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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十三章:銀武者の降臨
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146話

「なッ……コーカサスたちが!?」


英と小峰だけではなく、同じく堕武者と戦っている黒金と豪牙もまた鴻大からメッセージを受け取っていた。黒金は両手で二つの刃を持っているが器用に右手で刀とスマホを同時に持つ。


内容は当然コーカサスたちのこと、そこで自分が相手にしている堕武者が囮であることを確信した。

今すぐにでも彼女の保護へ向かいたい所だが、堕武者を野放しにするわけにもいかない。敵の策略に嵌るしかない歯痒い気持ちで、黒金は二刀流を振るう。


「チッ……金剛砕きッ!! 空裂水晶ッ!!」


一刻も早く全滅させなければ。群がる堕武者たちを一斉に斬り上へと吹き飛ばす。そうして宙に打ち上げられた標的を斬撃で狙い撃ちにし、そのまま撃ち落としていく。今のでその大半を撃破できた。


「悪いが少々手荒にさせてもらう。急用ができたものでな――!」




「エレファスゾウカブト――象覇弾ッ!!」


そして豪牙の方もメッセージを見て、急いで堕武者との戦闘を終わらそうと躍起になっている。光弾を堕武者たちに打ち込みまとめて薙ぎ払っていく。


「たく、神童たちが無事だといいが……!」


黒金同様、すぐに生徒の窮地へ駆けつけたい豪牙であるが他の生徒の避難も終わってないのでそうもいかない。

吹っ飛ばされた堕武者は悶えながらもすぐに起き上がり、顔を強張らせて襲い掛かる。豪牙は近づく敵を片っ端から殴り飛ばしていく。


「待ってろ神童! すぐに向かうからな!」






所変わり、伊音を逃がした鴻大が四人の甲虫武者と対峙している。

コーカサスオオカブトの大嶺嵬姿、ギラファノコギリクワガタのアミメ、ニジイロクワガタの七魅彩辻、この三人とは今までも何度か戦ったことがある。

しかし新たに現れた甲虫武者、金涙笑斗は今までの敵とは別格だった。オウゴンオニクワガタの鎧は全身が黄金に染まって禍々しく存在感を放っている。


知り合いだったのか名前を呼び合う両者だが、その反応は大きく異なっている。笑斗は余裕の笑みを見せているのに対し、鴻大は警戒して神経を張り詰めていた。


「やはりお前が黒幕だったか。何故生きている!? お前は武将に殺されたはずだ!」


「――実は生きていた、別におかしくはないことです。私の死に様は誰も見ていない」


鴻大にとってこの男は本来死んだはずの存在だ。それがこうして生きた状態で現れ自分と対峙している。それだけでも驚きだった。だが金涙はそれを淡々と語り全く気にしていない。


「それにしても久しぶりの再会だというのに随分と冷たい。かつては()()()()()()()だというのに」


「よく言う、その仲間の娘の誘拐を犯罪グループに依頼したのはどこの誰だったか」


橙陽面義が伊音の誘拐を企てた際、鴻大が英たちに話したかつての仲間。その時から伊音を狙っていた甲虫武者がこの男だった。あの時は既に死んだ男として警戒対象外となっていたが、それがコーカサスたちのボスとして現れる。


「それに随分と若作りしているじゃないか。歳を取る自分が嫌になったか」


「顔なら武将との戦いの後に整形しましたよ。ご息女が狙いだとバレたなら顔を変えなければならない。加えて死んだことになれば身を潜めるのが楽になる」


爽やかな印象溢れるその顔からは、鴻大と同年代と言う老いは全く見られない。二人の顔を並べてみてもとても年齢が近いようには見えなかった。


それもそのはず、金涙は自分の顔を変え尚且つ死んだことになることで鴻大の知る「金涙笑斗」という人物を消した。ドクターと呼ばれ病院の院長もこの名で勤めているが、鴻大の目から十分逃れることができた。


「最強の甲虫武者である神童鴻大。貴方から伊音さんを攫うのは一筋縄ではいかないと思った私は、時間を掛けて同志を集めることにしたのです」


「……それがそいつらか」


すると笑斗の後ろにいたコーカサスたちが自慢げに前へ出る。金涙笑斗の考えに賛同した三人の甲虫武者たち。その思想、考えはバラついているようにも見えるが一つの組織として同じ目的で動いている。


