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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十三章:銀武者の降臨
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151話

夜明け、今まで沈んでいた太陽が顔を出し世界を照らし始める。甲虫武者たちの戦いから一日も経たず次なる激戦が幕を開ける。

誰もいない大きな橋を並んで歩く四人の武者、金涙率いる嵬姿たちがゆっくりと伊音の元へ向かっていた。


「伊音さんは小峰忍君の元に隠れていたようですが、今は黒金社長の御宅で匿われています。そこから動いてないとなると……」


金涙には何故か伊音の現在位置が分かっており、その場に留まっていることも把握して急がずゆっくりと歩いている。その言葉を聞き横の嵬姿たちは準備運動を始め、予想される戦いに備え始める。

すると堂々と橋を渡る四人の前に新たな同数の影が立ちはだかった。


「――やはり、ここで私たちを迎え撃つつもりですか。もう少し堕武者を増やしておくべきでしたね」


「来たな、醜男共が」


金涙に惨敗した英、黒金、豪牙、そしてそこへ小峰が加わりカフェ・センゴク側の全員が集う。これで両陣営の全戦力が集結したこととなり、数の差も無くなった。


「君が小峰忍君ですね? 君ともこうして会えたことを嬉しく思います」


「こ、こいつが敵のボス……?」


敬語を使い聞いていた話のような覇気が感じられず、目の前の男が本当に鴻大を殺したオウゴンオニクワガタの武者であるか疑ってしまう。実際仮面で隠されたその表情は、微笑みで染まり敵意など全く感じられない。


「その通り、そう言えばまだ名乗ってはいませんでしたね」


小峰の純粋な問いに答える金涙、それどころか今まで疑問だったことまで教えてくれるようだ。戦いはまだ始まらず、鴻大の時のように話が始まる。


「我々は『混蟲(こんちゅう)武人衆』、甲虫武者の少数組織です」


「混蟲……武人?」


遂に明らかとなる敵組織の名前、金涙の口から直接聞くそれは威圧感がある。今まではコーカサスたちと複数形で呼称していたが、これで少しは呼びやすくなるだろう。しかし今そんなことはどうでも良かった。


