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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第十章:人にもあらず蟲にもあらず
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111話

「近いぞ!気を引き締めろお前ら!」


「やばいな――こんな街中か!」


黒金、豪牙、鴻大の三名は虫の知らせに導かれ鎧蟲の反応がする場所へと向かう。その行く先は人気のない平原でもなければ目立たない場所でもなく、よりにもよって街のど真ん中、昼間からこんな場所で暴れられたら被害者が出るのも余儀なくされる。


そんな豪牙の悪い予感も的中し、爆発と共に煙が上がる。どうやらもう騒動は起こっているようだ。

近づくにつれ耳に入る悲鳴、断末魔。いつしかすれ違うのは全員逃げ出してきた

人たちばかりであった。


「キャアアアーーーーッ!!!」

「助け、たす――!」


「チッ!こんな時間に大勢で来やがって!」


やがて3人は現場に到着する。目の前に広がるのは地獄絵図にも等しい惨状、幅広い国道を蟻たちが群雄割拠を展開し地面を埋め尽くしていた。

駆けつけるも間に合わず、もう襲われた人の遺体も転がっている。逃げ惑う人々を狙い、蟻の足軽は隊列を組み槍を振るう。これを隠し通すのは最早不可能だろう。中には既に共食いを果たし大きな体格を見せつける足軽もいた。


「こいつらの狙いは恐らく甲虫武者、つまり俺たちが前に出ればそこに注目するはずだ!降臨ッ!!」


「なら思いっきり――出撃ッ!!」


「開戦ッ!!」


早速鴻大たちは走り出しながら痣を翳し、巨大な蛹に身を包んでいく。そして素早くその中で鎧の装着を済ませ武者としての姿を曝け出す。


「我こそは、ヘラクレスオオカブト!」


「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名は――オオクワガタ!」


「俺こそが、エレファスゾウカブトだ!」


長い太刀を自在に操るヘラクレスオオカブト、黒い二刀とその凄まじい切れ味で一掃するオオクワガタ、破壊力抜群の大槌を振り回すエレファスゾウカブト。己が人ならざる者と知りながら、尚戦う意志を捨てることは無い。世の為人の為にと、躊躇なくその鎧を展開する。


3人の甲虫武者がその場に現れたところで、人々を襲っていた鎧蟲たちの視線が一斉に集められる。血眼の視線が四方八方から集結し、その滾る殺意を具現化していく。

甲高い声と共に、足軽たちは一斉に跳びかかる。


「「「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」


だが所詮は有象無象、3人の雄叫びと共に繰り出される技によってその大半が吹き飛ばされた。ある者は居合切りで切断され、またある者は二刀同時攻撃によりバラバラになり、大槌の大打撃によって弾け飛ぶ。

今ので十分な数を減らすことはできた、しかしそれでも鎧蟲たちの群れは劣勢の様子を見せない。その大群の果ては地平線へと伸びていた。


「糞ッ!いくらなんでも数が多すぎだ!」


「愚痴を言っても仕方ないだろ。武将はいないんだ、なら力圧しできる!」


「よし――なら最初から全力だぁ!!」


その数の多さに圧倒されかけながらも、今この場をどうにかできるのは自分たちしかいない。その意気ごみと共に鎧蟲たちへ突っ込んでいく。それに伴い蟻たちも襲い掛かってきた。


黒金は眼前の足軽たちを片っ端から斬り落としていく。その二本の刃を防げるものはおらずまるで豆腐のように次々と斬られていった。


すると数で押し切るつもりなのか、群がり最早塊となって跳びかかる鎧蟲たち。迫りくる巨大な物体に対し、黒金はゆっくりと腰と刀を構えた。


「オオクワガタ――金剛砕きッ!!!」


そして力強く振りかざしそれに刃を叩きこむ。その瞬間、スパッという音ではなくまるで爆発のような炸裂音が辺りに響き、群がった蟻たちは刻まれその肉片が周囲に飛び散った。