「お前たちは何を企んでいる、何のために俺の娘を狙う!」


「いいでしょう。我々の崇高な使命を知れば、貴方も考えを改めてくれるかもしれない」


一体何が狙いなのか、鴻大も聞いてみるだけ聞いてみようと口にすると、何と本当に教えてくれるらしい。持っていた黄金の二刀を下げ、まるで教師が生徒に教えるようにその全容を語り始める。


「―――――――――――――」


次々と明らかとなる真相。何故伊音を狙うのか、何のために戦っているのか、何のために堕武者などという存在を作っているのか。長らく気になっていた事実が嘘のように分かっていく。

だというのに鴻大の反応は驚きもしなければ怒りもしない、腕を組みただ黙ってその話を聞いていた。


「――どうです? 貴方のご息女がいれば我々の宿願は叶う! この世界を一変させることができるのです!」


笑斗にとって、神童伊音は世界を変える存在だという。高らかに思想を唱えるにつれその情緒は昂り、最後は子供のように言葉を弾ませていた。

結局鴻大は終始無言を通しうんともすんとも言わなかった。しかし全て語り終えたところで、ようやくその口を開いた。


「成る程な、それはまた随分と大きな思想をお持ちで……」


開口一番に出たのは納得の一言だけではなく、呆れた様子の溜息。組んでいた腕をゆっくりと広げ――腰に掛けていた鞘から素早く太刀を抜く。


「――外道が、そんな下らない理由であいつを攫おうとして、多くの人を犠牲にしてきたのか!」


すぐに敵対心が剥き出しとなった鴻大の声には怒気の孕んだ重苦しさがあり、今にも斬りかかりそうな勢いだった。その張り詰めた迫力にコーカサスは顔を歪め、彩辻が僅かに動揺し、アミメが冷や汗を流す中、未だ余裕のある金涙はその答えを言う。


「犠牲というものは何事においても必要ですよ。面義君や堕武者となった者たち、そして伊音さんも人類の未来の為の礎となる。

()()()()()()。それは人も鎧蟲も同じ、犠牲という言葉はその延長に過ぎない」


あっけらかんとしたその態度に罪悪感など微塵も感じられない。全く悪びれず、そして失われた命を丁重に扱う様に慎重に語っていく。その他人事のような様子が鴻大の神経を更に逆撫でする。


「――もういい、これ以上の話は不毛だ」


その言葉を最後に交渉は決裂、金涙笑斗という人間性を改めて理解した上で容赦なく斬りかかる。

ヘラクレスの太刀が迫るも平然と立ち尽くす金涙、それを遮るのはオウゴンオニの二刀流ではなくギラファの長刀だった。


「ドクターに手出しはさせない――ハッ!」


ギラファの長刀にヘラクレスの太刀、互いに刃の長さでは負けておらずいい勝負だろう。しかし手数では文字通りアミメの方が一枚上、第二の攻撃によって鴻大は弾き飛ばされる。


「……残念だ、私の理想を解ってはくれませんでしたか」


「伊音は……俺たちの宝だ!お前らなんかに、渡すものか!」


そこへ嵬姿と彩辻が共に斬りかかり応戦、巨大なコーカサスの剣とニジイロクワガタの華麗な二刀流を捌いていく。

二人の攻撃を完全に見切っている。ヘラクレスオオカブトの太刀はその長さで上手く敵の刃を弾いていく。


「ッ、私とこいつの剣と渡り合うか! やはり侮れん相手だ!」


「退きな虹野郎! 俺一人でやる!」


このまま怒涛の連携が続くと思いきや、嵬姿が彩辻を突き飛ばし一人で鴻大に挑む。仲間がいなくなったことにより、その大剣を阻むものは無くなってより豪快に振るわれることとなる。


重さなど存在しないように振り回される大剣、太刀と衝突する度に重く耳に響く金属音が鳴り火花を散らす。しかし踏み出しと同時に強く放たれる剣撃は、全て躱されるか弾かれてしまう。


「ハァアッ! ギャッヒャハァ!!!」


流石の鴻大でも嵬姿の猛攻には押され一歩一歩後ろへと下がっていく。それでも十分に攻撃を捌き、その大剣が鴻大の体を斬り裂くことはなかった。

刃が入り乱れる中、嵬姿の笑い声がどこまでも響く。殺し合いを楽しむその異常性がそのまま形に現れていた。


「一気にぶった切ってやるぜぇ!!!」


(ッ――あれが来るか!)


