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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
最終章:黄金武者の超越
227/230

226話

「黒金さんのオオクワガタの次は信長公のそれですか……全く混蟲因子は本当に奥が深い」



復活したリッキーブルー、そして新たに備わった力である銀灰砲術。更なる進化を遂げた英の姿を、金涙は興味深い物を見る目でまじまじと観察していた。



「混蟲因子の吸収において、吸収される側の想いが強いとその特性も継承される。それは既に分かっていたことですが、まさか二つ目の力を得るとは。

私はてっきり想いが余程強くなければ起こらない現象だと思っていたのですが、案外簡単なことなのかもしれません」



英にとってこれは二度目の継承である。一つ目が鴻大から受け継いだヘラクレスの鎧、二つ目が信長の万肢砲術、つまり英は二人分の力をその身に宿していることになる。

それ以外にも黒金は光秀から力を受け継ぎ黒爪ノ姿を、そして忍はその黒金から大金剛ノ姿を継承した。混蟲因子の継承現象の殆どは、英たちカフェ・センゴクの面々に怒っていた。


混蟲因子の継承は、受け継がせる側が受け継ぐ側に強い想いを抱いていると起こるもの。しかしこうもケースが多いとなるとそこまで大したものではないのでは、と金涙が考えるのも無理はない。

その何気ない一言に、英が反応する。



「……簡単なことだと?」



燃え上がる闘志とは対照的に、冷たく落ち着いた一言。しかし荒ぶる感情がその裏にあることは聞けば分かった。

――簡単なことだと言うだけなら簡単だ。しかしその安易な一言は、大勢の者を侮辱するに等しいものだった。



「じゃあ本当に簡単かどうか――見せてやるよ!」



刃を鞘の中に収めたまま、英は大地を蹴り出す。居合切りを繰り出す姿勢で金涙の元まで走る。

当然金涙もそれを迎え撃つ。触手を振りかぶり、英に向けて振り下ろした。


このまま金涙の元まで突っ切るには、太刀を抜いて触手を弾く必要がある。しかし英は一ミリたりとも刀身を出さなかった。



(銀灰砲術――"(しろがね)花火"!!)



次の瞬間、英の銃がけたたましく鳴る。

銃は別々の方向に銃口を向け、迫り来る触手に熱弾を放つ。信長に負けない火力で触手を薙ぎ払い、金涙までの道を開けた。


更に距離を詰めてきたところで、金涙が長刀を振る。恐ろしく長い刀身は英の間合い外から攻撃することが可能だ。

しかし英はこれにも無対応。刃を抜く気配も無く、熱弾を撃とうともしない。


――何故なら避ける必要が無いから。英は金涙の剣撃を、リッキーブルーの装甲で受け切った。



(硬い! 強度が増している!)


「ハァ――!!」



リッキーブルーの真骨頂である鎧の硬さは、ギラファオウゴンオニクワガタの刃を難なく防いだ。そのまま鞘にしまっていた刃をようやく抜く。

素早い居合切りがその身体を斬り裂くも、すぐに再生する。そこから英と金涙の斬り合いが始まった。


交錯する金と銀の刃、鳴り響く金属音と衝突音。

金涙は英の斬撃を避けない――何故ならすぐに治るから。どんなに斬られても傷が即座に再生する。

英は金涙の斬撃を避けない――何故なら斬れないから。リッキーブルーの装甲はあらゆる攻撃を受け止める。


言わば超再生と超耐久のぶつかり合い。両者とも攻撃のみに意識を割いていた。

このまま剣による正面衝突が続くかと思いきや、英が次の一手を()()



(銀灰砲術――"降銀雨(こうぎんう)"!!)



