表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
最終章:黄金武者の超越
211/230

210話

「――そうですか、彩辻さんが忍君に……」


彩辻と忍の戦いの結末を移動要塞の心臓部にいる金涙がアミメから聞かされるも、特に反応を見せない。

唯一反応を示したのは、移動要塞を操りその内部も監視しているアミメだけだった。


『邪魔をするなと言っておきながらこの始末、全く情けない』


「まぁいいじゃありませんか、我々も忍君の力を侮っていた節があります。

それに言ったでしょう? 伊音さんの心臓が手に入るのも時間の問題だと」


『――後は私にお任せください。小峰忍は消耗しています。私と堕武者共の力押しで、すぐに神童伊音を取り込んでみせます』


アミメの言う通り、今の忍は瀕死と言っても過言ではない。アミメが操る肉の触手と堕武者の大群をもってすれば、伊音の確保にそう時間は掛からないだろう。


すると金涙が何かを察知したのか、何もない下方向を見つめ始める。


「……おや、でもやっぱり急いだほうがいいかもしれません。

()()()()()()()()()()()()()()()()()







「ヌォラァアア!!!」


嵬姿の野太い雄叫びが、移動要塞の足元で響き渡る。コーカサスの大剣を豪快に振り回し、叩きつけるように英へ斬りかかった。


その猛攻に対し、英はひたすら躱しながら後ろへと下がる。避けるだけでいつまでも反撃してこない英に、今度は怒号が響く。


「オイ逃げるな!! 逃げるぐらいなら大人しく俺に斬られろ!」


(チッ――そんな余裕無いんだよ!)


嵬姿の無茶苦茶な命令に、心の中で悪態をつく英。

何度も大剣を受け続け、英はエネルギーを多く消耗していた。リッキーブルーの装甲は嵬姿の攻撃を防げるも、何度もという訳ではない。


豪牙と信長を守る盾として前に出ていた英だったが、下手に受け続ければすぐに限界が訪れる。あくまでも嵬姿を惹きつけることだけを考え、正面からの攻防をなるべく避けていく。


「――動くな白武者!」


そうやって後退していると、自分の影が前に伸びていることに気づく英。つまり、すぐ後ろで強い光が放たれていた。

英がその声に従い体を反らすと、そのすぐ横を数本の熱線が通過する。


嵬姿から距離を取っていた信長による援護射撃。直線上にいる英に当たらないよう、向こう側の嵬姿のみを狙う。


「ッと――!」


突然迫る熱線の弾幕に、嵬姿は大剣を盾にして防ぐ。直撃は免れても、爆発の余波でダメージは入った。

更に本能死の爆炎に紛れ、豪牙が嵬姿の背後から殴りかかる。


「――オラァア!!!」


「うぐぉ!?」


大きく横に振るわれた大槌が嵬姿の背中を直撃。骨がへし折れた音が痛々しく嵬姿の体内で反響し、その巨体を吹っ飛ばした。


背後からの不意打ちを受け、地面を転がる嵬姿。そこへ英たちはここぞとばかりに一斉攻撃を仕掛ける。


「――背骨を折った! やるなら今だ!」


「オッケイ!」


英は斬撃、豪牙は光弾、そして信長は本能死の銃撃。各々の遠距離攻撃で距離を保ったまま嵬姿を狙う。

しかししばらく動けないと思われていた嵬姿が、起き上がると同時に大剣を振り上げた。


「くくッ――"大崩山"ンン!!!」


「ッ!?」


前触れも無く放たれた"大崩山"は、三人の攻撃をいとも簡単に蹴散らし、そのまま真っ直ぐ向かってくる。

何故動ける? ――そんな疑問をよそに、英が前に躍り出た。


「ッ――うぉおおおおおお!!!」


豪牙と信長を庇い、全身で巨大斬撃を受けるもその勢いは止まらない。

何とか後ろの二人を巻き込まないよう防ぐも、代わりに英の胴を深く斬り裂いた。


「あがっ……!」


「白武者!」


リッキーブルーの装甲諸共斬られ、膝を付く英。夥しい量の血が銀色の鎧を染めていく。

そんな英とは裏腹に、嵬姿は完全復活して堂々と立っている。とても背骨を折られた者とは思えない。


「ッ……背骨が折れたんだぞ! 再生したにしても速過ぎだ!」


「この俺の銃撃を受けて、まだ立つか……怪物め」


ピンピンとした嵬姿を前に、三人は消耗を隠せない。

連携して絶え間なく攻撃しているというのに、嵬姿からその狂気の笑みが消えることはなかった。


どんなに攻撃を浴びせようとも、どんな傷を付けようとも、すぐに復活して笑いながら斬りかかってくる。不死身と思ってしまう程のタフさが、精神的にも追い詰めていた。


「――ッしゃあ! ようやく一発入ったぜ!

