手を盾にされた! 危なくなると流石に使ってくるか!)



無駄な消耗を抑える為、使用を控えられていた触手。しかし命の危機に直面すれば、出し惜しみもできないのだろう。


金涙は豪牙を蹴ることで二本の長刀を取り戻し、そのまま豪牙に向けて剣撃を振るう。

触手は攻撃に使わず、あくまでも防御のみ。必要最低限に伸ばしていた。



「ハァア!!」


「ッ――忍!」



豪牙の代わりに金涙の二刀流を傷の再生を終えた忍が受け止める。今度は自分が豪牙を助ける番だと言わんばかりであった。

柄を強く握りしめ、忍は真正面から金涙に挑む。先ほど殺されかけたというのに全く怯んでいなかった。



(このまま押し切る!)



その心にあるのは一分の隙も無い闘志。必ずやかの敵を打ち倒すという、強い意志だった。

感情の起伏に合わせて忍の剣撃が速さを増す。金涙の"虫の知らせ"が追い付けない程に。

二刀の長刀の隙間を掻い潜り、どんどん追い詰めた。



(ッ――オウゴンギラファ、"鬼驎双爪(きりんそうそう)"!!)



対する金涙は天を貫く勢いで二刀を掲げ、それを一気に振り下ろす。

忍はその縦斬りを受け止めるも態勢と位置が悪く、剣撃の勢いで地面に叩きつけられると同時に斬られてしまう。



(ぐッ――"宝珠の瞬き"!!)



胴体を交差する形で斬られた忍だが、止まらず技を繰り出そうとする。それに合わせて金涙も長刀を振りかぶる。

"宝珠の瞬き"が炸裂し、すれ違い様の一閃が奔った。


忍は首を狙ったが、不発に終わってしまう。金涙の刃と衝突したことで狙いが逸れてしまったのだ。



(大金剛ノ姿――"風裂水晶"!!)



しかし忍は金涙の方に向き直すと同時に斬撃を放つ。一発一発が速くそして鋭い斬撃の嵐が金涙に迫った。



("黄金月光・三日月"――!!)



金涙は横薙ぎの一太刀でその斬撃の殆どを掻き消す。ギラファの長刀とオウゴンオニクワガタのパワーがあるからできる芸当だった。

金涙が刀を払った直後、今度は英がその間合いに潜り込む。


銃撃を放ちながら接近し、太刀を振り下ろす。

しかし銃撃は躱され、剣撃は長刀で受け止められてしまう。

何度目かも分からない唾競り合い。金涙は刀身と介して言葉を投げかける。



「――認めましょう。私は貴方方を侮っていた。結果この有様です」



両者の刃が交わる最中、豪牙と忍が背後から攻撃を仕掛ける。英が気を引いている隙に、二人が不意打ちをするという作戦だった。



「それでもエネルギーはまだこちらの方に余裕がある。そしてこの"虫の知らせ"がある限り――私は倒せない!」



しかしその動きも金涙の"虫の知らせ"に筒抜けであった。

背後から二人の存在を感じ取った金涙は英を薙ぎ払い、後ろを振り向くと同時に再び"黄金月光・三日月"を繰り出す。


豪牙と忍は大槌と二刀をぶつけるも、その強烈な切れ味とパワーに一蹴されてしまう。防ぎ切れなかった剣撃を浴びて、豪快に薙ぎ払われた。



「象さん、忍く――ぐッ!?」



そして背を向けたままもう一刀で刺突を繰り出し、英の身体を貫いた。


金涙の"虫の知らせ"の前では不意打ちなど通用しない。あらゆる攻撃が事前に察知されてしまう。この鋭い"虫の知らせ"がある限り、金涙に攻撃を当てるのは困難である。


更には残された体力にも差がある。例え即再生する程のエネルギーが無くとも、多くても全快の英ほどの余裕はあった。

対する三人は何度か回復を挟んでいるとはいえ、長時間の戦闘で心身ともに限界が訪れていた。


このまま攻撃を当てられずに戦いが長引けば、先に力尽きるのは英たちであった。



「ぐッ……うおおおおおおおおおお!!」


「全く学習能力の無い――!」



英は脇腹に刺さった長刀を無理やり引き抜き、雄叫びを上げながら力を振り絞る。そのまま銀灰砲術の銃撃を続けながら、金涙に斬りかかった。



(力を振り絞れ、鎧を硬くしろ――!!)



