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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十二章:忍武者の先陣
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137話

(ッ――これは!)


森ノ隅学校にて、職員室で仕事をしていた豪牙の手が止まる。遠くから感じる鎧蟲の気配に虫の知らせが反応しているからだ。

今は仕事中だがかといって駆けつけないわけにもいかない、豪牙はソッと職員室を後にする。


(全く仕事中にも現れやがって……!)


時間を弁えない鎧蟲連中に愚痴を零しながらも、裏門から誰にも見られず外に出て急いでそこへと向かう。

しかし正確な場所が分からない、せめて近ければそこまでの道も分かるだろうが結構距離もあるためそうもいかないだろう。


するとポケットに入れていたスマホが震える。走りながらその画面を確認し、届いたメッセージに目を通した。


英:俺も向かう、二人も来れるか?


豪牙:ああ、今向かっている。


甲虫武者で作ったグループだ、英も現場に向かっていることを確認し心強く思う。すると黒金からも返信が来た。


黒金:ニュースを見てみろ。結構騒動になっている。


「騒動……?」


言われた通りメッセージ画面を閉じて急いでネットの記事一覧で目ぼしいものを探すと、「緊急速報」と赤い広告で表示されている、公開されてから数分のものに行き着く。


道天(どうてん)地区にて巨大な蜘蛛の巣が!蜘蛛の怪物も多数確認!


「蜘蛛……学校を襲ってきた奴らか!」


これを見て此度現れた鎧蟲が自分にも因縁のある上杉御庭番衆であることに気づく。添付されていた写真には二つのビルの間に形成された糸の巣、よく見れば蜘蛛らしき影も確認できた。

しかし今の豪牙にとって、注目すべき点はそこではない。


(道天地区と言えば……下校ルートに使っている生徒も多いはず!間に合えよ!)


近くに自分の生徒がいるかもしれない、そう考えれば自然と足が速くなる。この後戦闘に使う体力など考えず無我夢中で走った。

そして夢にも思わないだろう、その生徒の一人が甲虫武者として戦っているなど。






新しい甲虫武者として現場に急行した小峰、しかし捕らわれた人々を助ける前に半蔵と千代女に邪魔される。千代女の作る巣界に閉じ込められ、彼らが企んでいた一対一の状況となった。


(学校を襲ったゴキブリの鎧蟲……まさかこいつが現れるなんて)


こうして半蔵と対面するのはこれが二度目。森ノ隅学校を襲った半蔵は小峰や伊音の前に姿を現し、大量の蜘蛛と共に学校を蹂躙した。

その時のことは今も忘れられない、心の傷として深く残っている。その元凶がこうして目の前にいる、その事態に狼狽えずにはいられなかった。


「フン、まるで小動物のように怯えやがって……それにこの迫力の無さ、さてはつい先日武者として目覚めたばかりだな貴様」


「――ッ!」


当然半蔵は小峰のことなど覚えていない、彼らにとって甲虫武者でもない人間は眼中にもない弱き存在。学校を襲った際に顔を合わせたなど記憶にあるわけがなかった。


小峰はそれに少々腹立ったが事実なので言い返せない。つい先日というのも当たっておりそれどころか今まで一度も戦いを経験したことが無い始末。半蔵に笑われるのも当然だ。


「成長過程ということか……ならば今ここで狩る必要もない、逃がすか?」


「まさか!それで後々成長されたら面倒だ。()()()()()()()()()()()……ここで仕留めよう」


一旦逃がすことを巣界の外から提案する千代女だったが、半蔵は今ここで殺すと宣言する。

ジリジリと詰め寄りながら見せるのは自慢の武器である鬼咆爪(きほうそう)、紫色の爪で夕日を反射し妖しく光らせた。その鋭い刃先を見て小峰は戦慄を覚える。


「その首、すぐに斬り落としてやるよ!」


(ッ――来た!)


やがて半蔵の歩幅は一気に長くなり、小峰目掛けて跳びかかる。両手に付けられた爪が両サイドから挟み撃ちにしてきた。


覚醒したばかりなど関係無い、最初から自分の命を抉り取ろうとする攻撃に小峰は一瞬フリーズする。

そんな硬直状態の体を、虫の知らせが無理やり動かした。


「ッ――!?」


咄嗟に屈むことで半蔵の先手を躱す小峰、しかしその刃が彼の髪を僅かながら斬りその鋭さを物語っている。もう少し遅ければ自分の脳みそは串刺しにされていただろう、と息を呑んだ。


半蔵は間髪入れず斬りかかり、小峰に休息の暇を与えない。目まぐるしい程の攻撃が小峰に繰り出されるも、虫の知らせに頼りその殆どを躱せていた。


(すごい!次の攻撃が分かる、それに全然疲れない!)


