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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十六章:虫唾奔る大乱戦
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186話

「白野郎とムカデ野郎が手を組むなんて……最高だぜ!!」


そう言って最初に動き出したのは狂気の笑みを浮かべる嵬姿、他の者は一切無視して英と信長の元へ走り出す。

大剣のリーチを上手く活用し、英たちを同時に斬りかかる。咄嗟に二人は後ろへ躱し嵬姿に立ち向かった。


「ッ――いきなりかよ!」


突如として切って落とされた火蓋、信長は後ろへ退避すると同時に無数の銃を形成し間髪入れず燃える弾丸を撃ち込む。

嵬姿は大剣を盾にし防御、それでも完全に防ぎ切れずその反動で後ろへ下がる。そのまま構え直すより先に、英が仕掛けた。


(リッキーブルー ――“水銀の滴り”!!!)


英は焦熱紅蓮天魔「本能死」によって派手に広がる爆風で身を隠し、その中にほぼ飛び込む形で嵬姿に刺突を繰り出す。

白銀の太刀が爆炎を纏いその鋭利さを見せびらかす――嵬姿は虫の知らせで反応し首を傾げて躱した。


英の突撃を待っていましたと言わんばかりに、嵬姿は目前の英に向けて大剣を振り上げる。しかし英は刀身を足場にして跳躍、嵬姿の巨体を飛び越える。そしてその視線が頭上に向かった隙を狙い、信長が第二波を発砲した。


「――()ェ!!」


束となって打たれる熱線は嵬姿へと直撃、意識を英に集中させていた為大剣によるガードも間に合わず高熱と爆発によって瞬時に包まれた。

これにて勝負あり――かに思われたが、薄っすらと晴れた爆風の中で嵬姿の前に立つもう一人の人影がそれを否定する。


「……そう容易く仕留められたら苦労はしていないか」


そこに立っていたのは金涙、信長の銃弾を両刀で弾き嵬姿を守ったのだ。折角の楽しみに水を差されたことで嵬姿の機嫌が分かりやすく悪くなる。


「なんだよドクター! こいつらの相手は俺だけでやらせてくれ!」


「まぁそう言わず、流石の貴方でもこの二人に一人で挑むのは流石に無謀だ」


「コーカサスと黄金武者が相手か……ちょっと厳しいかもな」


コーカサスオオカブトの大嶺嵬姿、オウゴンオニクワガタの金涙笑斗、かつて英を苦しめた甲虫武者たちだ。特に金涙の夜叉断ノ姿はリッキーブルーの装甲をも斬り裂くことができる。


