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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十七章:虫籠に囚われし姫君たち
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199話

所変わるが同じく地下、伊音と濃姫がいる牢屋にて。

丁度英と信長が金涙が激突した時、その余波が再び地震となって二人の元まで伝わる。同じ地下にいるためより大きく牢屋を揺らし、体を伸ばすため立ち上がっていた伊音を転倒させた。


「きゃっ!?」


「だ、大丈夫ですか伊音様!」


強く尻餅を突いた伊音に濃姫がゆっくりと駆け寄る。

そこまで長い時間ではないが決して短くもない囚われの時間、同じ境遇がやがてシンドロームを生み、二人の間にあった溝を徐々に埋めていた。初めて顔を合わせた時はお互いに警戒色が強かったが、今や心配し合う仲だ。


「いてて……今のって、英さんたちが戦っている影響? それにさっきのより揺れが大きかったっていうことは……」


「……間違いありません。今のは信長様の本能死の余波。長らくお側にいた身、あのお方の銃声は何度も耳にしてきました」


伊音には何も聞き取れなかったが、決して遠くない位置からの銃声を濃姫は確かに感じ取っていた。信長の妻として共にいた時間が長い分、その銃声と衝撃には慣れていた。

そしてこの振動は、英たちが徐々に近づいていることを意味している。


「英さんたちがさっきより近づいてる……じゃあ、早くここの場所を教えないと――濃姫さん!」


「はい、先ほど仰っていた通りに……」


そこで二人は、英たちに自分たちの正確な居場所を伝えようとする。その方法は、さっき伊音が思いついたものだ。タイミングが重要で今まで試せなかったが、チャンスは今しかない。


しかし濃姫が早速それを行おうとしたその時、鉄格子の向こう側の扉がゆっくりと開く。伊音と濃姫は慌ててその方法を中止した。混蟲武人衆に悟られないためだ。

そして伊音は、入ってきたその顔を見て目を見開く。


「貴方は……確か、アミメ!」


「へぇ、私のことを覚えていたのね」


嵬姿たちと同じ混蟲武人衆のメンバーであり、この病院の看護婦長であるアミメ。ギラファノコギリクワガタの甲虫武者である彼女は唯一の女性の武者であり、数回しかその顔を見たことがなくとも印象は強かった。


目的の為なら手段は選ばない冷徹な女、そんな印象だったが今の彼女はどこか覇気が薄れている。

その理由は()()()()()()()()()()にあった。変態時以外のアミメを見たことがない伊音でも、普段からその恰好でないことは容易に分かる。その服装のせいで彼女がまるで病人や怪我人のように弱々しく見えた。


「待たせたわね、ようやく準備ができたところよ。

といっても、ドクターが雄白英と信長を相手にしているからすぐにはできないけれど」


「ッ……英さんが!」


「やはり、信長様……!」


アミメの口から英たちがこの地下に乗り込んできたことを知り、一瞬安堵する伊音たち。しかし同時に奴らが準備を終えたという絶体絶命の状態だということに気づく。肝心の金涙が英たちと戦っているため、何とか命拾いしている状態だが、時間の問題だろう。


「ドクターが負けるなんてことは有り得ないけど、あの二人を相手にし続ければ上にいる仲間もここへ降りてくるかもしれない。速めに潰しておいて損は無いし、私も行くわ。


貴方たちはそこで大人しくしていなさい。希望的観測をするのは構わないけど、今の内に諦めておいたほうがいいわよ」


それだけを言い残して、アミメは部屋から出ていく。そのまま英と信長の元へ向かうつもりなのだろう、扉が閉まる音の後に速い足音が消えていく。

――自分の居場所を教える方法、英たちが混蟲武人衆と対面する前にしようと考えていたが、こう全面戦争が始まってしまってはタイミングが無い。最早牢屋の中で彼らの勝利を願うしかないのか?


(いや、アミメ(あのひと)も英さんたちと戦うってことは、この牢屋の近くに誰もいなくなるってこと。

奴らが近くにいない時にやって、後は皆さんを信じるしかない!)


狙うはアミメが英たちと金涙の戦いに合流し、牢屋の守りが薄くなった時。しかし四方八方が壁に囲まれたこの空間で、それを見計らうことは難しいだろう。

タイミングのヒントとなるのは戦いの余波。英と信長、金涙とアミメによる二対二の激突が始まれば、先ほどより大きな振動が伝わってくるに違いない。


(信長様……どうかご無事で……!)