やがて嵬姿は大きく大剣を振りかぶり、見覚えのある構えをしだす。それを見た瞬間、既視感と圧倒的な恐怖が鴻大の中を駆け巡った。

かつて廃工場を分断したコーカサスオオカブトの最強技、それが至近距離から放たれたとならば無事では済まない。


(ほう)――!!」


「このっ! ヘラクレスオオカブト――!!」


こうなっては避ける暇も無い、そう判断した鴻大は決心して正面から立ち向かうことにする。大剣が到達する前に素早い動作で刀を収め、一気に振り抜いた。


「――(ざん)ッッ!!!!」


「――猪牙(ちょき)大断ちッ!!」


全てを斬り裂く「崩山」、それとぶつかるのは巨大物を斬るための技である「猪牙大断ち」。各々の渾身の一太刀が衝突した。


刹那、鳴り響く轟音と共に大気が振動し、衝撃波が吹き荒れる。常人なら立つこともままならないだろう、しかし他の甲虫武者たちはそれを平然と傍観している。しかしその反応は驚きが隠しきれていない。


「崩山と互角だっていうの……!?」


「ハハハッ! 最ッ高!!」


コーカサスの崩山と真っ向から勝負したことにアミメと彩辻は驚愕したが、嵬姿本人は嬉々としてその結果に喜んでいる。英以外に自分の一撃を受け止められる人間がいて嬉しいのだ。


鴻大は崩山の威力により打ち上がった土埃に紛れて、すぐに嵬姿たちから距離を取る。これ以上の追撃を受ければ流石の鴻大でも辛い。僅かな時間でも態勢を立て直す必要があった。


しかし壁となっていた土埃を突破し、次の一手が迫る。飛び出してきた黄金の刀を目前で止め、一瞬だろうが休み暇など無いことを悟った。


「嵬姿の言う通り本当に最高だ、以前に比べて格段に強くなっている。流石は()()()()の甲虫武者」


「ぐっ……笑斗!」


ここで初めて鴻大と金涙が正面衝突する。ギシギシと刃が引っ掻き耳鳴りを生む。これまでギラファ、コーカサス、ニジイロと多種多様な武者と剣を交えた。いずれも豊富な経験と実力で一蹴していく。


しかし金涙笑斗、オウゴンオニクワガタの時だけは違った。実力差はほぼ無い同格の勝負、鴻大が経験豊富と言うならば金涙もまた彼と同じ実力者だからだ。


「その力、使い道さえ誤っていなければ素晴らしいものなのに」


「それはこっちの台詞だ! 堕ちるところまで堕ちたな!」


先程とは比べ物にならない程洗練された斬り合い、お互いが相手の隙を伺い様子見を繰り返した上での一太刀を浴びせ、結果無駄など一切無い勝負を続ける。


オウゴンオニクワガタの鋭い双撃は時が経つにつれ更に加速していく。実力が互角なら勝敗を左右するのは武器の相性、力強く敵を斬る太刀にとって、手数の多い二刀流は厄介なものだった。


(強くなっているのはこいつもだ! 洗練されたクワガタの二刀流、ギラファや彩辻の比じゃ無い!)


勿論アミメと彩辻も強い甲虫武者だ、しかしそれ以上に金涙は成長していた。刀の数は彼女らと同じ筈なのに、その数十倍かと錯覚してしまう程の太刀筋で鴻大に畳み掛けた。


「オウゴンオニクワガタ——黄金百鬼夜行」


やがて金涙の連続攻撃についてこられず、目にも留まらぬ剣撃が鴻大の全身を蝕む。刀が引く金色の軌道に包まれ、それを鮮血の赤色で上塗りにしていった。


「がっはぁ……!」


身体中を切り刻まれ、激痛が血反吐を押し出す。この戦いで始めて負った傷は、その命にジワジワと近づいていく。

それでも何とか持ちこたえようと後退りしながらも構えを壊さない鴻大、その傷だらけの体の前に四人の甲虫武者が再び集った。


「貴方さえ消えれば最早敵無し。

グラントシロカブト、オオクワガタ、エレファスゾウカブト、コクワガタ、この四人も始末して——貴方の宝とやらを頂く」

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