だけどこれで終わりじゃねぇぞ、再生してまたかかって来やがれ!」


まるでボールをゴールに入れた時のようにはしゃぐ嵬姿。対し倒れかけていた英だったが、傷口をある程度再生させて何とか立ち上がる。


「……タフな奴め、上等だ……!」


「だけどどうすんだ!? このままだと埒が明かないぞ!」


勝機の見えない戦いに、豪牙が声を上げる。

一向に疲れを見せない嵬姿のコーカサス、その力は未だ底を見せていない。このまま戦闘を続けてどちらが先にバテるか、それすらも微妙だった。


「……奴の力がまだ有り余っていようとも、不死身というわけではない。


我が本能死ならば、奴を一瞬で消し炭にすることができる。しかしあの大剣で防がれ、少しでも原型があればすぐに復活するだろう。


そこで白武者が盾となり奴の注意を惹けばいい。象武者は規模の大きい技でその援護をして、奴の目から俺を隠せ」


「成る程……一発勝負ってわけか」


戦法の大部分に変更は無く、英は引き続き嵬姿の攻撃を受け止める盾の役割。それと同時に囮にもなって信長の銃撃を悟られないようにする。豪牙はその援護、大槌を活かした豪快な技で更に注意を惹く。


つまりこの戦いは、信長の一発で勝敗が決まる。


「……さっきの一撃で結構消耗しちまったが、やるしかないか。野郎は俺にご熱心だしよ」


そして英は執拗に狙われている為、囮役には打って付け。今まで逃げ続けた分英が前線に出れば、嵬姿は血眼になって狙うだろう。

そうと決まればと、傷の再生をほぼ終わらせた英は迷いなく嵬姿へと突撃していった。


「ようやくその気になったか! 来いよ、今度こそ真っ二つにしてやる!」


「――師匠から受け継いだこの鎧、そう何度も斬れると思うなよ!」


真っ向から来る英に嵬姿は目を見開いて興奮し、出迎えの一太刀を振り下ろすも躱される。

まるで焦らすように嵬姿の剣撃を避け続けていき、その注意を信長から外した。


(とは言ったものの、こっちはほぼ限界……せめてもう一回は"大崩山(あれ)"を受け切れるぐらいの力は残しとかねぇと!)


嵬姿の斬撃を受け止められるのは、英のリッキーブルーのみ。だからこそ英は嵬姿の前に踏み出せる。

そして、英が絶対に防がないといけないのは"大崩山"。あれを放たれたら信長の作戦は勿論その軌道上にある町も巻き込んでしまう。


そしてこれ以上の長期戦を避けるには、信長の銃撃で嵬姿を瞬殺する他無い。もし外したり仕留め損なったりすれば、警戒が増して更に戦いが泥沼化するだろう。


その為にも、英と豪牙には()姿()()()()()()()()()()()()()()役目がある。

その隙というのは、"大崩山"を放つ瞬間だった。


(もし奴が"大崩山"をしてくるなら、狙いは俺。その時奴の注意は100%俺に向けられるはず!

――その隙は、俺が作る!)


自分の肩に勝機が掛かっているのだと、覚悟を決める英。嵬姿の大剣を弾き、横に回り込んで太刀を振る。大剣を躱しながらある程度の抵抗をして奮闘する。


「エレファスゾウカブト――"震怒獣王"ォ!!」


更にそこへ豪牙が加わり、跳びかかると同時にその大槌を振り下ろす。

斜め上からの打撃に対し、掲げるように持ち上げた刃で防ぐ嵬姿。しかし重い一撃は嵬姿の巨体を押し込み、足元を陥没させる。


(今だ、足を――!!)


これにより、巨体を支えていた嵬姿の両足へ更に負担が加わる。

足さえ斬ればしばらく動けず隙ができるというのが英の狙い。姿勢を深くして居合切りの構えを取る。


(リッキーブルー、"天銀(アマノシロガネノ)流剣"――!!)