「志は違えど目指す世界は同じ、この世界と人類を新たな未来へ導く。それができるのは私たち甲虫武者だけ――そんな私たちが争うなんて、愚かだとは思いませんか?」


金涙は戦闘に立ち、混蟲武人衆の代表として話を続ける。

その姿は演説をする政治家、先導する教祖のようで一言一句にそのカリスマ性が溢れている。それは彼自身の強さに見合ったもので、決して違和感のあるものではない。


「今からでも遅くはない。共に歩みませんか――と言っても無駄のようですね」


しかしそんな返答もすぐに断られるのは分かっていた。戦意を丸出しにして金涙たちを睨みつける英たちに、今更話が通じるとは思えなかったからだ。


「分かってるじゃないか。貴様らの思想がどんなに下らないかは知らんが……碌でもないことは目に見えているからな。

これ以上は言わん――失せろ」


真っ先に否定したのは黒金、そして次に豪牙、忍も共に口上を述べていく。


「俺は俺の生徒を殺したお前らを許さねぇ。これ以上うちの生徒に手を出すと言うなら、地の果てまでぶっ飛ばしてやる!」


「……正直言って、僕がここに立っているのはまだ早いと思う。

だからといって、伊音さんが不幸になるのを見過ごすことなんてできない!」


豪牙にとっては生徒、忍にとっては想い人、神童伊音に対する様々な感情が交差する中、最後は英が口を開く。


「師匠が遺してくれた伊音ちゃんやその想いをお前らなんかに渡して堪るか!ここでお前らを倒して……全部終わらせる!」


そして全員が痣を翳し変態する態勢へと入る。強い朝日に照らされる最中、四人の甲虫武者が鎧を纏い始める。

蛹の中で鎧を纏って刃を構える。一斉に巨大蛹が斬り開かれると、戦う決意をした戦士たちが現れた。


「出陣――我こそは、グラントシロカブト!!」


「開戦――遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名は、オオクワガタ!!」


「出撃――俺こそが、エレファスゾウカブトだ!!」


「先陣――僕が、コクワガタです!!」


白い鎧、黒光りする鎧、大槌を振りかぶる象の鎧、忍び加速する鎧、多種多様の甲虫武者が変態していく。

四対四の同数勝負、場所は朝と言えど渡る者も多い大橋だったが今は誰も近づけない。彼らの放つ張り詰めた空気がそれを躊躇させるからだ。


「いいでしょう。どうせ分かり合えないというなら一思いに蹴散らし、せめて未来の為の犠牲として最も栄光のある死を与えてあげます――!」


「――うおおああああああああ!!!!」


金涙が刀を前に向けると同時に、嵬姿の野獣のような雄叫びが上がりそれが火蓋を斬り落とす合図となる。

一斉に走り出す両陣営、カフェ・センゴクと混蟲武人衆。橋の上で甲虫武者たちが再びぶつかり合う。


英は金涙へ、黒金はギラファへ、豪牙は嵬姿を抑えて忍は彩辻へと向かう。それぞれが一対一の勝負をする乱闘、金属音が鳴り響き目まぐるしい戦闘が繰り広げられる。


「貴様が小峰忍か、どれ程の美し(つよ)さか試させてもらう!」


「ッ――!」


ここで初めて顔を合わせる彩辻と忍、強さこそ美しさという思想を持つ彩辻にとって初めて見る甲虫武者である忍は興味深い存在だった。


虹色の刃による振り下ろしを素早い動きで躱し逆手持ちの二刀流を前に出す。その身動きより格段に速い剣撃を彩辻に繰り出していく。

対する同じクワガタの刃で斬り合う彩辻だが、その攻撃速度に押されていく。


「――中々美しい速さだ。しかしまだ拙い!」


「うわっ!?」


しかし忍にとって初めての対人戦、甲虫武者とはいえ人に刃を向けることへの抵抗と経験の差が一気に優勢を変える。忍の連続斬りを振り払い彩辻がその懐へ踏み入った。


そのまま七色の刀身が迫り、忍の小さな体へ一太刀浴びせる――その直前、大槌と巨体がそこへ割り込む忍を庇う。


「――させるか!」


「ッ――象武者! しつこいぞ醜男が!」


豪牙の大槌が彩辻を薙ぎ払い代わりに相手を務める。前の戦いでも乱入されたので鬱陶しく感じる彩辻、その豪快な打撃の前に後ろへ距離を取る。

そこへ、新たな巨体が現れた。


「俺の相手をしてくれるんじゃねぇのか象武者ァ!!」


「コーカサス……!」


重力に逆らわずに振り下ろされる巨大な大剣、コーカサスこと嵬姿の激烈な剣撃が豪牙の行く手を止める。


両者とも巨大な体を持ち、鍛えられた筋肉を用いて力強い攻撃を放つ。そう言った面ではエレファスゾウカブトとコーカサスオオカブトは似ている。


「早くしねぇとドクターに白野郎を取られちまう!」


「俺は眼中に無いってかこの野郎!」


嵬姿の目的はあくまでも英、最初は一目散に英へと斬りかかったがそれを豪牙に阻止されてしまったわけだ。巨大な大槌と剣が幾度もぶつかり合い、地震を起こす程の衝撃波を生む。


「メンドクセェ! 全員まとめて叩き斬ってやる!!」


(――この構えは!)