「——隙を突いて私が姫を追います。人間に化けているので()()()()()()()()では追跡が不可能ですから」


この戦いが始まる前に英が信長にしたように、金涙も小声で嵬姿に作戦を伝える。その間にも警戒心は怠らず、常に英と信長との張り詰めた空気が漂う。




そしてその側で、もう一つ緊迫した緊張感が流れていた。

英たちとは違い、一対一のタイマン。カフェ・センゴク側の黒金、そして終張国を裏切った信玄が対峙している。


「暫く見ないうちに随分と成長したようだな、その鎌のような刀は興味深いぞ」


「ああ、お前を殺す為に得た力——と言いたいところだが、違う。

この力をくれた奴は呆れ返るほど甘っちょろくて、優しい奴だった。それが俺の怒りを程よく抑制しているようだ」


前回信玄が対峙した時、黒金は怒りのあまり冷静さを忘れ惨敗してしまった。

しかし今は違う、まるで光秀が寄り添うかの如くその心情には落ち着きがあった。勿論復讐心が消えたわけではない、しかしあの時より大きく変わっていることは見れば分かる。


「——今度は、失望させんでくれよ」


「失望するさ——貴様自身の慢心にな!」


燃え上がる怒りと憎しみが、せせらぎのように落ち着く。矛盾した二つの要素を重ね持つ黒爪ノ姿が信玄へ斬りかかる。

迫りくる黒金の刃を受け止めるのは、信玄自身ではなくその周囲を飛び回る蜜魔兵。無数の群れが障壁を形成し代わりに防いだ。


――続けて斬り続ける黒金、しかしその剣撃は鋼鉄のように硬くなった蜜魔兵によって弾かれてしまう。

対し刃の軌道を変え、右斜め左上と次々と変えていく。それと連動するかのように蜜魔兵も群れの形を変えていった。


「どうした!? 俺と直接戦り合うのが怖いのか!」


「――笑止、一太刀浴びせてから言うのだな」


こちらの動きを予測して動く蜜魔兵に、黒金は何とか隙を突けないか模索する。一向に直接対決する素振りすら見せない信玄に憤りを感じるが、冷静のまま虫の知らせを使い続けた。


やがて、蜜魔兵たちが守りから攻めへと移行する。一枚の壁となっていた群れの形が立体的に、まるで指のように複数に拡散し黒金を包み込まんと大きく展開した。


目前で広がる蜜魔兵に対し、黒金は両刀で牽制しながら後ろへ退避。虫の知らせでその動きを把握しながら躱し、反撃の隙を見出した。


(オオクワガタ・クロツメ――“乱れ彼岸花”!!!)


即座に二つの柄を連結し一本の薙刀へと変形、長い得物を振り回し両端の湾曲した刃で迫りくる蜜魔兵を薙ぎ払っていく。

まるで竜巻のように蜜魔兵は回転する剣撃に振り払われていき、いつしか信玄の眼前がガラ空きとなった。


(クロツメ――“薊の花園”!!)


連結した刃による横振り、間合いも伸び広範囲剣撃となって信玄に迫る。

しかし信玄の持っていた軍配団扇で受け止められ、完全に振り払えず終わった。

それに加え振り払われた蜜魔兵が黒金の背後で新たな形成を完了していた。


(信玄流如風陣(かぜのじん)――“疾風大雀”!!)


「ッ――!!」


高速で飛行しカマイタチのような風の刃となった蜜魔兵たちが突っ込んでくる。虫の知らせでそれを感じ取った黒金は大きく見開く。

その技は、かつて信玄が自分を打ち負かした技だからだ。


(その技は……嫌と言う程憶えている!)


忘れもしない、敗北の味。あの時の雪辱を晴らす為、絶対に当たってはならない。

瞬時に地面を蹴り跳躍し蜜魔兵の特攻を躱す。それと同時に信玄を飛び越しその背後へ回った。


(クロツメ――“桔梗(ききょう)の二度咲き”!!)


着地するより先に再び振られる剣撃、しかし今度は同時にではなく一太刀の後にもう一太刀と敢えて二刀流の剣撃をずらしていた。


「――ッ!」


一発目は軍配団扇によって防がれるも、二発目の刃がその上を通り信玄の体に命中。二段攻撃で見事信玄に傷を付けた。赤い装甲を貫通しそこから緑色の血が飛び出す。


「……どうだ、慢心で受けた一太刀の味は」


初めて黒金に斬られた信玄の顔色に変化は見られないが、僅かに威圧感が増している。斬られたことに怒っているのか、そこから怒りという感情を見出すことはできないが明らかに雰囲気が変わっていた。