リッキーブルーの硬度を最大限に引き出し、金涙の剣撃を全力で受け止めていく。少しでも金涙と渡り合える時間を伸ばすために。

今までの戦いでは少なかった刀身同士の衝突、火花が散り金属音が鳴り響く。


――甲虫武者同士の正面衝突において、その勝敗を決するものは何か。


武器の相性や体格などではない、答えは"虫の知らせ"による予測能力である。

相手の動きを察知し、それに合わせて動く。それを両者が行うため、起きるのはどちらの予測が先を行くのかという競争である。結果相手の身体を削り合うのではなく、武器の衝突が多くなるのだ。


そしてこの場合、軍配が上がるのは金涙の方。第一世代と呼ばれる彼に宿った特殊な"虫の知らせ"は、他の武者のものを完全に上回っている。


つまり正面からの斬り合いにおいて、金涙に勝てる者はいなかった。

常に相手の動きを予測した剣撃が、英を追い詰めていく。



「ッ……!」


「私に正面から挑むなど、浅はかでしたね!」



伸びるような間合いの刃が炸裂し、次々と英を斬っていく。太刀や装甲だけでは受け止め切れず、血飛沫が何度も舞い上がる。



「今度こそ、これで終わりです――!」


「――ッ!」



そしてトドメの一太刀と言わんばかりに、金涙が長刀を振りかぶる。来るであろう剣撃に備え、英は歯を食いしばって己の装甲にエネルギーを集中させる。

しかし次の瞬間、両者の時間に間が生まれた。



「「ッ――!?」」



時間にして一秒も満たない僅かな時間。それでも確かに生まれた静寂な時間に両者とも困惑する。



(動きが遅い……いや、刀が重くなった!?)



何の前触れもない。金涙の剣撃が、突然遅くなったのだ。

意図的に遅くしたわけではない。金涙自身も腕の振りが遅いことに驚きを隠せずにいた。

英も当然同じである。しかし彼にとって、この一瞬の間は好機の他ならない。



(……今だ!!)



疑問に思うより先に太刀を鞘に納め、姿勢を低くする。

その僅かな時間を見逃さず、居合切りを繰り出した。



(リッキーブルー――"天銀(アマノシロガネノ)流剣"!!)


「ッ――!!」



下から斬り上げる形で強烈な一閃が走る。銀色の刃先が金涙の胴を斜めになぞり、夥しい量の血を噴き出させる。

それでも金涙はまだ生きている。しかしダメージが無いわけではなく、後ろへ後退るように蹌踉めていた。



(浅い……直前で後ろに逃げられた!)



何とか隙を付いて繰り出した袈裟斬りも、金涙が後ろに躱したせいで命を絶つまでにはならなかった。

一方金涙は、自身の身体に何が起きているのか必死に考えていた。



(身体が重い……眩暈もしてきた!?

それに動きが遅くなっただけじゃない……再生が更に遅くなっている! もうエネルギーが尽きかけているというのか!?)



突如として襲い掛かる疲労。傷の治りも遅くなり、血が流れると共に身体の異常が加速していく。


この症状が何を意味しているのか、勿論体力の限界としか言いようが無いだろう。しかし即再生ができなくなってから今に至るまで、そこまで時間は掛かっていない。消費エネルギーも最低限抑えるようにしていたので、もう限界が来るのはあり得ないことだと金涙は考えていた。


しかし現に金涙の身体は消耗している。息切れも起こしているし、疲労感に伴う吐き気だってする。まるで全力疾走をした後のようだ。


考えられる限りの考察を繰り返していくうちに、金涙は先ほど英に言った自分の言葉を思い出す。



『その鎧にはかなりのエネルギーを使っているはず』


(ッ――まさか!)



その言葉はリッキーブルーの力が復活した時のものだった。

リッキーブルーの鎧は英が元々持っていたグラントシロカブトの力に、鴻大のヘラクレスオオカブトの力が宿ったもの、つまり二人分の力である。故にそれに必要な基礎代謝エネルギーも二人分以上となる。


そしてそれは、金涙のギラファオウゴンオニクワガタにも言えた。



(ギラファオウゴンオニクワガタに使うエネルギーは、私の想像以上だったいうのか……!?)



ギラファオウゴンオニクワガタも、オウゴンオニクワガタとギラファの力が合わさったものである。つまりリッキーブルーと同様に、維持だけでも多くのエネルギーを消耗していた。


全快の時は有り余るエネルギーがあったので気にも留めていなかった。しかしそのせいで、この形態にどれ程の力を使うかを見誤っていた。

傷を受けず再生せず、技を繰り出さずとも、金涙の身体は激しく消耗していたのだ。



(再生が遅くなっている……もしかしなくてもバテているのか!)