すると嵬姿は大剣を大きく振りかぶり見覚えのある構えをする。何度も見てきたがその恐怖は消えない。全てを斬り裂く崩山を放つつもりだろう。


一番近くにいた豪牙はそれを察知し急いで距離を取る。いくらエレファスゾウカブトの破壊力でも、あの崩山と正面から張り合うことはできない。


「――させるか!」


そこへ黒金が中止させようと背後から斬りかかる。今の嵬姿に恐れなく特攻し挑んでいき、黒色の二刀が迫った。

しかし崩山を妨害しようとする黒金の前に、更なる邪魔が入った。


「――こっちの台詞よ、黒金大五郎」


「ギラファ! 貴様も斬られるぞ!」


今の嵬姿の間合い内に入ることは自殺行為に等しい。それでも顔色を一切変えずにアミメが割り込んでくる。

その長い二刀流を上手く活用し距離を保ったまま黒金を振り払い、嵬姿から突き放す。それでもまだ崩山の射程内に侵入していた。


「ほら、今の内にやりなさい」


「言っとくが寸止めするつもりはねぇからな! 崩――!!!」


自分の仲間がいるというのに躊躇なく大剣を振り回そうとする嵬姿、最早それを邪魔するものも無く、全方位に超強力な斬撃が広がる……かに思われた。

崩山が繰り出されるその直前、英が前に出た。


(――グラントシロカブト、白断ち!!!)


「山――ッ!!!!」


正面からぶつかり合う白刀と大剣、両者の技が衝突し凄まじい風圧が吹き荒れる。まるで太陽のように火花が散り周囲を蹴散らした。


「ぐぉおあ――!」


結果、英は嵬姿の崩山に押し負け後ろへと薙ぎ払われる。それでも広範囲の物体を切断していたであろう崩山の影響を最低限に抑えている。


(嵬姿の崩山を技と装甲で受け止めた……!?)


しかし崩山の切れ味を完全に殺せたわけではなく、その圧倒的な斬撃はグラントシロカブトの鎧を斬り裂いていた。それでもアミメたちを驚愕させるには十分過ぎる程の硬さである。


(俺が何度あの技を受けてきたと思ってる……!)


嵬姿の崩山には幾度も苦しめられた思いがある。時には撤退を強いられ、時には片腕を丸ごと切断されている。確かにあの技には恐怖しか無いが、それが逆にその対抗策へと導いてくれたのだ。


「――白野郎ォ!! やっぱテメェは最高だぜぇ!!」


初めて自分の渾身の一太刀を受け止められたことにより、嵬姿の興奮はピークに達する。鎧が硬ければ自分の剣撃を何度も防げる、つまり戦いが長引くということを心から喜んでいるからだ。


英は斬られた箇所を再生させながら嵬姿と睨みを利かす。確かに防ぎ切れなかったがそれでも傷はそこまで深いわけではない。()()()()()()()()()()で十分治せる。


「――あの短時間でできるだけの糖分補給をしましたか。それでも彼の崩山を相殺するとは驚きです」


「ッ……!!」


前方の嵬姿を警戒していた英だが、後ろから聞こえた優しい声にその警戒心を奪われ慌てて距離を取る。

虫の知らせでも察知できなかった接近に冷や汗を流し、オウゴンオニクワガタ、金涙の刀と斬り合う。


「しかし所詮は付け焼き刃、エネルギーを蓄えようともこの実力差が埋まることはありませんよ」


「……うっせぇ!」


金涙の言葉は正しい。あれから数時間、英たちはできるだけ多くの糖分を摂取し基礎能力や再生力の強化をした。しかしそれだけで金涙たちより強くなれるわけがない。


その言葉を証明するかのように最初はほぼ互角の勝負を繰り広げていた英だったが、金涙の素早い剣撃に付いていけず次第に押されていった。


「オウゴンオニクワガタ――黄金百鬼夜行」


そこへ鴻大を斬り裂いた連続斬りの技が炸裂、白い鎧を何度も斬って削っていく。鋭い音が鳴り続け、英を斬り飛ばした。


「ぐぁッ――!?」


いくら硬い英の鎧と言えど強烈な切れ味で何度も斬られては突破される。それ程までに金涙の狙いが正確だったと言えるだろう。

地面を転がり全身の痛みを堪える英。自分も相当早く刀を振った筈だが、向こうは汗ひとつ流していない。


「どうやら私の()()()()()だったようですね。ならば、今すぐにあなた方を殺して差し上げましょう」


一体何が見込み違いだと言うのか、その意味も伝えられずに激戦は続く。

多くの甲虫武者が集う中、群を抜いてオウゴンオニクワガタの金色が頭角を現していた。

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