閑話 耳なしクロル
《耳なしクロル》 日本語訳:二ノ宮ハル 監修:ロレン
むかーしむかし、ある村に、仲の良いネコ耳の若い夫婦がいました。二人は結婚して何年もたつのに、なぜか子供ができませんでした。
二人はいつか子供ができた時のために、たくさんのおもちゃやポンチョを作って、早く子供ができますようにと風や太陽の神さまに祈りました。
ある日、森に狩りに出かけた二人は、ケガをした小さな男の子を見つけました。 額から血を流し、大きな声で泣いています。
二人は男の子を大急ぎで連れ帰り、ケガの手当てをしました。
男の子はすぐに元気になりましたが、自分の名前も覚えていないようでした。そして、二人にはわからない言葉を口にしていました。
二人は男の子に『クロル』と名前をつけ、一緒に暮らしはじめました。『クロル』は春の最初の日に吹く風の事です。二人がずっと待っていた子供につけると、決めていた名前です。
クロルは二人の子供になり、元気に暮らしました。すぐに言葉を覚え、村の人にも可愛がられて育ちました。
クロルは時々、
「ねぇお母さん、どうしてぼくには耳と尻尾がないの?」と聞きました。
お母さんは、
「もうすぐ生えてくるから、心配しなくて大丈夫よ」と優しく笑いました。
お父さんは、
「耳も尻尾もなくても、クロルはクロルだ。それに、クロルはとても頭が良い」と誇らしげに言いました。
そして二人ともその度に、クロルをぎゅーっと抱きしめてくれました。
クロルは二人と同じネコ耳が生えてくる日を、楽しみにして暮らしました。
ある日、村の入り口に、空飛ぶ船が降りて来ました。船は、低く飛ぶことはあっても、地面まで降りてくる事は、滅多にありませんでした。村の人と一緒に、クロルたちも見に行きました。
しばらくすると船から、変わった服を着た、耳も尻尾もない人が出てきました。
耳のない人は、クロルを探しに来た人で、クロルはその人たちの仲間だと言いました。
お父さんとお母さんは、クロルを連れて行かないでと頼みました。クロルも行きなくないと泣きました。
耳のない人は、手から火を噴き、クロルのお母さんの髪を焼きました。そして泣き叫ぶクロルを乗せて船は飛び立ってしまいました。
お父さんとお母さんは、ポンチョを脱ぎ捨てると山猫の姿になり、船を追って走りました。手足に精一杯の力を集め、爪から血を流しながら、走りました。
クロルは船から身体を乗り出し、
「お父さん! お母さん! きっと帰ってくるから!」と、叫びました。
クロルの叫び声は、風に流され、遠い山にこだましました。
▽△▽
「ロレン、これで終わり?」
「そうですよ。おしまいです」
「続きは? クロル、帰ってくる?」
「どうでしょうね。ハル、続きを作ってくれませんか?」
「かんたん! クロル、耳生えて帰ってくる。みんな、幸せ、生活する」
「それが良いですねぇ。ハル『生活する』より『暮らす』の方が感じが出ますよ」
「幸せ、くらす」
「そう」
「物語りの最後は『そして、みんな幸せに暮らしました』が、一番良いですね」