頭上で形成されていた数丁の銃が、地上に向けて熱弾を放つ。白い熱線が降り注ぎ、一瞬にして猛火が金涙を包み込んだ。

宛ら飛行機による爆撃。そして英は爆ぜた戦場を躊躇なく駆けて斬りかかる。


銃撃と剣撃を合わせた猛攻撃に、金涙はそれが効かないと理解してはいるが戦慄した。



(混蟲因子の継承には武器の扱い方も含まれている。しかし、勝手の違う信長公の砲術をここまで使えるとは……!)



新たな鎧と武器を継承した武者は、その使い方を本能的に理解する。黒金で言う光秀の身のこなし、金涙で言う長刀の振り方。

しかしこれらはあくまでも刀剣という同じ種類の得物で起きているもの。例え刀身の種類や長さが違っても最低限の部分は同じである。


しかし英の銀灰砲術の場合は違う。銃と刀、対照的なものだ。刀の振り方と銃の撃ち方は理屈も必要な心得も全く異なっているはず。

それをものともせず、英は砲術を使いこなしている。それも信長との間で築かれた友情のおかげであった。



(硬い装甲に凄まじい火力、人の形をした要塞を相手にしているようだ!)



鉄壁の守りと全てを消し飛ばす火力を兼ね備えたその強さは、まさしく要塞と言っても過言ではない。ただ単に信長の火力が足されただけではなく、リッキーブルーの硬さと融合したことで加算以上の強さを生んでいた。



(――だが、オウゴンギラファ(わたし)の敵ではない!)



それでも金涙は死なない。砲術で動きは止まっても、それが致命傷になることはなかった。

切り傷も、火傷も、風穴も、あらゆる傷がすぐに治る。熱弾が頭部に直撃しても平然としていた。



(オウゴンギラファ――"鬼喰鋏(おにぐいばさみ)"!)



熱弾の雨を浴びながらも、金涙は長刀を構える。自分の手前で交差させ、それを一気に外へ払う。

すると二刀の刃先がその間にいる英を捉え、ハサミのように挟み込んだ。


リッキーブルーの装甲が斬られることはないが、黄金の長刀は英の身体を放さない。強い力で挟んでいるため抜け出すことができなかった。

そして金涙は刃で削るように擦り始める。擦れる度に耳障りな音と火花が散り、ジリジリと鎧を斬っていく。



「その鎧にはかなりのエネルギーを使っているはず、それに加え信長公の砲術……果たしてどこまでもつでしょうか!」


「ッ――!」



信長のおかげでほぼ全回復したとはいえ、エネルギーの問題はまだ解決していない。

リッキーブルーはグラントシロカブトとヘラクレスオオカブト、二つ分の力であるが為にかなりの力を消耗する。そして硬い装甲を維持する分も含めると、基礎代謝だけでも消耗が激しくなる。


更には信長が受け継いだ砲術も結構な量のエネルギーを使う。リッキーブルーと銀灰砲術の併用は、英の想像以上に力を消費していた。


求められるのは短期決戦。しかし底無しのエネルギーで何度でも再生をする今の金涙を相手には、無謀でしかない。

しかし今の英たちには、出し惜しみする余裕も無ければこれ以上力を回復する見込みも無い。無謀でも何でも、ここで勝つしか道は無い。



「――ハァ!」



英は躊躇なく銀灰砲術の銃を形成し、金涙の長刀を上から狙う。刀身に熱弾を落とすことで相手のバランス感覚を崩し、その隙に長刀の鋏から抜け出す。

その後も銀灰砲術による銃撃は続け、リッキーブルーの太刀で斬りかかる。金涙の言葉を理解できなかったわけではない、英も自分の身体のことは自分が一番よく理解していた。



「後先考えずの攻撃は寿命を縮めるだけですよ。と言っても、少し早まる程度の問題でしょうが」


「後先考えず……か、本当にそう思うか?」



金涙の皮肉めいた忠告に対し、英は不敵の笑みを浮かべる。

次の瞬間、金涙の"虫の知らせ"が迫る気配を察知する。熱弾の雨が降り注ぐ中、それが凄まじい速度で後ろから接近してくるのが分かった。

そんなことができるのは一人しかいない。



(大金剛――"宝珠の瞬き"!!)