嵬姿が大剣を下ろす前に、鞘から一気に刀身を抜き渾身の一太刀を放つ。特に防がれることなく銀色の一閃が炸裂した。

しかし最期まで振り切る前に、"天銀流剣"は嵬姿の足に()()()()()


(止められた――鎧と筋肉で!?)


英の居合切りは確かに命中した。しかし完全に切断することはできず、エネルギーを集中させた装甲と化け物じみた筋力が、銀色の太刀を掴んで離さない。


足狙いは失敗した、急いで刃を抜こうとする英。しかし脚の肉はガッシリと刀身を挟み込み、とてもではないが力尽くで引き抜くことはできなかった。


その隙に嵬姿は頭上の豪牙を振り払い、英目掛けて大剣を振りかぶる。

太刀を捨て嵬姿の攻撃を躱した後でまた別の太刀を再形成する手もある。しかし英はそれを敢えてしなかった。


(武器の形成はエネルギーを食う! "大崩山"を受け止める為にも、太刀の再形成はできない!)


「よぅし――逃げるなよぉ!!」


今の英に武器の再形成ができる程の余裕は無い。ここはなんとしても嵬姿の足から太刀を抜くしかない。

だがそれまで嵬姿がジッと待っている訳も無く、容赦なく大剣を振り下ろした。


「――悪い英、()()()()()()()()()! そいつの剣食らうよりはマシだろ!?」


「象さん――!?」


そんな窮地に、豪牙が手を貸す。しかし大槌の間合いも届いていない場所

から、一体何をするつもりなのか?


届かないはずの大槌を振りかぶる姿を見て、最初は"象覇弾"で嵬姿を吹っ飛ばす算段かと思ったが、光弾で嵬姿を崩せるとは思えない。それは豪牙自身も分かっているはず。


("猛牙撃"で一点を殴る感じとは違う……寧ろ()()()()()()()()()、大気全体を揺らすイメージ!


エレファスゾウカブト――"大咆哮・打払"!!!)


強大なエレファスゾウカブトのパワーが虚空を殴る。それが凄まじい衝撃波となって英と嵬姿を呑み込んだ。


「うぉわ!?」


「ッ……!」


突風顔負けの風圧に目も空けられず、嵬姿の攻撃は英の横に逸れる。そして足の筋力も緩まり、解放された英は"大咆哮・打払"によって嵬姿から突き放された。


(英は吹き飛ばせたが、嵬姿は殆どビクともしなかった。重い身体と馬鹿力による踏ん張りのせいだろうが、少しは蹌踉けてもいいだろうに!)


衝撃波で英を救うことはできたが、肝心の嵬姿は吹き飛ばないどころか踏鞴を踏む様子すら無かった。巨大な肉体を持ち前の怪力で支えて耐えたのだった。


「チッ、邪魔しやがって! 後もう少しだったのによぉ!」


「た、助かったぜ象さん……!」


少々強引だったが、豪牙によって救われた英。気を取り直して太刀を構える。嵬姿も豪牙のことは一瞥するだけで、すぐに英の方へ向き直った。

再び一対一の睨み合いが始まるも、英は嵬姿の向こう側にいる信長にも目を通す。


土煙でも紛れてはいるが、その頭上で巨大な大砲がチャージされていることを確認し、気を引き締め直して嵬姿と対峙する。


(――向こうの準備は万端、上手いことコーカサスの野郎も気づいていない。

来るなら来い、絶対に受け止め切ってやる!)


信長が向けてくる視線は、"いつでも放てる"という合図。後は嵬姿が隙を見せれば、すぐに勝負がつく。

嵬姿の性格上、"大崩山"はそろそろ放たれるだろう。後はそれを受け止めるのみ。


「ああもう限界だ! いい加減俺に斬られろよ――!!」


(――来た!)


すると嵬姿の大剣を振りかぶる動作を見て、待ち望んだ"大崩山"が放たれるのを察知した英は、予定通りそれを受け止める姿勢に入る。

残り少ないエネルギーを全て鎧に集中させ、息を吸って覚悟を決める。その際視界の隅に映った街の光景を見て、嵬姿の狙いに気づく。


(こいつ――ただがむしゃらに俺だけ狙っているのかと思ったら、街の方向を狙って俺が躱せないようにしてやがる! 意外と考えてるな。


だけど好都合! そっちの方が最初から受け止める理由になるし、何より絶対に防ぐって感じで気が引き締まる!)