それまでただひたすらに、祈る。大切な者の無事を、勝利を。この騒動が解決した後の今までと同じ日常を願った。






「う――ッ!」


目前で繰り出される黄金の剣撃を躱し、防ぎ、太刀で受け止める。その勢いやまるで鬼が顔を近づけ執拗に食い掛るように。オウゴンオニクワガタの両刀が牙となる。


「更に硬くなりましたね、リッキーブルー!」


対する白銀の鎧、ヘラクレスリッキーブルー。金涙の刃を受け続け徐々に削られていくもすぐに再生、しかしそれも有限でいつまでも最強の硬さに頼っているわけにもいかない。


(――リッキーブルー、"水銀の滴り"!!)


同じように黄金刀を弾いた直後、透かさず刺突を両刀の間に狙いその首元目掛けて走らせる。


しかし銀色に輝く刃先がそのまま喉仏を貫くかと思いきや、金涙が両刀を閉じ挟み込んで太刀を止めた。

後一歩届かず、英の刃はすぐそこで抑えられてしまう。


(なんて反応速度――"虫の知らせ"か!)


時間にして一秒にも満たない刺突攻撃を平然と対処する金涙、その素早い防御は"虫の知らせ"にあった。


そのまま金涙は白銀の刀身を撫でるように両刀を振り広げる。同じように英も"虫の知らせ"で察知し体を後ろに倒して躱すも、間に合わず前髪数本が宙を舞う。


「――ッ!」


そこから文字通り間髪入れず、横方向からの殺気を感知。自分に向けられたものではない、しかしこのままだと巻き込まれてしまうだろう。

ならば急いでこの場から離れる――のではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「――"破戒一掃"ォ!!」


殺気の正体は、信長の銃撃。炎を纏った機関銃が英ごと金涙を狙い撃ちにする。銃声も響き渡るも、それが耳に届くより先に"虫の知らせ"の察知の方が早かった。


数えきれない程で、しかも一発一発が尋常ではないか力を持つ弾丸が自分たちの方へ撃ち込まれるも、英は臆することなく前へ踏み出す。

――奴の"虫の知らせ"ならば、あの弾幕を全て弾いてもおかしくない。ならばその妨害をしてみせよう。


「"落銀(おちしろがね)"――セヤァア!!!」


「――!」


弾幕の軌道上に被さることに躊躇せず、覚悟の一歩と共に刃を縦に振り下ろす。迷いない特攻が金涙の意表を突き、銃弾の防御から英に対する防御へと移行させた。


十字を切る金色と銀色の刀身、そんな対照的な色合いを楽しませる暇も無く、信長の銃撃が襲い掛かる。

激しい爆発が連鎖し床を削って壁を焦がす。爆風と共に英も吹き飛ばされるも、至る所に焦げ跡のあるだけで何とか納まった。


リッキーブルーの強度だからこそできる芸当は、見事金涙に炎を浴びせることができた。二人は一度集結し揃って金涙を見据える。

あの状態で弾幕を防ぐのは至難のはず、あれで倒せるのなら苦労はしていない。すぐに平然とした態度で爆風の中から抜け出した。


(無傷……ではないが、あの銃撃を耐えるとは!)


恐らく"虫の知らせ"で回避および弾いたのだろうが、英のリッキーブルーのような硬さを持つならまだしもほぼ直撃したのに五体満足であるのは驚くしかない。しかも弾幕が到達する直前英に斬りかかられたというのに。