忍が金涙の真上を素通りすると同時に、その頭を斬り裂く。そのまま間髪入れず正面から立ち向かい、目にも止まらない剣撃を炸裂させた。


金涙は長刀でそれを払い除け、距離ができたところに触手攻撃を放つ。どこまでも伸びる触手が忍を捉えるが、英の援護射撃が先端に命中し、その行く手を阻んだ。



「うぉおおおおおお!!」


 

更に豪牙もそこに加わる。雄叫びを上げながら大槌を振りかぶる。

先ほどまで近づくことすらできなかったというのに、ここにきて三人の勢いが強まった。


その理由は、英が銀灰砲術で援護射撃しているから。

長刀と触手が軌道を描く前に熱弾で狙い撃ちし、攻撃を妨害していた。その代わりに爆発が立て続けに起き、周囲の気温が尋常じゃない程上昇しているが、今更そんなことは気にしていられない。



(エレファスゾウカブト――"猛牙撃"!!)


(大金剛――"翠玉刹那"!!)


(リッキーブルー――"水銀の滴り"!!)



豪牙の打撃が姿勢を崩し、その隙に忍が交差斬りを食らわせる。そして追い打ちに、英の刺突がその胸を貫いた。

更に刃先が金涙の身体を突き刺すと同時に熱弾を放つ。金涙の身体を徹底的に攻めていく。


それでも金涙の再生は遅くならない。熱弾の雨を浴びせ、大量の刃で斬り裂いても、一瞬で修復されてしまう。

そして英の援護射撃にも限界があった。熱弾の被弾も無視し、金涙は力尽くで長刀を振り切る。



(オウゴンギラファ――"鬼牙裂波(きばれっぱ)"!)


「ッ――!?」



繰り出されたのは数えきれない程の斬撃。一つ一つの幅が広く、網のように折り重なっている。それが全方位へと放たれた。

英の銀灰砲術でも全ての斬撃を撃ち落とすことはできず、三人は金涙から離れることを余儀なくされる。


前方から迫る斬撃を弾きつつ後退していく。

すると地中から触手が飛び出し、斬撃と共に襲い掛かってきた。



(地中からの触手は銃で狙えない! しかも斬撃と衝突しないのが厄介すぎる!)



ただでさえ密度が狭い斬撃の網に加え、その中を自由に動き回る触手の猛攻となると防戦一方になるしかない。

触手は斬れても切断されない。だからこそ金涙は、自分の斬撃が飛び交う中に触手を突っ込ませることができる。


高密度の攻撃に対し英は持ち前の装甲で防ぐことはできるが、他の二人はそうはいかない。特に豪牙は迫り来る斬撃と触手に逃げることしかできなかった。

この攻撃を続けられたら一向に近付けず、また限界が訪れるだけ。それは何としても避けなければならない。


この状況を打破できるのは、英の銀灰砲術のみだった。



(まとめて吹き飛ばす!

銀灰砲術――"白虎雷哮(びやっこらいこう)"!!)



形成するのは白く灯る砲身。そこから放つは白い爆炎。

信長の"第六天雷"を彷彿とさせる砲撃が、斬撃も触手も全て吞み込む。そして砲撃は金涙にまで到達した。


雷が落ちたかのような轟音と共に、金涙の身体が宙に投げ出される。地中に伸ばしていた触手が金涙と地上を繋ぎとめるかと思いきや、あまりの衝撃にまとめて吹き飛ばされた。



(――触手を出し過ぎたせいで、衝撃を受ける部分が広くなり踏みとどまれなかった。それもあるが、英さんの砲撃が想像以上に強かったのもある)



攻撃の為にと増やした触手が的となり、本来踏みとどまれたはずの衝撃に耐えきれなかった。しかしそれ以上に、銀灰砲術の砲撃が信長のものと比べて格段にパワーアップしていたのもある。


爆風で回りながら上へと打ち上げられる金涙、すぐに翅を広げて空中で姿勢を立て直した。

そこへ、目にも止まらぬ黒い突風が奔る。



(大金剛――"光沢ノ鳥篭"!!)