昼間の授業にて、持久走で突かれていた自分が嘘のようだ。どんなに体を動かしても疲労など全く来ない。まるで生まれ変わったような気分に満ちていた。


「雑魚の癖に素早いな!だが貴様……やはり戦い慣れていないだろう!」


「うぐッ! なッ!?」


このまま順調に避け続けると思いきや、半蔵の爪が到達する直前で大きく軌道を変える。左から右に、ギリギリで躱そうとするも間に合わず、その頬が派手に斬られてしまう。


「あがッ――づぅ! ああぁ……!」


そしてそれがきっかけとなり、半蔵の爪が命中するようになっていく。薄い装甲がその防御に役立つはずもなく、彼の体がどんどん斬り裂かれていった。

止まることのない激痛に、小峰はこれが殺し合いだと再実感させられる。


(躱し方が単調だ、本能だけで攻撃を察知しているに違いない。つまりその躱し方も分かりやすいということ!)


次第に小峰は攻撃に耐えきれず徐々に後ろへ圧されてしまう、このままだとただやられるだけだ。急いで距離を取り後方へ避難しようと下がるも、背中が壁にぶつかってしまう。


「……壁!?」


それは千代女が蟲術で作った巣界の一種、半透明だが決してその間を抜けることはできず今自分がいる場所は牢獄にも等しい脱出不可能であると物語っているようだった。


(ムシ)有利(イイ)巣界、それは貴様と半蔵のために土俵だ。ただしそこから出ることは許さん、勝敗がつくまで決して解けないぞ」


それを作った張本人は、巣界の外から半蔵との戦いを観戦している。一体何のために自分と半蔵だけの空間を作ったのか、小峰にはそれが分からないが今が危機的状況であることは理解していた。


「そういうことだ、じっくりと嬲らせてもらうぜぇ!!」


「そ、そんな……!? ぐわぁッ!!」


決して逃げ切れない状況に絶望し顔を青くする小峰、それに躊躇することなく半蔵の爪が襲っていく。

初めて戦う小峰が、半蔵とサシの勝負で勝たなければならない。それはあまりにも勝つ見込みが無さすぎる話だった。


かつて豪牙が初戦で千代女に勝てたのは彼女が全力を出さない状態だったから、しかし今の半蔵を縛るものも封じるものなどありはしない、真っ向から全力勝負で勝たないといけないわけだ。


「白武者たちの前の前哨戦だ!まずはお前から——殺す!!」


更に加速していく半蔵の連続攻撃、虫の知らせで躱すのも無理があり追い込まれていく。

やがて斬られていくうちに、小峰の生存本能が呼び起こされ持っていた小刀の柄を強く握りしめさせた。


(このままやられるだけなら……抵抗してやる!)


真っ直ぐ向かってくる半蔵を見据えて、虫の知らせを回避ではなく敵の動きを捉えることに使う。

そうして近づいてきたその瞬間、素人ながらも精一杯刃を振り下ろした――が、


「――まさか、それは攻撃のつもりか?」


(嘘……!?)


しかし命中することなく、それどころか半蔵に指で軽々と止められてしまった。人と比べ虫の指はあまりにも細かったが、それでもガッシリと小峰の刃を掴み放さない。


「笑止千万! 刀の振り方もなっていない小童が、俺に挑もうなど千年早い!」


そして半蔵は小さな小峰の体を片手で持ち上げ、そのまま爪で突き刺す――かと思いきや一気に振り下ろし自分の膝を叩きいれた。


「うぐぁ……!?」


強い衝撃が走り胃の中のものを全て流そうとする。爪を使っていないとはいえ武将レベルの打撃は凄まじいもので、膝蹴り一つだけでも小峰の意識を十分擦り減らせる。


やがて半蔵はその場で蹲る小峰を蹴り上げ、爪で薙ぎ払い巣界の壁へと叩きつけた。その後も蹴る斬り裂くの拷問が続き、小峰を傷つけていく。

宣言通り半蔵は嬲っていった。僅かなやり取りで小峰の実力を把握し取るに足らない存在であることを理解したうえで、執拗に攻撃していく。


殺しではなく嬲るのが目的となっている半蔵の連打、そこから嫌という程その残虐性が滲み出ている。その様子に外から傍観していた千代女は呆れるしかなかった。


(相変わらず性格の悪い奴だ、早く殺せばいいものを)