「オウゴンオニクワガタ――"悪鬼蹂躙"」


そして金涙が刃を振ると同時に金色の刀身が眩く光る。次の瞬間、一振りで数えきれない程の斬撃が閃光と共に発生し、英たちへ襲い掛かった。

斬撃は瞬く間に距離を詰め広範囲に繰り出される。英は"虫の知らせ"で躱していくのに対し、信長は真正面からそれを撃ち落としていく。


「本能死――"千手観音殺し"!」


大量の銃を横に広げ、迫りくる斬撃を片っ端から狙撃。金色の斬撃と紅蓮の銃弾が両者の間で衝突し、凄まじい熱気と衝撃を生んだ。

そして爆炎と煙が隔てるように視線の先を隠したところで、金涙がその中を直進し一気に信長の懐まで潜り込む。


「ッ――!」


「――"黄金百鬼夜行"」


目にも止まらぬ滅多切りが炸裂し、一瞬の内に信長の全身を斬り裂いていく。

数多の剣撃に踏鞴を踏みかける信長だが、強く踏み出すことで復帰。そのまま金涙の間合いから紙一重外れた位置まで下がり、カウンターの一発を用意する。


「"仏堕とし"――カァ!!!」


金涙の頭上に浮かび上がる巨大な大砲、砲口の先が一瞬光ると同時にレーザーを叩きこむ。

しかし金涙は間一髪のところでその攻撃を察知、後退して躱していた。


(今のを躱すか――!)


渾身のカウンターも避けられた信長は、次なる弾幕の準備をする。腕を翳せば炎を纏う銃が具現化し、灼熱の弾丸が装填される。

たった一人の銃撃隊による一斉射撃が放たれるも、全てオウゴンオニクワガタの両刀に弾かれていく。一発一発が凄まじい威力を持つ"本能死"の弾丸だが、黄金の刃の前ではまるで普通の弾丸と変わらない。


「……ッ!」


しかしその圧倒的な火力を完全に相殺しているわけではない。弾丸を弾く度に反動が働き、一歩一歩後ろへ押されていった。それでも"本能死"の弾丸を弾く力と弾の軌道を見極めるその"虫の知らせ"は見事なものだろう。

そこへ忍び寄る銀色の影。瞬く間に金涙の背後へと回った。


「リッキーブルー、"天銀(アマノシロガネノ)――!!」


「ッオウゴンオニクワガタ、"金色の血飛沫――!」


前門の信長、後門の英、銃撃と剣撃に挟まれ金涙の思考が加速する。前方からの銃撃を弾きながら、後ろの英も迎撃しなければならない。忙しい攻防の最中、金涙はそれらを同時に行おうと身を翻す。


「――流剣"ッ!!!」


「――腸抉り"!!」


渾身の一太刀に対し、金涙は素早い剣撃で銃弾を弾きながらそれを受け止める。

左手の刃で銃撃を受け、右手の刃で英の一太刀を受け流そうとするも、流石の金涙でも英の技の中で一番強い"天銀流剣"を片手持ちの刀で受け流すことはできず、信長の弾幕は最後まで受け切れたが英との唾競り合いに力負けした。


「まだまだ! ――"水銀の滴り"!!」


英の攻撃は止まらず、振り下ろした太刀を持ち直しそのまま刺突。態勢を崩した金涙目掛けて、鋭い刃先が迫る。


対し金涙は姿勢が崩れる方向へ身を委ね、わざと後ろに倒れることでそれを回避。そして背中が地面に付く前に、恐ろしい速さで身を翻すとともに太刀を弾き牽制。すぐに着地し態勢を立て直す。


――そこで、後方の信長が再びこちらを狙っていることを察知。先手を打たれる、いや撃たれる前に金涙から仕掛けた。


「――"悪鬼蹂躙"」


「――テェ!!!」


一手早く大量の斬撃が放たれた後、信長の弾幕と激突。先ほども繰り広げられた激突は、一層激しさを増していた。

しかし今度の金涙は、斬撃を放った直後に走り出し弾幕の中を突き進み、信長の懐へまた戻る。


(なッ――あの弾幕を突破した!?)


いくら"悪鬼蹂躙"との撃ち合いで薄くなったとはいえ、こうも容易く突破されたことに驚きを隠せない信長。その驚きが僅かな隙を生み、再び金涙が付け入ることとなる。


「オウゴンオニクワガタ――"畝の穿ち角"」


「ッ――うぐぉ……!!」


間髪入れず突き刺さる両刀による刺突、黄金の刃が打ち上がるように信長の背中を貫通する。


「――信長!」


計四つの傷口から緑色の鮮血がドバドバと溢れ出し、信長の体力が失われていく。

そこから更に追撃するために抜こうとする金涙だが――自分の得物に違和感を感じとる。


(抜けない――!)