最初から"大崩山"を受け止める姿勢であれば、嵬姿が違和感を感じて作戦に気づく可能性もあった。しかし向こうが街の方角を狙い定めてくれたおかげでその言い訳ができる。


"もし自分が防がなければ街にいる人々が死んでしまう"、そんな使命が英の覚悟を更に硬くし、"大崩山"へと向き合わせた。


「"大――崩山"ッッッ!!!!」


そして遂に放たれる大技"大崩山"。剣撃の閃光が視界を埋め尽くし、自分を呑み込もうと迫る巨大斬撃に、英は落ち着き払った様子で再び太刀を鞘に収める。


(行くぜ全力の――"雪山銀幕"!!)


居合切りによる防御技、"雪山銀幕"で"大崩山"を受け止める英。

待ち望んでいた全身全霊の真っ向勝負に嵬姿が破顔したところで、英たちの作戦が始まった。


今までとてつもない熱量をため込んでいた信長の大筒が、文字通り火を噴く場面が来る。


「変手――"第六天雷"ィ!!!」


そうして遂に放たれた"第六天雷"、移動要塞の陰によって薄暗くなっていた周囲を瞬時に照らし、轟音と共に巨大熱線が走る。

"虫の知らせ"さえも英に集中させていた嵬姿は、その音で信長の存在をようやく思い出す。


「ウアァ――!?」


避ける暇も無く嵬姿を周囲ごと呑み込み、その姿は燃え盛る業炎によって見えなくなる。

近づけない程熱せられた空気が来る者を拒み、ただその燃えっぷりを傍観するしかない。


「ッ……おりゃあ!!」


一方英は、気合の入った雄叫びと共に"雪山銀幕"の一太刀を最後まで振り切り、"大崩山"を見事を上へと受け流せた。

それでもダメージは多く入り、リッキーブルーの鎧を貫きその身体を深く斬り裂いている。


「ッハァ……ハァ……!」


「大丈夫か英!」


膝を付いて衰耗した体を支える英に豪牙が駆け寄る。残されたエネルギーでは傷口の再生が遅く、このままでは失血死してしまうだろう。


(しょうがない……リッキーブルーは一旦解除だ!)


そこで基礎代謝の時点で多くのエネルギーを使うリッキーブルーの鎧を捨て、敢えてグラントシロカブトの鎧へと戻る。そうしてリッキーブルーの硬さを維持するのに使っていたエネルギー分を傷の再生に宛がった。


「な、何とか防いでやった……作戦は、成功か……?」


「ああ、コーカサスの野郎今頃炭になってるだろうぜ!」


立てるのもやっとな英に豪牙は肩を貸し、今もなお発射されている"第六天雷"を見せる。

溜めた熱量を最後まで振り絞り、持てる力を全て注いだ熱線は見事嵬姿を撃ち抜いた。豪牙は炭になっていると言うが、恐らく炭すら残らないだろう。


それを見た英はようやく嵬姿を倒せた事実に安堵するも、すぐにこの後のことを考える。


(リッキーブルーはもう使えない……チョコバーも無いし、回復する手段が無い……!

グラントシロカブトで金涙(やつ)とどこまで戦えるか……!)


仕方のないこととはいえ、リッキーブルーの姿で戦えなくなったのは大きな痛手であった。


金涙のオウゴンオニクワガタ"夜叉断ノ姿"は、嵬姿に負けず劣らず強烈な剣撃を繰り出す。

移動要塞を操るアミメもいる訳で、果たしてグラントシロカブトの鎧で最後まで戦えるのか不安だった。


(そんなことしてる場合じゃないか、早く伊音ちゃんと小峰君の元へ――!)