「……チッ」


そして口から漏れる舌打ち、そして何よりも重く聞こえたその舌の音など知らん顔で余裕のある表情で黒金を見据える。


「……参った参った、儂としたことが油断した」


信玄が顔を上げると同時に、再び蜜魔兵に動きが現れる。

警戒する黒金だが、その行き先は自分ではないことに気づく。


蜜魔兵の殆どが信玄の掲げる軍配団扇へと集結していき、まるで包み込むようにその長さを補助していく。

風を扇ぐだけの団扇から一変、蜜魔兵を纏ったそれは肩に担げる程長く伸びその扇部は大きく広がる。


軍配団扇というよりかは斧、コーカサスオオカブトの大剣にも劣らない息を呑む程巨大な斧となった。


「ならば言質通り、直接儂が相手をするとしよう!」


巨大な斧の刀身に背景に、信玄は鋭い眼光で黒金を刺す。本当の戦いはこれからだと言わんばかりに緊張度が増した。

しかし何倍にも膨れ上がった威圧感及びシルエットに、黒金は一歩も退かず正面から立ち向かう。




「――ラァア!!」


英と信長の戦い、及び黒金と信玄の衝突に比べこの三つ目の戦いは少々見劣りするかもしれない。それを少しでも白熱させるように、豪牙の低い叫びが響き渡る。


その大槌が放たれる先には彩辻とアミメ、ここだけ数の差があった。

二人は大槌を躱しそのまま豪牙の懐へ詰め寄り、最初は彩辻の刃が襲い掛かる。


ニジイロクワガタの刃を大槌の柄で防ぎ、そのまま薙ぎ払うように大雑把に振るう。しかし彩辻の体はなぞるようにその上を通過した。


(ニジイロクワガタ――“輝黄雷・稲走”!!)


そして目前で一気に加速、まるで稲妻のように豪牙の横を走りその首を掠る。あと少しズレていたら首が切断されていただろう。


その事実にゾッとする間もなく、今度はアミメが中距離から斬りかかる。ギラファの長刀が間合い外から迫った。


(ギラファ――“索冥閃光”!!)


下から上へと走る剣撃、豪牙はその体格に似合わない滑らかな動きでアミメの刃に合わせ、勢いを殺して躱す。その動きを導いたのは虫の知らせだった。


二人の連撃を何とか躱していく豪牙、現在後ろに彩辻前方にアミメと挟まれた位置関係。いくら虫の知らせがあるとはいえエレファスゾウカブトはあくまでも破壊力特化の鎧、複数相手には向いていない。


(糞ッ素早い! ギラファの方はまだ何とか躱せるが彩辻の方はギリギリだ!)


そう狼狽えている間にも彩辻とアミメはどんどん斬りかかってくる。大槌は向こうの得物程素早く振り回せない、それに二対一という不利がどうして出てしまう。


「いい機会だ、お目汚しな醜男をここで片づける!」


「ッ……好き勝手、言ってくれるじゃねぇか!」


すると彩辻が再び前へ出る。一度は対決したこともあるこの二人、大槌と虹色の二刀が幾度も交差した。

やがて豪牙は大槌で薙ぎ払おうとするも跳躍して躱され、そしてその背後には既にアミメが待機していることに気づく。


「象山豪牙、貴方を二人掛かりで倒すことなど造作もないわ。すぐに終わらせて姫を追う」


「のわッ!?」


ギラファの刃先が伸びるように迫り、突如として飛んできた刺突に間抜けな声を漏らしながら対処する。


ただ同時に攻めるだけではなく、前後の陣形を交代して半ば不意打ちのようにしてくる。特にギラファの長刀は意識外から仕掛けるには絶好の武器だった。


素早い連携攻撃に成す術が無い。そこで豪牙は一旦正面突破することを諦め、二人が絶妙に離れたところで大槌を一気に振り下ろす。


(エレファスゾウカブト――“巨象の誇り”!!!)


アミメたちではなく地面へ叩きつけられる大打撃、その威力は大地を震わせ周囲に捨てられたゴミを一気に打ち上げる。

当然その近くに立つ二人も影響を受け、その大地震に一瞬姿勢が崩れる。

翅ですぐ空に逃げれば良い話だが、それより先に豪牙の振りかぶりが速かった。


「――オラァア!!!」


「うぐぉッ――!?」


巨大な大槌が彩辻に命中、そしてその後ろにいたアミメも巻き込み豪快に殴り飛ばす。弾け飛ぶように二人は吹っ飛び、豪牙の渾身の打撃が炸裂した。


「――やってみろ! 二対一とはいえ簡単に俺が倒せると思うなよ!」


豪牙の凄まじい剣幕とその打撃に押される二人、エレファスゾウカブトの重量感溢れる大槌とずっしりとした威圧感が牽制する。

豪牙たちを醜男と見下している彩辻は、隠し切れない嫌悪感で顔をしかめたのであった。

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