いとも容易く胴体を貫いたはずの両刀が、周りの肉に絞めつけられてビクともしない。出血こそ今もしているが、刃だけは放さない。


「――どうした、自分の刃が動かんのがそんなに不思議か」


これは不味い、突き刺さったままの両刀を手放して後方へ避難――するより先に、信長の右手が金涙の首を鷲掴みにする。

喉を絞め付けられる圧迫感、呼吸困難が更なる苦痛を重ねる。しかしそれ以上に、目前に現れた銃口に目を見張った。


「心配せずとも――すぐ派手に弾け飛ぶ」


「ッ――!」


次の瞬間赤い閃光が金涙の視界を埋め尽くし、大量の熱気が全身を包み込む。

いくら金涙の"虫の知らせ"が鋭くとも、ほぼゼロ距離からの銃撃は躱しようもない。信長が金涙を解放することもなく、次々と強烈な熱線が撃ち込まれていった。


当然金涙の首を掴んでいる信長の右手も巻き込んでいるわけだが、そんなことお構いなしに連射が続く。しばらくして、これぐらいで十分だと信長も発砲を止めた。金涙の体は、モクモクと煙に包まれている。

仕方がないとはいえ真っ黒焦げとなった自分の右手を見て溜息を付く信長、一連の光景を見ていた英も今ので勝利を確信した。


しかし安堵の直後――信長の全身に再び剣撃が走る。


「なッ――!?」


「オウゴンオニクワガタ――"根絶の貪り"」


信長に突き刺さったままの両刀とは別に、新たな両刀を痣から形成。その刃で信長の全身を斬り裂き、それで緩んだ右手の拘束から逃れる。


煙を振り払い数歩後ろに引き下がる金涙の姿は、流石に無傷というわけにはいかず鎧はボロボロ、顔など肌を露出している部分の火傷は隠せない。

――それでも甲虫武者の変態は保ち続け、鎧の傷や火傷も徐々に治っていく。本人は軽く咽ながら顔に付いた埃と炭を払うだけ。


「信長、無事か!?」


「ッ……馬鹿な、今のは絶対に防げない筈だぞ……!」


度重なる裂傷に膝を付く信長に、英は手首を自傷してそこから流れる血を飲ます。甲虫武者ほどではないが鎧蟲もある程度の再生機能は持っている。人間の血肉を食べることで傷を治すことができ、それが甲虫武者のものなら効果覿面である。


いくら信頼を寄せる英と言えど、甲虫武者に血を分けてもらうなど屈辱でしかない信長だが、今はそれよりも何故金涙が無事であるかの方が気になっていた。


「今のは流石に焦りましたよ。だけど"夜叉断ノ姿"の応用で何とか耐えることができました。

――"虫の知らせ"で()()()()()()、そこにエネルギーを集中させて鎧の強度を底上げしました。流石に英さんのリッキーブルーには劣りますがね」


平然と無事の理由を教えているが、その内容に一番衝撃を隠せないのは英だった。

――"虫の知らせ"で着弾点を探る? それはつまり弾丸が命中する正確な場所をあの一瞬で見極めたということ。しかも一発だけでなく、絶えず撃ち込まれる銃撃の嵐全てを。


エネルギーを一点に集中させるという技は英もよく使う。

しかし本能死の弾丸を防ぐ程の洗練された調整とその速さ、一々丁寧にやっては絶対に間に合わない。

つまり――全ては"虫の知らせ"による直観力で補われていた。と言っても過言ではない。


(小峰君の言う通り……こいつの"虫の知らせ"は、俺たちの"それ"とは違う! ただ優れているだけじゃなくて、どこか異質――!)


金涙の"虫の知らせ"は擬態中の鎧蟲をも察知することができる。それも踏まえて特殊だった。

鍛錬では辿り着けないレベル、普通の甲虫武者とは違うもの。ならば何故自分たちと金涙でここまでの差があるのか? それが何よりの疑問だった。


「"解せない"――そう言いたげな顔ですね。理由をお教えしましょう、それは――」


「――ドクターが、()()()()()()()()()だからよ」


すると冷やりとして落ち着いた女性の声が通路から聞こえる。カッカッカッとヒールの音が闇の中から響くも、その足音は急に重量感のあるものへと変わる。

足音の正体だと予想されたヒールは鎧武者の足具へと早変わりし、甲虫武者として変態した姿が露となる。


「……アミメ!」


ギラファノコギリクワガタのアミメ、既に甲虫武者の姿となり金涙の横に並ぶ。これで双方の数が対等となるも、二対一でも金涙とはほぼ互角だった。彼女が金涙程の実力の持ち主であるわけではないが、ギラファの特色が強く出たあの長刀による二刀流は厄介だった。