英も金涙に起きている異変を察知するも、その理由までは分からない。

しかし、自分たちの方に勝利が傾ているのは分かっていた。


ならば休んでいる暇は無い。英も再生が間に合っていなかったが、臆することなく金涙に斬りかかる。

銀灰砲術による銃撃も交え、徹底的に金涙を攻めていった。



「ウオァアアアアアアア!!!」


「ッ――ハァアア!!」



対する金涙も負けじと剣撃を繰り出す。

いくら優れた"虫の知らせ"があろうとも、身体が付いてこなければ意味が無い。金涙の身体が限界に近付いたところで、両者の動きがほぼ互角となった。お互いに一歩も退かない斬り合いが行われていく。



(これが最後のチャンスだ! ここで倒す!)



覚悟と共に強い一歩を踏み出し、金涙に詰め寄る英。

今までの激戦に比べたら、今の金涙の動きは止まって見えると言っても過言ではなかった。


二本の長刀を弾き、隙があれば全力で斬りかかる。

英には金涙の動きが遅くなったように見えている。逆に金涙には英の動きが速くなったように錯覚していた。

その結果、英の剣撃が僅かながら届くようになってきた。



(身体が思うように動かない! 全身に重りを付けられたようだ!

仕方ない、ここは一度退いて再度――)



徐々に追い込まれていくうちに、金涙は撤退を画策する。

何も英たちとの決着は今付けなくてもいい。神童伊音を捕えるチャンスが無くなるわけではないのだから。まずはこの場から離れ、エネルギーの回復を済まそうと考えていた。


急いで翅を広げ、この場から飛び去ろうとする金涙。

しかし次の瞬間には、その翅が斬り落とされていた。



「なッ……!?」


「逃が、さない!」



一体何が起きたのか、答えは簡単だった。

先ほど薙ぎ払われた忍が、一瞬で翅を切断したのだ。

全身の傷から血を流し、過呼吸になりながらも、忍のスピードに衰えは無かった。



(小峰忍、まだ動けたのか! ということは――!)



その予想は、次に来た強い衝撃によって正解と分かった。

英と忍に気を取られたせいで"虫の知らせ"に隙が生まれ、横から迫り来る大槌に直前まで気づかなかった。



「"猛牙撃"ィ――!!」


「うぐぉ……!!」



豪牙の豪快な打撃が、金涙の頭に見事命中する。

その衝撃は黄金色の兜を砕き、頭蓋骨にまで至る。その強烈な一撃に、金涙は頭から血を噴き出しながら蹌踉めいた。



「踏ん張るぞ小峰ぇ! ラストスパートだぁ!!」


「はい――!」



豪牙も忍も、満身創痍の状態で英と同じように限界に近かった。

しかしそれでも攻撃の手を止めようとしない。決死の力で走り出し、金涙に迫っていく。



「あ……がぁ……!」



一方金涙の身体も既にボロボロの状態であった。頭の傷も再生が間に合わず、こめかみからの出血を止められない。

朦朧とする視界と消えかけの"虫の知らせ"が捉えるのは、己の命を断とうとしてくる三人の武者たち。


ここで金涙は理解する。いや、忘れていたことを思い出した。

三対一の戦いが、いかに不利な状況なのかを。



(よし勝てる! これで――!!)



瀕死の金涙とそこへ駆け寄る仲間たちを見て、勝利を確信する英。

このまま三人同時に仕掛けて、トドメを刺そうとしたその時だった。



「……ウォアアアアアアアアア!!!」



鋭い顔付きとなった金涙が、怒号のような雄叫びを上げる。それが周囲に響き渡り、三人の鼓膜を刺激する。

金涙の両腕が筋肉で膨れ上がる。その剛腕で二本の長刀を地面へと突き刺す。そして長刀を、回すように一気に斬り上げた。



(オウゴンギラファ――"殺戮黄金郷"!!!)



次の瞬間、長い斬撃が舞い上がる。

斬撃が伸びるように天を貫き、まるで紡ぐように黄金の竜巻を生み出す。そしてその竜巻は凄まじい速度で拡大していった。



(なッ――ここにきて大技!?)