しかしそれでも蟻たちの勢いは止まらない、今度は縦に並び槍を一斉に構え突撃してくる。その数えきれない程の数にも黒金は臆することなく、真正面からそれと衝突した。


「――紅玉烈火ッ!!!はぁああああッ!!!!」


その名の通り燃え滾る勢いで隊列の中へと突進し、間合いに入った蟻たちを手当たり次第に斬り殺していく。

蟻たちが形成した長蛇の列は、前列から飛び跳ねるように散っていった――


一方豪牙は、大槌を構え共食いにより筋骨隆々とした体を手にいれた蟻たちを前にしていた。自分の大きな体格を超えるその大きさに豪牙は少しだけ後ろに引き下がる。


「こ、こいつが共食いってやつをした鎧蟲か……!想像以上にデカいな」


初めて見る大蟻の感想を述べた瞬間、向こうから仕掛け槍を振り下ろしてくる。その力強い一発はコンクリートの地面に突き刺さり、どれ程の力なのかを証明してくる。あんなもので刺突されれば英でもない限り無事ではないだろう。


そうこうしているうちに怒涛の勢いで攻めてくる大蟻たち、槍というよりかは最早打撃武器として振り下ろしていく。それを間一髪のところで躱していく豪牙であったが、打撃対決は自分の土俵でもある。


「体育の授業中に思いついた技、試し甲斐があるぜ!」


そう言うと豪牙はある程度距離を置き、まるでバットのように大槌を振りかざす。その位置から振っても空振りに終わるだけ、間合いの中に蟻はいなかった。

すると、豪牙の真横に突如として光り輝く光弾が現れる。大きさはバスケットボール程、メラメラと発光し存在感を放つ。


「エレファスゾウカブト――象覇弾(ぞうはだん)ッ!!!」


そして勢いよくそれに大槌を叩きつけ、まさしくボールのように光弾を打ち飛ばす。力強い打撃により光弾はあっという間に加速し、瞬く間に1匹の大蟻の懐に潜り込む。


「ギッ――!?」


その腹部に光弾がめり込んだ瞬間、あまりのパワーに大蟻はそのまま押されていき停止しようと両足に力を込めるも光弾の勢いは止まらない。やがてその後ろにいた普通の足軽たちを巻き込んでいき、果てまで後退していく。

やがて光弾は爆発し、その近くにいた蟻たちを一掃した。まるで爆弾が野球のボールのように打たれたようである。


エレファスゾウカブトの新技「象覇弾」、光弾を大槌で打ち飛ばす遠距離攻撃。これで間合いの外にいる敵も狙うことが可能だった。象覇弾の軌道にいた蟻たちは全て巻き込まれ1本の道が伸びているが、その結果に豪牙は首を傾げる。


「貫通するかと思ったが……もっと回転が必要か?」


理想としては大蟻の腹を突き抜けその後ろにいる連中も撃ち抜くはずだったが、まるで掃くように前方の敵を薙ぎ払った。それを見た豪牙は次の打ち方について検討する。

すると今度は、一直線の軌道を危惧し四方八方から鎧蟲たちが襲い掛かる。派手な技に焦りまとめてかかろうとしたのだろうが、それは悪手であった。


「――長鼻蹂躙ッ!!!」


一斉に間合いに侵入してきた蟻たちを、大槌による回転攻撃で迎え撃つ。全方位から迫りくる敵を振り回された打撃によって殴り飛ばしていき、まとめて叩き潰した。


黒金と豪牙が派手な戦いを繰り広げている最中、1人だけ静かに蟻たちを切り捨てていく武者がいた。刀を鞘に納め静かに歩き、一斉に襲い掛かる鎧蟲など全く恐れていない。

神童鴻大のヘラクレスオオカブト、太刀の間合いも長く迫る敵に対し距離を置きながら攻撃できる。


「――ハッ!」


「ギッ――!?」


前方から跳びかかる蟻を、素早い袈裟斬りで迎え撃つ。肩から腰にかけて剣撃が走り一刀両断した。

鞘から振り上げるまでの間、その刀身は姿を消す。鎧蟲たちにとっては気づけば自分が斬られていた感覚だった。断末魔も瞬時に途切れ、ボトボトとその亡骸が崩れ落ちる。


そこから鴻大は近づく鎧蟲を切り裂いていく。死角からの攻撃も虫の知らせで躱し振り向き様にその頭部へ刃先を突き刺した。そしてそれを抜くと同時に刃を一回転回すことで、新たに背後から忍び寄っていた数匹を仕留めていく。