「おや、君も来たんですね」


「はいドクター、無用とは思いますがお手伝いします。

――雄白英に武将信長、ドクターの思想を知った上でまだ逆らうなんてね……理解に苦しむわ」


「それはこっちの台詞だ! それに第一世代ってどういう意味だよ!」


冷たい視線にこちらを見下すような態度、金涙に話しかけられた時だけそれらが無くなる。金涙以外はどうでもいいと思っている節がその態度の違いからひしひしと伝わってきた。


しかしそれよりも気になったのはアミメが言った"第一世代"という言葉、甲虫武者が世代分けされているなど聞いたことがない。


「それについては私がお教えしましょう。

甲虫武者は"第一世代"と"第二世代"という二つの世代で分けられる。簡単な話で、私や鴻大さんの世代が"第一世代"、貴方がたのような若い世代が"第二世代"。


何故かは私にも分かりませんが、第一世代の甲虫武者は第二世代にはない()()()()()()を持っていることが多い」


「特化した能力……? でも師匠にそんなもん……」


金涙曰く、英たちのような若い甲虫武者は第二世代らしい。そして己と鴻大が第一世代と言う。第一世代にしか無い"特化した能力"が金涙の"虫の知らせ"の正体らしいが、だとしたら鴻大も何かしらの力を持っていてもおかしくはないが、鴻大にそれらしい力は無かった。


「これは予想ですが、鴻大さんの特化能力は恐らく繫殖能力ではないでしょうか。彼が他の甲虫武者より子孫を残しやすい体質だったのなら、伊音さんが生まれた理由も説明がつきます。それでも子を残せたこと自体奇跡に近いでしょうが。


――そして、私の特化能力は御察しの通り"虫の知らせ"。擬態中の鎧蟲だけじゃない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

早い話が混蟲因子を察知しやすいんですよ、私の"虫の知らせ"は」


ただ鎧蟲の擬態を見破れるだけではなく、混蟲因子に対する察知能力が優れているという。確かに"虫の知らせ"で鎧蟲の気配を察知できるのは、その混蟲因子の気配を感じ取っているからかもしれない。しかしそれとは比べ物にならない、鋭いなんていうレベルではなかった。


(第一世代に第二世代……か。

詳しくは部下に任せていたから分からんが、毛無猿に我らの力を植え付けるにあたってその回数は大きく二回に分けられたと聞く。


初回は実験的なこともあり二回目の個体たちより多く力を植え付けたという。その影響かもしれんな……)


傷を癒しながら金涙の話を聞いていた信長が、そこから予想をしていく。

元々鎧蟲たちは甲虫武者を作ったのは、"姫"である濃姫に効率よく栄養を与えられる"家畜"を作る為。植え付けた混蟲因子から戦闘能力が生まれたことは予想外のことであった。


その家畜の計画において人間の赤子に自分たちの因子をどの程度植え付ければいいか検証すべく、最初の個体――金涙の言う第一世代には第二世代と比べ少し多めに混蟲因子を植え付けていた。


――結果として、成功でもあり失敗でもあった。金涙や鴻大のようにそのまま成長する個体もいれば、多めの混蟲因子に耐えきれず成長する前に衰弱する個体もいた。


だから二回目にあたって第一世代と比べ少し因子の割合を調整し、大人にまで成長できる個体を作れたのだ。

多量の因子に耐え、そこから特化した能力を手にいれたのが第一世代の甲虫武者。その数は第二世代と比べ明らかに少なかった。


「おっと、またもや饒舌になってしまいましたね。自分の得意分野になると少し調子に乗ってしまうのが私の悪い癖。

これ以上彼女たちをお待たせするのも悪いですし、早めに終わらせましょうか。アミメ」


「はい。()()()()()()()()()()()()()()()、これ以上こんな奴らに構っている必要ありませんから」


話を中途半端に終わらせて、アミメと共に金涙が再び臨戦態勢に入る。たった数分の会話でも理解しきれない事実の連発だったが、戦い自体はまだ終わっていないことに気づき、対する英たちも緊張感を取り戻す。


「早めに終わらせる、それはこちらも望んでいる。これ以上貴様らの下らん話に付き合うつもりはない。

我が妻を返してもらうぞ――!」


「それに――伊音ちゃんもな!」

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