だが今の英たちに立ち止まっている時間は無い。一刻も早く伊音たちの元へ合流しなければならない。


そうして移動要塞に突入しようとしたところで――もう二度と見たくなかった一閃が走る。


「――なッ!?」


「信長――!」


燃え盛る"第六天雷"を薙ぎ払い、向かうは熱線の出どころである信長。まさか渾身の砲撃が打ち破られるとは思いも寄らず、回避が一歩遅れてしまう。

結果、"第六天雷"を放った大筒ごと信長は左腕を斬り飛ばされてしまう。


「うぐぉ――!」


片腕を失いながらも信長はすぐに態勢を立て直し、透かさず反撃の弾丸を放つ。

狙うは"第六天雷"を撃った方向と同じ、しかし超高熱が残した煙の中で金属音と共に()()()()


「――そんな、嘘だろ」


信長の腕を切断し、弾丸を弾いたその正体に、英と豪牙は驚きを隠せない。

"第六天雷"は確かに奴を呑み込んだ――跡形も残っていないはずなのに。


("第六天雷"を受けつつ、巨大斬撃で相殺したというのか……信じられん!)


地獄の業火に全身を焼かれながらも大剣を振り回し、"大崩山"で"第六天雷"を打ち消したのだろうが、あらゆる物を溶かす高熱に包まれた状態で大技を繰り出したことに、信長は畏怖を抱く。


最早毛無猿(にんげん)は勿論、猿もどき(むしゃ)からも大きく外れた存在。何度倒しても向かってくる不死身の怪物を相手にしているようだった。


「――ク、ヌハハハハハ!!

まさかムカデ野郎が狙っていたとはな、お前がいたのをすっかり忘れていたぜ」


爆炎の煙からぬるりと姿を見せたのは、どうやって歩いているか不思議でならない程重症の嵬姿だった。


コーカサスの鎧など簡単に溶け、露出した皮膚は真っ黒に焦げている。遠くからだと全身黒色の物体としか認識できない。

顔面も所々燃え尽きて、剥き出しの歯茎で異様な笑みを見せてくる。その姿はとてもではないが人間には見えなかった。


傷口からは夥しい量の血が流れているが、それより前に多くの血液が高熱で蒸発しているに違いない。

やがてボロボロの両足で歩を重ねるにつれ、傷の再生が行われていく。

足りなくなった血を急製造し、ボロカス当然の身体に新しい肌が張り替えられる。


最後にコーカサスの鎧を修復したところで、嵬姿の姿は"第六天雷"を受ける前と殆ど変わらない状態へと戻った。

悠々と立つ嵬姿の姿に、英たちの顔色は絶望に染まる。


「そんな、これ以上戦う力なんか……!」


もう嵬姿と戦える力は殆ど残っていない。

英のリッキーブルーがエネルギー不足のせいで維持できない今、コーカサスの剣撃を受け止められるものもいなかった。


"大崩山"に対抗できる信長も、片腕を失い万全の状態とは言えない。それに"第六天雷"で一度は瀕死に追い込んだ今、同じ手は通用しないだろう。


こんな満身創痍の状態で果たして嵬姿を倒せるのか、先も見えない可能性の低い勝利に一同は絶望しかけるも、そこに一筋の希望が走る。


「……ブヘァ!!」


突如として噴き出される血反吐、嵬姿は気にせず歩みを続けるもどう見たって無事ではない。

――"第六天雷"を受けた影響に違いない。つまり三人が協力して与えたあの一撃は、決して無駄ではなかったということ。


異様なタフさを持つ嵬姿。死にかけの身体を再生するのに多くのエネルギーを使ったところで、ようやく"ゴール"が見えてきた。


(流石に全回復したわけじゃないのか! それでもあの状態から復活するなんて、タフな奴にも程があるが……!)


いかに嵬姿が怪物級のタフさを持っていようとも、燃え尽き寸前だった身体の再生には多くのエネルギーを消費した。先ほど吐いた血反吐は、戦いを続けるため鎧と主要器官の再生を優先するあまり、その他の傷の再生が間に合っていない証拠。


その微かな勝利への希望に、戦士たちは立ち上がる。

片腕を斬られた信長は悶えることなく銃を構え、豪牙は大槌を肩に担ぎ意気揚々と走り出した。


「……ようやく最終局面、ラストスパートってわけだな!」


そして英は、無神経の如く勝つ気満々の笑みを浮かべ豪牙と共に駆け上がる。

長時間に渡る嵬姿との戦いに、ようやく終止符が打たれようとしていた。

ようやく更新できた。


最後までお読みいただきありがとうございます。もしも気に入っていただけたのならページの下の方にある☆の評価の方をどうかお願いします。もしくは感想などでも構いません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