金涙がそれを忍だと認識するより先に、その全身を剣撃が斬り裂く。

忍の残像がまるで鳥篭のように金涙を閉じ込める。そして忍本体はその鳥篭の中を縦横無尽に飛び回り、金涙の身体を斬っていく。



(ここで一気にすり減らす――!!)



地面という縛りが無くなった今、忍の動きを遮るものは無い。力の限り加速を続け、金涙の身体を斬り裂く。

対する金涙は伸ばしていた触手を一度体内に収める。



(――"牙ノ筵"!!)


「ッ――!」



次の瞬間、触手がハリネズミの針のように全方位へと突き出た。更には触手の一本一本に棘が乱立し、忍の行く手を阻む。

忍は慌てて後ろへと飛び去り金涙から離れた。もう少し遅ければまた串刺しにされていただろう。



(エレファスゾウカブト――"長鼻蹂躙・象輪車(ぞうりんぐるま)"!!)


「うぐッ――!?」



次に仕掛けたのは豪牙。大槌を薙ぎ払いながら自身の身体をも回し、まるで車輪のように回転する。その状態で上から金涙に殴りかかった。

行手を阻む針触手の束は力尽くで押しのけ、そのまま顔面を殴り抜けて地面へと叩き落とした。



「――ハァ!!」



普通なら頭蓋骨が砕け、頭が潰れていただろう。しかしそれもすぐに治ってしまう。それどころか金涙は落下中だというのに長刀を振り、上空の二人に向けて斬撃を放つ。

高速の斬撃は、あっと言う間に豪牙の目前まで迫った。



「先生危ないッ!!」


「ぬぉ!?」



咄嗟に忍がその巨体を押し、斬撃の軌道から豪牙を退かす。後数秒遅ければ、真っ二つに斬り裂かれていただろう。



「す、すまん助かった!」


「いえ全然、任せてください!」



二人がそんなやり取りをしている間に、金涙が地上に落ちてくる。それを確認した豪牙たちは、すぐさま戦闘態勢へと戻った。

金涙は再び"鬼牙裂波"の斬撃網を展開、周囲にいる敵をまとめて蹴散らそうとする。



(エレファスゾウカブト――"象覇弾・巨群踏均し"!!)


(大金剛――"金剛烈風"!!)



対する豪牙と忍は、大量の光弾と斬撃を以て迎え撃つ。

そして二人が金涙の気を引いている隙に、英が上から跳びかかる。太刀を振り下ろすと同時に銃撃も放った。

剣撃と銃撃の同時攻撃を金涙に食らわせ、果敢に攻めていった。



「だぁあ――!!」


「――ッ、貴方方も諦めが悪い!」



いくら避ける必要が無いとはいえ、何度も攻撃されていくうちに苛立ちを隠せなくなったのか、金涙は声を荒げて刃を振るう。

その感情の勢いに合わせて、太い槍状の変形させた触手で英を突く。そのままリッキーブルーの鎧を貫くまで触手を伸ばしていく。


だが英は触手の軌道を剣撃で逸らし、再び金涙に斬りかかる。そこに諦める様子など微塵も見られない。



「――どうした、薄笑いが消えているぞ! 流石に余裕が無くなってきたんじゃないのか!」


「いいえ、ただ呆れているのですよ。無駄だと言うのに、いつまでも挑んでくるその頭の悪さにね!」



金涙の言う通り、今の金涙に攻撃し続けることは無駄な行為に等しい。どんなに強い技をぶつけても、その身体は血を噴き出す前に再生する。だから数では勝っていても、不利であることには変わりない。