"殺戮黄金郷"、金涙が全ての力を振り絞った繰り出した技であった。

火事場の馬鹿力と言われるものなのか、窮地に追い込まれた金涙は土壇場で最強の技を編み出した。



(野郎、これで全部終わらせるつもりか!)



当然こんな大技を繰り出せば、消費するエネルギーは計り知れない。ましてや瀕死の状態である。

つまり金涙はこの技で一気に英たちを倒すつもりだった。


竜巻のように回転する斬撃が更に広がり続ける。瓦礫を引き寄せて呑み込み、その中でミキサーのように粉砕した。もしあの中に人間が入ってしまえば一溜りもないだろう。

そしてこの技は、周囲一帯を更地にするまで止まらない。それ程の規模と速さなのが直観的に分かった。



「ッ――象さん! 小峰君! 俺の所に!」



迫り来る巨大な技に、英はたじろぎながらも立ち向かうとする。まずは他の二人に集まるよう指示を出した。

忍と豪牙はすぐに集結し、三人で目の前の光景を眺める。未だ拡大する黄金の竜巻、英たちもその餌食になるのは時間の問題だった。


しかし英たちは逃げようとしない。それどころか並んで立ち向かっている。



「これさえ防げば……俺たちの勝ちだ!!」



金涙渾身の一撃、恐らくは残された力の殆どを使っているだろう。つまりこの後の金涙には、少なくとも技を繰り出す余裕は無いはずである。

この"殺戮黄金郷"さえ耐えれば、英たちの勝利は決まったようなものだった。


しかし容易なことではない。ギラファオウゴンオニクワガタが繰り出す最強の技、三人の力を合わせたとしても防げるかどうか――



「よし小峰、残された力を全て使うぞ!」


「はい、象さん先生!」



英は勿論、忍と豪牙も既に覚悟は決まっていた。

迫り来る斬撃の嵐に怯むことなく、各々の技を繰り出す姿勢に入る。

長く続いた混蟲武人衆との戦いが――この衝突によって決まろうとしていた。



「リッキーブルー……!」


「エレファスゾウカブト……!」


「コクワガタ・大金剛ノ姿……!」



息を深く吸い、足に力を込める。どんな技でも、踏み込みが大事なのは変わらない。そして次に得物を万力の握力で握りしめる。

破壊音と響かせながら迫る"殺戮黄金郷"、それが目前まで到達したところで三人の武者は一気に技を繰り出した。



「――"雪山銀幕"ゥ!!」


「――"猛牙撃"ィ!!」


「――"金剛烈風"ッ!!」



金涙の大技と、三人の技が衝突する。

英が繰り出した"雪山銀幕"は"天銀流剣"と同じ居合切りだが、こちらは相手の防御を弾く防御技である。それで竜巻の斬撃を防ぐつもりだった。


他の二人は自分の技の中で一番威力があるものを選び、正面からのぶつかり合いを挑む。

しかし"殺戮黄金郷"の勢いは止まらず、三人は徐々に押されていった。



(ッ――このままだと……!)



自分たちの技ごと呑み込まれ、微塵に切り刻まれることは明白。

それを避けるには、更なる力が必要だった。

「三人の力を合わせて」――そう述べたが、正確には違う。



(黒金さん、僕に力を貸してください!!)



――忍のコクワガタに宿る、黒金大五郎の力。



(師匠、それに信長! 二人の力、全力で使わせてもらう!!)



――英のグラントシロカブトに受け継がれた、神童鴻大の力。

そして終張国の三大名が一人、信長の力。

合わせて、()()()()()である。



「銀灰砲術――"白虎雷哮・魔王咆(まおうほう)"ォ!!」



併せるは"白虎雷哮"の連射。

途轍もない威力の砲撃を、英は止めることなく撃ち続けた。

圧倒的な火力も合わさったことで、"殺戮黄金郷"との衝突がほぼ互角のものとなった。



「「「うぉおおおおおおおおおおおお――!!!」」」



叫ぶ。力の限り、技を繰り出す。

どれだけ痛もうが、どれ程苦しかろうが、痛みも苦しみも全て忘れる。あるのは絶対に勝つという意志のみ。

無我夢中で全力を出し、限界まで抵抗した。


そうして三人の技と金涙の"殺戮黄金郷"は――凄まじい衝撃を生んで、その場にある全てを薙ぎ払った。

終わりも近づいてきました。どうか最後まで御付き合いください。


最後までお読みいただきありがとうございます。もしも気に入っていただけたのならページの下の方にある☆の評価の方をどうかお願いします。もしくは感想などでも構いません。



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