溜息を深く吐いていると、背後から何かの気配を察知。振り返って確認する暇も無くそれが迫った。


「猛牙撃――ッ!?」


「来たか……象武者!」


それは象武者こと豪牙の大槌による打撃だった。しかしそれも直前に張られた巣界の壁によって防がれる。重い音が鳴り響き強烈な一撃が入るもヒビ一つ入っていない。


豪牙と千代女が対峙し始める中、続いて英と黒金もその場に駆けつける。


「お前はあの時の……!」


「白武者と黒武者も来たか……これで信繁を討った三匹が揃ったわけだ」


こうしてカフェ・センゴクの甲虫武者が揃ったわけだが、既に戦闘を始めている半蔵、そしてそれと戦っている謎の武者、蜘蛛の巣に捕らわれた人々、様々な情報が交錯し英たちを混乱に貶める。


「丁度いい、半蔵ではないが私も前回の雪辱を晴らすとしようか」


再び相まみえる豪牙と千代女、両者にとって互いは因縁深い相手だ。しかし豪牙が注目したのは初めて戦った相手ではなく、その後ろで半蔵と戦っている小峰である。


「後ろで戦っているの……小峰くんじゃないか!?」


「は? ……小峰!? 何してんだお前!?」


英に聞いて初めてその武者が小峰だと気づく豪牙、自分の生徒が甲虫武者になっているなど夢にも思わないからすぐに気づかないのも無理はない。しかし英や黒金も彼が戦っていることに驚きを隠せなかった。


「あの巣界は学校と同じものか」


「ああそうだ。信繁が世話になったようだな黒武者」


「全くだ。あいつは貴様の部下か――!」


自分の大切な人を殺した信繁、彼が千代女の部下であることを悟った黒金が彼女に対し怒りが湧きあがる。元々彼女は信玄に仕えるくノ一、黒金にとっても因縁のある相手だ。


「小峰! どうしてお前が甲虫武者になっているんだ!」


「象さん先生、それに雄白さんたちも――アガッ!?」


向こうも豪牙たちが現着したことに気づき、余所見でそれを確認するもそこを半蔵に突かれ更に斬られてしまう。


それはもう見るに堪えないもので至る所を斬り裂かれ体中が血まみれだった。甲虫武者でなければとっくに死んでいてもおかしくない傷と出血量、それ以外にも殴られた痣も所々あり嬲られた証拠となっている。


満身創痍の小峰を見て頭に血が上る豪牙、その興奮を半蔵が彼を痛めつけることで更に逆撫でした。


「何だ知り合いだったか、ならばそれはもう無残に殺してやろう!」


「――その手を放せゴキブリ野郎ォオ!!!」


自分の生徒が傷つけられたことにより、豪牙は猪突猛進が如く彼らを覆う巣界を殴り壊そうとする。しかし先ほどのガードと同様全く壊れることなく、それどころか反動で蹌踉めいてしまう。


「小峰! この、壊れろ!」


「任せろ! グラントシロカブト――白断ちィ!」


「オオクワガタ――金剛砕きッ!!」


それに続き英と黒金も小峰を助けようと渾身の一太刀を巣界に叩きこむも、同じように弾かれてしまう。三人の攻撃を受けても巣界はビクともしていない。


「無駄だ、誘火(イザナビ)ノ巣界も破れなかった貴様らにこれが破壊できるわけがない」


「ッ……今すぐ小峰を解放しろ!」


この巣界を攻撃しても意味がない、ならばこれを作った張本人を叩いた方が良いだろう。そう判断した豪牙たちは各々の武器を構えて千代女と対峙する。

半蔵と小峰が巣界の中で決闘を繰り広げている最中、外の方でも新たな戦いが始まる。


「言っておくが先の戦いのようにいくと思うな。誘火のような大規模な巣界を張っていない今、貴様らの攻撃など一つも当たりはしない」


「上等だ! お前を倒して、小峰を助ける!」

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