現にこの戦いで英たちは何度も限界を見てきたし、死ぬ寸前まで追い込まれた。戦いが長引けば長引く程、金涙に軍配が上がっていく。


――だというのに、目の前の武者たちは未だ動き続けている。殺したと思えば、その度新たな力を手に入れて復活してくる。その諦めの悪さに、金涙は苛ついていた。


その様子を見て英は、今までの仕返しにと言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべる。その笑みだってほぼ強がりのはずなのに。



「――初めて人間らしい顔を見せたな。そんなに無駄なことが嫌いか!」


「嫌いに決まっているでしょう! 人間はその無駄なことをし続けた結果、進化を疎かにした! 友情だの絆だの、必要の無いものに入れ込み過ぎたせいだ!

――進化に、力以外のものなど要らないというのに!」


「じゃあお前のそれはなんだ! そのギラファの力は、お前の言う必要の無いもののおかげで手に入ったものだぞ!」



金涙は英たちが培った絆を無駄なものだと否定する。進化こそが生物の義務だと考える金涙にとって、力以外のものは進化における非効率的要素の何物でもなかった。


その言葉を聞いた英は、笑みから怒りの表情になってそれを一蹴した。

ギラファオウゴンオニクワガタの力は、アミメの金涙への想いから生まれたもの。どんなに歪んでいようと彼女の想いは本物である証明である。敵である英も、それだけは分かっていた。


だからこそ、それすらも無駄と言う金涙が許せなかった。アミメの想いを踏みにじるその言動に、怒りを覚えずにはいられなかった。



「お前の大好きな混蟲因子が言っているんだぜ! お前はアミメのおかげで強くなったんだと! それでもまだ無駄と言えるのか!」


「ッ――こんなものは、ただの現象でしかない!」



感情の昂りと共に、大技を繰り出す金涙。

力強く長刀を振り回し、周りにあるもの全てを斬り裂いていく。英はそれを受けつつも後退を強いられる。

その際、白銀の装甲が小さな溝ができていた。金涙の剣撃によって斬り砕かれたのだ。



(リッキーブルーの硬さが維持できなくなっている! 予想以上に銀灰砲術の消耗が激しい!)


「――ほら、あの火力と装甲の強度をいつまでも維持できるわけがない」



銀灰砲術による銃撃は、英の想像以上にエネルギーを使うものだった。元々結構な力を食うリッキーブルーに加え、その分の消耗も積み重なればすぐに限界が来る。

それこそ、金涙のような化け物じみた量のエネルギーが無い限り。



「それに比べて私の身体はまだ全然。これで分かったでしょう? どんなに攻撃しても無駄なのが」



両腕を広げ、自分の身体を見せびらかす金涙。その言葉通り、数えきれない程の攻撃と技を受けているはずのその肉体と鎧には、傷一つ残っていない。

そして長刀と触手で執拗に攻撃し、リッキーブルーの装甲を削り取っていく。


攻撃を受ける度に消耗が激しくなり、英は息を切らす。

信長を吸収して回復したエネルギーも、既に大半を使っていた。



「確かにお前を倒すことはできないかもな。

だけど俺は――独りじゃない」



その言葉を耳にするより先に、金涙は"虫の知らせ"で背後からの攻撃を感知する。それが打撃攻撃だと気づいた瞬間に、背中からの触手で迎え撃つ。

豪牙の大槌と金涙の触手が衝突し、凄まじい衝撃波を生んだ。



「そうだ! 俺とこいつがいることを忘れんな!」


「――"蒼玉雷神"ッッ!!」



そして間髪入れず、忍が上から降り立つと同時に金涙に一太刀浴びせた。そこから豪牙が大槌を振りかぶり金涙を殴り飛ばす。

英と同じように、戦意を保ち続ける豪牙と忍。それが益々金涙の苛立ちを加速させた。



「それも――無駄だと言うのに!」



感情のままに放つ斬撃は、通常のものより速くそして広くなっていた。皮肉なことに金涙の否定した感情が、オウゴンギラファの力を更に高めている。


迫る斬撃を躱し、弾き、三人の武者は防御を怠らず確実に前に進む。しかし金涙の後退に比べるとどうしても遅く感じてしまう。これでは一向に金涙に近付けないのは明白だった。