すると鎧蟲たちが懲りず大勢で同時に跳びかかってくるのに対し、鴻大は静かに刀を鞘に収める。そして姿勢を低くし片足を前に出し――地面を蹴ると同時に

一気にそれを抜いた。


「ヘラクレスオオカブト――獅子首落とし」


静かな呟きが口から漏れた時にはもう蟻たちの間を通過している鴻大、振り終えた刀をそのままゆっくりと再び収める。鍔と鞘が合わさったその時、その背後にいた鎧蟲たち全員がその場で斬り裂かれ、バラバラになって崩れていく。

その中には大蟻もいた、しかし硬い筋肉の鎧ごと真っ二つに斬られている。今の居合切りでかなりの数が減った。


最早今の黒金たちが大蟻などに苦戦することはなく、通常の蟻と変わらない扱いで倒していった。豪快な技に素早い動き、反撃の隙を与える暇も無く鎧蟲の大群を次々と一掃していく。

いつしか周囲は蟻たちの死骸で埋め尽くされ、その上にポツポツと生き残りが佇んでいる。圧倒的な数を誇っていた大群は3人の甲虫武者によって壊滅させられていた。


「少し焦ったが……数を揃えただけか、これなら雄白の出番は無さそうだ」


「後は数匹、これなら楽勝だな!」


「よし、ウロチョロされる前に倒しておくか」


そのまま残りの蟻を狩ろうとする3人。あの数を殆ど倒したのだ、慢心ではなく最早足軽では自分たちの相手にはならないことを確信し勝利の余裕を以て残党狩りに移行する。

するとその生き残りの1匹が、鴻大たちの前に立ちはだかる。単独で挑んでも自殺行為だろう、それはいくら足軽と言えど分かるはず。それでも蟻はその場から引き下がろうとしない。


その行動に疑念を抱く3人、そしてその蟻は自分の足元に転がる同胞の亡骸を貪り始めた。喉を通すたびにその体は膨れ上がっていく。


「共食いか、だが所詮悪あがきだな。今更大蟻が来たところでどうということはない」


「……待て、何かおかしいぞ」


ここまで多くの大蟻を葬ってきた。なので今1匹が共食いで強くなったとしてもあまり意味を成さない。黒金はそれを一蹴するが、そこで豪牙が異変に気づく。

ギラリと光る赤い眼、今まで戦ってきた蟻とは違う迫力。過る不安を虫の知らせが感じ取った。


すると蟻は食べる手を止め、十分大きくなった体を開く。そうして天を仰ぐ口に周りの死骸たちがどんどん吸い込まれていった。


「なッ――この吸引は、まさか……!」


まるで掃除機のように死骸を口の中に入れていくその姿を見た鴻大たちは、とある者を連想する。自分たちや瓦礫は巻き込まず鎧蟲の肉体の身をその圧倒的な吸引力で吸収していくその様は、まさしく()()()()()()()()()()()()()であった。


「こいつ……まさかここの死骸全部食うつもりか!?」


そのまさかであった。激戦を物語る蟻の死骸は勿論まだ生きている鎧蟲も全てそれに吸い込まれていき体の中へと入っていく。いつしかその蟻の胴体は風船のように膨らみ全てを食べつくした。

共食いは自分の仲間を食べて更に強くなる方法、それは数と比例する。つまりこの大群が1つの体に纏まった大蟻など想像ができない。


一見ただ地面を転がる肉塊、とても強そうには見えない。しかし変化は訪れた。食べた分の膨張が始まる。


まず大きくなったのは昆虫の3つに分かれる構造の内腹部。大きくそして長くなっていき4つの足で支えられる土台が完成した。

そして胸部、ガッシリとした腹部に支えられこちらもまるでキリンの首のように伸びそこから残りの2本の腕が携えられる。それに伴い頭部も膨れ全体的に巨大な体格となった。


「……オイオイ、怪獣映画じゃないんだぞ」


側のビルと並ぶほどの大きな体、その腹部に支えられ伸びている胸部見て連想するのは怪獣、最早蟻という生物から大きくかけ離れていた。

そもそも蟻というのは小さい存在だ、それが元々人間サイズになること自体もおかしいが目の前のそれは人間を見下せる逆の立場となっている。


百――いや千を超える程の大群、それが共食いにより1匹に集中し新たな進化へと導く。今までの鎧蟲とは何もかもが規格外の相手を前に、鴻大たち甲虫武者は一層気を引き締めるのであった。

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