「銀灰砲術で突破口を開く! その瞬間に頼む!」


「応ッ!」


「はいッ!」



状況打破の為に英が砲身を形成する。その行為に躊躇いなど一切無く、自分の消耗など全く考えていないのが分かる。



「――"白虎雷哮"ォ!!」



白い炎を纏った砲口が、雷鳴のような轟音を吼える。そして白銀の閃光と爆炎を放ち、軌道上の斬撃を全て蹴散らした。

その直線状にいた金涙もその影響を受ける。今度は両刀を地面に突き刺し、何とかこの場に踏みとどまった。



(ッ、あの状態で躊躇無く撃つとは……!)



流石にリッキーブルーが脆くなっていれば、そう易々と銀灰砲術は使わないだろうと、金涙は踏んでいた。しかしその予想は外れ、普通の銃撃どころか最も消耗の激しい"白虎雷哮"を使ったことに驚きを隠せない。


そして次に、爆炎の中から豪牙と忍が飛び出す。

先行するのは忍。挨拶代わりにと剣撃を浴びせた後に、豪牙が強烈な一撃をぶつけた。



「――やはり鬱陶しいですね、エレファスゾウカブト!」


「危ないッ、象さん先生!」



何度も大槌に殴られ、動きを妨害されきた金涙。ついに無視することができなくなり、先に豪牙を始末しようと彼に向けて長刀を振りかぶる。

豪牙の機動力では金涙の剣撃を躱しきれない。このままだと斬られてしまう。急いで助けに行こうとする忍だが、金涙の背中から伸びる触手がそれを遮った。


――しかし、金涙の長刀が最後まで振るわれることはなかった。

何故なら、柄を握っていた()()()()()()()()のだから。



「……えっ?」



その光景に思わず声を漏らしたのは一番近くにいた豪牙だった。その位置からだと何が起きたのか正確に分かった。

恐らく先ほどの忍の剣撃が腕を掠めていたのだろう。だが問題はそこではない。


失われた腕は数秒も経たず再生する。それでも断面が晒されていた時間が確かにあった。

――切断できたのだ、金涙の腕を。

それが何を意味するのか、もうお分かりだろう。



(――きた、きたきたきたきたきたきた!! 遂にきた!!)



次の瞬間、三人の中に希望が生まれる。先の見えない戦いの中、勝利の兆しが栄光のように見えてくる。

興奮で鼓動が加速する。湧き上がる悦びを抑えきれない。思わず口角を曲げてしまう程に、英たちは歓喜していた。


――金涙のエネルギーに、遂に限界が訪れようとしているのだ。

今までは斬っても即座に再生し、傷口すら見えなかった。しかし腕の切断に成功した今、もうそんなことは起きない。それでもすぐに新しい腕が生えてきたが、先ほどまでと比べて明らかに再生速度が遅くなっている。



「……まさか、そんなことが……!」



金涙自身も生え変わった腕を信じられない様子で見ていた。ここまで追い詰められることはないだろうと高を括っていたのだから無理も無い。

何にせよ、これは好機。まだかまだかと待ち焦がれていた、勝利への道だった。



「――頭か胸を狙え! 今なら即死させられるぞぉ!!」



誰がそう叫んだのかは分からないが、その言葉と同時に三人が一斉に攻撃へと転じる。

今の金涙にもう即再生する程のエネルギーは無い。つまり首を落とすか心臓を貫きさえすれば、この戦いが終わる。


――長きにわたる混蟲武人衆との戦いに、遂に終止符が打たれようとしていた。

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